天はどこまでも広いキャンバス
次の日、卒業試験が始まった。
魔法学校の大広間は、いつもとまるで違う場所に見えた。
高い天井には青い硝子の灯りがいくつも浮かび、床には大きな円が描かれている。円の外側には見習いたちの席があり、そのさらに奥には先生たちと、何人かの大人の魔女たちが並んでいた。マダム・ペンシルベニアは正面の一段高い席に座り、白髪とも水色ともつかない髪を静かにまとめている。
広間の空気は澄んでいるのに、どこか硬かった。誰かが小さく咳をするだけで、その音が青い壁に跳ね返ってしまいそうだった。
「ひかり、ここ」
アリスが私の袖を引いた。
私たちは見習いたちの席の端に座った。ローゼはその少し前にいる。試験を受ける見習いたちは、名前を呼ばれるまでそこで待つらしい。
アリスは膝の上で両手を握っていた。いつものように落ち着きなく足を揺らしているけれど、今日はマシュマロを持っていない。食後のお菓子抜きは終わったけれど、試験前に食べるのはやめなさいとローゼに言われたからだった。
「緊張しますか」
「する」
アリスは素直に頷いた。
「でも、ローゼの方が先かもしれないから、ちゃんと見ないと」
「自分の番もありますよ」
「うん。でも、ローゼの魔法は見逃したくない」
アリスは前の席にいるローゼの背中を見る。
ローゼは姿勢よく座っていた。背筋はまっすぐで、青い髪もリボンも乱れていない。杖を持つ指先にも、震えひとつ見えなかった。その姿を見ていると、誰もが彼女を天の魔女だと思う理由が、少しだけ分かる気がした。
青い国の中でも、ローゼの青は特別だった。
最初の課題は、基礎魔法だった。小さな石を浮かせ、水を形にし、火を灯し、風を操る。見習いたちは順番に呼ばれ、円の中央で課題をこなしていく。うまくいく子もいれば、途中で形が崩れる子もいて、先生たちはそのたびに静かに見つめ、時々何かを書き留めていた。
ローゼの名前が呼ばれた時、広間の空気が変わった。
「ロージリア・リベリオ」
ローゼは立ち上がった。
その歩き方まで綺麗だった。急がず、遅れず、まっすぐ円の中央へ向かう彼女の足元で、青い床の線が少しだけ明るくなったように見えた。
「頑張って、ローゼ」
アリスが小さく言った。
その声はローゼには届かないくらい小さかったけれど、願いみたいだった。
ローゼは杖を構えた。
最初に浮いた石は、ただ空中へ持ち上がっただけではなかった。ぴたりと止まったまま、くるりと回転して青い光を帯びる。続いて上がった水は細い帯になり、花の形へ開くと、ひとひらずつ崩れずに空中へ留まった。火は青く静かに灯り、見えないはずの風は床の円をなぞるように流れて、青い線を一つずつ輝かせていく。
誰も声を出さなかった。
声を出すことすら、邪魔になるような魔法だった。
正確で、美しくて、どこにも迷いがない。ローゼの魔法は、まるでこの国の青が彼女のために形を変えているみたいだった。
「すごい」
アリスが息だけで言う。
私は頷くことも忘れて、ローゼを見ていた。
最後の課題で、ローゼは複数の魔法をひとつにまとめた。水の花が青い火を包み、風がそれを支え、石が花の真ん中で小さな星のように光る。壊れそうで壊れない。繊細なのに、少しも不安がない。
マダム・ペンシルベニアの目が静かに細められ、先生たちの筆が動く。見習いたちの間から、遅れて息が漏れた。
「やっぱり」
「すごい」
その声は、広間のあちこちから小さく湧いた。
ローゼは魔法を消し、丁寧に頭を下げた。その顔には、誇りも緊張もほとんど出ていない。けれど席へ戻ってきた時、アリスが身を乗り出した。
「ローゼ、すごかった」
「静かに」
「でも、すごかった」
