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寝静まった夜、長き一日の終わり[中編]

 夜の街は月明かりに照らされて家々の輪郭が淡く浮き上がる。だが、このアルビレオの街はそれほど大きい街ではないので街灯などはあまりなく夜道は暗いナナキは鞄から10センチほどの棒状のランプを取り出した。

スキアーは孤児院の院長の姿のままでナナキの手元に目を向けて不思議そうに呟いた。


「なんじゃそれは?」


「これか?」


 スキアーの唐突な呟きにナナキは振り向いてランプのスイッチを押した。そうすれば明るい光がランプの先端に灯る。するとスキアーは目を瞬いて不思議そうにランプを人差し指でつついた。


「なんとも面妖じゃな。それが作り出す影は昼の太陽が作る影にも負けぬ強さがある。あの村にはなかったものじゃ」


「村ってライラ達がいたルーナ村か?」


「そうじゃ。アグニがおらぬが、なぜこのように明かりが灯るのじゃ?」


 はて?と首をかしげてるスキアーはランプにさらに顔を寄せて考える仕草を見せる。アグニとは火の聖霊のことである。

スキアーが言っている多分オイルランプのことである。その名が表す通りオイルで火を付けて明かりを灯す簡易ランプである。50年程前まではそのオイルランプが主流だったが、ナナキが持っているランプは違う。


「スキアーはソイルランプを知らないのか?」


「ソイル・・・太陽か。懐かしき言葉じゃのう」


「ソイルはこのランプに使われている鉱石の名前だ。今ではこの鉱石を利用した装置で、火を使わず太陽光をエネルギーに変換して明かりを灯す仕組みになっている。」


「ほう、人が新たに生み出した光か!アグニがいないのも道理じゃな」


 オイルランプが火そのものの明るい橙だったのに比べて、ソイルランプは混じりけのない白い光を放っている。その色が違うのは一目瞭然であったが聖霊であるスキアーにとっては色よりもその質の方が気になったようである。


 納得した様子のスキアーを促しナナキは目的地に向かって歩き出す。

 それから表通りから外れて路地裏に入る。すると目の前にふわりと何かが舞い降りた。それにナナキは一瞬構えるが直ぐに誰か知れて力を抜く。

ランプに照らし出されたのは赤い色。違えようもなくイヴであった。気配を感知してここに来たのであろう。


「イヴ。屋根は歩くな。危ないだろ」

 

「慣れておりますし、地を歩くより早いです」


「・・・こっちの心臓に悪いからなるべく地面を歩いてくれ」


「では善処します」


 いつもの不毛な会話を繰り広げるとスキアーが後ろで「面白い二人じゃの」と楽しそうに笑う。それにナナキだけ少し苦笑を浮かべた。

イヴについては相変わらずの無表情である。スキアーについても気配で察したのか誰かと尋ねることも警戒する様子も見られない。


「それでどうだった?」


ナナキは気を取り直して真剣な面持ちでイヴに尋ねた。それにイヴは少し声を潜めた。


「町の住人何人か聞いたところ騎士コウエンなどという人物は知らないということでした」


 イヴの答えにナナキは目をすがめた。だが、ナナキはそれほど驚かなかった。それは既に同じような話を聞いていたからだ。

 それを聞いたのは宿屋についたあとナナキがスープを用意してもらっている時のことである。










 ナナキ立ちが泊まった宿は1階が食堂になっていたが、丁度礼拝の時間と被っていたのでだいぶ閑散としており、利用客は数える程といった様子であった。アシュレイを寝かせて階下に降りると、女性が声をかけてきた。


「あら、お兄さん!弟さんたちはどう?」


 声の主はこの宿屋の店番をしている女性でこの宿についた際に顔を合わせていた。

背には眠るアシュレイ。横には心配そうにアシュレイを見上げるライラ。それを見て女性が声をかけてきたのでナナキはそれに祭りではしゃぎすぎて寝てしまったとごまかしたのである。その上、ライラがお兄ちゃんを連呼していたので女性は兄弟と勘違いしたらしい。

 容姿から見て3人とも明らかに血縁者でないが、それについては何とも思っていないのか敢えて言わないのかはわからないがありがたいことである。アシュレイとも顔見知りでなかったのも幸いであった。


