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大収穫祭‐少女の憂い

 神呼みこは約一年ぶり当の最上階から降りていた。代々神呼みこが訪れるときにのみ使われる王宮内の広い一室で神呼みこは己の出番を待っていた。


「毎年思うけどこの待ち時間って余分よね。儀式は夕方からなのになんで朝からこの部屋に閉じ込められなきゃならないのかしら」


 繊細な作りの椅子に腰掛けた神呼みこが鬱陶しそうにがそう言うと目の前でお茶を入れるカノハが控えめに微笑む。


「仕方ありませんよ。時間を遅らせるわけには行かないですからね。それに人の多い時間に神呼みこ様が外を歩かれるのは何かと危険がありますでしょうし」


「そんなの分かってるわよ。別に待ち時間が長いのはべつにいいのよ。私が言いたいのはこの部屋のことよ。いい加減この監禁部屋をどうにかして欲しいもんだわ」

 

 神呼みこそう吐き捨てる。

 監禁部屋と称したが、別に室内が汚く狭いわけではない。十分に広くて清潔である。だが、その部屋には窓がない。その上この部屋の照明は今主流のソイルランプではなく昔から変わらぬ火を灯す簡易ランプである。それ故に部屋は少し暗い。何とも言えない閉塞感があり息が詰まるというのが正直な感想である。 


 まるで逃がさないとでも言うような作りに神呼みこは嫌気がさす。ここに来る時も顔もほとんど覆うほどのローブを着せられてて周りを複数の人間に囲むという徹底ぶりである。守られているというよりも犯罪者の気分である。


「今もう4時を回りましたからあともう少しの辛抱ですわ。はい、どうぞ」


 カノハはすっとティーカップを差し出した。神呼みこ何を言うでもなくそれを手に取り口に運ぶ。そして一口飲んでホッと息を吐いた。


「このお茶だけは唯一褒めてあげてもいいけどね」


「それは良うございました」


 神呼みこの言いようにカノハが笑顔を向ける。やさぐれた気持ちが少しほぐれた。食に興味はないが王宮でしか取れないこのお茶だけは神呼みこも認めていた。というよりこれ以外は認めていなかった。


 この大収穫祭というのは女神カルディアーナの豊作を感謝するという名目のもと行われるもので、カルディアーナの神呼みこは王城に出向いて王に加護を与える儀式を行う。


 儀式の内容はいつも塔の上から歌っている〈聖歌〉を、王宮の謁見の間で集まった王侯貴族の前で歌う。儀式の過程にはいろいろあるが、神呼みこが実際にすることはただそれだけである。

 だがただそれだけのことが簡単に済まないのが面倒なことで、神呼みことしては馬鹿らしいものである。


 この地位を与えられている神呼みこだが信仰心も薄く虚礼を嫌う。普段はある意味で放置されているといっていい境遇なのに、この儀式の時に限ってちやほやされるので余計にそう思うのである。


「こういう行事って本当に必要かしら。これって言ってしまえば〈セント・カルディアーナ〉の示威行動でしかないじゃない。昔の神呼みこのように本当に加護の力を与える訳でもなんだから」


 皮肉げにそう言うと少し困った顔をカノハの顔が目に映る。


「別に私には損はないし、働かずにいい暮らしさせてもらっているのは十分に分かっているわ。ただ、いつまでこんな虚しいこと続けるのかと思っただけよ」


 神呼みこはこの世界がひどくおかしいと思っている。そう思うのは普段は閉鎖された空間で過ごしているからかもしれない。

 神呼みこにとってこの世界を何かに例えるのならば“箱庭”である。形ばかり取り繕って中身がない。


 今の〈セント・カルディアーナ〉という組織が最たるものである。過去に与えられた力をさも高尚なもののように扱う。そしてその土地に密着した〈聖堂〉によって、人々もそれに疑問を持たずただ信仰する。


 確かに神呼みこである自分は異能を持っている。だが、他人をどうこうするほどの特別な力を持っているとは思っていない。卑屈でもなく冷静にそう思っているので余計に今の状況がおかしいと思うのである。

 ぼんやりとそんなことを思っているとカノハの優しい声が耳に届く。


「私はただの召使に過ぎませんから、政についてはわかりません。ただ、神呼みこ様がそこにいるだけで救われる人もいるのです。全てが無駄なことではないと思いますよ」


「そうかしら」


「少なくとも私はそう思います。私は神呼みこ様の歌が好きですから」


「それって何か違う気がするんだけど」


「同じですわ。根底にあるのはどちらも好意ですもの」


「・・・そうなの」


 カノハの笑顔は揺るぎなかった。納得したわけではないが反論する気は起きない。なんだか恥ずかしいことを言われた気がする神呼みこである。

 そんな時コンコンとノックの音が聞こえる。


「時間みたいね」


 そう言って神呼みこ立ち上がると鍵があいて扉が開く。白いローブに身を包む〈セント・カルディアーナ〉の兵士が6人ほど入ってきてそろって敬礼をする。


「お待たせしました。これより我らが護衛いたします」


 兵士の一人が前に出てそう告げる。するとカノハが「失礼いたします」といって神呼〈みこ〉のローブを着せる。それが終わると兵士達は扉を開けて神呼みこに道を譲るように並ぶ。外にも同じ数の兵士が並んでいる。

 カノハはお辞儀をした。そしてひとこと、滅多にかけることのない言葉を口にした。


「いってらっしゃいませ」


 変わらぬ穏やかな笑顔に神呼みこも少し笑って言葉を返す。


「行ってくるわ」


 兵士に周りを固められて神呼みこ王宮の謁見の間に向かって歩き出す。

 ローブで見えないその顔には少しだけため息を吐いた後、睨むように前を見据えて。


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