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スケープゴートの逆襲  作者: おにすずめ
7/24

路地裏の電撃戦

―アルバがフランに追いつく10分程前―

「あー、いたいた」

店を出て5分程で、マルクはエリーに追いついた。

こう人混みの中では人一人探すのも苦労するが、幸いエリーの着ていたメイド服が良い目印となった。

「あら・・・私を追いかけて来ましたの?」

「当たり前だ。お前を野放しにすると何が起こるか分かったもんじゃない」

「てっきりあのゴリラの血族と一緒にいったかと」

エリーが言っているのは勿論クーナの事である。

それに対して少々不満げにマルクは答える。

「お前なぁ・・・あの人は中々に凄い人なんだぞ?」

「凄い?」

「そう。あの人はこの国に四人しかいない『諌言の騎士』の一員なんだぜ」

当たり前だがその単語をエリーは知らない。それを察してマルクが言葉を続ける。

「ああそっか・・・オホン、まずこの国には軍隊というものがある。んで、その最下層・・・といっても9割以上がそうなんだが、それが兵隊だ。そして兵隊の中から選ばれたエリートだけが騎士になれる。これが狭い門らしくてな、この国の人口は1000万を超えるとされているが、その中で騎士の地位にある者はたったの200人弱だ。そしてその200人弱の内、更に特に優れた4人の騎士、それが『諌言の騎士』と呼ばれる人達なのさ」

「つまり『物凄い騎士』ということですわね」

「それだけじゃねぇぞ。軍は王の直轄、騎士も兵士も基本は駒だ。だが4人は自らの意見を王に述べる事、王の命令に異議を唱えることすら認められているんだ」

「はぁ・・・だから『諌言』と」

「ああ。それでクーナさんはその一員だ。それだけじゃなくてあの人も異能の力を・・・」

話がそこに差し掛かったところで、もうエリーは聞く気を無くしていた。いつの間にか視線はマルクから外れる。

そしてふと、空を見上げた。

「(・・・青い)」

自分の想い人、自らが慕う姉もこの空を見ているのだろうか。

ここから見える空は、故郷に届いているのだろうか。

奪われた人、奪われた日々。取り戻そうともがいても、最早どうしようもないものにエリーの心は移る。

あの日々をもう一度過ごせたら。あの笑顔をもう一度取り戻せたら。

「おい!」

遠くに行きかけた意識を、マルクの声が引き戻す。

「は、はい!?」

それに少しばかりビックリしたのか、いつもとは違う声がエリーから漏れた。

「どうしたんだよ。ぼーっとしちまって」

「い、いえ。特には・・・」

「本当か?体調悪いなら早く帰って・・・」

「いえ。そういう訳ではありませんの。余計な気遣いは・・・」

そこまで言って、

「(・・・あれは?)」

エリーは立ち並ぶ家屋の屋根の上に何かを認める。

「ん?今度はどうしたよ?・・・ってあれは」

それは、マルクも見覚えのある者の姿だった。妙に暗い影を纏ったその少年は、

「アルバ・フロリン?何であんな所を・・・?」

「・・・」

先日ルフィヤと一太刀交えた少年だ。

その後を、一人の少女が追いかけている。

「あっちは、リエル・エルメスじゃないか。フロイト家のエージェントが揃って何やってんだ・・・?」

「・・・」

その二人を見つめながら、エリーは考えていた。もしかすると今朝ルフィヤと話し合った謎を解く手掛かりになるかもしれないと。

エリーはエリーで今回の襲撃者の件は引っ掛かっていた。そしてそれを無視出来る程、彼女の心は大人では無かった。

パリ・・・

脚部を強化すると、

「行きますわよ」

「へ?」

マルクの腕を引っ張って、彼女も屋根の上に飛んだ。


***


「さて・・・依頼主とやらは出てくるか・・・?」

フランとならず者達の監視をアルバは続けていた。下っ端の奴が報告に行った、そしてその者達以外がここから動かないという事は、依頼主が直接この場に現れる可能性を示唆していた。