「ああ、大丈夫。上のやつはぐっすり。妹は起きてるけどちょっと心配症でね。ベット脇から離れようとしないから部屋で夕飯を取らせたいんだけどいいかい?」


「ふふ、構わないですよ。祭りを満喫したみたいだけど妹を心配させるなんて悪いお兄ちゃんですね」


 女性は朗らかに笑って「直ぐに用意するから」と言って厨房の方に入っていった。すると再び声をかけられた。


「おう!にいちゃん。また会ったな!」


 そう呼びかけてきたのは昨日あった気のいい路店の店主ジェフだった。ここで会うのは意外だったが同じ街にいれば顔を合わせることもなくはないだろうと思い昨日と変わりない様子で言葉を返す。


「またあったね。今日も繁盛したかい?」


「おかげさまで大繁盛さ!」


 ジェフは豪快に笑ってナナキに歩み寄る。ナナキはその時ふと違和感を覚えた。思い出したのは昨日の会話である。昨日別れ際にジェフと交した会話でナナキは息子のいる騎士の宿舎に泊まることを勧められていた。ジェフはそれについて何も言ってこない。その違和感は次の言葉でもっと大きなものになった。


「言った通りいい宿だろう?」


 ジェフは笑顔のままそう言った。ナナキとしては全く覚えのないことに内心混乱したが、ジェフの様子からして誰かと勘違いしている様子には見えない。ナナキはおかしいと思いながらもとりあえず話を合わせることにした。


「ああ、いい宿だな。店番の子も美人で親切だし」


「はは!それは嬉しいことを聞いた!」


 ジェフはナナキ背中をバシバシたたき嬉しそうな顔をした。ナナキは意味がわからない。すると宿の女性がスープの入ったカップをお盆に乗せて厨房から出てきた。


「おおっケリー!良かったな!褒められたぞ!」


 ジェフは女性の姿が目に入るとさらに嬉しそうに呼びかけた。するとケリーと呼ばれた女性は首をかしげた。


「あら、父さん来てたの?この方とお知り合い?」


「昨日露店でな!歌ってもらったんだよ!」


「ああ!昨日話してた吟遊詩人《バ―ド》の!」


 ジェフの言葉にケリーは納得したといった様子でナナキを見た。いよいよついていけない話になりナナキはただ笑みを浮かべた。

 和やかな会話にはいくつもの疑問が内包していた。


 会話から推察するにジェフが勧めたのはこの宿で自分に自慢したのは娘のことにすり替わっているようである。ナナキは騎士団にいたジェフの息子アルフの顔が思い浮かぶ。嫌な予感がした。そしてナナキは試しに問いかた。


「・・・息子さんは?」


 注意深く言葉を紡ぐ。そして悪い予感は的中した。


「息子?残念ながら息子はおらんのだよ。息子だったら酒でも酌み交わすのが夢じゃったんじゃがなぁ」


「何よ。娘じゃ不満なの?お酒ならお父さんより私の方が強いじゃない」


「不満はないぞ?ただ父親のロマンじゃよ」


「何よそれ?」


 目の前で仲のいい親子の会話が交わされる。

 息子はいない。そう言ったジェフの様子や交わされる言葉にニュアンスから考えて亡くなったということではない。存在自体が否定されている。


「これがスキアーの言っていた影響か・・・」


 ヴェントゥスの残した言葉を思い出す。


“外に対する影響は打ち消せなかった”


 その言葉の通りに影響が及ぼされている。それもとても複雑なかたちで現れた。

 ナナキは妹が待っているからとそこで話を打ち切った。どこまでどのような影響を及ぼしているか分からない状態でこれ以上話すのはあまり得策ではないからだ。

 そしてナナキは湯気の立つ温かいスープカップと新たな疑問を抱えてライラ達がいる部屋へと足を向けた。






 聖霊域で見たのはコウエンの顔をした黒の兵士。本人かどうかはわからないが全く関係ないとは言い切れない。そう思ってアシュレイを宿に運ぶ間にイヴにコウエンについて確認を頼んだのである。


「アルフもいない。存在自体がないものになっていた。とすると聖霊域にいた兵士たちが騎士だった・・・」


 現状ではそう考えるのが妥当と言える。するとイヴが「もうひとつおかしな点が」と言ってきた。ナナキはそれを聞き返す。


「魔物の話です。ナナキ様の話では最近大空洞に魔物の群れが討伐されたという話でしたが、どうやらその事実はないらしいです。ここ数年魔物が出ないから騎士たちは何もしないくせに偉そうだと不満こぼしている人間がいました」


 イヴの話はまたしても事実が食い違う。


「かの侵入者のよってヴェントゥスと聖霊域の歪みによって本来の力が暴走したのじゃ」


 その話を聞いて言葉を発したのはそれまで口を閉ざしていたスキアーだった。


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