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旅先で起こるべくして起こったある事件7

 ナナキたちは再びイーヴァの家に戻ってきていた。何もなければ多分この家も見つかっていたかもしれないが、もう日も暮れ始めたで今日のところはもう来ないだろう。


 イーヴァはもうこの森にはいられない。もうナナキが連れて行くしあない状況である。今までのイーヴァを見ていると嫌がらないだろうとは思ったが、それどころか当然一緒に行くと思っていたようで「一緒に来ることになるがいいか?」ときいたら首をかしげられてしまった。

 そんなこんなでとりあえず旅支度を整え、今日はここで寝ることにした。

 イーヴァは疲れたのかすぐに夢の中である。


 ナナキは床に座って壁に腰掛けて目をつぶっていた。そして今日の出来事を思い返す。


 今一番の謎はあの男である。

 兵士と同じローブを着ていたがあれはどう考えても違うだろう。あの口ぶりからするに逸脱者アウトブレカーを滅したのも、あの魔物を呼んだのもあの男なのだろうと思われる。

それと、その直前結界が壊れイリアリーゼが現れなくなったのは、あの男が関係しているのではないかと思う。 

 何のためにあんなことをしたのか。あの男は何者なのか。

 理由はわからない。だがナナキはその男に一つだけ心当たりがあった。正確には声である。まさかと思いつつさらに記憶をたどる。


 その時タイミングよく戸をノックする音と共に声が聞こえた。


「こんばんは。入ってもいい?」


 そののんきな声はだいぶ記憶に新しい。


「旅人の次は兵士かよ。この詐称男め」


「いやだなぁ。詐称なんかしてないよ」


 音を立てて開いたとの向こうには先程森であった若い男がランプを持って立っていた。目元を隠す長い髪とヒゲがないせいで別人のように見えるがその声も口調もあの酔っ払いのものである。

ナナキは男を睨みつける。


「で、あんたは何がしたいんだ?」


「当然の疑問だね。答えるよ。おれはその子が外で暮らせるようにするようを要請されたんだ。敵じゃないよ。聖霊は嘘付いても見破れるからわかるでしょ?イリアリーゼちゃん?」


「なぜ名前を知っているかは知りませんが、嘘はいっていないようですね」


 男の言葉に応えたのはいつの間にか起き上がっていたイーヴァではなくイリアリーゼ。


「そうそう。本当だよ。おれはベラルド。よろしくね」


 ベラルドはそう言って笑顔を向ける。小奇麗にしてもやはりうさんくらい笑だった。












 聖霊であるイリアリーゼから嘘はついていないし、敵意もないという。ナナキは警戒をそのままに尋問、もとい質問を始めた。


「じゃ、まず聞く。お前は何者だ?」


「黙秘しまーす」


 ベラルドは笑顔でそう答える。嘘はつく気はなくても全て吐く気はないらしい。得体の知れない存在を余計につついて起こす気はない。ナナキは質問を変えた。


「今回の件は誰に協力を頼まれたんだ?」


「堂主だよ」


 あっけらかんとそう言ったベラルドにナナキは驚いた。するとベラルドは続けてこう言う。


「簡単な話さ。堂主はかつて結界の中で生まれた子どもだった。でもその頃は人が増えて、食料が足りなくなるから聖霊を受け継がない人間の多くは外に出ていくことになった。堂主もそのうちの一人さ。つまりはイーヴァちゃんと堂主は同郷ってこと。」


 ナナキは堂主がイーヴァを見る表情を思い出す。


「そうか、だからあの時・・・」


 何とも言えない表情をしていたのはそのためかとナナキは納得する。イリアリーゼの様子からして堂主の存在に気づかなかったようである。聖霊といっても何十年も前に出て行った子どものことを覚えていなくてもおかしくはない。


「んで、もう外の人間だけど、イーヴァちゃんは兄ちゃんを主さまって言ったでしょ。主さまの伝承は当然堂主も知っている。それで、堂主は牢屋まで会いに来たんだ。で、そこにいたイーヴァちゃんが幼馴染の女の子にあんまりにそっくりだったから、聖霊術師だと確信したらしい。でもまた予想外なことにイーヴァちゃん、というよりイリアリーゼちゃんが暴れて、兄ちゃんと一緒突然そこからいなくなって騒ぎが大きくなっちゃったから、さすがに堂主でもどうにもならなくてね」


ナナキはそれに眉根を寄せる。


「どうにもならないのはわかったが、なんでお前はわざわざ追い討ちをかけるような真似をしたんだ?」


 ベラルドの言い分は理解できる。だがそのあとの結界を壊すという行動はその言い分にそぐわない。


「一応言い訳させてもらうと、結界はもうガタが来てるんだ。だから俺が壊さなくてもそのうち壊れたよ」


「本当か?」


 ナナキはベラルドではなくイリアリーゼに問いかける。イリアリーゼが頷くと、ベラルドが「信用ないなぁ」と頬を膨らませる。


「なんでわざわざ壊す必要がある?」


「それは、兄ちゃんとイーヴァちゃんを追い詰めるためだよ」


 先ほどまでの言い分と真逆のことをベラルドは笑顔でのたまった。そしてナナキはしばらく沈黙した。


「・・・は?」


「だって、逸脱者アウトブレイカーだっていう誤解は解きようもなくなったから。兄ちゃんはここから逃げるでしょ。そんでイーヴァちゃんも隠れるところがなかったら兄ちゃん見捨てたりできないでしょ。それにイーヴァちゃんもいるとこなければ必然的に兄ちゃんについていくしかないし」