下っ端の数はおよそ30。これを束ねる首領に一方的に命を下せるとは、依頼者は中々の権力者である可能性がある。

「(しかし、妙な話だな)」

貴族の当主の誘拐。普通なら金を請求するはずだ。しかしそうではないと首領らしき男は言った。

殺しが目当てでもなさそうだ。それならばここまで回りくどい事をせずとも直接殺せばいい話。

依頼主に直に殺したいという願望があるのかもしれない。だがその線もなさそうだ。それならば直接依頼主の所まで届ければいい。

「(何だ、一体何が目的で・・・?)」

少し混乱しかけた頭を、アルバはクールダウンさせる。今は落ち着いて待てばいいだけの話だ。そうすれば自ずと答えは出てくる。

「アルバー!」

そう、自ずと・・・

「・・・リエル?」

「全く!荷物押し付けていきなり何処行ってんのよ!幸い店主に預からせたから良かったものの!女の子に荷物持たせるって・・・ちょっと聞いてるの!?」

「ああ・・・ああ。物凄く、聞いてるさ」

頭を抱えて、アルバは言った。

同時に、

『何だ!お前らは!?』

気付かれた。最早偵察もへったくれもない。

「あれ・・・アンタもしかして何かやってた?」

「・・・見れば分かるだろう」

「・・・アハハ、ごめーん・・・」

「・・・いや、いい」

溜息と共に返すとアルバは影を纏う。

「遅かれ早かれこうなっていた」

そして屋根の上からダイブした。

「あ、ちょっと待ってアタシも!」

リエルも風の魔術を纏って屋根から飛び降りる。

「何だ?どうした?」

『親分!ガキが二人やって来ました』

下っ端の言葉に、リエルがイラつく。

「ガキですって!?」

「リエル、熱くなるな」

アルバの方はいたって冷静だ。

チラリと、フランに目をやる。どうやら向こうもこちら側に気が付いたらしい。

「あ、貴方達!」

「ほほぅ。どうやらお嬢様のお仲間みたいですな」

『親分、どうします!?』

「構わん。殺せ。言い訳は俺が考えてやる」

『流石親分!』

言うが早いか、刃が煌めきアルバに降りかかる。

「・・・」

その男の喉に、影の刃が突き刺さるのはほぼ同時。

『こ、この餓鬼!』

後ろの二人がボウガンを構えるも、

「はーい、ざんねーん♪」

突如体内から発火、消し炭となった。

『な、なんだコイツら!?』

当然のように、動揺が広がる。

『コイツら・・・まさか・・・!』

『異能者!異能者だ!』

その言葉に、またもリエルが顔をしかめる。

「あのね、私は『魔術師』なの!異能者と一緒に・・・」

「今はどうでもいい事だろう」

それをアルバが宥めるのも一緒だ。

『お、親分・・・』

「どうした?まさかガキ二人相手に、ビビッてんじゃねぇだろうな?」

更に低くなった声に背中を押されるように、下っ端達は剣とボウガンを構える。

「さ~て、どうするのアルバ?」

「数はおよそ30。一人15の割り当てだ。油断しなければ大丈夫だろう」

「連携は?」

「する気などないだろう?」

「ご名答♪」

バチンとリエルがウインクをしたタイミングで、

『うおあああ!』

一人目が、斬りかかって来た。

ブオン・・・

―SLASH―

直後に、影の刃と魔術の刃が形成され、

前者は首を、後者は両足を切断した。

「行くぞ」

「オッケー」

シュン!

そして、二人は左右に分かれる。

『撃て、撃ち落とせ!』

ボウガンの雨が二人に降り注ぐ。

「狙いが纏まっていては、数の意味も無い」

だがそれらはことごとく当たらず、アルバは易々と敵の懐に潜り込む。

そしてまずは先頭の者を両断した。

『死ねや!』

右から新手。だがそれも能力で顕現した腕で掴むと、そのまま握り潰した。

『止まったぞ、撃て!』

そこに新たなボウガンの影。足を止めたアルバを狙う。

「全く・・・、ん?」

防御を張ろうとして、後方からの違和感に気が付く。

果たして彼の直観は正しく、咄嗟に右に避けた彼の後を巨大な火炎球が通り過ぎ、ボウガンごと下っ端達を丸焼きにした。

「何をするリエル!?」

「いいじゃん。どうせ避けられるんでしょ?」

パチン!