「ありがとうございます」
「本当に、綺麗だったよ」
「分かりましたから、座りなさい」
アリスは嬉しそうに座り直した。
ローゼは前を向く。その横顔は静かだったけれど、さっきよりほんの少しだけ、頬に色が差しているように見えた。
次に、アリスの名前が呼ばれた。
「アリス・オリエンス」
アリスは立ち上がった。
さっきまでローゼを誇らしげに見ていた顔が、急に固くなる。
「いってきます」
「落ち着いて」
ローゼが言った。
「勝手なことをしない」
「うん」
「できることを、できる範囲で」
「うん」
「返事が軽いです」
「ちゃんと聞いてる」
アリスは少しだけ笑って、円の中央へ向かった。
基礎魔法の課題は、うまくいかなかった。石は少し浮いてすぐに落ち、水は持ち上がりかけて床へこぼれた。火はつかず、風も吹かないまま、杖の先からは白い煙がぽふんと出る。見習いたちの席から、困ったような笑いが少しだけ漏れた。
アリスは自分でも苦笑いしている。けれど、今日はいつものようには笑い飛ばせていないように見えた。手の中の杖を握り直し、もう一度挑戦しようとして、先生に止められる。
「次の課題へ」
「はい」
アリスは小さく頷いた。
私は胸の前で手を握った。
ローゼは、まっすぐアリスを見ていた。眉ひとつ動かさない。けれど、その指先が膝の上でほんの少しだけ曲がっている。
次の課題は、魔法陣の修復だった。
床に描かれた小さな陣の一部が欠けている。それを読み取り、正しい形に戻す。アリスは陣の前にしゃがみ込んだ。
しばらく、何も起こらなかった。
アリスは杖を使わず、自分の指先を見つめてから、そっと空中へ手を伸ばした。小さな点が生まれ、そこから細く頼りない線が伸びていく。線は欠けた陣の上をなぞり、途中で迷い、少し戻り、また進んだ。
広間が静かになる。
アリスは息を止めるようにして、最後の線をつないだ。
その瞬間、床の魔法陣が光った。派手な光ではない。けれど、欠けていたものがきちんと元へ戻った時のような、やわらかな光だった。
「できた」
アリスが小さく言う。
先生たちが身を乗り出し、見習いたちもざわめく。顔を上げたアリスの目は、驚きと嬉しさで揺れていた。
でも、次の課題はもっと難しかった。
自由課題。
自分の得意な魔法をひとつ見せる。
ローゼはそこで、青い火と水と風を組み合わせた美しい魔法を見せた。多くの見習いたちは、自分の属性や得意分野に沿った魔法を披露した。
アリスは、円の中央で少しだけ立ち尽くした。
「何をするの」
誰かが小さく囁く。
「線で鳥を飛ばすんじゃない?」
「でも、それだけ?」
その声が聞こえたのか、アリスの肩が少し揺れた。
私は思わず身を乗り出す。
アリスは指先を見つめてから、ゆっくり顔を上げた。広間の天井近くには、青い硝子の灯りが浮かんでいる。そのひとつは昨日から調子が悪かったのか、少しだけ暗くなっていた。たしか廊下でも、見習いたちが「あそこの灯り、消えかけている」と話していた。
アリスは、その灯りへ向かって指を伸ばした。
「え」
誰かが声を漏らす。
「高すぎる」
アリスの線が、空へ伸びた。
まっすぐではない。揺れ、迷い、途中でほどけそうになりながら、それでも灯りへ向かって伸びていく。一本では足りず、アリスはもう一本、もう一本と線を引いた。線は互いに支え合い、細い梯子のように空中へ架かった。
額に汗がにじみ、指先が震えても、アリスの線は消えなかった。
やがて、線の先が暗い硝子玉へ触れた。その瞬間、硝子玉の中で眠っていた光が、ふるりと動く。アリスは小さく息を吸い、指先で輪を描いた。輪は硝子玉を包み、割れたところを縫うみたいに、薄い光の線で結んでいった。
