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寝静まった夜、長き一日の終わり[後編]

「どんなものも写し取る力か」


 スキアーの言葉にナナキが反応した。それをスキアーは「そうじゃ」と言って肯定した。


 聖霊達はそれぞれ属性を持っているが、他の属性を使うことが不可能というわけではない。属性とは聖霊達の 住み分けのために、長い時間をかけてそれに特化していっただけのことである。

 聖霊本来の能力とは干渉したものから情報を写し取ること。そしてそれを反映させることにある。

 だが、ナナキは腑に落ちないものがあった。


「それがどう作用していたはずの人間が全くいなかったことになるこの現象を引き起こしたのか理解できない。暴走して写し取ったものが意思に反して反映される可能性は分かるが、消えるっていうのはどういうことだ?ヴェントゥスは外への影響を打ち消せなかったといっていたが、後はスキアーに聞けと丸投げしてきたぞ」


「あやつらしいの」


 呆れたような顔のナナキに、スキアーはふっと笑ったあと再び話し出す。


「わらわ達の能力はそなたらの認識のさらに外側をゆく。写し取るのはこの世界のみとは限らん、ここでない場所はかず限りないほどある」


「簡単に言うとここ以外の次元で実際あったことを写してとってこの世界に反映させたってことか」


「そうじゃ」


 実際に聖霊域というものが存在し、イヴの持つ呪具にも異次元繋がる瓶があったのだ。ここと似て非なる世界があっても不思議ではない。ナナキはそれについて納得した。


「まぁ、ここでこれ以上話しても埒があかないな。取り敢えず聖堂だ」


「ふふ、言わずして話が通ずるというのは面白いの」


 スキアーは笑みを浮かべる。 

 どこに行くかなど伝えてはいなかったがスキアー自身はそれを予測し、何も言わずについてきた。それはナナキも同様でスキアーの様子から言わなくても察するだろう敢えて口にしなかった。スキアーはそのことを言っているのだろう。


「これは所謂あれか?」


「何がだ?」


 スキアーは良くわからないことを言って少し考えている様子を見せた。そしてしばらくしてポンと手を打ちひらめいたとばかりに少しはしゃいだ様子で口を開いた。


「ツーカーの仲と言うやつか!」 


 こちらを見るスキアーは50歳の女性の姿だがそれでも中身のせいか若々しくとても無邪気だ。ナナキはそれに少し呆れた様子で答えた。


「いやそれは違うだろ。ライラの中で話を聞いていたにしても実際対面して1日未満のツーカーってどんなだ」


「ふむ。それもそうか。だが、しばらく共にいればそうなるのではないかと思うがの。多分時間の問題じゃなかろうか」


 基本話の通じる聖霊だという印象があったが、どうやら根本はヴェントゥス同様のようである。話が突飛で自分に素直である。そしてめげない。

 言葉にしなくてもいいのは多分ナナキとスキアーの知識量の問題である。


 スキアーの事は聖霊にまつわる知識とスキアーについて記された日記よってナナキは他の人間よりは理解できる。そして、スキアーは聖霊として相手の意思を感じることができ、この世界については何千年に及ぶ膨大な記憶を持っている。 それぞれ個人をよく知り合っているのではなく、互いに察する能力があるだけの話なのである。

 傍から見ればそう見えなくもないだろうが、ツーカーの仲の本来の意味にはそぐわない。


「話がそれていますがよろしいのですか?ただ聖堂に忍び込むだけならまだしも、地下の儀式上に行かれるのでしたらお早めに行かれたほうがよろしいかと」


 ずっと黙って聞いていたイヴがもっともな意見を口にした。イヴにも何も話していなかったが、何をしに行くのか察したようである。


「これはツーカーと言っていいのじゃろう?」


 スキアーがそう言って嬉しそうにナナキの方を見る。何が嬉しいのかわからない。

 互いに言葉なく話が通じるという点では頷けるがその言葉の語感は素直に頷きづらいものである。

 そう思ってナナキが微妙な表情を浮かべていると矛先はイヴのほうに向いた。 それにイヴは即答した。


「違います。ツーカーの仲とは気心の知れた仲である人間のあいだで使われるものです。私は従者なのでそう呼ばれる関係になることはありません」

 

 きっぱりと言った言葉は確かに正論だ。そしてナナキ自身似たようなことを思った。ただイヴの言葉には悪意がないが、半年間ずっと一緒に旅していたナナキからするとなんとなく物悲しいものである。


「そうなのか。残念じゃの。そなたらは仲が良いから恋バナとやらを聞けるかと思ったのじゃが」


「濃いばな?」


 イヴは言葉の意味が分からなかったようで少し首をかしげている。そしてナナキは何を言い出すんだこの聖霊はの一言に尽きた。


「いや、何の話だよ。もう行くぞ。イヴは宿に戻ってアシュレイたちを見ててくれ。宿には俺の名前を言えば通るようにしてあるから。もう寝てるから静かにな」


 思いもよらぬ方向に話が転がりそうだったので、ナナキは早口で話をまくし立てた。やましいことは何もない。何もないのだがこのメンバーでは自分だけがいらぬ精神的ダメージを負いそうな気がする。

 それに対してイヴは特に疑問を口にせず頷いて「お気を付けて」と一言告げて去っていった。イヴの姿が見えなくなってスキアーの方を見ると残念そうな顔をしていた。


「なんでいきなりそんな話なんだ?」


 大変自由なスキアーにナナキは内心ホッとしながら再び呆れ顔で問いかける。 するとスキアーが虚空を見つめた。その目はどこか昔を懐かしむようなものだった。


「わらわの歴代の契約者は愛や恋に生きる者が多くての。わらわも彼女らの恋模様をはた見たり、よくのろけを聞いたものじゃ。ほんに楽しかった。ライラはまだ幼いが器量よしじゃ。年頃になれば男たちはほうっておかないじゃろう。ふふ、アシュレイもうかうかしていられないかもしれんの」


 スキアーの表情は先ほどより生き生きとしている。本当にそういう話が好きなのだろう。違う意味で暴走しているようである。これ以上は余計なことを言われかねないので今度こそ足を進めた。


「時間が本当に無くなるから行くぞ」


「ふふ、ではまた今度にするとしよう」


 諦める気はないらしい。その言葉にナナキはため息を吐く。この話でスキアーに対する印象が一変したのは言うまでもないことであった。


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