町の異変と移動手段
街は今収穫祭の期間で早朝ではあるが多くの人で賑わっている。そのはずだった。
「これは・・・」
視界には見る影もなく変わり果てた街並みが広がっていた。街の広場に並んでいた露店はコケまみれになり、家々に至ってはところどころ崩れ、まるで何十年も前に放棄されたかのように見える。
「誰もいないの?」
ナナキの背から降りたライラはあたりを見回し困惑したような表情を浮かべている。街に足を踏み入れることにためらいがあったが、今は別の意味で不安になる。
見る限り人影もない閑散とし廃ており、言ってしまえば廃墟同然であった。まるで理解できない現状に混乱する。
「ヴェントゥス、これはどういうことだ?」
ナナキは静かに問いかけるとその手に握られていたヴェントゥスがのんびりとした様子で一つ提案した。
『話すと長くなると思うんだけど、多分今の状態じゃ、しばらくしたら私寝ちゃうわよ?とりあえずエネルギーを頂戴な』
「・・・仕方ない。ちょっと待ってろ。」
ため息を吐きつつ、ナナキがカバンから無造作に出したのは先ほどの小瓶だった。蓋を開けた瞬間ヴェントゥスが喜声を上げる。
『やった!聖水!さぁドバっと一気にかけちゃって!』
「そんな無駄遣いできるか愚か者」
ヴェントゥスのケチーとか「ナナ坊のくせに」などという文句を無視して、石に聖水をポタポタと数滴かけた。すると石から光が溢れ、その光が次第に何かの形をなし始めた。その形がひとつのものに定着すると光が収まった。
『ウハー!滾るー!』
目の前に現れたのは人間。実際は人型をなした聖霊ヴェントゥスの姿であった。ストレッチするかのように体を動かしている様子は大変人間臭い。
ナナキとしては内心お前本当に聖霊か?と聞きたくなる様子だが話が長くなると思ったのでそこには触れずに先程から黙っているライラに声をかけた。驚いているというか呆然としているといったほうが正しいだろう。
「・・・ヴェントゥスさんって男の人だったの?」
ライラの驚くポイントはそこにあったらしい。確かにあの口調から男性であることは予想し難いだろう。実際その姿は全く女性には見えず、短い白髪に橙色の瞳をした20代後半位の青年であった。
『うーん?別に、私たちに性別なんてないわよ。人間みたいな繁殖の仕方しない』
「ヴェントゥスその話はそこでやめてくれ。それよりイヴたちのことが先だろう」
ナナキは素早くライラの耳を塞ぎヴェントゥスの話を遮る。別にいやらしい意味はないだろうが小さな女の子に語る話題ではない。
『ハイハイ。じゃ聖堂ね。仕方ない大サービス!ヴェントゥス様のが運んじゃうよ!』
まるで語尾にハートが付いているかのように聞こえる言葉にナナキは背筋が寒くなるのを感じ、断ろうと思った瞬間暇ふいに足を救われた感覚に陥った。そして瞬き一つした瞬間にナナキとライラは空へと舞い上がり、空中に放り出された。
その後、あたりにこだました悲鳴を聞いた者は誰もいない叫んだ当人とその要因を作った者以外は誰もいなかった。




