10 代償と不安
引き続きアレン視点です!
そう思っていた時、突然体が痺れたように痛かった。気の所為にしては確かな痛みだったがその後、何もなく次の日には忘れていた。
……と思っていたが、違うな。その後……おれはミシェルがいつもより愛おしく感じて狂ったように愛を囁き続けていた。まるで魔法に掛かったミシェルのように。何故忘れていた? ミシェルが元に戻ったと言ったのはこのことだろう。つまり、彼女も同じ魔女に魔法をかけるように頼んだということだ。
「ミシェル……お前は何故俺に魔法をかけた?」
「貴方と同じ理由です」
表情を変えずに彼女は言うと俺を見つめ返した。相変わらず曇りの無い瞳だ。
「……?」
ミシェルの言っているとが本当なら、俺達は魔法など関係なしに両思いだったのでは?
「……あ、私も話さなければならないことがあります」
暫くの沈黙の後、ミシェルが戸惑いがちに口を開く。言い返す言葉もなく頷いた。
「私は恐らく魔法がかかっている時に、あの魔女に貴方が振り向くように魔法をかけてもらいました」
「そうか……魔女のお代は何だったんだ?」
言われずとも、代償が何だったかは後々の変化で感じるものだ。ミシェルは落ち着いた声で答えた。
「私が貴方を好きになれなくなるというものだと思っていました」
「だと思っていた? ならば、今は違うのか」
それならば、再び魔女のところに行くことも納得できる。狂ったように彼女を愛していた時の感覚はもうない。つまり、魔法が解けたということだ。
「えぇ。それだとおかしい事がありますから。それに、そう考えた方が自然だと思える結論に至ったので」
「おかしな事? それはいいが……ミシェルが受けた代償は何だったんだ?」
「恐らくですが、アレンがかけた魔法が解けるというものです。私も魔法にかかったままならば偽りの愛を苦しく感じることもないはずです」
つまり、ミシェルは俺のことが好きではなくなったということか。確かにお互いあの状態ならば魔法を解きたいとは思わないはずだ。
「成程。そう考えるのが妥当だな。ミシェル、魔法を解くのには何も変わらない要求されなかったのか?」
俺がそう言った瞬間、僅かにミシェルの体が強ばったように見えた。気のせいといえばそれで済まされるくらいに僅かな違いだ。
「えぇ。魔法を解くのには何も……」
曖昧に笑うと、少し視線を逸らす。しかし、あの魔女が優しく魔法を解くわけがない。
「嘘はつかなくていい」
「だから何も言われてません」
こうなったミシェルは手強い。なかなか頑固な女だ。昔からそうだった。
「分かった。なら、いいんだ」
俺が引くと明らかに安心したように肩の力が抜けている。何かあったことは間違いない。
「それよりも、私は……本当にごめんなさい。貴女に魔法をかけてしまって」
いつもより大きな、少し泣きそうな声で彼女は言った。ミシェルに問題などなかった筈だ。それなのに謝罪の言葉を言わせてしまう俺は情けない
「いや、謝るな。俺が魔女の前で隙を見せたからこんなことになった」
あの時の愚かな心の弱みを魔女のに見透かされた。ミシェルに想いを伝えていれば、そんな下らない願いを持つこともなかっただろう。
「私がもう少し素直になっていれば、こんなことも起きなかったですよ」
そう言うとミシェルは席を立って、窓の傍まで行くと俺の方を向いた。
「私がもしも……」
それきりミシェルの形の良い唇は動かない。伏し目がちに窓の外を見つめるばかりだ。
「もしも、何だ?」
それ以上彼女は何も言わない。俯いて僅かに首を振った。やはり、あの魔女は何かを彼女に要求したんだ。そう思ったところで何も出来ない自分の無力さがもどかしい。




