15 龍虎
あれからどれだけ経っただろうか。
私はようやくあいつを…初代を眼下におさめていた。
「永かった」
私はゆっくりとエルの猟銃を構え、照準を初代に合わせる。
――獲った…
私はしっかりと手応えを感じていた。
だが現実は非情であった。
「はぁい」
突然背後からそんな声が聞こえてきた。
振り返るとそこには初代が立っていた。
「やぁ、やぁ。ようやく来たね。待ち侘びたよ」
そう語りかけてくる初代はまるで…友達にでも話しかけているような軽さと笑顔であった。
私はもう一度、銃を初代に向ける。この距離なら外すことは無い。にも関わらず初代はむしろニヤニヤしながら銃口に頭をつけてきた。
「さぁ、どうした?早く撃ったらどうだい?」
私はその初代の狂気と雰囲気に圧倒されていると、初代はさらに
「さぁ!さぁ!」
と急かしてくる。
私は今の全力を、全てを銃にかけて撃つ。
だが、やはりと言うべきか…
確かに私の攻撃は頭を貫き吹き飛ばした、と思う。
が、しかし
攻撃を受けた瞬間から回復していったのか、何も無かったかのように初代はただニヤニヤと笑いながら立っていた。
何もして来ない。
何もしない。
ただそこに立っていた。
「ははっ、その顔。良いねぇ…」
急に初代がそう言った。
私はその言葉にハッとして慌てて距離を取ろうと動いた。
だが初代の
「動くな」
その言葉一つで私は固まってしまった。
ここまで、ここまで遠かったのか。
私は笑顔が消えた初代の威圧の前に為す術が無かった。
甘かった。
私は今なら初代に勝てると思い挑んだというのに――
近づいた、と思っていた私と初代の距離は全く近づいていなかった。
いや、近づいてはいたのだろう。だがそもそもの距離が遠すぎたのだ…
固まっている私の顔に、初代はそっと手を伸ばし触れてきた。
「いい顔をするな、ボク好みの顔だよ。流石私の弟子だ」
は?
「今、なんて言った?」
「ん?あぁ今ボクは機嫌がいいからね、せっかくだ教えてやろう」
そういうと初代は何やらキョロキョロと辺りを見回したあと、突然指を噛み切り血で何かを作り出した。
するとそこには私の顔が写っていた。それを指さしながら
「ね?いい顔じゃないかい?絶望、怒り、恐怖。それらが混ざりあってぐちゃぐちゃな顔だ、ふふ。」
狂ってる
「失礼な、ボクはただのアーティストさ。意外と大変なんだよ?君みたいな顔にする為に観測者を何度も殺した。何度も何度も、そしてようやく望んだ作品に出来るようになったんだ」
思わず口から出てしまっていたのか。そう答える初代は揚々としていた。
「まさか、そんな自らの私利私欲の為だけに。そんなくだらない事の為だけに観測者を殺す為の世界を用意し殺してきたのか?」
「は?」
やってしまった
私は本能的にそう思った。
先程まで威圧はあれど僅かな笑みはあった。だがそれすらも見えなくなった。
今私に向けられた感情は――
「殺意」
それだけだった。
「くだらない事?ははっ、言うじゃないか。」
そう言うと初代は手で髪をかき上げるようにして顔を覆い、一度深く深呼吸をした。
手をどけた時には殺意も消え、また元の不気味な笑みを浮かべた顔に戻っていた。
「では逆に聞こうか。ボクからすると観測者の存在自体、そして干渉なんて行為こそが、くだらない事だと、そうおもうんだがね?」
「観測者が、世界を観測する事で世界は存在出来ている、そんな当たり前のことをお前は知らないのか?」
「んー、それだとさ。何で君はボクの存在を知らなかったのにボクは存在してるんだい?」
「え?」
「何故ボクが観測者を辞めた後や観測者が変わる時
…それこそ君が来るまでの間とかね。観測者が居ない時もこの世界は存在してたじゃないか」
そう言うと初代は急に両手を広げた
「今のボクはこの世界の一部だ!観測者をボクが殺す!
それはこの世界で起きた事であり、正統な歴史だ!
君達に否定できる事じゃないんじゃないかい?」
その問いに…私はしばらく答える事が出来なかった。
だが私は一つの事に気付いた
「お前が殺したエルも元観測者だった。元観測者が二人も存在出来るなら世界は元観測者だらけになってしまう!それこそおかしいんじゃないか?」
「お前はまだエルなんてのを信じてるのか」
「信じてるもなにも!エルは私の師匠であり友だ!信じてない訳が無いだろう!」
「ん?あぁ違う違う。エルに対する信頼を否定しているんじゃないよ」
「じゃあなんだと言うんだ!お前がエルの何を知っている!」
「ボク…いや、私がエルだよ」
…は?――