灯りが、戻る。
青い光が広間に落ちた。
消えかけていた硝子玉は、他の灯りと同じように静かに輝き始めた。けれど、そこに宿った光は少しだけ違っていた。青の中に、杏色のような、朝の光のような色が混ざっている。
アリスは手を下ろした。
その場でふらりと揺れる。
「アリス」
ローゼが立ち上がりかけた。
けれどアリスは踏みとどまり、少し遅れて笑った。
「直せた」
広間はしばらく静かだった。
誰も拍手をしなかった。何を見たのか、すぐには分からなかったのだと思う。やがて先生の一人が立ち上がり、別の魔女も天井の灯りを見上げた。
「今のは」
「修復……いえ、補綴か」
「詠唱もなしに」
「線で、魔力の通り道を縫ったのか」
難しい言葉が飛び交う。
私はほとんど分からなかった。けれど、大人の魔女たちが驚いていることだけは分かった。
アリスは円の中央で、ぽかんとしている。褒められているのか、叱られるのか、彼女にも分かっていない顔だった。
マダム・ペンシルベニアが立ち上がると、広間が静まり返った。
「アリス・オリエンス」
「はい」
アリスの声は少し裏返った。
「今の線は、誰の指示で引きましたか」
「えっと」
アリスは困ったように天井を見上げる。
「あの灯りが、ほどけそうだったので」
「ほどけそう」
「はい。切れた紐みたいに見えました。だから、つなげたら戻るかなって」
マダムはしばらく黙った。
そして、ほんの少しだけ笑った。
「そう」
それだけだった。
でも、その一言で、広間の空気がまた変わった。
アリスは席へ戻ってきた。
足元が少しふらついている。ローゼがすぐに手を伸ばし、彼女の腕を支えた。
「無理をしましたね」
「ちょっと」
「ちょっとではありません」
「怒ってる?」
「当然です」
「でも、できたよ」
「……ええ」
ローゼはアリスの腕を支えたまま、静かに言った。
「できました」
アリスは嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、ローゼも微笑んだ。
けれど私は、ローゼの指がアリスの腕に触れたまま、ほんの少しだけ強くなったのを見た。
試験は夕方まで続いた。
すべての見習いたちが課題を終えると、先生たちと大人の魔女たちは別室へ移った。称号の判定をするらしい。
広間には見習いたちだけが残された。
誰もが落ち着かなかった。椅子に座る子も、歩き回る子も、杖を握ったまま目を閉じる子もいる。アリスは疲れたのか、机に額をつけていた。
「大丈夫ですか」
「大丈夫。ちょっと線を長くしすぎた」
「ちょっとではないと思います」
「ひかりまでローゼみたいなこと言う」
「ローゼさんが正しいので」
「それはそう」
アリスは机に顔を伏せたまま笑った。
ローゼは少し離れた場所で、窓の外を見ていた。
何人かの見習いたちが彼女へ声をかける。
「ロージリア、すごかったね」
「天の魔女、きっと選ばれるよ」
「アリスもすごかったけど、やっぱり完成度はロージリアだよね」
ローゼは丁寧に返事をしていた。
「まだ結果は出ていません」
「でも、ほとんど決まりだよ」
「ええ、きっと」
その声は、慰めでもなく、ただ当然のことのようだった。
ローゼ自身も、そう思っていたのかもしれない。
私も、そう思っていた。
アリスの線はすごかったけれど、危うかった。ローゼの魔法は、誰が見ても完成されていた。天の魔女という称号がどういう基準で選ばれるのか私は知らない。それでも、ローゼの青い魔法を見たあとでは、それが彼女のものになるのだと思えた。
やがて、扉が開いた。
先生たちが戻ってくる。
見習いたちは一斉に姿勢を正した。
