今度こそあなたを
「そんな……」
アリスは、私の隣で悲痛な表情を浮かべていた。
「そうだ……私、またローゼを……」
「アリス……」
私はアリスの肩を抱いた。
そうでもしなければ、アリスがその場で崩れてしまいそうに見えたからだ。
「幸せになってくれたと、思ったのに……」
一度に押し寄せた記憶の波と、自分の生を終えた後に起きた出来事。そのすべてを受け入れようとして、アリスの心は怯えているのだと思った。
カツン、カツン。
足音が聞こえてくる。
私たちがその音のする方向へ目を向ける。
――ローゼだ。
「アリス……」
その震えた声だけで十分だった。
アリスは私の腕をすり抜け、ローゼを強く、強く抱き締めた。
「あぁ……! ローゼ、ローゼぇ!」
「アリス……やっと、やっと会えた」
記憶を取り戻した二人は、さっきまで互いへ向けていた怒りも、悲しみも、後悔も、抱き締める力の中へ溶かしていくようだった。
二人は、死ぬ間際まで互いを想い続けていた。
届かなかったはずの想いが、今、ようやく相手の腕の中へ戻ってきている。
それは神への祈りではなく、アリスがローゼへ、ローゼがアリスへ伸ばし続けていた手なのだと、私には思えた。
「ごめんね、ローゼ……ごめんね……私、知らなかった。私が死んだあと、ローゼがあんなに苦しんでいたなんて、知らなかったの」
「私こそ、ごめんなさい」
ローゼの声は、抱き締めたアリスの肩に埋もれていた。
「私は、あなたの優しさを、最後まで優しさとして受け取れなかった。あなたが私を想ってくれたことを、置いていかれたのだと決めつけた。あなたが笑っていたのは、私を苦しめるためではなかったのに」
「違うよ。私も勝手だった。ローゼに幸せになってほしくて、でも、ローゼがどうしたいか、ちゃんと訊かなかった。私は、ローゼと一緒に行きたいって言えばよかったんだ」
「私も」
ローゼはアリスを抱く腕に、少しだけ力を込めた。
「私も、あなたに一緒に来てほしいと言えばよかった。あなたと離れたくないと、ちゃんと言えばよかった」
「言ってくれたら」
「言えなかったの」
「私も、言えなかった」
二人の声は、涙と震えの中で少しずつほどけていく。けれどそれは、さっきまでのように互いを傷つけるための言葉ではなかった。
ずっと言えなかった言葉が、ようやく今、相手の胸へ届いている。
この場所はローゼの心の部屋だ。
焼け落ちた教会の匂いも、貴族の屋敷の冷たい部屋も、届かなかった手紙も、全部ここに残っていた。けれど、二人が抱き合った瞬間、その景色の端が少しずつ揺らぎ始めた。
黒く焦げた壁へ淡い光が差し、灰の上には小さな白い花が一つ咲いた。机の上に散らばっていた手紙の文字も、風に撫でられるように震えている。
アリスへ。
アリスへ。
アリスへ。
その続きは、もう書けなかったはずなのに。
「ローゼ」
アリスが顔を上げる。
涙でぐしゃぐしゃになった顔だった。いつもの明るさはない。それでも、彼女の瞳には確かに光が戻っていた。
「今度は、私、勝手に決めない」
「ええ」
「ローゼが何を望んでるのか、ちゃんと訊く」
「私も、隠しません」
「本当?」
「本当です」
「苦しい時も?」
「苦しい時も」
「私に怒ってる時も?」
「……怒っている時も」
アリスは泣きながら、少しだけ笑った。
「それなら、私も聞く。逃げない」
「本当に?」
「本当。逃げたら、ローゼが叱って」
「ええ。叱ります」
「いつもみたいに?」
「いつもより厳しく」
「それは困る」
「困りなさい」
二人は泣いていた。
けれど、その会話はどこか、いつもの二人に戻っていくようでもあった。
ローゼがアリスの頬に触れる。
