【2周目:客観捜査】予言を捨て、バディと科捜研で掴む物証
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連載『死に戻った新米刑事は、生真面目先輩とやり直し(と恋)を始める』第7話をお届けいたします。
1週間の入院・加療を終えて無事に職場復帰した田中先輩と合流し、ついに「客観物証による反撃」を開始する新米刑事・いづみ。
人目の多い執務室から科捜研の実験室へ場所を移し、美里さんとの最強トリオで『南京縛り』の鑑識鑑定と防犯カメラの死角ログを正式確認!
捜査資料室での静かな余白と秘めた情熱、そして画廊『漆黒堂』への電撃ガサ入れで暴き出す決定的な二重裏帳簿――!
凛としたプロの信頼と緊張感が交錯する第7話をどうぞお楽しみください!
「――巡査部長・田中健人、本日付で職務に復帰いたしました!」
7月23日、午前9時。夏の強い眩い光が差し込む倉敷警察署三階・刑事課一係執務室。
びしっと夏用スリーピーススーツを着こなし、黒縁メガネの奥の瞳に鋭く温かい知性を宿らせた田中健人が、一係のデスクの前で清々しく深々と一礼した。
左上腕の痛々しい包帯はスーツの袖の中に隠され、178センチの骨太な背筋は、1週間の入院・加療を経たとは思えないほど真っ直ぐに伸びている。
「田中先輩……! お帰りなさいませッ!」
黒のパンツスーツにポニーテールを揺らした新米刑事・村瀬いづみが、凛とした声でデスクから立ち上がった。
過剰に駆け寄ったり不自然に身体を寄せたりするような真似は一切しない。168センチの引き締まった体躯で背筋をすっと正し、同僚たちの目が交錯する執務室の中で、相棒としての節度と敬意を保って凛とお辞儀を返す。
だが、その澄んだ瞳の奥には、無事に隣へ戻ってきてくれた相棒への深い安堵と、秘められた胸の熱気が静かに宿っていた。
「ああ、ただいま帰った、村瀬。……お前がこの1週間、現場で積み上げてくれた報告書、病室で美里さんから受け取って目を通させてもらったぞ」
田中は喉をゴホンと鳴らすと、いづみのデスクの上に置かれた分厚い捜査ファイルを愛おしそうに見つめた。
そこには、いづみが連日汗だくになりながら美観地区を駆け回り、地道な聞き込みと現場観察を記録したぎっしりとした手書きメモが綴られていた。
「見事な現場捜査だ。父上の教えを守り、自分の足で警察官としての責務を果たしてくれたな。素晴らしい成果だ」
「田中先輩……! ありがとうございますッ!」
先輩からの飾らない賞賛の言葉に、いづみは耳の裏をほんのり朱に染めながら、誇らしそうに胸を張った。
1周目の惨劇に囚われ、「予言者気取り」で先走っていた自分はもういない。自分の足で泥を歩み、客観的な物証を重ねることこそが、警察官として、そして田中先輩の相棒として歩むべき唯一の正道なのだと、この1週間で痛いほど学んだのだから。
「おお、田中! 退院おめでとう! 無事で何よりだったよ」
執務室の奥から、七福神の大黒天を思わせる温和な笑顔を浮かべた一係長・鳥居信一郎が歩み寄ってきた。
鳥居は丸い顔を崩し、田中の肩をポンと優しく叩いた。
「村瀬さんもこの1週間、本当によく頑張っていたぞ。焦らず無理をせず、二人で力を合わせて事件を追いなさい」
「はっ! ありがとうございます、鳥居係長!」
いづみと田中は背筋を伸ばして礼を述べた。周囲の目がある一係執務室では、あくまで誇り高き上司と部下の関係。
その時、白衣を颯爽となびかせた科捜研主任・園田美里が、温かいコーヒーカップを手に静かに近づいてきた。
「あら、主役が揃ったわね。……二人とも、少し場所を変えましょうか。科捜研の私の部屋で、例の公式鑑定書類の最終確認を行うわよ」
美里が黒縁メガネの奥で目配せを送る。一係執務室は出入りが多く、密度の高い機密捜査の協議には不向きだった。
二人は美里の提案に静かに頷き、一係執務室を後にした。
倉敷警察署地下にある、ひんやりとした静寂が満ちる科捜研の実験室(分析室)。
