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聖霊術とそうでないもの

「なぁ、兄ちゃん。一緒行くのはいいんだけどさ。ライラのモヤはどうするの?やっぱり人に見つからないようにするしかないのかな?」


 現実的な問題をアシュレイは指摘する。ライラも改めて自分周りを囲むモヤを見る。どう考えても人目につくし、あまり気持ちのいいものでもない。


「ああ、それなら心配無用だ。ライラ俺の前に座ってくれ」


 ライラはアシュレイと顔を見合わせたあと素直にナナキの前にちょこんと座った。


「これから一時的に力を封印する」


「えっ、そんなことできるの!」


 ライラを差し置いてアシュレイが素っ頓狂な声を上げる。


「ほんと一時的だけどね。まぁ見てな」


 そう言って笑顔を向けたあと、ナナキはおもむろに首に巻いていたマフラーを外し、見慣れない模様が刺繍されたチョーカーのようなものを首から取り外した。その様子を二人の子どもは何をするのだろうかとじっと見ていた。イヴに至っては先程から全く変わらない体勢で事の成り行き見守っている。


 そしてナナキが口を開いた次の瞬間不思議な“音”が聞こえてきた。


 それはまるで聞いたことのないもので洞窟の壁を反響してさらに“音”が広がっていく。その“音に”反応するかのように、周りになにかキラキラ光るものが浮かび上がり、その神秘的な光景にアシュレイとライラは口を開けたまま上を見上げた。しばらくその光景に目を奪われていると、今度はナナキがライラに手を掲げ、光がそこに集まったかと思うとパンッという音と共に光がはじけライラに降り注ぐいだ。

 降り注いだ光は次第に見えなくなり“音”もいつの間にか聞こえなくなった。


「・・・今のなに?」


 不思議そうにライラが自分の体をきょろきょろと見ると、そこにはもうどこにもモヤは見えない。そんなライラを見ながらアシュレイが「これが聖霊術?」と呟いた。


「いいえ、これは違います」


 チョーカーを付け直すナナキが目配せするとかわりにイヴが答えた。


「今の時代の聖霊術とは親より受け継いだ聖霊の力を借りて力を行使する術です。ナナキ様の力とは違います」


 その言葉に二人が首をかしげると、イヴは言葉を噛み砕いて説明する。


「ナナキ様は聖霊術師ではありません。聖霊は普段目に見えませんが世界中にたくさんいます。基本的に私たちは特定の聖霊とひとつの誓約に対してひとつの力を借りて術を使います。例えば・・・」


 そう言ってイヴは懐から小瓶を出し、唐突にその蓋を開ける。するとその小さな口から勢い良くモヤが飛び出し、アシュレイとライラは「うわっ」とか「きゃっ」とそれぞれに悲鳴を上げると次の瞬間には霧散して見えなくなった。


「これは聖霊術そのものを閉じ込める呪具です。これも聖霊術で出来ていて、使い方を知っていれば誰にでも使えますが、誰にでも作れるわけではありません。また、作った聖霊術師はこれを作る以外に力を使うことはできません。私も聖霊の力を借りて物や人間の気配感じる以外の聖霊術は使えません。それ以外はこの小瓶のような呪具を利用します」


「えっとつまり・・・一人一つの術しか使えないっていうことだよね。誓約だっけ?それをすれば術もたくさん使えるんじゃないの?」


アシュレイ言葉にイヴは首を振る。


「聖霊の力はそう簡単に扱えるものではありません。ただ人が神の力を借りるのですから、本来なら一つだけでも相当な負荷がかかります。ですから、私たちの祖先は自身にあった能力を見出し、一つの誓約を親から子へと受け継ぎ続けることで聖霊の力を体に馴染ませてきたのです。誓約というものはとても尊いものであり、いくつも誓約をするということはあまり誠実ではないし、到底その力は御しきれるものではありません」


「ふーん、そんなもんなんだ。で、兄ちゃんとはどう違うの?」


「俺のは誓約でなくて体質なんだよ」 


 今度はマフラーを巻き終わったナナキが答えた。


「イヴたちは聖霊と誓約して術を使うけど、俺の場合はしゃべると勝手に聖霊が集まってくるんだよ。自分では抑えられないからこの首に巻いてる呪具で一時的に封印してるんだ」


 自分の首を指でとんとんと軽くつついて少し困ったような笑いをナナキが浮かべる。


「じゃあ、あのキラキラが聖霊?」


「まぁそのたぐいと言っていいだろうな」


「なんでライラに降り注いだの?」


 どうやら聖霊に興味を持ったらしいアシュレイは、矢継ぎ早に質問を繰り返す。ライラも口には出さないが、身を乗り出して話を聞いている。


「俺は術師ではないけれど、長年この声と付き合ってきたからな。言葉にこうなったらいいなぁみたいな希望を込めるとある程度のことなら実現できるんだ。さっきも聖霊がライラから出てこないようにライラの周りを囲ってほしと声をかけたんだ」