続けて指を鳴らし、迫りくる白刃に雷を落とした。

「それっ!」

そこへ鋭利にした氷塊を飛ばし、後ろに控えた者達の頭を砕く。

僅か30秒足らずで、路地裏は血の池と化していた。

「楽勝ね♪」

「それはどうかな異能者共!」

余裕の表情を浮かべたリエルの耳に、低い声。

アルバと共に振り向けば、そこには大砲がこちらを向いていた。

「随分と大袈裟なものを持ってくるな」

「只の大砲と思うなよ!徹甲榴弾装填の特注品だ。貴様らを跡形もなく吹き飛ばしてくれる!」

意気込む首領に、リエルの余裕が少し崩れる。

「あ~っと・・・どうしようかアルバ?流石にあの規模は防いだことないよ?」

「やるしかないだろう」

影を全て防御に回す。同時にリエルも魔法障壁を前面に展開した。

「無駄な事だ。さぁ吹き飛べ!」

合図が掛かり、

ドゥン!!

轟音と共に徹甲榴弾が射出される。

射線上の二人は、全力を防御に注ぎ構える。

「・・・?」

しかし、いくら待っても何も起きない。

「(何だ。どうなっている?)」

不審に思いながらアルバが目を開けると、

『・・・』

絶句し、何も発せぬ悪党達と、

「何やら、面白い事をなさってる様ですわね」

榴弾を片手で掴むエリーがいた。


***


「おっかしいなぁ。確かにこっちに行ったはずなんだけど」

マルクを追って酒屋を出たクーナは、完全に彼を見失っていた。やはりこの人混みの中では、人一人追っていくのも難しい。

「只飲みに誘ったってだけじゃないんだけどなぁ・・・」

ふぅ、とクーナから溜息が漏れる。

「・・・で、アンタは何をしに来たのさ?」

そして、誰もいないはずの背後に向かって語り掛ける。

直後、

「やはり気が付くか」

誰もいなかったクーナの背後に、突如として人が姿を現す。

全身を覆う青黒い衣服。顔には防護面を付け、背中には二本のサムライ・ソード。

この国でこの様な異様な風体をしている者など一人しかいない。

「いや、ここまで近づかれなきゃ気付けなかったよ。流石、暗殺騎士の異名を取るだけはあるね」

クーナと同じ『諌言の騎士』の一人、ケツァル・ベルデだ。

「まぁいい・・・それよりも、だ」

「何だい?アンタがアタシに話しかけてくるなんて珍しいじゃないか」

「・・・単刀直入に言おう。貴様は何故こんな所で油を売っている?」

「はぃ?」

いきなり厳しくなった同僚の言葉に釣られ、クーナの顔も少し厳しくなる。

「計画は既に進行中だ。王の勅命もあって、我々諌言の騎士も全員が動いている。だが貴様は何をしているのだ?この計画に関して、何一つ動いていないように私の目には映っているぞ」

「・・・アタシは元々この計画には反対だったんだけどね」

「だが決定は既に下った。反対したのは貴様一人。そして貴様は我々を説得し、懐柔することが出来なかった。ならば従え。騎士として、王を守護する者の一人として、命には従わなければならない」

