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【2周目:反省と再起】1週間の地道な捜査と、病室での誓い

いつもお読みいただきありがとうございます!

連載『死に戻った新米刑事は、生真面目先輩とやり直し(と恋)を始める』第6話をお届けいたします。


前話の惨劇から1週間――一人で暴走した「予言者気取り」の慢心を深く反省し、現場で地道な足と客観物証を追う新米刑事・いづみ。

単独で積み上げた捜査の成果を手に、退院を翌日に控えた田中先輩の病室へとお見舞いに訪れます。


廊下で語られる田中先輩の過去のトラウマ「実の姉のように慕っていた女性の死」、病室で交わされる互いへの素直な謝罪と深まる信頼、そして明日からの反撃を誓う二人の再起を描く第6話をどうぞお楽しみください!


 「――顔を上げろ、村瀬。かすり傷と全身の打撲くらいで、そんなに深刻な顔をするんじゃない」


 7月16日、午前8時。消毒液の特有の匂いが漂う倉敷中央病院の四階個室病室。

 麻酔から冷め、酸素マスクを外されたばかりの巡査部長・田中健人は、ベッドの傍らに置かれたパイプ椅子に腰掛け、責任感と心配で表情を硬くさせていた新米刑事・村瀬いづみを、掠れた低い声で静かに見つめた。

 左上腕をサイレンサー弾にかすめられ、いづみを人間シェルターとなって庇い抜いたことで全身に痛々しい激しい打撲を負った田中。その178センチの骨太な体躯は包帯と湿布でガチガチに固定されていたが、黒縁メガネの奥に宿る知的な瞳だけは、いつもの生真面目な刑事としての鋭く温かい光を失っていなかった。


 「でも、田中先輩……ッ! 私を庇ってこんな大怪我をさせてしまって……! 本当に、本当に申し訳ありません……っ!」


 いづみは柔道黒帯で鍛え上げた新米刑事としての覚悟を込め、深々と頭を下げた。自分の軽率な単独行動と「予言者気取り」の先走りがなければ、田中先輩がこんな痛々しい姿になることはなかったのだ。


 「自分を責めるな、村瀬」


 田中は苦しげに息を吐きながらも、温かい眼差しでゆっくりと首を横に振った。


 「俺ならこの通り、生きて喋っている。だから安心して、お前は現場の捜査に戻れ。お前は倉敷署一係の立派な新米刑事だろう? 俺の心配をする暇があるなら、現場で自分の足と物証で警察官としての責務を果たしてくれ。お前が立派に仕事をこなすことこそが、俺の一番の薬なのだからな」


 「先輩……っ」


 「ただし……」

 田中は深く溜息を吐き出すと、ベッドの上で体勢を整え、真摯な眼差しで後輩を見つめ直した。


「しばらく俺は入院で傍にいられん。……お前一人なんだから、絶対に無茶や無理はするなよ。客観的な物証もなしに、一人で危険に飛び込むような真似は二度と許さん。お前に万が一のことがあったら……俺は生きた心地がしないのだからな」


黒縁メガネの奥に宿る、先輩刑事としての、そして相棒としての切実なまでの温かい光。

いづみは胸の奥で熱い誓いを踏みしめ、力強く背筋を伸ばして応えた。


「はい……ッ! 分かりました、田中先輩! 安心して捜査に専念します……! 先輩の教えを守って、地道に捜査を進めてきますッ!」




それからの1週間、村瀬いづみは生まれ変わったような激しい情熱と集中力で倉敷警察署の現場を駆け回った。


(私……なんて愚かで浅はかだったんだろう……)


1周目の惨劇を経験し、未来の記憶を持っているというだけで、自分はどこか特別な「予言者」にでもなったと思い上がっていたのだ。物証もなしに犯人の名前や手口を捲し立てて現場を混乱させれば、周囲が戸惑い、信頼する相棒である田中先輩を激しく心配させ、そして黒幕である鳥居に動きを察知されて返り討ちに遭うのは当然の帰結だったのだ。