 ある種の確信を持って告げられたその言葉にナナキは顔をしかめた。


「何でそう断言できる」


 世の中そんなに甘くない。確かにナナキはイーヴァを連れて行くつもりだったし、あの状況でイーヴァがナナキについてくるという以外の選択肢を選ぶこともまずない。だが、今日あったばかりのベラルドが断言するのはおかしな話だ。

 だが、そのナナキの反応に対してベラルドはそれを否定する。


「いや、酔っぱらいの介抱してくれる人間に悪人はいないと知り合いが力説してたもんで」


 ベラルドは悪びれもせず、そう言って笑う。

 そんな理由で断言するのかとこの脳天気に一言物申したいとナナキは思った。だが話が進まないのでそこは堪えてそのまま質問を続けた。


「それ、堂主も了承したのか?」


「したよ。少し心配そうにしてたけど」


 なぜ心配なのに了承するとナナキは言いたいが、ベラルドが先回りして答える。


「まぁ酒の話をしたときはものすごい変な顔されたけど、全部終わって報告したあとは、隠れて暮らすよりいいだろうって言ってたよ。まぁ兄ちゃんがどういう人物なのかわかったのが決めてかな?」


 にやりと笑うベラルドをナナキは訝しむ。


「なんだそれ」


「だって、見捨てられなかったでしょ?」


 ニッコリと音が聞こえてきそうなほど、態とらしく、くっきりと笑みを浮かべたその言葉を聞いたあと、数泊おいて思い至った。


「おまえっ、まさかあの魔物もその為にか!?」


「私が表に出られなかったのもあなたが邪魔していたんですか?」


 ナナキはあっけにとられ、イリアリーゼは目を細めた。


「ご名答!」


 その返事にナナキはベラルドの胸ぐらを掴もうとすると、ひょいと軽やかに後ろに避けた。イリアリーゼも無表情ながらも冷たい視線を送っていた。


「いやぁ、イーヴァちゃんの健気なお願いちゃんと聞いてくれたし。イーヴァちゃんも兄ちゃん大好きみたいだし。イリアリーゼちゃんも気が合うみたいだし。これならまかせても大丈夫だろうって堂主に太鼓判押しといたよ」


「お前!誰か死んだらどうする気だったんだ!!」


 ふざけた物言いにナナキがいかるとベラルドは「ごめん、ごめん」と謝ってきた。そして顔は笑たままだが静かな声音で言葉を紡ぐ。


「でも、おれだって人を殺す気はないよ。人の子一人託すんだ。それくらい試さないと」


「・・・質が悪いな」


 怒りも冷めやらぬ中ナナキはそれ以上言わなかった。そんなナナキにベラルドは苦笑を浮かべた。


「やっぱり、兄ちゃんはいい人だよね。結果的に良かったって思うと否定できないでしょ」


「ほんっと、お前腹立つな」


 ナナキはベラルドを睨むが否定はしない。実際ナナキはイーヴァを放っておく気はなかった。その上で考えると先程言われたとおり、ベラルドのしたことはいい後押しになったと言える。


 だが、ナナキは全面的よかったなどと言えるほどできた人間ではない。いや、なるつもりもない。だが、かと言って思いのままにわめき散らすほど馬鹿ではない。


「まぁ、素直さに免じて許してよ。イリアリーゼちゃんもそんな目で見ないで欲しいなぁ」


 イリアリーゼは何も言わない。もはや白い目でベラルドを見るだけである。


「とりあえず理解はした。許すかどうかは別として」


 ナナキがそう言うと「えー」とベラルドが不満の声を漏らす。面の皮が厚すぎる。


「あ、そうだ、忘れてた。これ路銀に当てて頂戴な」


 そう言ってベラルドが差し出したのは布の袋。紐を開けて中を見せた。入っているのは銀貨である。


 普通このタイミングで渡されたならば、金で今回の件を許してくれと言っているも同然であるが、ナナキはここで別に金のためにやったんじゃない突っぱねる正義漢でもないし、謝礼金などはもらえるのならば貰う方ではある。

 

「金くれるって言われて、こんなに喜べない事滅多にないな」


 ナナキは眉間にしわを寄せてそう呟いた。お金には罪はない。だが、渡してきた人間なのかもよくわからないががいい性格すぎて何とも言えない気分にさせられた。


「ふふ、まぁそう言わないでよ」


 そう言って机の上に袋をおいた。そしてそのまま立ち上がり背を向けて入ってきた戸で振り返る。


「じゃ、よろしくね」


 最後に笑顔を向けて出て行った。


「・・・言うだけ言って帰っていきましたね」


 勝手に話を終わらせてて去ってったベラルドの姿が見えなくなるとイリアリーゼがそう言った。

 確かにその通りである。質問に答えはしたが、全て向こうのペースといっていい。気づけば多くの疑問が取り残されている。

 

「結局あいつがは何者なんだ?」


「気配は聖霊と似ていますが、何かが違う。人の気配はしないので聖霊術師ではないと思いますが私より強い力を持っているのは確かです」


 ナナキもそれには同意する。

 ベラルドは自身の正体について黙秘した。はっきりと”言わない”という姿勢を示した。その為それにつながるであろうと質問は一切できなかったが、それは仕方がないと思える力量差があると感じた。

 得体がしれない。それがナナキのベラルドの対する印象である。


「敵意がないならとりあえず放っておこう。一応知りたいところは知れたし」


 必要以上につついてとんでもないものが出てきても困る。イリアリーゼもそれに頷く。


「はぁ、・・・寝るか」


「そうですね。イーヴァの肉体を休めないといけませんし」


 明日は早く起きてこの地を去らないといけない。それぞれ床とベッドに今日は眠ることにした。





次話がこの外伝で完結します!

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