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旅先で起こるべくして起こったある事件1

別名過去編。8話で完結ですが、外伝2に続く予定です。


本編に通じる話です。

でも読まなくても本編はわかるけれど、読んだほうがわかるくらいのノリで書くつもりでいます。


面倒な構成ですがお付き合いいただけると幸いです。

 

 それは盗難事件が起こるよりもずっとずっと前の事。ひとりで旅をしていた頃の出来事である。

















 旅をするというのは色々と大変なことも多いが、旅自体は慣れさえすればどうということはない。だが、星の巡りが悪いのかなんなのか、ナナキは余計なものを寄せ付けることが多かった。その余計なものとはなんなのか。


 その時々によって多様だが、この時はばかりは様々な面倒事が重なった。それは全ての出来事があまりにもうまく重なってむしろ起きるべくして起こったものなのだと今では思っている。


 責任逃れをするつもりはないが、己の力だけで起きた出来事であるなどと思い上がったことは言えないし、客観的に見ても自分はその騒動に巻き込まれたうちの一人という位置づけである。

 ナナキがこの騒動に巻き込まれることになった一番最初の理由。それは本当に些細な勘違いから始まった。







 ナナキは大陸の南に位置する南方守護伯領にある小さな街に来ていた。


「兄さん見かけない顔だねぇ。どこから来たんだい?」


 宿屋のカウンターで酒を飲んでいるボサボサ茶色い頭に同じ色のヒゲを蓄えた男がそう尋ねてくる。大抵の大きな街でない限り旅人というのはそれなりに目立つもので、そこに見えるのは好意であったり敵意であったり、ただの好奇心であったりと相手の反応は様々である。


 その男は、グラス片手に赤ら顔で、明らかに酔っ払いといった体である。まだ日は高く他に酒を飲んでいる人間はいない。

 男は長い前髪で目もとが全く見えず、得体が知れない雰囲気を醸し出している。


 特に敵意は感じられず好奇心で声をかけてきたといった様子だが、見るからに関わりたくないタイプ人間だ。けれど、無視するのも色々と面倒が起きそうなので、ナナキは当たり障りなく言葉を返す。


「俺は中央の方から来たんだけど、あんたは街の人かい?」


「いんや、兄ちゃんと同じ旅のヒト。兄ちゃんは何しに来たの?ここって言っちゃ悪いけど辺鄙なところでしょうに?」


 口元に浮かべられた笑みは髭でほとんどわからないがなんとなく胡散臭い。そんな男に店主は何も言わないが、顔にはどことなく不満の色を浮かべていた。男のせいでナナキまでとばっちりを受けるのは勘弁願いたい。


「旅暮らしじゃ、寝床があるだけ贅沢なもんだよ」


「そうか?でもこんなところに来るくらいだから、何か特別な目的でもあるのかなぁってね?あ、おやっさん、これと同じのもういっぱい!」


 男はけらけらと笑いながら店主に酒の催促をする。ナナキのフォローは全くもって無駄となった。もう黙れと言いたい態度であるが、酔っぱらい相手に不満をぶつけることほど不毛なこともない。


 男に酒を差し出した店主はナナキの方を見て苦笑を浮かべた。その目は言外に「あなたも災難ですね」と言っているようでナナキはそれに苦笑を浮かべる。

 男は既にナナキから視線を外し酒を煽っていた。 

 もう話しかけてこないだろうと思ったナナキは店主に軽く会釈してその場を去ろうとした。


「うおっ!?」


 背を向けて瞬間、突然肩に衝撃が加わった。その衝撃に驚きつつ横を見れば先ほどよりさらに赤くなった顔がある。


「またまた兄ちゃん!ここであったが旅の縁!兄ちゃん飲め!俺の酒が飲めないのか!ウハハハハハ!!」


 意気揚々と絡んでくる男の酒臭いとしか言い様のない匂いにナナキは顔をしかめるが、迷惑顧みない酔っ払いはナナキの頬に酒のグラスをぐりぐりと押し付けてきた。


「ちょっと!あんたいいかげんにしろ!」


 相当ご機嫌な男のその行動にナナキは青筋を立てて引き剥がそうとするが、タチの悪い酔っ払いはしつこくタコのようにへばりつく。殴ってやりたいが、さすがにそれはできないのでグラスを思い切り押し返す。

 互の力が拮抗してグラスからビチャビチャと酒が溢れる。


「あんた!いい加減にしないと外おんだしますよ!?」


 最悪な絡み方に見かねた店主が救いの一言を差し出した。店主としては暴れてグラスを割られたらたまったものではないだろう。その店主の声にぴたりと男の動きが止まる。ナナキはそれにほっと息を吐こうとした瞬間、男が呻いた。


「うっぐっ」


 その呻きを聞いた時にはすでに遅く、赤ら顔から青を通り越して灰色になった顔の男は口を抑えて次の瞬間、


「ゥおえぇ」


「ぎゃあ!?待て!!吐くな!!!」


「外にでろォォォォ!!!」


 えづく男に顔を青くしてナナキと店主の叫び声が店近隣に響き渡ることとなった。

 

それは盗難事件が起こるよりもずっと前。ひとりで旅をしていた頃のある一日の珍事だった。


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