『刑事は地道な足と、嘘をつかない物証で語るものだ』


亡き父・村瀬五郎が、幼いいづみの頭を優しく撫でながら語ってくれた言葉。

いづみは己の慢心を心から自省し、父の教えと田中先輩の温かい言葉を胸に深く刻み込んだ。

「予言者」気取りの軽率な単独行動は一切封印した。いづみは連日、真夏の強烈な太陽が照りつける倉敷美観地区の白壁の路地や商店街を汗だくになって走り回り、地道な聞き込みと周辺状況の整理に没頭した。

容疑者の足取りを一つひとつ確認し、現場付近の聞き込みメモをノートにぎっしりと書き込んでいく。汗がポタポタとノートの紙面を濡らすのも構わず、いづみは柔道黒帯で鍛え上げた168センチの身体をフル稼働させて倉敷の街を奔走した。

科捜研の園田美里にも頭を下げ、鑑識の正式な鑑定手続として「被害者・大野木源造の首に残された特殊な索頸痕の結び目の解析」と「現場周辺の防犯カメラの死角ログの抽出」を依頼。客観的な警察手続の枠組みの中で、一つひとつ着実に証拠のピースを積み上げていったのだ。美里もまた、以前の先走りとは打って変わって真摯に客観物証と向き合ういづみの姿を温かい眼差しで見守り、全面的に協力を惜しまなかった。

真夏の酷暑の中、白壁の蔵造りの陰で水分を補給しながら、いづみは何度も刑事メモを見返した。

「焦っちゃダメだ……。一つひとつの聞き込み証言と鑑識データを積み重ねて、誰の目にも疑いようのない完璧な客観物証に仕上げるんだ」

1周目のトラウマと焦燥に押し潰されそうになりながらも、いづみは踏みとどまり、地道な足腰で警察官としての責務を一日一日全うしていった。




 7月22日、午後5時。

1週間に及ぶ精密検査と打撲の加療を終え、翌日に退院を控えた夕暮れ時。

非番を迎えた仕様の私服――涼やかな白のノースリーブブラウスにネイビーのフレアスカートを纏い、艶やかな黒髪をハーフアップにまとめた姿のいづみは、手提げ袋を抱えて倉敷中央病院の四階個室病室の前へとやってきた。


「あら、村瀬ちゃん。お疲れ様」


病室の廊下で声をかけてきたのは、白衣を羽織った科捜研主任・園田美里だった。

美里はいづみの手元の資料と清々しい表情を見て取ると、温かい缶コーヒーを一つ手渡し、壁に背をもたせながら静かな声で語りかけた。


「この1週間、本当に頑張ったわね。美観地区の防犯カメラの死角データも、索頸痕の物理解析も、完璧な客観物証として書類が整ったわ。これなら田中くんも文句の付けようがないわね」


「美里さんのおかげです……本当にありがとうございます」


いづみが恐縮して深々と頭を下げると、美里はふっと目尻を緩め、コーヒーを一口含んでから病室のドアをチラリと見やった。


「……ねえ、村瀬ちゃん。田中くんの過去のこと、少し話しておこうかしら」


「先輩の……過去ですか?」


「ええ。田中くんね、昔……3年前に実の姉のように慕っていた女性を理不尽な事件で失っているのよ。自分の不甲斐なさのせいで大切な人を守れなかったって、ずっと自分を責め続けて、誰にも心を開かなくなっていたの」


美里の言葉にいづみは息を呑んだ。


「だから、倉敷署にあなたが着任してきた時、田中くんがどれだけ嬉しそうに、そしてどれだけ真剣にあなたを守ろうとしていたか……。あなたが一人で何か巨大な恐怖と戦おうとしているのを見て、あの子、自分がまた大切な人を守れないんじゃないかって……生きた心地がしていなかったのよ。……不器用だから、抱え込んで無理をしちゃうのね」


「先輩に……そんな過去が……っ」


いづみの胸が、締め付けられるような激痛と愛おしさで熱く打ち震えた。

田中先輩が自分に対して見せていた異常なまでの保護本能と激しい情熱。それは決して自分を遠ざけるためのものではなく、二度と大切な存在を失いたくないという、魂の底からの悲痛な叫びだったのだ。


