表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/7

6 男爵の手紙 二枚目

2ヶ月前、私は父の遺品を整理した際、未処理のフォーゲル男爵家の所有地があることに気づいた。

川沿いにあるその屋敷の存在を、私はこのとき初めて知った。


珍しく熱を出した君に休むよういったあの日、私はその屋敷を見に行ったのだ。


私が屋敷へと続く橋に馬車で近づいたとき、その橋を歩いて渡る男が見えた。


それは、何年振りだろうと見間違うはずもない、あの偽物だった。

偽物がフォーゲル男爵家の所有地から、我が物顔で出てきたのだ。


奴は歳をとっても、青い目も鷲鼻も、白髪が混ざりはじめた黒い巻き毛も、私と同じだった。


しかし奴と私は何もかもそっくり同じではなかった。

奴は私よりもずっとみじめな姿だった。

奴は着古した服を着て、背中を曲げて、従者も連れずに一人で歩いていたのだ。


なんとみすぼらしいことだろう!

あんな男がもう一人の私だなんて!


私の中の奴への憎悪はいっそう高まった。

しかし、睨みつけるこちらに奴は気づくことなく通り過ぎていった。


私は奴がいましがた出てきたその屋敷を調べにいった。


屋敷は人の生活の痕跡があり、奴が住み着いているのは間違いなかった。

ただし、手入れは行き届いておらず、使用人はいないようだった。

奴はここで貧しく暮らしているのだ。


しかしそれは裏を返せば、私のように実業家にならずとも生活は出来ているということだった。

苦労もせず、みすぼらしい生活に甘んじて怠惰に生きているのだ。


腹立たしかった。


むしゃくしゃした気持ちのまま、私は屋敷の裏側に回った。

そこは墓地になっていた。


墓地には墓石が3つ並んでいた。

ひとつはダニエラ嬢の名前が、もう一つには知らない女の名前が刻まれていた。


そして三つ目の墓石に刻まれた名前を見て、私は呆然とした。


ルイス・フォン・フォーゲル。

私の父の名前が刻まれていた。


父はここで死んだのだ。

死を悟った父は私と母を捨てて、私の偽物のもとにいったのだ。


父は持ち出した財産も、この屋敷も、親子の愛も、私でなく偽物に与えた。


かつてないほどの憎しみが私の胸に湧き上がった。


ダニエラ嬢も、父も、奴が私から奪った。

私を愛してくれるはずだったひとを、奴が奪った。


偽物の分際で。


これ以上、奴の好きにさせてはおけない。

一刻も早く、奪われた私の人生を取り返さなければ。


私は奴と決着をつけることを決心した。

奴が真に私の鏡像ならば、終わらせる方法は一つしかないのだ。


私は再びあの屋敷に行こうと思う。

奴を殺すために。


あぁ、我が友イザーク。


君は私のかけがえのない友だ。

奴が君という友を私から奪わなかったことは、唯一の救いだ。


君の信頼を裏切り、愚行に走らんする私を、どうか許しておくれ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