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少年と少女の邂逅

 再び闇の中に放り込まれたリィオは音を立ててその場に倒れた。倒れた表紙に顔に何やら水しぶきのようなものがかかり、思いもよらない冷たさにびくりと驚く。

 そっとしぶきのはねた頬に手を伸ばす。暗闇のため見えはしないがわからないが、特に匂いもなくサラリとした手触りでいるので多分水だろうと判断する。

 少し動くとその音は壁に反響するようにあたりに響く。そこは既に倉庫ではないのは明らかであった。


「ここは一体・・・。ベルさん?」


 呼びかける声に応える者はいない。状況から見てどうやらベルは自分だけを逃がした推測される。ともに逃げることをしなかったのはそれだけ余裕のない状況ともいえる。

 そう結論づけたリィオは早々に頭を切り替えた。ベルのことはひとまず置いておいて、今はまず自分のことをどうにかするべきである。


 神経を研ぎ澄ませて耳を澄ます。人の気配はしない。カバンに手をやり確かな感触がある。カバンには棒状ランプがそのままぶら下がっていた。棒状ランプをしっかりにぎる。そしてスイッチを押すと光に照らしだされてホッと息をつく。リィオは一般と比べても忍耐強い方であるが、さすがにどこまでどれほど続くとも知らない暗 闇を進むというのは精神的に辛いものがある。表立って取り乱さないまでも不安は強い。


 明かりがあるだけで人の心は大きく変わる。リィオは冷静にあたりを照らす。

 照らし出されたのはひと目で人工物とわかる無数の柱。照らし出した柱は高い天井を支え、光と水を反射してキラキラと青白くきらめいている。平時であれば少なからず感動を覚えそうな光景であるがリィオにそんな余裕はない。柱に近づいてその表面を撫でる。ツルツルとしていて汚れ一つなく、青みがかった色が鮮やかである。


「もしかしてこれは・・・」


 リィオがそう呟いた時、遠くで ばしゃんっ!と大きな水音がするのが聞こえて反射的にランプを消して柱に隠れた。

 ここに誰か来るとしたら関係者しかいない。


 息を潜めて音の方を窺うった先には眩い光が見える。それはどう見てもランプの明かりではなく、先ほどリィオを包んだ光と同様の強い光である。あの方陣が宝石商の倉庫にあったのだから、他の店の倉庫にあってもおかしくない。そしてつながる先が同じ方が管理しやすい。ここが全ての場所につながっていてもなんら不思議ではない。


 そうだとするとここから出るというのは、相当な幸運に恵まれない限り無理である。自分の運気はわからないが諦める気など毛頭ない。

 ひとまずここを気づかれないようにやり過ごすために全神経を集中させる。

 だが、そのあとの向こうの動きにリィオは驚かされることになる。


「ちょっと!あんたそこにいるんでしょう!ここどこよ!?どうなってるのか説明しなさいよ!」


 リィオは暗闇の中で目を瞬く。聞こえてきたのは高い声。明らかに少女と判断できる声である。

 その声には純粋な怒りがこもっている。誰かに話しかけているがどうやら相手は見えないところにいるようである。少女以外にも他に人間がいる。少女の発言は気になるが、状況がわからないのでリィオは息を殺してやり過ごすことにする。


「ちょっと聞いてるの!いいかげんにしなさいよ!もうなんなのよ!いるんでしょう!?」


 激し叫びは癇癪を起こした子どものようで、少しだけ声が震えている。姿は見えないが声から不安が伝わってくる。“従者の末裔”の手の者とは到底思えない雰囲気に、リィオはどうしたものかと考える。

少女に言葉を返す者はいない。だが本当にいないかと言われたらリィオにはわからない。少女の叫びは更にエスカレートする。


「出てきないよ!?気配も消さずにいるくせに無視するなんてほんとあんた最悪だわ!!人の部屋に勝手に現れるわ、人を小馬鹿にして!!」


 ひどい言われように一体相手はどんな人間なのだろうかとリィオは思った。

 怒鳴って息を切らしたのか荒い息遣いが聞こえたかと思うと今度は激しい水音を立ててこちらに近づいてくる。その音は明らかにリィオに向かっていてまっすぐ近づき、すぐそこにいるとわかるくらいの場所で音が止まったかと思うと少女がこれまでで一番大きな声で叫んだ。


「力をかすってゆったくせに!隠れてないで出てきなさいよ!!」


 少女が叫ぶ。懇願ともとれるような命令があたりに響き渡る。

 それは明らかにリィオの目の前で発せられたもの。リィオは目を見開いた。だが、何も考える間もなくそれは起きた。


 少女の言葉に反応するかのようにリィオの手のうちが脈を打つ。それに驚いたのも束の間、握り締めた手のひらの隙間からこぼれた光にリィオが反射的に手のひらを開けばその手の中のものがふわりと浮いてより強い光を放つ。

 目を開けることのできない光に目を閉じる。耳には少女の悲鳴らしきものがかすかに聞こえる。そしてもうひとつ、誰のものともわからない子どものような声が聞こえる。


『――――』


 うまく聞き取ることができない。だが、敵意は感じないとても柔らかな響き。

そう感じたとき足元がふわりと浮く。それはここに移動する前に感じた浮遊感。


移動する。

 そう思ったときにはもう遅く、そっと目を開いたときもうそこに暗闇はない。それどころか周辺には建物が見当たらず、月明かりが辺りを照らしていた。







「うっ・・・」


 聞こえてきたのはうめき声。その声は少女のもの。

 リィオが目を向けた先には白いローブを纏った少女が倒れていた。


「・・・大丈夫ですか?」


「大丈夫なわけないじゃない!!」

 