指先で涙を拭う仕草は、さっきまでと同じだった。けれど、今は硝子みたいな冷たさがない。震える指で、それでも確かに、アリスがここにいることを確かめている。
「もう、二度と」
ローゼが言った。
「二度と、あなたを置いていかない」
「私も」
アリスはローゼの手を握った。
「もう、ローゼを一人で幸せにしようなんて思わない」
「一人で幸せに、ですか」
「うん。そんなの、だめだった。ローゼが幸せなら私も幸せ、じゃなくて、私もローゼと一緒に幸せになりたかったんだ」
ローゼの瞳が揺れた。
「私も」
その短い言葉に、前の生で言えなかったものが全部詰まっている気がした。
二人の足元で、黒い滲みが揺れた。
今までローゼにまとわりついていたものが、音もなく薄れていく。それが影だったのか、言葉だったのか、それとも胸の奥に沈んだ後悔の形だったのか、私には最後まで分からなかった。ただ、それは二人の間に入り込む場所を失ったように、少しずつほどけ、灰色の空へ消えていった。
ローゼはそれを見ていた。
アリスも、たぶん見ていた。
けれど、二人はもう手を離さなかった。
「ひかり」
ローゼが私を見た。
泣き腫らした顔なのに、そこにはいつもの気品が残っていた。けれど、もう完璧に整えられた仮面ではない。弱さも、後悔も、救われたことへの戸惑いも、全部抱えたままのローゼだった。
「はい」
「ありがとう」
ローゼは私へ向き直る。
アリスの手を握ったまま、深く頭を下げた。
「ひかり、アリスを私の奥へ案内してくれてありがとう。ここが私の心の部屋だからこそ分かるの。これは、ひかりの魔法だって」
「私の、魔法」
「ええ」
ローゼは静かに頷いた。
「あなたは、扉を開けたわけではありません。無理に私を救ったわけでもない。ただ、私たちの心を繋いでくれた。私が一人で閉じ込めていた場所へ、アリスを連れてきてくれた」
私は何も言えなかった。
魔法。
そう言われても、私には杖もなく、石を光らせることも、水や火や風を操ることもできない。
でも、ハルクに言葉を届けたこと。
シドと一緒に涙を流したこと。
そして今、アリスをローゼの奥へ連れてきたこと。
それらが魔法と呼ばれるのなら、私にも少しだけ分かる気がした。
「私、何もできていません」
「いいえ」
今度はアリスが首を横に振った。
「ひかりがいたから、私はここに来られた。ひかりがいなかったら、きっとローゼのこと、また外から呼ぶだけだった」
「私は」
「ありがとう、ひかり」
アリスはローゼの手を握ったまま、もう片方の手で私の手を取った。
「ローゼと会わせてくれて」
胸の奥が熱くなる。
私は二人の手を見た。
アリスの手と、ローゼの手。
前の生では離れてしまった手。
手紙も届かず、言葉も届かず、死によって引き裂かれた手。
それが今、私の前で繋がれている。
「戻りましょう」
ローゼが言った。
「ここに、ずっといてはいけない気がします」
「うん」
アリスが頷く。
「マダムも外で戦ってる。早く戻らなきゃ」
その言葉で、私は思い出した。
そうだ。
ここは心の部屋だ。
外ではまだ、魔女狩りたちがいる。
マダムが、私たちを守ってくれている。
私たちは戻らなければならない。
ローゼが顔を上げる。
焼けた教会の天井が、ゆっくりほどけていく。黒い梁も、崩れた壁も、灰に埋もれた祭壇も、薄い紙のように揺れ始めた。代わりに、白い光が差す。
その光の中に、線路があった。
古びた鉄の線路。
列車の音が聞こえる。
ガタ、ゴト。
ガタ、ゴト。
アリスがローゼの手を握り直した。
「今度は、一緒に乗るよ」
「ええ」
「途中で降りないでね」
「あなたこそ、勝手に窓から出ようとしないで」
「出ないよ」
「信用できません」
「ひどい」
