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神戸南京町 祓い屋探偵と憑かれた助手  作者: 水縞しま
第一章 忌み地のマンション
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分離したモノ

「嘘だろ? 俺は視えないぞ」


「う~~ん。おれもな、会話はできひんねんけど。でも、絶対におるねん。感じる」


「感じる……?」


「良くないやつ」


「あ、悪霊ってことか?」


 ごくり、と唾を飲み込む。


「んーー、幽霊というよりは、怨念みたい……?」


 夜一の目が、スッと閉じられた。神経を尖らせているのが分かる。


 何かを察知しようとしているようだ。


「……いや、幽霊でもあるんかな。分裂した一部が灼くんの体に憑いてる感じや」


 予想外の事態だ。


 まさか、寧々の他にもいたなんて。おまけに良くないモノだという。


「元は人間やと思う。死んでから、かなり時間が経ってる」


 眉間に皺を寄せながら、夜一が言う。


 時間の経過と共に、分裂していくことがあるらしい。


「分裂すると、視えへんようになる。形を成してないから」


 会話することも不可能になるようだ。


「灼くん、うちの事務所に来たときから顔色が悪かったけど。ずっと、そんな感じなん?」


「……そうだな」


 ここ最近、絶不調だ。かなり体調が悪い。全身に鉛がついてるような感覚だった。そして、一向に回復しない。


「体調が悪くなったのは、いつ頃からやった?」


「……そういえば、引っ越してすぐだったかな」


 あのマンション。仕事場から近いという理由だけで選んだ部屋。


「どんなマンションなん?」


「築年数の割りに、妙に古びた印象だな」


 空気が淀んでいる気がする。蝉が大量死していたこともあった。


「住人は、どんな感じ?」


「正直、あまり他の住人と会った記憶はない。仕事のせいで早朝にマンションを出て、深夜に帰宅する生活だったから」


 体調が悪化してからは、ほとんど部屋に引きこもり状態だった。


「……印象に残ってるのは、この子の両親だな」


「寧々ちゃん?」


「俺の隣に住んでた。最初に挨拶したときは、ごく普通の夫婦だった。でも……」


「でも?」


「だんだん様子がおかしくなっていった」


 まさか。


「そのせいなのか……!?」


 分裂した悪霊に憑かれて、両親はおかしくなったのか。そのせいで、寧々は……。


「影響を受けた可能性は、かなり高いと思う。憑かれやすい性質やったんやろうな」


「クソッ!」


 思いっきり、ガンガンとテーブルを蹴った。


 何が悪霊だ。怨念だ。どうして、寧々が死ななければならなかったのか。


「……弱い子が、犠牲になることが多いねん」


 納得できない。できるわけがない。


「弱いっていうのは、小さい子はもちろんやけど。大人でも、自分を守る力が弱いと影響を受けやすいねん」


 寧々の両親は、そういう意味で「弱かった」のだろうか。


 だったら、灼も同じだ。


「俺も、弱いのか……」


「灼くんは強い」


 視線を上げると、夜一と目が合った。


「こんなに、影響を受けているのに?」


 なんとか神戸まで来たものの、本来ならベッドから一歩も出たくないほどに体が重い。全身がだるくて仕方がない。 


「そこまで体がしんどいのに、自我は失ってへんやん? だから、灼くんは強いねん」


 ……そういうものなのか。


「とにかく、現場に行かな分からんこともあるやろうし!」


 そう言って、夜一がソファから勢いよく立ち上がった。


 パタパタと動き回って、なにやら準備を始めている。


「おい」


「ん?」


「何してるんだよ」


「旅行の準備」


 大きめのバッグに、ぽいぽいと荷物を詰めながら夜一が言う。


「……もしかして、来るのか」


「うん、行くで! 灼くんのマンション!」


 高らかに宣言して、夜一は準備を進める。


 灼は、大きくため息を吐いた。


 ……まさか、こんな事態になるとは。


 新たな煙草に火を付けながら、夜一を見た。生活用品や小物をバッグに押し込んでいる。


「なぁ」


「ん?」


「その服で東京に行くのか?」


 派手なチャイナシャツ。よく見ると綺麗な柄だし、南京町では馴染んでいるから良いのだけれども。


「あかん?」


「……いや」


 中華街を出ると、かなり目立つ格好だ。正直なところやめてほしい。


 しかし、幽霊だ怨念だと意味不明な状況に陥った今、煌びやかなチャイナシャツなど些末な問題だ。


 そんなことを指摘している場合ではない。


 ド派手なチャイナシャツをバッグに押し込む瞬間を目撃したが、灼は思いっきり煙草を吸って、そっと視線を逸らした。

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