トオラテ
翌日になっても、その次の日になってもフランチェスカからの連絡は無かった。
ハルは何度も電話をかけ続けた。
だが、どうにも繋がる気配が無かったので、一度彼女の自宅へ向かった。
が、そこには何も無かった。
確かにそのマンションの一室はフランチェスカが契約している部屋で間違いなかった。
しかし誰かが住んでいる気配はまるでなかった。
ハルは両隣の部屋の住人に聞き込みを行ってみる事にした。
いずれの住人も返事は「この部屋に誰かが行き来していたところは見た事が無い」というものだった。
フランチェスカは、完全に姿を消していた。
ハルは、フランチェスカの足取りを掴むにはもう彼女の養家のところを訪れる他無いと考えていた。
そしてこの日、ハルはフランチェスカの履歴書に記載のあった、彼女の養家の元を訪れる事にした。
オレゴン州に彼女の養家は暮らしているようだ。
ハルは車でオレゴン州の田舎道をただひたすら走る。
辺りは深い森林に囲まれていた。
自然豊かなその場所は、見渡す限りでは人は見当たらない。
ぽつぽつと点在する民家を眺めながら、ハルは目的地を目指す。
その景観は、オルヴィエートにどこか似通っていた。
間もなくフランチェスカの養家の家にハルは到着した。
車を降り、久々に着用したスーツに少し違和感を覚えながら、玄関のベルを鳴らす。
直ぐに扉の向こうから一人の老婆が現れた。
「どちら様でしょうか? こんな平日の真昼間に……。セールスの御方ですか? それも珍しい。なにせこの辺りに住んでいる人達に何かを勧めに足を運ぶなんて、品物を売りつけるよりも大変でしょうし」
「始めまして、ベネデット夫人。私はハル・ストーナー、探偵をやっています」
「はぁ。探偵さんですか。あぁ、そうか、分かりました。随分と現れるのが遅かったですね。さぁ、中へお入りくださいよ。お茶でも出しますよ」
ベネデット夫人は玄関の扉を開き、ハルに手招きする。
夫人の言葉がハルは気になった。
だが、今すぐにそれに関しては聞かず、夫人の言う通り家に上がる事にした。
家の中はどんよりとした雰囲気で満たされていた。
真夏の太陽の光は殆ど屋内に入っていない。
窓という窓はカーテンで遮られている。
「ごめんなさいね、あの子を育てる過程で身に付けた習慣が抜けなくって」
「フランチェスカの事ですね。改めて、私の名前はハル・ストーナーです。聞き覚えはありませんか?」
夫人は少し不思議そうな顔をしていた。
「あぁ、何かのニュースでその名前を見たような……。という事は、有名なお人っていう事ですね」
「なるほど。ほんの数か月前、あなたの娘、フランチェスカが私の助手として仕事を始めた事もご存じないのですね」
その言葉を聞いて、夫人は目を見開いた。
「フ、フランカが……? 間違いないんですか?」
「え、えぇ。そのフランカが残していった履歴書を頼りにここに来たのです。実は夫人とご主人にお話を伺おうと思っておりまして。というのも、ここ数日フランカと連絡が付かないのです。彼女とイタリアのオルヴィエートへとある事件の調査に向かった後の事です。突然彼女は姿をくらましてしまった」
夫人は驚きのあまり言葉が出てこないようだった。
しばらく口を開閉させた後、深呼吸をしてハルに向き直る。
「何処からお話しするべきなんでしょう……。私は、あなたはてっきり行方不明になってしまったフランカの捜査をしてくれていた探偵さんなのかと思って……。そうなのね、フランカはちゃんと生きていたのね」
「……話が見えてきませんね。フランカは行方不明、というのは過去の話という事ですか? つまり、彼女は間違いなく私の元で助手としてこの数ヶ月働いていたので、それ以前、彼女は行方不明だったという事ですか?」
「落ち着いて話して下さい探偵さん。私は、色々と一気に知らされて少し混乱しているんですよ。少し休ませてください、ほら探偵さんもお茶でも飲んで、ほら……」
ベネデット夫人が少し強引気味に差し出してきた紅茶を、ハルは黙って口元に運んだ。
「お話しますよ。私と、夫と、フランカの事を」
少し落ち着きを取り戻したベネデット夫人が、改めてハルに向かって話を始めた。