二人の声に、少しだけ笑いが戻る。
私はそれを聞きながら、白い光の方へ歩いた。
目を閉じる直前、机の上にあった手紙が風にめくれた。
アリスへ。
何度も書かれたその下に、新しい文字が浮かんでいる気がした。
もう一度、あなたに会えました。
次の瞬間、世界がほどけた。
目を開けると、そこは夜の森だった。
湿った土の匂いも、煤けた黄色い灯りも、鉄の音も、マダム・ペンシルベニアの水色の結界も、一度に私の周りへ戻ってくる。
私は膝をつきそうになった。けれど、誰かが私の腕を支えてくれた。
ローゼだった。
「大丈夫?」
「はい」
私は頷いた。
ローゼの顔には疲れがあった。けれど、さっきまでの冷えた硝子のような微笑みはない。青い瞳はまっすぐで、足元の影も、もう濃く見えなかった。
「ローゼ!」
アリスが叫ぶ。
心の部屋から戻ってきたばかりなのに、彼女はもうローゼへ飛びついていた。ローゼは少しよろめきながらも、ちゃんと受け止める。
「走らない」
「今はいいでしょ」
「よくありません」
「戻ってきたからいいでしょ」
「戻ってきたからこそです」
そんなやり取りをしている場合ではないのに、私は少しだけ安心してしまった。
マダムがこちらを一瞥する。
「戻りましたね」
「はい」
ローゼが返事をした。
その声に、マダムの目がほんの少しだけ柔らかくなる。
「では、働きなさい。私はそろそろ腕が疲れてきました」
「校長先生でも疲れるのですね」
「当然です。私は校長であって、壁ではありません」
マダムの水色の結界へ、魔女狩りの鎖が叩きつけられる。
白い煙が上がった。
魔女狩りたちはまだ退いていない。数も増えている。煤けた灯りが木々の間で揺れ、祈りのような、呪いのような言葉が森に満ちていた。
「魔女どもが」
「捕らえろ」
「祈りを掲げろ」
ローゼは一歩前へ出た。
アリスもその隣に並ぶ。
「アリス」
「うん」
「無理はしないこと」
「ローゼもね」
「私は無理をしません」
「今、嘘ついた」
「あなたに言われたくありません」
二人は顔を見合わせた。
それから同時に、前を向いた。
ローゼの杖が青く光る。
足元の草が、さわりと揺れた。木の根が土の下で目を覚ますように動き始める。ここは樹海ではない。草や木に意思があるわけではない。それでも、ローゼの魔法は根と葉の形を借りて、確かに地面へ届いていた。
アリスの指先に、小さな点が生まれる。
今度は震えていなかった。
点は細い線になり、ローゼの青い魔法の上へそっと重なる。アリスの線は、ローゼの根を縛らない。無理に形を変えようともしない。ただ、届きにくい場所へ道を足し、切れかけた流れをつなぎ、根と根の間に小さな橋を架けていく。
「合わせます」
ローゼが言った。
「うん」
アリスが頷く。
「私も、ローゼを見る」
二人の魔法が重なった。
青い根が地面を走る。
その上に、淡い線が引かれる。
根は魔女狩りたちの足を取った。線は鉄の鎖に絡み、祈りを縫い込まれた金属の結び目をほどいていく。煤けた灯りが揺れ、黄色い煙が上がりかけたが、マダムの水色の線がそれを切り裂いた。
「上出来です」
マダムが言った。
「褒められた」
アリスが小さく言う。
「気を抜かない」
ローゼがすぐに返す。
「はい」
三人の魔法は、まるで別々の楽器みたいだった。
マダムの水色の線が場を支え、ローゼの青い根が森の力を読んで敵の動きを止める。その間を、アリスの淡い線がすり抜け、ほどけそうな場所を結び直していく。
魔女狩りたちは抵抗した。
鉄の杭を打ち、鎖を投げ、祈りの言葉を叫んだ。けれど、さっきまで肌をざらつかせていたその声は、もう私の胸の奥まで届かなかった。マダムの線が守り、ローゼの根が押し返し、アリスの線が綻びを塞いでいく。