 リィオの問いかけに目の前の人物は勢いよく上半身を起こした。

 まわりに遮るものがないせいかだいぶ明るく、怒りが滲ませ少女の顔が目に入る。

 だが、リィオと目が合った瞬間、その顔に怒りは消えてそれは困惑に変わる。


「・・・あんた誰よ?」

 

 二つの瞳がリィオを見つめた。

 探るような警戒したようなそんな目である。

 少女のローブは上等なものであることがひと目でわかる。一般人とは言えない身なりである。

 あそこにいた時点で商家の人間か“従者の末裔”もしくはそれに深く関わる人間と判断するべきなのだろうが、少女の発言や表情を見ているとそう言い切ることができない。

 これが演技であるならちょっとした劇場の女優になれるだろう。


「ちょっとあんたなんで黙ってるのよ!?聞いたんだから答えなさいよ!!」


 返事をしなかったリィオに向かって少女はまた怒りをぶつけた。それはまるで威嚇する猫のようでリィオは毒気を抜かれる。


「答えてもいいんですが。その前にひとついいですか?」


 リィオは至極冷静に少女に問いかけた。すると今度はひるんだように少女が身を縮めた。


「なっ、何よ!?」


「あなたはなぜあの場所にいたんですか?誰かに連れてこられたんですか?」


 少女の発言は自分の意志であそこにいたわけではないように聞こえた。このまま逃げ去るという道もあるがもし少女が本当にこの状況がわかっていないのであれば放っておくのは忍びない。

 少女はリィオの言葉にしばし沈黙した。その顔には更なる困惑が浮かんでいる。


「あんた、あの害虫の差金じゃないの?」


「害虫?それは何かの比喩ですか?」


 リィオが問い返すと少女は苦虫を噛み潰したような顔になる。月明かりといっても昼間の光ほどではないのだが、それでもはっきりわかるほど少女は嫌そうにためらいながら答えた。


「・・・ベルってやつ。」


 その言葉でリィオの中でいろんなものが繋がった。全てではないが少女が自分を害する存在でないことはわかった。

 分かったからには今度は少女のリィオに対する警戒心を解く必要があった。リィオは少女の前で身をかがめ、少し表情を和らげて少女に話しかけた。公爵に向けたような笑ではなくリィオ自身が自然と浮かべる笑である。


「そうですか。ベルさんなら僕も知っています。僕はリィオといいます。僕はあなたに対して敵意はありませんし、状況としてはあなたと同じでここがどこかも分かっていません。見渡す限り建物はありませんし魔物が出ないという補償はありません。今出来うる限りの安全確保をしておきたいのですがあなたはどうしますか?」


「魔物・・・。」


 少女の顔が少し不安げに揺れる。気は強そうだがその様子はどこにでもいる少女の姿である。どうするかと聞いたリィオだが少女をこのままおいていく気は毛頭ない。


「あなたも一緒に来ませんか?一人より二人の方が安全だと思います。会ったばかりの人間を信用しろなどと無茶なことは言えませんが今はベルさんに免じて少しだけ信じてもらえないでしょうか?」


「あの害虫は信じられないわ!!わざとらしい敬語に人を小馬鹿にした態度にどうやって信用できるのよ!?」


 リィオが真摯に言った言葉に対し少女は憤慨した。だが、リィオはそれに対して純粋に驚いた。


「ベルさんが信用できないんですか?発言から察するにあなたがあの暗闇の中で助けを求めていたのはベルさんなのだと思ったのですが違うんですか?」


「ちっ違うわよ!?何言ってるの!?」


 リィオの指摘に少女のひどく動揺したように否定した。顔色まではわからないが必死に否定するさまがかわいそうなに見えるのだがリィオはそのへんの機微には少々疎く、なぜそこまで否定するのだろうかと不思議そうに少女の様子を観察した。


「違うんですか?では誰に話しかけていたんですか?」


「だっ誰に!?誰だっていいじゃない!!」


「よくわかりませんが答えたくないということでしょうか?」


「・・・あんたそれ素?それともわざとなの?」


 少女は決まり悪そうににリィオの顔を窺う。リィオは少女のことを素直に好意を示すのが恥ずかしいと思う人間なのだろうかと勝手に分析していた。共感はできないがそういう人もいるということは納得できるのでそれ以上は聞くのをやめておくことにした。


「ではベルさんのことは置いておいて、とりあえず今だけ信用して欲しいというのが僕の意見です」


「・・・そんなことしてもあんたには何の得もないじゃない」


「ありますよ。情報が欲しいです」


 ためらう少女にリィオはきっぱりとそう言い切った。それに対して少女は一瞬あっけにとられたような顔をしたあと困ったような笑みを浮かべた。その時の少女の顔にはそれまでの剣はなく若干呆れた様子で肩の力を抜いた。


「普通そこは表向きだけでも放っておけないって言うところじゃない?あんた素直ね」


「よく言われます」


 リィオの言葉に少女は困ったような笑みを浮かべたままため息を吐いた。


「あいつよりあんたの方が信用できそうだわ。どの道、私一人じゃどうしようもないからね」


「では、よろしくお願いします」


 少女のその言葉を了承として受け取り、リィオ立ち上がって少女にすっと手を差し出した。すると少女は少し目を見開いたあとためらいがちに手を差し出して立ち上がった。


 月明かりの少年少女は歩き出す。

 それはこの世界の変化に関わる出来ごと。それが時代の変化を大きく左右する出会いだと二人が知るのはまだ先のこと。


第一章完

やっとです。(汗)


次回は番外編の予定です。

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