病室
「寧々ちゃんも、心配してたんやで……!」
洟をズルズルとかみながら、夜一が訴える。
「……悪い」
灼は小声で、寧々に謝罪した。
「仲良くなれて良かったですね、灼さん。東京にいた頃は、女の子の幽霊にビビりまくってましたよね。マジで泣きそうだったじゃないですかーー!」
へらへらと青倉が笑う。
「いや、泣きそうになってねぇし……」
「そう、今やすっかり打ち解けて。灼くんは、幼女に好かれやすい体質みたいやねん。な、灼くん?」
「……変な風に言うなよ」
夜一を見ながら、灼は思わず脱力した。
「俺が意識を失ったのは……。たぶん、憑かれてたからだ」
ずいぶんリアルな夢だった。彼女の意識が、流れ込んできたのだろう。
夜一と青倉は、神妙な顔つきで灼の話に耳を傾けている。
「白いワンピースは、死装束のつもりやったんか……」
夜一が、うなずきながら静かに言った。
「部屋の住人に、自分を発見してもらいたかったんですね」
「そうだ。でも、見つかりにくい場所を選んだものだから、仇になったんだ」
「彼女がしたことって、どうだったんですかね。良かったのか、悪かったのか。まぁ、余命宣告なんてされたこと、俺はありませんから。安易には言えませんけど……」
言葉を選びながら、青倉が話す。
「少なくとも、あのシェアハウスを事故物件にしたことは確かだからな。価値が下がったわけで……。損害を被った側は、嘆いているんじゃないか?」
「いや! ある意味、自業自得やで!」
灼と青倉の会話に、夜一が割って入る。
「土地の持ち主が、あのシェアハウスのオーナーやねんけど。井戸の存在は知ってたらしいねん! そのオーナーが、工事のときに『井戸はそのままで』って、業者に指示したらしいねんで!」
当時の工事関係者から、八家不動産が情報を仕入れたらしい。さすがは情報屋だ。仕事が早い。
「解体にかかる費用を抑えたかったみたいやで。儀式やらお祓いやら、そういうことにお金を使いたくなかったらしい。軽く考えとったんかもしれへんな。当時、オーナーは土地を相続したばっかりの若年者やったらしいから」
「……もしかしたら、解体費用を抑えた分、建築費に回したのかもな。やたら上物は立派だったから」
「まったく! お祓いを軽く考えすぎやで!」
夜一がぷりぷりと憤慨している。
「そういえば、あの幽霊……」
灼は、辺りをきょろきょろと見回した。
どこにもいない。夜一に確認したが、気配を感じることができないという。
「……おれも、そのことが気になっててん」
「まさか、もう現世にはいないのか!?」
「ずっと『見つけてほしい』って、思ってたんやとしたら……」
彼女は、思いを遂げたことになる。
体中の力が抜けて、灼はベッドに突っ伏した。自分の居場所を指さしていた、彼女の姿が頭をよぎる。
感情が強く揺さぶられる。今になって、気づいた。
受け止めきれなかった愛情。余命宣告。自死に至るまでの心情。流れ込んできた彼女の意識が、灼の中にはまだ熾火のように残っていた。