美里は室内に入ると手手早くドアを施錠し、周囲の遮音を確認してから、鑑識の公式印が押された分厚い鑑定報告書を二人の前のテーブルへと滑らせた。
「お望み通りの『科学的客観物証』、完璧に揃えておいたわよ。まずは一つ目――被害者・大野木源造の首に残されていた索頸痕の物理解析鑑定書ね」
いづみと田中が身を乗り出して鑑定書を開く。
美里が示す顕微鏡写真とロープの締め付け摩擦パターンのグラフには、明確な科学的根拠が刻まれていた。
「被害者の首の皮膚組織と繊維の食い込み角度、結び目の二重螺旋構造を3D解析した結果、これは船員や港湾作業員が特殊な重物釣り上げに使用するロープワーク――『南京縛り』の手口と完全に一致したわ。単なる素人の突発的な絞殺ではなく、港湾作業の熟練者による計画的な殺人手口であるという科学的証明よ」
「『南京縛り』……! これで水島港の作業員・松井誠の専門手口と完璧に結びつきますね!」
いづみが目を輝かせる。田中も深く頷き、メガネのブリッジを指先で押し上げた。
「よし。そして二つ目は、美観地区および画廊『漆黒堂』周辺の防犯カメラの死角ログ解析だな」
「ええ、その通りよ」
美里が二枚目の解析データを提示する。
「事件当日の夜、美観地区一帯に設置された12台の防犯カメラのタイムコードを秒単位で突合したわ。一見すると監視網に隙がないように見えるけれど、特定の路地裏から漆黒堂の裏口へと抜けるルート上に、正確に4分15秒間だけ視線が交差しない『死角のエアポケット』が存在することが判明したの。松井誠はこの死角ルートを正確に把握して侵入し、犯行に及んだと物理的に立証できるわ」
客観物証の完璧なピース。
もはやいづみが「予言」を口にする必要などどこにもなかった。現場の地道な聞き込みと、科捜研の科学解析が組み合わさることで、真実は白日の下に曝されようとしていた。
「素晴らしいです、美里さん……! これで松井誠に対する逮捕状の発付手続が進められます!」
「ええ。でも、本番はこれからよ、村瀬ちゃん。松井を裏で操り、この殺人を教唆した黒幕――画廊『漆黒堂』のオーナー・鶴岡徳次郎と、警察内部の指示役の繋がりを示す『二重裏帳簿』を押収しなければならないわ」
「ああ」と田中が重厚な声で応じた。
「鶴岡が十年前から行っていた不法資金洗浄と、警察内部への裏金ルート。その証拠となる帳簿は、漆黒堂のセーフハウスか隠し金庫に存在するはずだ。……まずは10年前の漆黒堂に関する過去の押収資料と関連事件のファイルを捜査資料室から洗うぞ」
「はいッ! 直ちに取りかかりましょう、田中先輩!」
午前11時。倉敷警察署三階の奥深くに位置する『捜査資料室(アーカイブ室)』。
薄暗い室内には、数十年前からの事件ファイルや押収資料がぎっしりと詰め込まれた木製の高棚が重厚に並び、古い紙と革の独特な香気が漂っていた。
小窓から差し込む斜めの陽光の中に、細かな埃の粒子がキラキラと舞っている。
「十年前の漆黒堂に関連する古物商取引のファイルは……この一番上の棚の奥だな」
田中が長身の178センチの身体を伸ばし、最上段の棚に収められた黒い厚表紙の事件ファイルへと手を伸ばした。
いづみもまた、隣の棚から補足の目録ファイルを抜き出そうと、脚立の脇で背筋を伸ばしていた。
「田中先輩、こちらに当時の家宅捜索目録の控えがありました。……あ、そちらのファイル、重そうですね。お持ちしましょうか?」
「いや、大丈夫だ。左腕の怪我もすっかり馴染んでいる」
田中が最上段から重厚なファイルを引っ張り出した瞬間、隣に積み上げられていた古いダンボールの書類箱がグラリと大きく傾いた。
「あ……っ! 先輩、危ないです!」
いづみは咄嗟に身を乗り出し、崩れ落ちそうになった箱の底を両手でしっかりと支えた。
同時に、田中も咄嗟にいづみを庇うように腕を伸ばし、箱の上部を押さえ込んだ。
「……ッ!」
頭上で二人の手が箱を挟んで重なり合い、狭い棚と棚の間で、二人の身体が至近距離でピタリと動きを止めた。
ドキン、と胸の奥で大きな脈動が跳ね上がった。
