そこにはもう何も無い
空港に到着して、ハルとフランチェスカは別れた。
ハルは自宅に戻る途中、ラーク宛の手紙を投函した。
「もはやこの手紙から得られる情報は無さそうだがな」
そしてハルはそのまま自宅へと戻る。
シャワーを浴びて、バスローブ姿のまま寝室へ行きベッドに横たわる。
うつ伏せになりながらラップトップを開き、イタリアでの調査結果をまとめる作業に入った。
様々な発見はあったものの、いずれも犯人の痕跡は掴めていない。
「いや、正確には犯人が誰だか検討はついているが確証は得られていない、か」
ハルは調査書を書き直した。
深夜2時を回る頃にようやくハルはラップトップから目を離して、眠りについた。
同じ頃、フランチェスカは自宅には戻らず、バーである人物と落ち合っていた。
「やっぱり先生は流石でした。と言っても半分は私の頑張りでもありますが」
フランチェスカがその人物に話しかける。
「世界的な探偵というのは伊達では無かったか。俺達も直ぐに気づかれたよ」
「なんにせよ、あと一歩です」
フランチェスカの表情はとても冷淡に見える。
彼女は立ち上がり、バーを後にした。
翌日、ハルは目を覚ましてすぐに着替える。
自宅を出て、ある場所に向かった。
向かった先にあるのはハルの探偵事務所だった。
とても古びたマンションの一室を借りて、そこを事務所として改装し利用していた。
手紙受けに一通の手紙が投函されている事に気づいた。
「珍しいな……」
ハルはそれを興味深げに取り出し、封を破いて手紙に目を通す。
“こんにちはストーナーさん。もしフランチェスカさんが一緒に居たら、合わせて挨拶差し上げます。
マウロです。
あなたの個人的な連絡先をお聞きするのを失念していた為に、こちらの住所へお手紙を出させていただきました。
直接お話する為にホテルに向かったのですが、あなたは留守でしたので。
直ぐに帰国するとお話していたことを思い出し、手紙を出しました。
パッツィ・ロイを名乗っていた男、本名はジョゼッフォ・ロイと言います。
彼はやはり自ら死を選んだようです。
ですが、気になる点が一つ。
ジョゼッフォの部屋から女性の物と思われる髪の毛が見つかりました。
まだ鑑定結果は分かっていません。
何はともあれ、ご報告します。
またいつかオルヴィエートにいらしてください。
その時には、事務的な事は忘れてお出迎えしますよ。“
「なんだ。中々律儀な男じゃないか」
ハルはそう言って手紙の入っていた封筒を捨てようとする。
しかしそこで少し踏みとどまって封筒を再度入念に確認した。
よく見るとこの封筒は内側に紙が貼りつけられている。
ハルは最初それを透け防止の為の物だと思ったが、気になったので封筒を開き、紙を剥がす事にした。
すると中からもう一枚手紙が出てきた。
"あなたなら気づいてくれると思っていました。
フランチェスカさんには気をつけてください。
ご存知かもしれませんが、実はあなたとフランチェスカさんがイタリアに来て直ぐ、貴方達二人の経歴を調べました。
彼女が何を言ってあなたの助手になったのかは知りませんが、彼女の経歴は改変された形跡が多々見られます。
一見すると何も問題なく見えますが、私達の目は誤魔化せません。
特に二十歳を迎える前までのフランチェスカさんの経歴は、明らかにおかしいです。
ではお元気で。"
ハルはその文章を読むと、一息つく。
ゆっくりと椅子に腰を下ろすと、凄まじい勢いで机の上の資料を漁り始めた。
「どういう事だ? フランカに気をつけろだと? 私だって探偵なんだ、おかしい点があればすぐに気付くさ」
ハルが探していたのは彼女の履歴書だった。
机を散らかしながら、彼女と初めて会った時の事を思い返す。
確かに突然フランチェスカは現れた。
だが、彼女を助手として採用するとなった時に一通りの裏は取っていた。
フランチェスカが卒業したと言う大学にも在籍を確認していた。
フランチェスカの提出した社会保障番号を初めとした個人情報も全てハルは裏取りで確認していた。
「そうだ、彼女の養家の電話番号を聞いていたはずだ。養家に聞けばすぐにわかるはずだ」
ハルは携帯電話を取り出す。
唯一、ハルは彼女の家族に関しては深入りはしていなかった。
家族に関しての話はフランチェスカはかなり避けている傾向があった。
ハルがフランチェスカから聞かされていたのは、彼女が養子であるという事だけである。
ハルはフランチェスカの養家の番号を見つけ、直ぐに電話をかけようとする。
が、そこで手が止まった。
ある考えが頭を過る。
「……まさか、フランカ。そういう事なのか?」
ハルは養家の番号を取り消しして、直ぐにフランチェスカに電話をかけた。
何回もコール音が鳴るが、彼女が出る気配は無かった。
ハルはメールで彼女に今すぐ話したいことがあるという旨を伝えた。
その後もハルは一日中、時間を見つけてはフランチェスカに電話をかけた。
夜になっても彼女が電話に出る事も、電話が折り返しかかってくることも遂に無かった。