「だから、ちゃんと動いてるって。さっきだってフォルツァ家の長男と・・・」

「それは多分に私情が混じっているように思えるがな」

その一言に、ますますクーナの顔が厳しくなった。

「・・・貴様が動かないというのならそれもいいだろう。だが私は既に動いている」

「そう簡単に、事が進むとも思わないけど」

「さっさと王宮に戻れ。そして結果を待つが良い・・・」

そう言い残すと、ケツァルは再び姿を消した。


***


「よっと・・・のわっ!」

エリーとは違い、壁をおっかなびっくりマルクは降りてきた。

いや、落ちてきたという方が正しいのかもしれない。

「痛って・・・って、何だよこの状況・・・」

そして起き上がりながら状況を把握する。

フロイト家のエージェントが二人、そして榴弾を手に持ったエリーが悪党達と対峙している。

だがそれよりも重要な事があった。

「フラン!?」

そう、妹が囚われている。

「お兄様!?何故ここに!?」

「それはこっちのセリフだ。何でこんな状況に・・・」

「いけません。ここは危険です!早く離れて下さい!」

必死にフランが叫ぶ。無理もないだろう。マルクは残りの三人と違い、只の人間なのだ。この戦いに巻き込まれようものなら、命の保証はない。

「そうですか、あれがフラン嬢のお兄様という訳ですな」

ニヤリと首領が笑う。その顔に幾分かの不快感を感じながら、マルクが話しかけた。

「おいお前。フランを放してやってくれ。目的が金なら、相応の金額は払ってやるからよ」

その言葉に、首領は苦笑いした。まるで何も知らない者を小馬鹿にしたかのような微笑みだった。

「残念ながら、その取引に応じることは出来ませんな。我々は金を目的としてこのような蛮行を行っている訳ではないのですよ」

「何だって・・・?じゃあ一体・・・?」

その先を聞こうとしたところで、

「でしたら、これをお渡しすれば宜しくて?」

エリーが榴弾を振りかざしながら、話に割って入って来た。

「な、貴様何を考えて・・・!」

「おい馬鹿止めろ!向こうにはフランがいるんだぞ!」

この状況には二人とも焦りを隠さずにはいられなかった。

「大丈夫。妹君は巻き込まないようにして差し上げますわ」

軽く答えると、エリーは投擲のモーションに入る。

「このアマ!俺の後ろ盾が誰だか分かって・・・」

「そんなもの」

ヒュッ!

「興味もございませんの」

ズドォォォン!!

辺りは爆風と土埃に包まれた。


***


「ハァッ・・・ハァッ・・・チクショウがあの餓鬼共め・・・」

爆発から逃れ、首領はフランを抱えてさらに路地の奥へと逃げ込んでいた。

「こんな事態になるなんて・・・聞いてねぇぞ・・・!」

これまで見たこともなかった異能者が立て続けに三人も出てきた。

しかも只の能力者ではない。能力と経験を併せ持った強者だった。

「お蔭で部下は全滅・・・だが・・・」

ぎろりと、視線をフランにやる。

「目的は達せられた」

そして、ご満悦と言わんばかりにニヤリと笑ってみせた。

「貴方は・・・」

その顔に、静かにフランが語り掛ける。

「うん?」

「貴方は・・・いえ、貴方『達』は、一体何が目的なのです・・・?何の為に、あれだけの命を・・・」

「ですから、依頼主の目的は存じないと申し上げたではございませんか」

「・・・では質問を変えます。貴方の依頼主は、褒章として何を約束したのです?」

質問の形式を、フランは変えた。その答えから、目的を見つけ出すという道もあるからだ。

「・・・」

「答えなさい」

「・・・地位、ですよ」

重く、口を開いた。

「地位・・・?」

「そう。この計画が成功した暁に、一定の地位を・・・」

そこまで言って、首領は動きを止めた。

そして喉に刃を刺したまま、前のめりに倒れると、路地裏に血溜まりを作っていった。

「そこから先は、話す必要はない」

ヴィィィ・・・

そしてその後から、ケツァルが姿を現した。

「ケツァル・ベルデ・・・何故貴方が・・・?」

見知った者の姿に、フランは驚きを隠せない。

「理由は知らずとも良い。来い」

有無を言わさず、ケツァルはフランの手を引く。

そこに、

「成程。貴方が事件に関わっていたのか」

後を追って来たアルバが姿を見せる。

「まさか諌言の騎士の一人が関わっているとはね」

「・・・何だ貴様。小娘を取戻しにでも来たか?」

「いいや」

ブォン・・・

「用があるのは貴方の方だ!」

一気に間合いを詰めてアルバが斬りかかる。

「・・・笑止」

それをケツァルは懐から取り出した小太刀で受け止めた。

「・・・くっ、流石は諌言の騎士といったところ・・・」

ユラ・・・

そう言う間に、アルバは小太刀の揺れを視認する。

刹那

ドサリ

ケツァルが通り抜け、アルバが倒れた。

「・・・『小太刀の一、―雁下―』。安心しろ、殺してはいない」

そして悠々とフランを担ぎ、ケツァルはその場から姿を消した。


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