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大収穫祭‐潜入と遭遇

 夜が訪れれば、多くの人間は家に帰り明かりを灯す。だが、祭りの期間中であるこの街はどこもかしこも明るく昼間とはまた違った賑わいを見せている。そんな街の中でも閑散としている地区があった。


 それは街にある貴族や富裕層の人間御用達の店の商品を格納する倉庫が並んだ区域。通称“絶対安全地区”。そこは各店舗の協力体制によって非常に徹底した管理をされていた。その倉庫群は四方を身の丈の5倍程の高い壁に囲まれ、数メートルおきに警備の人間が立っている。          


 さらに荷の出し入れをする際は、唯一の出入り口である門で各店の店主の認印を押した書類を提示しなくてはならない。しかもそこにはいる人間は事前にプロフィールを提出しておき、本人であるかを確認するという徹底ぶりである。


 非常に面倒な手順に思えるが、取り扱っている商品の大半は放っておいても大丈夫なように環境を整えてあるので、荷の出し入れの時しか踏み込むことはないので特に問題はない。そのやり方は数百年にわたり受け継がれてきたもので、これまで不祥事など一度もないのだから誰からも文句は出ない。

 そんな倉庫に許可なく踏み込む人間の心情はどういったものであろうか。


 リィオはとある倉庫の一つにそっと脚を踏み入れた。特に慌てることなく冷静にカバンの横にぶら下げていた棒状ランプを手にとって薄暗い倉庫の中を照らし出す。そこは倉庫には荷物がぎっしりと詰まっており、リィオは声を潜めて問いかける。


「ベルさんここで間違いないですよね?」


「間違いないよ。ん?」


「どうしたんですか?」


 突然足を止めたベルにリィオも足を止めた。


「ちょっと待って。ちょっとこの荷物の右に沿って進んでみよう」


 静かに問いかけたリィオに突然ベルがそう促す。リィオはその言葉通りに倉庫の中の方に進む。「今度は右」、「その隙間に入って」などと誘導されながら進んだ先でベルが「ストップ」と言う。リィオは止まって足元をランプで照らす。


「これは・・・」


 リィオは暗がりで少し眉をひそめた。そこには四方を荷物に囲まれた空間がポッカリと空いていた。大人が5人ほど寝られるくらいのなんとも不自然な空間である。どう考えても意図的に作られた空間だった。


「隅っこ照らしてごらん」


 ベルの言葉はリィオの疑問の答えとなった。ランプに照らし出された先には打ち立てられた水晶が1本。続いてほかの隅を照らせば同じく水晶が2、3、4。それは紛れもなく方陣である。予想外の代物に出くわしてリィオは息を呑む。


「ベルさん。医者は水晶を取引するということでしたが、これはどういうことですか?」


 リィオがそう問いかけランプの先をベルの顔に向ける。


「いや、それ眩しいからやめて。それに俺この手紙については公爵から受け取っただけだからそれ以外の情報は聞いてないよ」


「貴方は嘘を言わないのでしょうからその言葉を信用します。ですが、貴方の行動から見て全く予想外ということはないのでしょう?あなたは気配を感じることができてもそれは限定的なものだと聞いています。それに手紙について以外にも情報源はいろいろあるはずですから」


 暗くて見えないが、ベルが肩をすくめて笑う気配がした。


「リィオはいい観察眼を持ってるねぇ。まぁ俺は自分が接触したことのある存在の気配しか感知できないのは確かだからけどね。でも今回については本当に俺の情報網にもひっかかってない。俺がこれに気付けたのはこの気配はよく知っていたからだよ」


「どういうことですか?」


「これおれが移動するのと同じ力が働いてるんだよ。この方陣は聖霊が力を注げば、あら不思議!方陣から方陣へひとっ飛びぃ!って感じになる」


「それがこの方陣の効果ということですか。では、別の場所にも方陣があって、入口で手続きをしなくてもこの区域に侵入し放題ということですね。」


 ふざけた物言いのベルにリィオは至極真面目に問う。


「まぁ、この方陣があればそんなのやりたい放題だしね。これって、確か禁異目録に載ってるんだっけ?」


「これが“物質移転”の方陣ならそうだと思います。便利ですが大昔の記録には犯罪に多用されたそうで、これに関する書物や使い手は神話時代王家の名のもとに葬られたらしいです。今は禁異目録にもその名と効果しか書かれていません。それを知っているのはほんのひと握りの人間とあなたのような存在くらいだともいます。」


 リィオの言葉を受けてベルが唸る。暗くて顔は見えないが納得がいかない感じの雰囲気を醸している。


「なんつうか、この国は昔っからそうだよなぁ。閉鎖的っていうか排他的っていうか。空間移転は普通に便利なのにさ。」


 つまらなさそうにベルが言う。


「僕は別にどちらでもいいと思います。研究してみたいかと言われれば否定しませんが、それを普及するかどうかは興味がないです。ただそのための法を敷くのは大変だでしょうし」


