リモート相談
麗らかな平日の午後。南京町のはずれにある御影探偵事務所では、灼と夜一がそれぞれ業務に励んでいた。
リクライニングチェアに座った夜一は、パソコンの画面に向かって人の好さそうな笑みを浮かべている。相槌を打ったり、たまにアドバイスをしたり。
「それは、大変ですねぇ」
親身になって相談を受けている。まるで、何かのカウンセラーのようだ。
『毎回、私が片づけてるんですよ! ぜったいに幽霊の仕業だと思うんです。ごみを荒らすなんて、悪霊に決まってますッ!』
画面の向こうで、相談者の女性が真剣な顔で訴えている。ごみの集積所でなにやら問題があるようだ。いわゆるご近所トラブルだろう。
正直なところ、探偵に相談するより監視カメラの購入を検討したほうが、よほど建設的なのではないかと灼は思う。
「それでは、ご自宅に御守りをお送りします。肌身離さず持ち歩いてください。そうすれば、きっと良い方向に物事が進むはずです。不可思議な現象から身を守ることができますよ」
夜一が、にこりと微笑む。
女性は「ありがとうございます……!」と、感激したように涙ぐんでいる。
そのやり取りを横目で見ながら、灼は脱力した。
最近、御影探偵事務所はリモート相談を始めたのだ。
的形の一件を請け負った際、天候不良のため民宿で数日ほど足止めをくらった。事務所を留守にしたせいで売り上げが落ち込み、夜一は堪えたらしい。
いつでもどこでも相談者を受け入れたい。常に金儲けがしたい。それで思いついたのが、リモート相談だった。さすがは金銭を得ることに貪欲な夜一だ。ピンチはチャンス。おかげで事務所の売り上げは右肩上がりだった。胡散臭さは、かなり増したけれども。
そして灼のアドバイス通り、今月に入ってから御影探偵事務所は値上げを決行した。ドドンと、いきなりの三割増し。幸いといって良いのか、今のところ客足に影響はない。
「灼くん! 御守りひとつちょうだい」
リクライニングチェアに座ったまま、灼に向かって手を伸ばす。
「……はいはい」
夜一に御守りを手渡すと、御守りと手書きの御礼状を入れ封をした。さっそく相談者に送付するらしい。
ちなみに、その御守りを作っているのが灼だ。
最近の灼の業務は、もっぱら御守り製作だった。来訪する相談者が激減したので、茶を淹れる機会も減ってしまった。
「なんでもっと前から、思いつかんかったんやろーー! リモート相談、最高や~~!」
夜一がリクライニングチェアを後ろに倒した。そのまま、グイ~~ッと上半身を伸ばす。
「……リモートで、幽霊の気配とか分かるのか?」
甚だ疑問だ。リモートで相談をする側にも懐疑的な灼だった。
「もちろん、分かるで! さすがにその場合は直接、事務所に来てもらうことになると思うんやけど……」
「そのパターン、今まであったか?」
「ううん」
夜一が首を振る。
「つまり、全部『気のせい』なんだろ……?」
改めてその現実を目の当たりにすると、自分の業務がバカバカしくなってくる。
鍛え抜かれた生粋の社畜体質ゆえ、ひとつひとつの御守りを丁寧に真心を込めて製作している灼だった。
「その『気のせい』が、相談をすることで気にならなくなるんやから。意味はあるやろ?」
……言われてみれば、そんな気がしないでもない。
ということは、この御守りにも意味はある。気を取り直して、灼は御守り作りに没頭した。




