大収穫祭-顔見ぬ対面
いつもと比べようもなく賑わう街並み。そこに高くそびえる塔の周りにはいくつもの大きな光が弾けて、それに遅れて鼓膜に大きな音が響く。昼間に上がる花火は毎年この日のためにだけ作られる特注品である。
そしてその花火が見られるのは、季節が秋から冬に変わるこの時期の聖都〈ヴァージニアム〉で行われる大収穫祭だけである。
アウローラ大陸では、どの土地でも大なり小なり収穫祭が行われるが、さすがに中心都市の祭りだけあって華やかである。
大通りでは大々的なパレードが行われ、色鮮やかな馬車とその周りを舞う踊り子の舞は遠くから見ても目が眩むような煌びやかさである。そして、それを見物している人々も色鮮やかな衣装を身にまとい異様な熱気をはらんでいた。
そんな様子を公爵邸の客室の窓から見ていた少年はあっけにとられた様子でその光景を見下ろしていた。すると少年以外誰もいないはずの部屋にもうひとりの声が響いた。
「君も参加したい?」
からかうような声音に少年は驚かず静かに後ろを振り返る。そして誰もいない空間に向かって問いかけた。
「あなたがベラルドさんですね」
「あれ?驚かないんだ」
「老師からあなたは人を驚かせるのがお好きだと聞いていたので。ですからきっとこの機にいらっしゃると思っていました」
「はは、一本取られた。あと、おれ一応ベラルドさんだけど、ここではベルで通ってるからそう呼んで」
「分かりました。僕は学術都市から参りました。リィオと申します」
リィオが自己紹介をするとベルは「リィオ?」と名前を反芻した後、楽しそうな声をあげた。
「ああ!老師の養い子か!この間まで赤ん坊だったのにもうこんなに大きくなったのかぁ」
ベルは親戚のおばさんのような口ぶりでそう語る。リィオはどう返答したものかと思ったが、リィオ口を開く前にベルが次の言葉を口にした。
「リィオは〈聖都〉もこの祭りも初めてだろ。感想は?」
唐突に変わった話題に少しだけ戸惑いながらリィオ思ったままを答えた。
「なんというか・・・さすが〈聖都〉ですね。規模が違います。王室主催ということですからやっぱり国庫から出てるんですよね?」
暗にやりすぎじゃないかという意味を込めてリィオが問うとベルはおどけた調子で答えた。
「そりゃもちろん国庫から出でるだろうねぇ。でも王家主催だからこそショボくちゃ面目がたたないってところが強いんじゃない?それにここまで盛大にすればお金かかっても意外に文句はでないもんさ。それにこれだけ盛大だと相当な経済効果が見込めるから、逆に金の出し惜しみした方が文句が出るんじゃないかねぇ」
のんびりしたベルの言葉にリィオは少し首をかしげた。
「そういうものでしょうか。うちはこういう娯楽対して積極的じゃないのでよくわかりません」
「そりゃ、学術都市の体制上仕方ないってもんだよ。それに、君らは研究者の集まりだ。リィオ君もお祭り騒ぎより研究室で研究するほうが楽しい口だろ?」
ベルの指摘に、リィオは数回瞬きしたあと素直に頷いた。
「そうですね。今回もここに来る人間も結局くじ引きで決めることになりましたから」
「リィオは外れたの?」
「はい」
「正直だなぁ!」
「まぁ、事実ですし」
リィオのあまりに正直な言葉にベルは面白そうに笑った。
「まぁ、冷静な頭であの中に入るのは難しいだろうな」
ベルの言葉でリィオは再び窓の外に目を向けた。人々がひしめき合う姿は客観的に見ると暑苦しい。普段好んで研究室のこもっている人間が入っていくにはためらわれる光景である。
「そうですね。ただ楽しめと言われれば戸惑いますね。ですが今回は目的が定まっているのでそこまで抵抗はありません」
リィオの言葉にベルは気づいたように「ああ」と声を上げた。
「例の盗難騒ぎか」
「そうです。ここひと月の間でこの街に水晶を使った治療を扱う流れの医者が現れました。その医者がある貴族の目にとまり、この祭りの間邸宅に招かれているという話です。当然ご存知ですよね」
「まぁ、俺も貴族の家に仕えてる身だからね。それなりに情報は入ってくるけど。今回公爵に会いに来たのもそれか」
「いえ。公爵家に来たのは新しいエネルギー装置の技術提供について、老師から書状を預かってきたんです。これが済んだらその医者の動向を探るつもりです」
「ふぅん。おれに何か手伝って欲しい?」
楽しそうな声音でそう問うベルにリィオは少し考えてから真面目に問い返した。
「手伝いとは少し違いますが、もしよろしければ公爵の人となりを教えていただけませんか?」
「そんなんでいいの?」
「ええ、十分です」
「欲がないねぇ。まぁ別にいいけど、俺大したことは知らないよ。アイテール公爵はほんと食えない人だから、腹の中を見せたりしない。ただどんな人物かと言われれば、使えるものはなんでも使うけど、その使えるかどうかのジャッジは厳しい人って答えるね。ぶっちゃけていうと政における手腕は現王より上。そんなとこかな」
「そうですか。ありがとうございます」
「ふふ、健闘を祈ってるよ。じゃあね」
その言葉を最後にベルの声は聞こえなくなった。そして、しばらくするとコンコンと扉をノックする音がした。リィオはひとつ深呼吸をした。そして静かに振り向いた。
音を立てて開いた扉から入ってきたのはこの屋敷の主、アイテール公爵であった。