「為政者の力量が問われるとこだね。それにしてもリィオは本当に根っからの研究者だね。老師の跡継いぐ気ないの?」


「僕には老師の跡を継げるほどの政治的な手腕はないです。出来ればずっと研究室にこもりたいくらいです」


「本当に正直だね」


 リィオ言葉にベルが笑う。


「まぁ、それはさて置き、この方陣は盲点だったね。ここは歴史的に見ても相当古いしからある意味納得だけど。でも“絶対安全地区”なんて笑える命名だよね」


 含みを持たせてベルが言う。顔が見えなくても楽しそうなのがよくわかる声音である。絶対安全などと、どの口が言うのかと言わんばかりの嘲笑である。ここは言ってしまえば穴のあいた金庫である。それがどういうことなのか。商家の人間にとってこの方陣がどう役に立つのか。   


「ベルさん。商家が不正に荷物を運んだ記録とかはないんですよね」


「ないね。ここってちょっとありえないくらいに潔癖なんだよ。逆に怪しいと思うけどその証拠は何も出てこない」


「それは“従者の末裔”が力を貸しているからですか?」


 リィオはこの国で知らぬ者はいない存在を口にする。ベルは薄明かりの中でにやりと笑う。


「よくわかったね」


「そう誘導したでしょう?あなたが何もつかめない相手と言ったらそのくらいしか思いつきません。表舞台には出てきませんが、多分純粋な技術力では学術都市でもかないません」


「まぁ、“おれたち”の“生みの親”だからね。ここにいる時点で相当危ない橋渡ってると思うよ」


「これを見たのを知られたら確実に殺されますよね」


 ぼそりと呟いた言葉は非常に物騒なものだった。だがベルはそれを否定しない。


「まぁ、この場で見つかっちゃえばね。でもここから出ちゃえばそうそう手出しはできないんじゃない?死体の処理に困るだろうし。まぁ俺の同類が来たら捕まっちゃうかもだけど」


 ベルはあいかわらずのんきな声でこれまた物騒なことを言った。

 捕まったら殺される。比喩でもなんでもなく、間違いなく殺されてその死体は見つかることのないように処分されるだろう。


 この方陣は慎重に慎重を重ねてその存在を秘匿されてきたのは言うまでもないだろう。それに力を貸している”従者の末裔”。


 従者とは初代神呼みこにカルディアーナの力を授かったことで知られている。だがそれがどんなものかなどはわかっていない。だがその力はきっとそれは神の加護ではないとリィオは思う。それは神など信じないとしか思えない彼らの歴史をほんの少しだけ聞きかじっているからで。そのひとつの成果が目の前にいる。


“従者の末裔”はかつて神と崇められた存在を人為的に生み出すことに成功した。

 目の前で笑うベルをみる。人間と変わらない見た目で人外の力を使う彼は人でもなく聖霊でもない。


”人工聖霊”

 

 それが彼の正体である。

 ”従者の末裔”は表舞台には現れない。だが確実にその力を持ったまま今の世にもあり続けている。ベルの存在がそれを裏付ける何よりの証拠である。


 リィオとしてはベルが人工聖霊だからという偏見はないが、ベルと同じ存在が追っ手として来られたらリィオには勝ち目はないだろうと思う。

 

 ふと、ベルは後ろを振り返る。


「リィオ、ランプを消して」


 ベルの今までにない静かな声音に緊張が走る。ランプを消して耳を澄ます。そこに音はない。だが、何かいる。リィオはそう感じた。するとベルは静かに言った。


「どうやら予感的中みたいだね。リィオこれ貸してあげる」


 暗がりで突然手渡されたのは手に収まるほどの丸い何か。それを受け取った時、上からズンッと圧力がかかったかのような衝撃を感じ、リィオは跪きそうになる。

 だが、そうはならなかった。

 目の端に光る何かが映る。そしてあたりが一気に光に包まれてリィオは体が軽くなるのを感じた。

 

 リィオはそれが方陣の起動の合図だと気づいた瞬間にベルの顔を見た。

 その口はこう動いた。


“武運を祈るよ。”


 ほとんど耳に届かなかったが確かにそう届いた2回目の言葉を合図にリィオの姿は立ち消えた。

 残されたのは不敵に笑うベル。そしてもうひとり。

 その存在は並々ならぬ気配を放ち、黒いローブをなびかせて静かにそこに舞い降りた。そして温度のない静かな声が響いた。


「製造番号311番個体識別名“ベラルド”を視認しました。出頭命令が出ています。速やかに主のもとに帰還することを勧めます」


 その言葉にベルはからかうような笑みを浮かべた。


「おバカさんだねぇ。そんな命令おれが聞くわけないだろ」


「了解しました。では破壊命令を実行します」


 その言葉を合図に二人はぶつかった。その瞬間その姿はそこから立ち消える。

 そこに残ったのは微かに光を放つ4本の水晶と静寂だけであった。


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