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2 成り代わり

「私が殺した男が、私に成り代わってしまった…!」


目の前の男は、ひどく青ざめた顔で語った。


あまりの顔色の悪さに、みかねたカメリアは「ヒルダ、フォーゲル男爵にお水を差し上げて。」と私に命じた。

男は申し訳なさそうに私が手渡した水を受け取った。


どこか様子がおかしい男、というのが私が彼に抱いた印象である。

夕暮れ時の玄関に現れた彼をみたとき、私は彼を中に入れて良いものかためらった。

カメリアを守る護衛の仕事を担っている私は、不審な者を屋敷に入れるわけにいかないのだ。

けれども、自分の依頼人ならば直接話を聞くと、他でもないカメリアが男を招いたのだ。


カメリアは、公爵令嬢にして優秀な探偵である。

彼女が解決した事件は片手では数えきれない。


殺人事件を好む悪女と囁かれるが、彼女の近くにいる私はそれが誤解だと知っている。

カメリアはただ、事件が起きてしまったその理由を探さずにいられないのだ。


そんな彼女に助けを求めてきたのが、目の前に座る男、フォーゲル男爵だ。


カメリアはフォーゲル男爵が水を飲むのを待って、「整理させてくださいまし。」と切り出した。


「フォーゲル男爵、貴方は昨夜見知らぬ男性による訪問を受けた。

その男は、貴方に殺意を向け、貴方の首を絞めようとした。

揉み合った末に、貴方は彼を橋から突き落としてしまった。」


「ここまで間違いはございませんわね?」と問うカメリアに、フォーゲル男爵は小さく頷く。


「そしてこの新聞記事の写真の男性が、昨夜貴方を襲った男性なのですね?」


「その通りです…。」


カメリアが示した新聞記事は、今日の午後発行されたものである。

それはフォーゲル男爵の失踪を知らせていた。

見かけたら知らせるように、とフォーゲル男爵の顔写真も大きく載せられている。


しかし、写真の男は溌剌としていて、どこか頼りない目の前の男とは別人に見えた。

目鼻立ちは似ているのに、印象がまるで違うのだ。


カメリアは「貴方がこの男性を川へ突き落としたのは事実なのですね。」と再度確認する。


「貴方が殺人を犯したことを、警察に知らせないわけにはまいりません。」


フォーゲル男爵は、「構いません、どうぞ警察に連絡してください…。」と小さな声で言う。


「私は罪から逃れたいのではありません…。

ただ、知りたいだけなのです…。」


フォーゲル男爵が探偵カメリアに依頼をしたのは、自らの罪を否定することではない。

彼は人を殺したことを認めている。


確かに殺したからこそ、彼は恐怖しているのだ。

殺した男が自分に成り代わった、と。


「教えてください。

私はいったい、誰を殺してしまったのですか。」


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