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鐘が鳴ったら晩餐に

 ナナキは手伝いを終えたあと、子どもたちと合流し遊びに参加した。最も遊ぶというよりは子どもたちの要望に応えて肩車をしたり、旅の話を聞かせるといったものである。


 年頃としては、生意気な子が一人くらいいいそうなものだが、皆おおらかで非常に人懐こい。そんな子ども

たちのせいかアシュレイとライラにおいては、まるではじめからここの住人であるかのように溶け込んでいる。

 イブについては見た目溶け込みそうにないうえ無表情だが、不思議なことに非常に懐かれている。


 こういう閉鎖された土地というのは大抵外から来た人間には倦厭するもので、土地によっては足を踏み入れることを拒否することもある。だが、ここの人間はたいへん友好的に歓迎してくれている。

 ありがたいところであるが、ナナキとしては少し気になるところでもある。


 しばらく時間が経ち、空が茜色になったころ、不意に鐘の音が聞こえる。


 この土地には聖堂がないそうで、それが聞こえるのは警鐘台からである。その鐘の音は聞き覚えのある鼓膜

に響く音と違い、とても軽い音である。


 警鐘台はその名の通り緊急時の警告のために鳴らすものだが、あたりを見ても慌てた様子の人間はいない。そして、子どもたちもそんな雰囲気もなく、楽しげに「時間だから帰るね!また後で!」といって一目散にそれぞれ家に帰っていった。


 どういうことだろうか思っていると鍋を抱えたアナーシャがこちらに向かって歩いてきた。


「お疲れ様。驚かせたみたいでごめんね。この鐘は集合の合図なんだよ。お腹すいただろう?今日の夕食は集会場に集まってみんなで食べる予定なんだ。もう少ししたらみんな家から料理を持ち寄ってくると思うから先に案内するよ」


 子どもたちが去り際に言った「また後で」というのはこのことなのだろう。


 アナーシャのその腕に抱える大きめの鍋を見てナナキが「持とうか?」と問うが「すぐそこだから大丈夫」と言われそのまま歩き出した。ナナキたちもアナーシャの後についていく。


「それにしてもあんたたちは運がいいよ。今日は一番食事が豪華な日なんだよ」


 その言葉に子どもふたり後喜んだ声を上げ、アシュレイが問いかけた。


「ねぇ、今日ってなんか特別な日なの?」


「ここでは月に一度はみんな集まって食事するのが慣例なんだ。」


「もしかしてそれ伝承に関係あるのか?」


 にこやかにそういったアナーシャに今度はナナキが問いかける。それに対してアシュレイが首をかしげた。


「伝承って何?」


「はは、詳しいことは食事のとき長が話してくれると思うよ。ほら、ここが集会場さ」


 アナーシャは若干もったいぶった様子で笑ってそう言って、すぐ目の前に見えるほかの家より横に広い建物に視線を向ける。


 建物の扉は客を招き入れるかのように解放され、その向こうには幾人かの女性がテーブルを振りたり皿を並べるなどして食卓を整えていた。


「ああ、いらっしゃい!」


「もう少ししたら準備できるから待っていてくださいな!」


 ナナキたちに気がついて女性たちが元気に声をかけてきた。


「おばさーん!大皿持ってきたー!」


「水汲んでくるねー!」


 子どもたちもせわしなく手伝に駆けずり回っている。

 それからしばらく続々と料理を運びこまれ、ナナキたちも準備を手伝い、部屋の中央にはあっという間にテーブルいっぱいに料理が並ぶ。


 北方の土地では鍋料理が家庭料理の基本である。この集落も例に漏れず机の上のほとんど鍋料理で、それが各家から持ち寄られたので相当な鍋の数である。その数ある鍋だが、どれも違う食材を使っているようで非常に色鮮やかで、湯気を上げるそれらはどれも美味しそうである。


 子どもふたりの目は食事を前に「おいしそう」と言って目が輝いている。それに対してイヴは机に並ぶ鍋を右から左へと見ていく。


「これほど鍋が並ぶというのもなかなかない光景ですね」


 イヴの関心は中身でなく外身についてであった。イヴらしい着眼点だ。


 それから皆それぞれに好きな鍋から料理をよそい、それぞれ部屋の両はしに備えられた席についていく。そして特に始まりの合図はなく好きに食べ楽しそうに雑談を始めだす。


 ナナキたちも周りの人に促され鍋を物色し、渡されたさらに盛り付ける。


「はいはい、お客さんはこっちね」


 そう言ってアナーシャに促され一番奥の席に足を運ぶ。その席の中央に座っているのは、ほかの人間よりもずっと高齢の小さい老婆である。その老婆はナナキの方を見上げた。


「わしはこの地の長をつとめますデーフェと申す者。いろいろ手伝ってくださったことに感謝する。こんばんは楽しんでいかれるといい」


 デーフェは優しいながらも威厳に溢れる面持ちでそう言った。


「お心遣い感謝する。楽しませてもらうよ」


 ナナキが淡く笑みを浮かべてそう返すとデーフェは満足げに頷いたあと、今度はほかの3人の方を見た。


「今日は皆腕によりをかけて作った料理ばかり。遠慮せずたくさんおたべ」


 デーフェは目尻に深い皺を刻んで柔和な微笑みを浮かべた。それに対して子どもたちは緊張した面持ちを緩めて頷いた。

 ナナキたちは勧められるままフェーデのテーブルの席に着き、そのまま夕飯にありつくことになった。


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