「退きなさい」
マダムの声が森に響いた。
「ここに、あなたたちが狩れる魔女はいません」
最後の煤けた灯りが、青い根に絡め取られて地面へ落ちた。
火は消えなかった。
けれど、アリスの線がその周りをくるりと囲むと、灯りの中に閉じ込められていた黄色い煙だけが細く抜け、夜の空へ溶けていった。
魔女狩りの一人が後ずさる。
「退け」
「だが」
「国の魔女どもが来る」
その声を合図に、彼らは森の奥へ下がり始めた。
逃げるというより、形勢が悪いと判断して退く動きだった。最後までこちらを睨み、祈りの言葉を捨て台詞のように吐きながら、それでも灯りを低くして木々の間へ消えていく。
やがて、鉄の音も、足音も、煤けた灯りも見えなくなった。
森に残ったのは、湿った土の匂いと、折れた草と、薄く白み始めた空だけだった。
夜が明けようとしていた。
木々の隙間から、朝の光が差し込む。
青い国の塔の先が、遠くで淡く光っていた。
アリスはその場に座り込み、長く息を吐いた。
「疲れた」
「当然です」
ローゼも隣に膝をつく。
「無理をしましたから」
「ローゼもだよ」
「私は」
「今は嘘つかない約束」
ローゼは少し黙った。
それから、小さく笑った。
「疲れました」
「うん」
アリスも笑う。
「私も」
マダムは二人を見下ろし、杖を軽く肩に乗せた。
「二人とも、帰ったら説教です」
「え」
「え、ではありません。称号授与の日に森へ出て、魔女狩りと交戦し、結界内で勝手に動き、さらに新しい魔法を実戦で使う。説教以外に何があるのです」
「でも、ローゼを見つけたよ」
「それとこれとは別です」
アリスはこの世の終わりみたいな顔をした。
「お菓子抜きも?」
「必要なら」
「ローゼ」
「私に助けを求めないで」
「親友なのに」
「親友だからこそ、反省しなさい」
二人の声が、朝の森に戻ってくる。
私はそれを聞きながら、胸の奥に残っていた冷たいものが少しずつほどけていくのを感じた。
前の生で別れた二人は、今ここにいる。
喧嘩して、泣いて、間違えて、それでもまた手を取ることができる。
東の空が白む。
長い夜が終わっていく。
ローゼは立ち上がり、アリスへ手を差し出した。
「帰りましょう」
「うん」
アリスはその手を取った。
「一緒にね」
「ええ」
ローゼは少しだけ照れたように目を伏せ、それからはっきり頷いた。
「一緒に」
アリスはその言葉を聞くと、安心したように笑った。
けれど、すぐに何かを思い出したように私を振り返る。
「ひかりも」
「え」
「ひかりも一緒」
アリスはローゼの手を握ったまま、もう片方の手を私へ伸ばした。
その手は、さっきまで泣いて、震えて、迷っていた手だった。けれど今は、ちゃんと私を呼んでいる。
「だって、ひかりがいなかったら、私たち、きっとここまで来られなかったもの」
「私は」
何か言おうとして、言葉が見つからなかった。
私は二人の前の生を知らなかった。
二人がどれほど後悔して、どれほど相手を想い続けていたのかも、今見せてもらうまで知らなかった。
だから、そこへ私が入っていいのか、少しだけ分からなかった。
でも、ローゼが私を見た。
青い瞳は、朝の光の中で少し柔らかかった。
「ひかり」
「はい」
「あなたは、私たちの外側にいたわけではありません」
ローゼは静かに言った。
「私たちは、自分たちだけでは届けなかった。アリスの声も、私の声も、互いのところまで届く前に、過去の中で止まってしまっていたのです」
アリスが私へ手を伸ばしたまま、何度も頷く。
「ひかりが繋いでくれたんだよ」
「そうです」
ローゼはアリスの言葉を受けて、少しだけ微笑んだ。
「だから、あなたも一緒です」