「ありがとね、村瀬ちゃん。田中くんの止まっていた時間を動かしてくれて。さ、入ってあげなさいな」


美里が優しくいづみの背中をポンと叩き、廊下の奥へと去っていった。




深呼吸を一をつき、いづみは静かに病室のドアを開けた。


「失礼します……田中先輩」


夕暮れのオレンジ色の光が差し込む病室。

ベッドの上で、スリーピースを脱ぎ捨てた白いシャツ姿の田中健人が、退院に向けたリハビリのストレッチを行っていた。

ドアの音に気づいて振り返った田中は、いつもの黒パンツスーツではなく、夏らしい可憐な私服を纏い、上品なメイクを施したいづみの姿を目にした瞬間、黒縁メガネの奥の瞳を大きく丸くした。


「む……村瀬か。私服だと……一瞬誰か分からなかったぞ」


「ふふ、非番でしたので……。あ、お邪魔でしたでしょうか?」


「いや……構わん。入れ」


田中は少し照れたように喉を鳴らし、ベッドの端へと腰を直した。

いづみはパイプ椅子をベッドのすぐ傍らへと引き寄せ、持参したクリアファイルと手提げ袋をテーブルの上に置くと、静かに田中を見つめた。


「田中先輩……私、ずっとお伝えしたかったことがあります」


いづみはパイプ椅子の上で背筋をすっと伸ばし、膝の上で握り締めた両手とともに、澄んだ真っ直ぐな瞳で田中を見つめた。


「この1週間、一人で現場を走り回って……先輩の仰っていた意味が、痛いほど分かりました。私、自分が『予言者』気取りで先走り、警察官として一番大切な物証と手続を忘れて暴走していました。先輩に余計なご心配をかけ、大怪我までさせてしまって……本当に申し訳ありませんでした」


いづみは柔道黒帯で鍛え上げた新米刑事としての覚悟を込め、深々と頭を下げた。自分の過ちを誤魔化さず正面から受け止めた、凛とした姿勢。


田中はいづみの引き締まったその表情と姿勢を静かに見つめると、短く息を吐き、黒縁メガネの奥の瞳を温かく和らげた。


「……頭を上げろ、村瀬」


田中はベッドの上で体勢を整えると、真摯な眼差しで後輩を見つめ返した。


「お前が自分の過ちに気づき、地道な足で警察官の責務を果たしてくれた。それだけで……俺が傷を負った甲斐もあったというものだ」


「田中先輩……」


「俺もすまなかった。お前が抱える恐怖に寄り添えず、頭ごなしに厳しく当たってしまった。……だが、もう一人で抱え込むな。お前が一人で積み上げてきてくれた客観物証を元に、明日からは二人で追うぞ。俺はお前を二度と一人にはさせない」


そこには、身体を触れ合わせるような過剰な接触など一切存在しない。互いの職責と適正な距離感を保ちながらも、交わされる言葉と視線の中には、深くて切実な絶対の信頼が息づいていた。

いづみは胸の奥で温かい誇りと誓いを踏みしめ、力強く頷いた。


「はい……ッ! 明日からまた、相棒としてよろしくお願いします……田中先輩ッ!」


「ああ。明日からまた、二人で捜査開始だ」


夕暮れの病室、二人の影が長く美しく伸びていく。

すれ違いの暗雲を完全に乗り越え、いま二人の魂はどんな困難も打ち破る「最強のバディ」として、固い信頼の絆を再び結び直した。

胸の奥に秘められた互いへの愛おしい熱気はそのままに、二人は明日からの反撃へと向かって立つのだった。

明日、7月23日――いよいよ真の捜査が幕を開ける。


第6話をお読みいただき、本当にありがとうございました! 1週間の地道な単独捜査を経て、退院前夜の病室で真摯な和解を果たした二人!

美里さんの口から語られた田中の過去のトラウマ「実の姉のように慕っていた女性」の存在、そして病室で交わされる確固たる信頼と誓いによって、二人の絆は最強のバディとして力強く再結びされました!


次回第7話からは、いよいよ反撃の**『【2周目:客観捜査】予言を捨て、バディと科捜研で掴む物証』**へ!

退院した田中先輩と美里さんとの最強トリオで、鳥居と鶴岡の裏帳簿を追いつめていきます! 捜査資料室での胸キュン密着トラブルも……!?


面白いと思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク登録】や【評価(★★★★★)】で応援していただけますと幸いです! 次回第7話もどうぞお楽しみに!


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