11 余命と失敗
魔法を解くのに代償はないのか、考えてみれば聞かれて当然だ。魔女は私の余命を要求した。死ぬのは明日かもしれない。一年後かもしれない。もしかしたらもうすぐ倒れるのかもしれない。でも、そんなことをアレンに言ったら彼は、責任を感じてしまう。
私の余命をとると言ったが、どれくらい取られたのだろうか。突然、倒れて何も伝えられないのは嫌だ。だから、今のうちに言えることは言っておきたい。今まで私は何も言葉にしてこなかった。
「いつもありがとうございます。私はアレンのこと……割と好きなんですよ」
だって言葉にするのは恥ずかしいから。アレンは私の考えていることを感じ取ってくれる……だから甘えてしまっていた。嫌いだったら彼の傍にいない。
「……!? 急にどうしたんだ」
いつも変わらない表現が分かりやすく動く。
「たまには言葉にした方がいいかと思っただけですよ」
私もアレンが私のことを愛してくれている自信がなかった。何も言ってくれないから。私よりも仕事を優先するから。無表情だから……でも、私も同じね。
「待て、それは……嬉しいが! 何を隠している?」
こんな時でも、アレンが私のために焦っている様子が少し嬉しいなんて私ったらどうかしてる。
「それと、本当に今まで……」
とても嫌な予感がする。何か嫌なものが近づいているような。
「お待ちください!」
私の言葉を遮ったのは侍女だった。
「え? 貴女は……」
思いもよらない人物の登場に思わず、そんな言葉が漏れる。状況が理解できないのはアレンも同じのようだ。
「どうしたんだ?」
「庭に不審者が……来ていただけますか?」
アレンが聞くと、侍女は早口にそう言った。不審者? もしかしてまたレナが現れたのか、そう思ったが何かが可笑しい。
「あ、あぁ」
アレンもそう思ったのか戸惑いがちに頷く。侍女は早く来いとばかりに歩き出す。
「ミシェル行くぞ」
「いえ、行きません。それに……アレンも行ってはいけません」
アレンの言葉に即座にそう返し、腕を掴む。
「どうされました?」
侍女が不思議そうにこちらを見る。
「いえ、私達が行く必要ありませんよね。護衛兵の方もいらっしゃるのに」
突き放すように言うが侍女は引き下がらないだろう。
「彼らはあの令嬢のことで手が離せないので」
侍女は表情を変えずに答える。やはり……違う。
「そうですか。そういえばあの時は、私に帽子を持ってきてくれてありがとう」
侍女をゆっくり見つめ、笑顔で問いかけると侍女はすかさず答えた。
「いえ、当然のことをしたまでです」
「おかしいわね。私に持ってきてくれたのは羽織だったじゃない」
侍女の瞳を見つめると、少し揺れた。あの時私が寒いだろうと羽織を持ってきてくれたはずの彼女は一番仕事ができるはず。
「間違えました」
明らかに焦った様子だ。少し前のことを間違えるわけが無い。
「もういいから。魔女……でしょ? 私の命を取りに来たのかしら」
余命を取りに来たという事ね。それでアレンの魔法が解けたのだもの。悔いはない。
「馬鹿だねぇ」
侍女の姿がドロドロと溶けたかと思うと、見慣れた魔女が相変わらず嘲たような笑みをこちらに向けている。元々隠す気もなかったようだ。
「お前はあの時の……。ミシェル、命とは何の事だ?」
アレンは魔女を睨むと私の方へ視線を向けた。彼に、貴方の魔法を解くために死ぬと言ったら怒るだろうか?
「私は死ぬ……と思います」
何と告げればいいのか分からない私は魔女からもアレンからも視線を逸らすことしかできない。
「何を言っている! まさか……やはり魔法を解くのに代償がいるということか!」
アレンの語気が荒い。アレンがあのままなくらいだったら私が死んででも助けたいと思った。でも、アレンが素で私を愛してくれるのに死ぬなんて……嫌だと思ってしまうなんて。
「そうですね。でも大丈夫ですよ。アレンは幸せに暮らし……」
「アンタさ、聞いてなかったのかい? 私は何の余命とは言っちゃいないよ」
アレンに別れを告げようとした瞬間魔女がこちらを見て、意地の悪い笑みを浮かべた。
「え?」
思い返してみれば、魔女は余命をとると言ったけど、誰のとは言っていない。まさか……そんなの嫌よ。
「あ、アレンの命を取るなんて言わないで下さいよ! 私の命はとってもいいから」
泣き出しそうな気持ちを抑え魔女を睨みつける。魔女は笑うばかりで何も言わない。思わず魔女に詰めよろうとした。
「おい、魔女よ。ミシェルの命を取るくらいならば俺のにしろ」
そんな私の腕を掴んだのはアレンだ。魔女に向かって怒鳴ることも無く静かに言う。
どうしよう……魔女との会話は慎重にしないければいけないって思っていたのに肝心なところでまた、失敗した。
「だめです。そんなことしたら魔法を解いた意味が無いです」
どうしようもない……私があの時しっかりしていればこんなことにならなかった。ごめんなさい、と言っても意味が無いのだろう。こうなってしまった原因を考えても、どこから間違えたのかもう分からない。
魔女の元へ行こうとするアレンの腕をもう一度掴んだ。