 実際はもっと複雑だがナナキが分かりやすいように説明すると子どもたちは息を呑む。


「それ無敵じゃん?!」


「うん!」


 アシュレイの言葉にライラが大きく頷き、「すごい!」と言ってキラキラした眼差しをナナキに向けた。


「いや、そう使い勝手がいいもんじゃないんだよ。意味のない言葉とか普通の会話をすると周りが光で埋め尽くされて動けなくなるから」


「それはちょっとダサいね」


 ころっと態度を変えてアシュレイが言う。もう少しオブラートに包めないのだろうかとナナキは呆れる。


「お前は一言多いぞ」


 ナナキがジト目でアシュレイを見ると、なぜかライラあたふたしながら謝ってきた。ライラは悪くないのでぽんぽんと頭を撫でてやる。


「まぁそんなところだ。ほかに何か質問は?」


 ナナキ二人に問いかけると少し唸ったあとアシュレイが手を上げる。


「俺、今思ったんだけどさ。神呼みこ様の力って…もしかし聖霊の力?」


「意外に鋭いとこ突くな」


 今度はナナキが若干驚いたように目を開いたが、アシュレイたちの方がさらに驚いて目を見開いていた。


「まあ近いといえば近いな。まだ詳しくは分かってないが、多分俺と似た体質もちである可能性が高い。聖霊術と仮定するには力規模が大きすぎるからな」


「・・・なんかすごいこといろいろ聞いちゃったきがする」


 驚いてばかりだったアシュレイは少し疲れたような声を上げ、ライラはいまいちことに事態についていけていない様子だがすごいことを聞いた自覚はあるらしく目をパチクリさせている。


「はぁ。なんか今日はお腹いっぱいな感じ。兄ちゃん達はなんでこんな詳しいの?聖霊術師の里の人だから?」


「イヴはそうだけど俺は違うぞ。俺はもともと学者だからな。旅をしながら聖霊についても調べているんだよ」


「えっ嘘!」


 今度は二人同時に驚きの声を上げた。


「なんだその嘘って」


「いや見えないっていうか・・・なぁ?」


 アシュレイが言葉を濁しながらもライラの同意を求めると、ライラは思わず両手で口を塞いで申し訳なさそうな顔をする。


「失礼なやつらだな」


 不機嫌そうにそう言うとイヴが二人の弁護に入る。


「外見年齢的に見れば若すぎると言えるのではないでしょうか?私も初めてお会いしたときは想像もつきませんでしたし」


「・・・」


 イヴに正論を突きつけられてしまうたもう何も言えない。ナナキは大きくため息をついた。


「まぁ、細かいことは道すがら話すとしてだ。まず明日のことだ。まずこの街を出るが、アシュレイは聖堂の人たちに別れを伝えにいくか?結構ややこしい話になりそうだけど」


「うーん。理由がはっきりしてないとあのお人好し軍団は街から出してくれないと思うからなぁ。かと言って何も言わずにに出て行くのは気が引けるし」


 困ったという様子でアシュレイが言う。村を追われた記憶は新しいが、この街の騎士はどうにも憎めないようである。するとナナキから詳しい事情を聞いていたイヴが案を出す。


「でしたら私が親戚を名乗り引き取るのはどうでしょう?最良の策とは程遠いですがナナキ様は既に顔がわれていますし、ただ引き取るというのはどう考えても怪しいです」


 まるでナナキが犯罪者のような言われようだが話の腰をおるので誰も指摘はしない。

「うーんまぁ無難・・・かな」


 イヴの言う通りあまりいい案ではないがほかに策があるかといえば思い浮かばない。親や姉と名乗るにはかなり無理があるが親戚くらいならばギリギリ大丈夫かもしれない。ナナキが少し悩みながらそう答えるとアシュレイも頷いた。


「じゃあ、俺はねえちゃんと話合わせればいいってことだよね」


 アシュレイの確認にイヴが頷く。


「じゃあ明日になったら街に戻ろう。それでイヴはアシュレイと一緒に行って話をつけてきてくれ。ライラは念のため俺と街の外で待っていよう。あっ、あと宿舎の鍵なんだけどアシュレイ、返しておいてくれるか?」


「了解」


 ナナキはポケットから鍵を出しアシュレイに渡す。ライラは街に行かなくていいことに安堵の息を漏らした。アシュレイと違い、街の人達とあっていないライラにとっては聖堂はまだ少し怖い場所のようである。


 そんなやりとりを終えるとナナキの持っていた懐中時計は既に10時を回っていた。幼いライラは難しい話をたくさん聞いたことも相まって、だいぶ疲れたようで既にふいにこっくりこっくりとふねをこぎ始めた。

 その様子を見て今日はここまでにしてもう寝ることにした。

 

 その後すぐに二つの寝息が聞こえてきた。アシュレイとライラにとっては久しぶりの安眠だったようである。

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