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イヴとアシュレイ

 アシュレイは何となく居心地が悪かった。なぜかというとそれはもちろんイヴのことである。ナナキは初対面でも話しやすい部類の人間であったが、イヴはお世辞にも話しやすいとは言えない。ナナキがいればそうでもないが、一対一だとなんとなくプレッシャーを感じさせる雰囲気を持っている。かと言って黙々と歩き続けるのも性に合わないのでなんとなく話題を振ってみる。


「なぁ、姉ちゃん。聖堂に行ってからだけど俺から話したほうがいいよね?」


「そうですね。その場その場で私も口を挟みますが、基本あなたが話したほうがあちらも信じるでしょう。私たちの外見的特徴に類似点は皆無といっていいほどですが、本人が言い張れば多少疑問に思っても追求はしてこないと思います。ですので、怪しがられても言い張ってください。私も言い張るので」


「わかった。でも思ったんだけどその民族衣装はどうするの?」


 容姿の違いは苦しい言い訳のようだが遠縁とでも言えばいいし、普通の服ならば何の問題もないが、イヴが来ているのは明らかに民族衣装である。どこにも共通点の見られない二人である。


「趣味とでも言えばいいと思います。世の中には変わり者がいっぱいいますし、今まであった方たちも特に気にしていなかったので聞かれなければ答える必要はありませんし」


 常に敬語で冷静な印象をあたえるイヴだがその性格は意外にも豪快である。この作戦を一言で言えば”ゴリ押し”というのではないだろうか、とアシュレイは思った。


「まぁ、なるようになるよね」


 実際アシュレイが聖堂に世話になる際もある意味“ゴリ押し”に近いものがあったし、それでも信用された事を思い出しそれ以上あれこれ考えるのはやめにした。


 話題がなくなったのでアシュレイは思い浮かんだ疑問をイヴに尋ねる。


「そういえば、姉ちゃんは兄ちゃんの事“様”付してるけど兄ちゃんって意外に偉い学者さんなの?」


 初めに聞いたときも思ったが見た目からすると学者というイメージはない。話していると納得できる部分もあったが先入観はなかなか抜けないものである。


「偉い学者というニュアンスとは違いますが、裏ではとても有名な存在として名が知れているのは事実です」


「裏?」


 なんだか怪しげな話にアシュレイは眉根を寄せる。“裏”と聞いて何が思い浮かぶかと言われたら具体的には何も思い浮かばないがとにかく怪しい感じがした。そう考えているアシュレイの心を読むかのようにイヴが話をつなげる。


「裏といっても怪しいものではなく、研究分野が聖霊を含めた超常現象などの目に見えないものであることもあって、行くところ行くところで色々と騒動が起きるんです。そしてナナキ様はその騒動の中に率先して身を投げるのでイカれた冒険者とも呼ばれています」


「イカれた冒険者って・・・ひどい呼ばれようだね。」


 ひどい上に既に学者でもなんでもない。ただの悪口にも聞こえる。


「他の学者たちが付けた通り名らしいです。一部の人間の間ではその熱意からある種の崇拝を受けていると聞きます」


「嫌な崇拝だね」


 学者であることに多少こだわりがあるナナキにとってはそんな崇拝は嬉しくないだろう。アシュレイが見る限りでは自分から騒動に足をつっ込むような人間には見えなかったが、人は見かけによらないものである。実際にそのような通り名がついてしまうくらいなのだから色々やらかしているのだろう。


 ナナキが悪い人間でないのは話していてわかったけれどこの先の道行が少し心配になる。


「私は学者というものをそんなに知っているわけではありませんが、ナナキ様の知識は他とは一線を引くものです。我が里の長と旧知の仲だそうで長もあの方を敬っています」


「だから“様”付なんだ」


「ええ。そうです。私は長からナナキ様の旅の従者としてついていくように命じられていますので、それは当然のことです」


 話を聞くとイヴが直接ナナキを敬っているのではなく長が敬っているからという理由が強いように聞こえる。なんだか複雑な関係である。


「なんていうか姉ちゃんはその長っていう人をすごく尊敬してるんだ」


「それは当然です。あの方は我らの長にして里の守り手。あの方がいなければ聖霊術師はすでにこの世にいないでしょう。とても素晴らしい方です」

 

イヴの言葉には自信があふれており、無表情ながらもその言葉は誇らしげに聞こえる。今まで見えなかった人間らしさが垣間見えて、アシュレイはなんとなくほっとした。


「そっか。なんか聖霊術師の里に行くのが楽しみになってきた」


 にっと笑うアシュレイにほんのわずかだけイヴの表情が和らぐ。


「きっと気に入ると思いますよ」


 基本無表情で淡白ながらもそれなりに色々な感情を心に秘めているように見えた。

 アシュレイはこの話でなんだかここ最近なかったわくわくした気持ちが湧いていた。それは昨日までは全く感じられなかったこの先に起こることに対しての期待であった。

 その期待を胸にアシュレイはイヴと町に入っていった。



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