12 消える魔法と煙
「お願いだから待って! あ、これは願いとかじゃないわよ」
待って、と言った後に気づいた。この魔女だとこれも願いにカウントしかねないわ。
「反省が生きているのか生きていないのか。変な子だね」
馬鹿から変な子に、言い方は変わったが魔女はやはり余裕そうに笑う。
「それはどうでもいいのよ。余命を要求したのは貴女。要求されたのは私! それでいいでしょ」
私の出せる最大限の声を出した。いつもあまり大きな声を出さない私だけれど、これ以外にアレンを止める方法がない。
「よくない! 誰のとは言っていないなら俺のでもいいはずだ」
決意した私を止めるのはやはりアレンだった。このままでは、話がつかないうちに魔女にどちらかの命が取られてしまう。
「じゃあ、私のために私を死なせて下さい。私は遺されたくない。だから私のためと言うなら……」
こう言えばきっとアレンは、引き下がる。私を死なせたくないのも私の為にしていることだと分かっている。だから、こんな言い方をするしかない。
「だったら、俺も同じだ。お前を失ってまで生きたくない。俺の代わりに死ぬなんて言うな」
アレンが私を射抜くような瞳で見る。どうすればいい……そんな風には言われたら私もどうしたらいいのか分からない。
「仲良く互いを庇いあって。可笑しいねぇ。私の魔法が効かなかったのかねぇ……」
魔女が突然、私たちの会話を遮った。先程までの笑みはなく、心做しか驚いたような表情を浮かべている。気のせいかもしれないけれど。
「魔法? 何の魔法をかけたの……」
声が震えるのが自分でも分かった。嫌な汗が首筋を伝う。
「私は何の余命とは言ってない」
魔女はいつも通り答えは教えるつもりはないようだ。人の反応を見て面白がっているのか、単に理解力がない人が嫌いなのかは分からない。
「それはどういう意味だ? 何の、ということは人の命ではないということか」
アレンが落ち着いた声で魔女に言った。魔女を見る瞳は冷たい。魔女も負けじと冷めた視線を向けている。
「まぁ、どうでもいいけどさ。それより、アンタら魔法にかかってた時の記憶があるだろう。それでも分からないかい」
確かに、私達には魔法にかかってた時の記憶がある。でも、始めは思い出せなかった。何となくそんなことがあったくらいの記憶しか無かった……それに、魔女の話からするとその時の記憶は消えるはずだ。
「貴女は私達が魔法にかかっている時の記憶を戻したのね。理由は分からないけど」
「……。」
否定しない。つまり、私たちは消えるはずの記憶があるということ。それも後から戻されたという形で。
「まさか、それが何かの余命と関係するの?」
「私には分からないよ。魔法を消したら記憶も消える。それは都合の悪いことが起きるから消す。だから、アンタらには記憶を戻した。そうすれば、二人の仲は切り裂かれると思ったんだけどねぇ」
魔女は質問には答えずそう言うとパイプを出した。
「俺達の仲を引き裂こうとしたのか」
そこまではいいが、余命とは何のことだったのか分からないままだ。アレンを見上げたが、彼の顔も困惑の色が隠せていない
「永遠の愛。言ったよね。だから私はアンタらの永遠の愛の余命を取ったはずだった。魔法が効かないなんて初めてだよ。もう、顔も見たくないね。二度と森に近づくんじゃないよっ!」
混乱する私達に怒鳴ると、魔女はパイプの煙と共にそこにいたことが幻だったかのように姿を消した。




