姫君と騎士
王国クラウディスが建国されて約1000年。王城から少し離れた場所にある公爵の屋敷では長い歴史を持つ夜会が開かれていた。
宝石を散りばめられたまばゆい光を放つシャンデリアのしたで、着飾った男女たちが音楽に合わせダンスや歓談などをして会場は賑わっていた。そんな中、一人静かなテラスで夜空を見上げる女性がいた。
「ユウヤ様」
そう呼ばれて振り向いた女性は青を基調にしたドレスに長い銀髪を結い上げた美しい女性である。呼んだ声の主の姿を確認するとふわりと優しく微笑んだ。
「オリヴェ」
オリヴェと呼ばれたのはユウヤより頭2つ分ほど高い艶やかな黒髪に整った顔立ちの男性で身につけた制服からすると騎士のようである。オリヴェはゆっくりとした足取りでテラスの方へ歩み寄っていく。
「こんなところにいらしたんですね。アイテール公爵のご子息が探していらっしゃいましたよ。婚約者なのですからあまり避けるのはいかがなものかと思いますが」
オリヴェがそう告げるとユウヤは可愛らしく頬を膨らませる。
「まぁ、オリヴェったら意地悪ですね。分かっているくせに」
その様子にオリヴェはくすくすと笑う。すると、ユウヤがさらにふてくされたような顔をして軽く睨んできたのでオリヴェは軽く咳払いをする。
「申し訳ありません。ですがそのような顔をしては、せっかくのおめかしが台無しになりますよ」
「…分かっています。アイテール公爵方には悪いと思いますが、ご子息は私とだいぶ価値観が違います」
「まぁ、ユウヤ様は華美な装飾や無駄な浪費がお嫌いですからね。それにたいして子息は・・・」
そう言ってオリヴェは夜会の会場であるホールとそこにいる公爵子息ガイル・アイテールを盗み見る。長く見ていると目がチカチカしそうである。
「趣味嗜好は個人の自由ですが、私にそれを強要しないで欲しいです。あなたの方が私の好みをよく分かっています」
「私はいつもおそばにいますからね。ご子息より詳しいのは当然ですよ」
「・・・それに、やはり私はこのような場所は苦手です」
ユウヤはうんざりしたような顔をするとオリヴェは肩をすくめる。
「こんな夜会などなくなってしまえばいいのに。そうすればもっと時間が有効的に使えるようになります」
「ですが、この夜会が中止されれば他の貴族たちが何事かとこぞって問いただしに来ますよ?国王陛下も公爵もそれを十分ご承知です。あなたはこの国の姫として貴族たちにその威厳を示さなければなりません。それがあなたの役目です」
「・・・それも分かっています。少しわがままを言ってみただけです。本当に私の騎士はよくできた騎士だわ。むしろ王族にふさわしいのではないかしら?」
憂いを秘めた表情で再び外に目を向ける。城下はまだ明るく、その光によって空の星はあまり見えない。
「あなたがどう思ったとしてもあなたが王族であることは変わりませんし、あなたに忠誠を誓った私の心も変わりませんよ。ずっとおそばであなたを守ります」
その言葉にユウヤの心には嬉しいような悲しいような複雑な思いが湧き上がり長い睫毛のしたに見える藍色の瞳を揺らす。
「本当にずるい人ね」
「ええ。存じております」
悠然と微笑むオリヴェに苦笑を浮かべながらユウヤはドレスの裾を翻す。
「中に戻ります。あなたの言う通りに王族の務めを果たしにいきます。エスコートなさい」
そう言ったユウヤの顔にはもう憂いはない。姫としての気高い微笑みを浮かべ手を差し出した。それに応じるようにオリヴェはユウヤ前に屈み、その手を取った。
「仰せのままに」
そして二つの影は輝く舞台の上へと進んでいった。




