移動
「現地調査に行くで~~~!」
通話を終えたあと、夜一が元気よく宣言した。さっそくバタバタと荷造りを始める。
「やっぱりリモートは最高やなぁ。こういうとき、すぐに行動を開始できるもん!」
「そうだな」
いつでもどこでも金儲け……いや、相談者から話を聞くことができる。日程の調整もスムーズだ。
夜一は、お気に入りのチャイナシャツをぎゅうぎゅうに詰め込んでいる。彼曰く、チャイナシャツには一軍から三軍までランクがあるらしい。
「気分を上げるためにも、遠出するときは一軍メンバーを多めに連れていくねん! お気に入りのやつを着たらな、気合が入って『がんばろう~~!』って思えるやん?」
「そういうもんか……?」
灼はファッションに興味がない。衣服は毎回、ファストファッションで適当に選んでいる。唯一、好みといえるのは着心地くらいだ。
「灼くんには分からへんかもなーー! 毎日、黒とか白とか、そんなんばっかりやん。めっちゃ地味やで!」
地味ではなく、シンプルといって欲しい。
「ま、灼くんが地味なおかげで、おれのチャイナシャツが映えるねんけど!」
今日も派手なチャイナシャツを纏っている夜一が、にひひと笑う。
引き立て役にされるのは御免だが、面倒なので「はいはい」と受け流しておいた。
南京町の最寄り駅である元町駅から在来線で新神戸駅に向かい、その日のうちに新幹線で横浜に向かうことができた。
車内で呑気にチーズかまぼこを食べる夜一を見て、思わずため息が漏れる。
「……旅行じゃないんだぞ」
「分かってるで?」
きょとん、とした顔の夜一が、コンビニの袋をガサガサと漁る。取り出したのはビーフジャーキーだった。
乗車前にスナック菓子やナッツ類も買い込んでいたのを灼は目撃した。どう見ても、遠足気分な気がする。
「はい、寧々ちゃんもどうぞ~~!」
灼に向かって、ビーフジャーキーを差し出す。
「……チーズかまぼこのほうが良くないか?」
ビーフジャーキーは硬い。噛み切れるか心配だ。幽霊といえども、寧々はまだ幼児なのだ。
「寧々ちゃんは、こっちのほうが良いって言うてるよ」
「なら良いけど……。それより、感じたか?」
「へ?」
豪快にビーフジャーキーにかぶりついていた夜一が、首をかしげる。
「なにを?」
「気配だよ。青倉と話したとき」
「あぁ、気配な! うん、感じたで。強い念やったなぁ」
思い出したように、夜一がうんうんとうなずく。
「強いって、それはヤバいんじゃ……!」
灼は焦ったが、夜一は落ち着いている。それよりも今はビーフジャーキーに夢中らしい。美しい顔を歪ませながら、必死に咀嚼している。
「そこまで悪い気配じゃなかったから。大丈夫やと思うで?」
その診断は、信じて良いのだろうか。
「それにしても、お前のところに来る相談者って……」
「うん?」
「家にまつわる問題を抱えてることが多いよな」
少し前から、気になっていたことだ。
全ての相談が、必ずしもそうというわけではない。しかし、圧倒的に多い。今度の青倉の件、それから的形のとき。
毎回つまらない相談を持ち掛けてくる仁川だって、「家」関連の話ばかりだ。というか、そもそも灼だって……。
「俺のときはマンションだった。厳密にいえば、土地の問題ではあったけど」
「それは、おれが『家』関連の問題に強いからやで!」
「……はい?」
初めて聞く話だ。得意不得意があるのか?
「ほら、弁護士だってそうやん? それぞれ得意分野があるやろ。医療訴訟に特化してるとか、離婚問題に強いとか」
「言われてみれば、たしかに……」
「医者もそうやん。内科、外科、耳鼻科。いろいろ分かれてるやろ?」
「……いや、やっぱり変じゃないか? 同じ扱いにしたら、たぶん弁護士も医者もキレると思うぞ」
納得しかけたが、なんとか灼は正気を取り戻した。