胸の奥が熱くなった。
私はアリスの手を取った。
アリスの手は温かかった。
ローゼの手は、その向こうでしっかりとアリスを支えている。
三人の手が、朝の森の中で繋がった。
「じゃあ、私たち」
アリスが言う。
「三人で親友だね」
あまりにもまっすぐな言葉だった。
ローゼは一瞬だけ目を丸くし、それから少し困ったように眉を寄せた。
「そういうものは、そんなに勢いで決めるものではありません」
「勢いの親友もあるかもしれないよ」
「ありません」
「でも、ひかりとはもういろいろあったよ。図書塔に入ったし、森にも来たし、心の中にも来たし」
「普通は、親友になるまでに心の中へ招くことはありません」
「じゃあ、もう普通より親友だね」
ローゼは何か言い返そうとして、やめた。
そして、私を見た。
「ひかりさん」
「はい」
「……あなたが嫌でなければ」
その声は、いつもの礼儀正しいローゼのものだった。
けれど、少しだけ照れているようにも聞こえた。
「私も、あなたを親友と呼びたいです」
私は、すぐには返事ができなかった。
嬉しいのに、胸の奥が詰まってしまった。
記憶の少ない私にとって、誰かと過ごした時間はいつも新しく、時々、頼りない。けれど今、アリスとローゼの間に私の場所があるのだと、二人がそう言ってくれている。
「はい」
私は頷いた。
「私も、二人を親友と呼びたいです」
アリスがぱっと笑った。
「決まり!」
「だから、勢いで」
「もう決まったもの」
ローゼは小さくため息をついた。
けれど、そのため息にはもう冷たさがなかった。
「仕方ありませんね」
「ローゼの仕方ありませんは、だいたい嬉しい時の言い方だよね」
「違います」
「今は違わないよ」
「アリス」
「はい」
「帰ったら説教です」
「親友になったばかりなのに?」
「親友だからです」
アリスはこの世の終わりみたいな顔をした。
私は思わず笑ってしまった。
二人も、少しだけ笑った。
朝の光が、森の木々の間から差し込んでくる。夜の湿った匂いはまだ残っているけれど、空はもう青くなり始めていた。
マダム・ペンシルベニアが、少し離れた場所から私たちを見ていた。
「親友ごっこは終わりましたか」
「ごっこじゃないよ」
アリスがすぐに言い返す。
「本物です」
ローゼも静かに言った。
マダムはほんの少しだけ目を細めた。
「そう。では、本物の親友三人で、まずは学校へ戻りなさい。説教も三人分あります」
「ひかりも?」
アリスが驚いた声を出す。
「当然です。森へ入ったのですから」
「でも、ひかりは私たちを助けてくれたんだよ」
「助けたことと、説教を受けなくていいことは別です」
ローゼが隣で小さく頷いた。
「校長先生の仰る通りです」
「ローゼまで」
「一緒に叱られましょう」
その言葉に、アリスはしばらく黙った。
それから、少しだけ笑った。
「それなら、いいか」
「いいのですか」
私が訊くと、アリスは私とローゼの手を握り直した。
「うん。三人なら」
ローゼも、私の方を見て頷いた。
「三人なら」
私も、その手を握り返した。
「はい。三人なら」
朝の森を、私たちは並んで歩き始めた。
アリスとローゼと、私。
前の生で離れてしまった二人の間に、今の私がいる。
それは割り込んだのではなく、繋がったのだと、二人が教えてくれた。
祈りが三人を導いたのではない。
正しさが三人を選んだのでもない。
届かなかった言葉を、もう一度届けようとしたこと。
離れてしまった手を、もう一度伸ばしたこと。
そして、その手を誰かがそっと繋いだこと。
それが、私たちをここへ戻したのだと思った。
青い国の塔が、朝日に照らされている。
その光の中で、三つの影は並んで伸びていた。