マダム・ペンシルベニアが正面へ立つ。手には一枚の長い紙があった。青い文字が、その上に静かに浮かんでいる。
「皆さん、よく励みました」
マダムの声が広間に響く。
「今日あなたたちが見せた魔法は、それぞれの歩んできた時間そのものです。成功した者も、失敗した者も、そのすべてを忘れないように」
見習いたちは黙って聞いていた。
「これより、称号を授与します」
空気が張り詰める。
水辺の魔女、灯火の魔女、薬草の魔女。小さな称号から順番に名前が呼ばれ、見習いたちが前へ出ていく。泣いている子もいれば、笑っている子もいて、悔しそうに唇を噛む子もいた。
ローゼの名は、まだ呼ばれない。
アリスの名も。
やがて、広間の空気がさらに静かになった。
マダムが紙を少し下げる。
「樹海の魔女」
その言葉が響いた瞬間、私はローゼを見た。なぜか分からない。けれど、彼女の横顔が一瞬だけ固まったように見えたからだ。
「ロージリア・リベリオ」
広間が、ほんの少し揺れた。
誰かが息を呑む。
ローゼは動かなかった。
一拍遅れて、ゆっくり立ち上がる。
アリスも顔を上げた。
「ローゼ」
小さな声だった。
ローゼは円の中央へ進んだ。足取りは乱れていないし、背筋もまっすぐだった。けれど私は、その歩き方が朝に見た時より少しだけ遠く感じた。
マダムがローゼの前に立つ。
「ロージリア・リベリオ。あなたは深き森に満ちる知識と、見えない道を読み解く才を示しました。よって、樹海の魔女の称号を授けます」
樹海という言葉は、青い広間の中で少しだけ深く響いた。
森の奥にある迷い道や、まだ誰も知らない静かな場所が、その響きの向こうにあるようだった。私は、なぜか胸の奥がざわついた。
ローゼは丁寧に膝を折り、称号を受けた。
「謹んで、お受けいたします」
声は美しかった。
どこにも震えはない。
だからこそ、怖かった。
ローゼが席へ戻ってくる。
アリスは何か言おうとして、言えなかった。
広間の見習いたちもざわめいている。
「樹海……?」
「天じゃないの?」
「でも、誰が」
マダムが再び紙を見た。
静寂が戻る。
「天の魔女」
アリスの肩が小さく跳ねた。
「アリス・オリエンス」
その瞬間、音が消えたように思えた。誰も声を出さず、アリス自身も、自分の名前が呼ばれたことを理解していない顔をしていた。
「え」
彼女は小さく声を漏らす。
「私?」
マダムは静かに頷いた。
「前へ」
アリスは立ち上がった。
ふらふらと円の中央へ向かう途中で、一度ローゼを見る。ローゼはいつも通りに、綺麗で完璧な微笑みを浮かべていた。アリスはその笑顔を見て、少しだけほっとしたように前へ進んだ。
私は、その笑顔から目を離せなかった。
マダムはアリスの前に立つ。
「アリス・オリエンス。あなたは未だ名のない入口を開き、世界へ新しい線を引きました。天とは、ただ高みにあるものではありません。まだ誰も知らない広がりを示すものでもあります。よって、天の魔女の称号を授けます」
アリスは膝を折る。
けれど、声が出ない。
マダムが少しだけ柔らかく言った。
「受けますか」
「あ」
アリスは慌てて頭を下げた。
「は、はい。謹んで、お受け……します」
言葉はぎこちなかった。
でも、広間のどこかで小さな拍手が起きた。
それはすぐに広がった。誰かが戸惑いながらも手を叩き、別の誰かが続く。やがて、広間には拍手が満ちた。
アリスは立ち上がり、こちらへ戻ってくる。その顔には、嬉しさも、驚きも、怖さも混ざっていて、今にも泣き出しそうだった。
「ローゼ」
アリスは席へ戻るなり、ローゼの前で立ち止まった。
「違うの」
最初に出たのは、お祝いでも、喜びでもなかった。