至近距離で交錯する熱い視線と、スリーピース越しに伝わる田中の力強い体温の気配。
黒縁メガネの奥の田中の素顔が、いづみの目の前にあった。
この狭い静寂の中で交差する言葉にならない視線と、密やかな熱気の余白が、二人の胸を息が詰まるほど熱く焦がしていた。
「……す、すまん。助かった、村瀬」
「い、いえ……お怪我にならなくて良かったです、田中先輩」
田中は少し頬を赤らめて喉を鳴らすと、手際よく書類箱を元の位置に戻し、整えられた手つきでファイルを抱えた。
いづみもまた、すっと背筋を伸ばして呼吸を整えると、お互いに凛としたプロの表情を取り戻して頷き合った。
「よし、家宅捜索差押許可状の手続は完了した。裁判所の発付印を持って、これから画廊『漆黒堂』へガサ入れに向かうぞ!」
「はいッ! 了解いたしました!」
午後2時、倉敷美観地区の一角にある高級画廊『漆黒堂』。
冷房の効いた静寂な店内に、田中、いづみ、そして手配された捜査員たちが家宅捜索差押許可状を手に一斉になだれ込んだ。
「な、何事ですかッ!? 警察が何の真似だッ!」
応接スペースから躍り出てきた和服姿のオーナー・鶴岡徳次郎が、顔を血の気に引きつらせて叫んだ。
田中は毅然とした手つきで家宅捜索差押許可状を突きつけた。
「大野木源造殺害教唆、および不法資金洗浄の容疑に基づき、本鑑の家宅捜索を実施する! 鶴岡徳次郎、動くなッ!」
「ば、愚かな……! 私がそんな犯罪に関わっている証拠がどこにあるッ!」
鶴岡は滑らかな弁舌で怒鳴り散らそうとしたが、その指先は磁器のお茶をこぼした時と同じように、カタカタと目に見えて激しく震えていた。
いづみはその震える指先を真っ直ぐに見つめた。
(手は嘘をつかない……! 父さんの言っていた通りだ……!)
いづみは店内を鋭い眼光でスキャンした。1周目の記憶、そして父・五郎の遺品ノートに記されていた「漆黒堂の二重構造」の記述。
応接スペースの奥に立てかけられた、絢爛豪華な金の金屏風。いづみは迷うことなくその金屏風の前へと歩み寄った。
「鶴岡さん。この金屏風の奥にある黒漆喰の壁……二重底になっていますね?」
「なッ……!?! なぜそれを……ッ!?」
鶴岡の顔から完全に血の気が失せた。
いづみは金屏風を慎重に脇へ退かすと、黒漆喰の壁の隠し目地に指を掛け、スッと横へとスライドさせた。
カチリ、と重厚な金属音が響き、壁の裏から厚さ数センチの重厚な『隠し金庫』が現れた。
「開けなさい、鶴岡さん。鍵はあなたの帯の中に隠してあるはずです」
田中の厳しい一言に、鶴岡は力なく膝から畳へと崩れ落ちた。
解錠された隠し金庫の奥から、いづみが手にしたのは――黒い革表紙の分厚い二冊のノート。
「田中先輩……ありました! 鶴岡と一係長・鳥居信一郎の裏取引、および警察内部への闇資金上納が克明に記載された『二重裏帳簿』ですッ!」
「ついに掴んだぞ……ッ!」
田中が感無量の面持ちで裏帳簿を固く握り締めた。
1周目の惨劇を乗り越え、予言や奇跡に頼らず、自分たちの地道な足と科学捜査で掴み取った本物の客観物証。
二人は深く視線を交わし合い、力強く頷き合った。
明日――いよいよ一係執務室にて、鳥居信一郎の「大黒天の仮面」を剥ぎ取る時がやってくるのだった。
> 第7話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
> 1週間の入院から復帰した田中先輩とともに、科捜研・美里さんとの最強トリオで『南京縛り』の鑑識鑑定と防犯カメラ死角ログを正式立証!
> 捜査資料室での胸キュンな余白を経て、画廊『漆黒堂』への電撃ガサ入れでついに黒幕・鳥居と繋がる『二重裏帳簿』を押収いたしました!
次回第8話は、**『【2周目:鳥居逮捕と不完全な勝利】一係での対峙と、取調室の自決』**をお届けいたします!
ついに一係執務室で全署員の目の前で鳥居を電撃逮捕! しかし取調室で待ち受ける衝撃の展開とは……!?
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