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神戸南京町 祓い屋探偵と憑かれた助手  作者: 水縞しま
第一章 忌み地のマンション
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忌み地

 駅前のホテル。ツインルームのベッドに、灼は倒れ込んだ。


「はぁ、重かったーー!」


 すぐ隣には、一緒にベッドにダイブした夜一の顔がある。


 彼に支えられて、なんとか部屋まで辿り着いた。


「……俺はデブじゃねぇよ」


 礼を言いたい気持ちはあったのだが、気づいたら減らず口になっていた。


 隣のベッドに移動した夜一が、腰を下ろしながら「忌み地」の説明をする。


「忌み地っていうのは、事故とか事件とかがあって、呪いや祟りがあるって言われてる場所のことやで」


 日本全国には、忌み地と呼ばれる場所が多数存在しているという。胡散臭ぇ……と言いたいところだが、おかしな事象を体験してしまったので、仕方なくそのワードを飲み込んだ。


「心霊スポットも忌み地のひとつやねん。だから、肝試しとかは安易にするもんとちゃうねんで。もしそこに地縛霊がおったら、家までついてくることもあるし」


「……家について行ったら、もうそれは地縛霊じゃないだろ」


 思わずツッコんでしまった。やはり、この界隈は胡散臭い。


「それだけ、憑かれやすい体質の人間やったんやと思う。レアタイプやで、灼くんみたいに。希少価値があるわぁ」


 キラキラした目で夜一が灼を見る。


 褒められているのだろうか。だとしても、まるで嬉しくはないのだが。


「花が枯れてたのも関係があるのか?」


 念入りに花壇の土を確認していた夜一の姿を思い出す。


「忌み地では、植物が生育不能になることが多いねん。花が枯れたり、作物が腐ったり」


「……だから、あそこが忌み地だと?」


「うん。それにな、あのマンションは上に行けば行くほど、嫌な気配がなくなるねん。地面に近いほど、悪い気配を感じる」


「なるほど」


 それを確かめるために、最上階まで上ったのか。


「疲れたなぁ」


 夜一が、目を擦っている。眠そうだ。ドサッと仰向けに倒れ込み、そのままグイグイと体を伸ばす。


 忌み地というのは分かったが、そうなった原因は何だ? 事故? 事件? 正常な土地に戻ることはあるのか?


 疑問は尽きない。


「おい」


 夜一に声を掛けたが、反応はない。


「……マジか」


 夜一は、すやすやと眠っていた。煌々と明かりのついた部屋で。


 風邪を引かれても困るので、布団を被せたい。


 気合を入れて、なんとか立ち上がる。夜一のベッドに近づき、体を揺すった。目を覚ます様子は皆無だ。


 仕方がないので、彼の体の下にある掛け布団をぺろりと乗せておいた。


 翌朝、夜一は体に布団を巻き付け、身動きがとれない状態で目を覚ました。芋虫のようだ。たぶん、ごろごろと寝返りをうったせいだろう。


「……動かれへん」


 寝起きの夜一の声は、ひどくかすれていた。寝癖がひどい。髪がボサボサになっている。


「風邪を引くよりはマシだろ」


 灼の声は、夜一よりも更にかすれている。声を出すのがやっとだった。


「全身が痛てぇ」


 筋肉痛のような症状が出ている。


 しかも、動けない。金縛りだろうか。


「昨日、分離したやつがうじゃうじゃ寄って来てたから。そのせいやと思うで」


 そう言って、夜一があくびをする。大きなあくびだった。


 まったく、呑気なもんだ。


 こっちは全身がバキバキで、ひとりでは起き上がれないのに。


「おい」


「どうしたん?」


「起こせ」


 命令口調で言うと、夜一は嫌そうな顔になった。


「灼くん、重いねんもん」


「デブじゃねぇ。昨日も言っただろ」


「ひとりで行くから、灼くんは休んでて良いで」


 夜一がベッドから立ち上がり、出かける準備を始める。


「待てよ! どこに行くんだ?」


「えっとぉ、知り合いの不動産屋さんとか、図書館とか」


 夜一は上機嫌で身支度を整えている。


 不動産屋は、まぁ分かるとして。図書館には、一体なにをしに行くんだ?


「おい、とにかく俺を起こせ……!」


 ベッドの上でジタバタと足掻く。実際には、指一本動かせていない状態なのだが。


「灼くん、良い子でおってな」


 夜一が笑顔で手を振る。


「ま、待て。せめて煙草を……!」


 灼が言い終わらないうちに、薄情者は部屋を出て行った。


「くそがッ!」


 ベッドを蹴りたい。暴れ回りたい。


 イライラが止まらず、それなのに煙草も吸えず。おまけに全身が痛い。


 身動きが取れないので、寝返りもうてない。


 ……寝るか。


 起きていても苛立ちを感じるだけなので目を閉じた。


 意地でも目を開けないでいると、いつの間にか寝入っていたらしい。次に目が覚めたとき、部屋には西日が差していた。


「……まだ、帰ってないのか」


 部屋の中を確認する。視線だけを移動させたつもりだったが、頭が動いた。首、腕も動く。


「治ってる、のか……」


 上半身に続いて、下半身も動かしてみる。問題ない。


 ベッドから体を起こして、灼は大きくため息を吐いた。筋肉痛のような症状は、綺麗さっぱり消えている。


 考えるよりも先に手が動く。煙草に火を付けて、思いっきり肺にニコチンを入れる。


 頭が冴えてきた。二本目を吸い始めたとき、部屋の扉が開いた。

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