「私、ローゼのものを取りたかったんじゃない」
広間の拍手が、遠くなる。
ローゼはアリスを見上げた。
まだ微笑んでいた。
「知っています」
ローゼは言った。
声はとても静かだった。
「あなたが、そんなつもりではなかったことくらい」
「私、ローゼがなると思ってた」
「ええ」
「私も、ローゼが天の魔女になるところ、見たかった」
「ええ」
ローゼは優しく、正しく、どこまでも綺麗に頷いた。
アリスの目から、とうとう涙がこぼれた。
「ごめんね」
「謝ることではありません」
ローゼは立ち上がり、アリスの頬についた涙を指先でそっと拭った。
「おめでとう、アリス」
その言葉は、完璧だった。
アリスは泣きながら笑った。
周りの見習いたちも、その場面を見てほっとしたようだった。誰もが、これでよかったのだと思ったのかもしれない。
私も、そう思いたかった。
けれど、ローゼの足元で影が揺れた。黒い滲みが、青い床の線に紛れて糸のように伸びている。それはローゼの靴先に絡み、すぐに見えなくなった。
アリスは気づかない。
ローゼも、気づいていないように見えた。
ただ、その微笑みだけが、あまりにも綺麗だった。
称号授与が終わり、広間が少しずつ解散の空気へ変わっていく。見習いたちはそれぞれの称号を抱えて、泣いたり笑ったりしている。先生たちは一人ずつ声をかけ、大人の魔女たちは静かに頷いていた。
アリスは何度もお祝いを言われ、そのたびに困ったように笑った。
「ありがとう」
「でも、まだよく分からない」
「ローゼの方がすごかったよ」
そう言うたびに、周りの子たちは少し困った顔をした。
天の魔女に選ばれたのはアリスだ。その事実だけが、何度言葉を重ねても変わらない。
ローゼは、少し離れた場所で先生の話を聞いていた。
樹海の魔女。
彼女の新しい称号。
その響きは、ローゼの青い髪にまだ馴染んでいないように見えた。
マダム・ペンシルベニアがローゼのそばへ来る。何かを話しているが、私には聞こえない。ローゼは丁寧に頷き、それからマダムへ深く礼をした。顔を上げた時、彼女はいつものローゼだった。
けれど、私はもう、その「いつも通り」が少し怖かった。
「ひかり」
アリスが私の袖をつかむ。
「ローゼ、大丈夫かな」
その声は小さく、震えていた。
「分かりません」
私は正直に答えた。
「私、どうしよう」
「今は」
何を言えばいいのか分からなかった。おめでとうと言えばいいのか、謝らなくていいと言えばいいのか、それともローゼを追いかけた方がいいのか。けれど、ローゼは崩れていない。崩れていないように見えるから、手を伸ばす場所が分からなかった。
「アリスは、天の魔女に選ばれました」
「うん」
「だから、まずは受け取っていいと思います」
「でも」
「ローゼさんのことは、あとでちゃんと話しましょう」
アリスは頷いた。
けれど、その顔は晴れなかった。
広間の窓から、夕方の光が差している。青い床の上には長い影が伸び、その中でローゼが静かに立っていた。誰もが彼女を見ているようで、誰も本当には見ていないようだった。
ローゼは最後に、私たちの方を見た。
アリスが小さく手を上げる。
ローゼは微笑んだ。
そして、音もなく広間を出ていった。
その背中を見た瞬間、私は胸の奥が冷えていくのを感じた。
追いかけなければいけない。
そう思った。
けれど、広間にはまだ拍手の名残があって、アリスは私の袖をつかんでいて、先生たちは天の魔女になったばかりの彼女を呼んでいた。
私が一歩迷ったその隙に、ローゼの青い髪は扉の向こうへ消えた。
黒い滲みのような影だけが、床の上にほんの一瞬残り、それもすぐに見えなくなった。




