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神戸南京町 祓い屋探偵と憑かれた助手  作者: 水縞しま
第二章 不幸が続く家
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降り続く雨

「うちの事務所は、安心安全をモットーにしてるんやからな!」


「明朗会計?」


「そうや!」


 夜一が、ふんっ! と顔を背ける。ご機嫌を損ねたらしい。


 的形からコールがあったときは晴れていたのに、気づいたら雨が降り出していた。カーテンの隙間から漏れていた夕陽が、すうっと途切れていく。


 部屋の灯りをつけて、夜一が茶を淹れ始めた。またしても、湯呑が四つ。


 灼と夜一、寧々。それから……。


「お前も、懲りねぇな」


 そう言いながら、灼は少女の目の前に湯呑を置いた。どうせ手を付けないだろうと踏んで、しばらく様子をうかがっていたのだが。


「あ……」


 思わず、灼の声が漏れた。


 少女が、湯呑に手を伸ばしたのだ。夜一は目を輝かせている。ちょっと大げさなくらいに感激している。でも、なぜだ。


「お前、視えてないだろ」


「うん。でもな、聞こえるから」


「は?」


「寧々ちゃんがな、声をかけてあげたんやで!」


 興奮気味に、夜一が詳細を告げる。


 どうやら、寧々が茶をすすめたらしいのだ。


「寧々ちゃんが『いっしょに、飲もう?』って言ってな、誘ってあげてん!」


 キラキラの目をした夜一が、灼にガバッと抱き着いてくる。


「おい、何だよ……!」


 ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、灼は硬直した。


「寧々ちゃん、人見知りやのに。えらいなぁ、がんばったなぁ」


 夜一が抱きしめているのは、灼ではなく寧々のようだ。ひたすら「ええ子や」と繰り返している。


 少女が、そっと湯呑に口をつける。


「……あの子が、『カヤ』で間違いないんだよな」


 生贄にされた、的形の縁者。


「うん」


 夜一の表情が翳る。


「間違いない。寧々ちゃんがな、『カヤちゃん』って名前を呼んだら、反応してん。小さい声やったけど、確かに『はい』って返事したんや」


「そうか……」


「あの子には、もう誰かを呪う力は残ってへん」


 気配で分かるのだと、夜一は言った。


「でも、的形の人間がことごとく不幸になったのは、あの子のせいなんだろ?」


「間違いなく、そうや。どうしても許せへんかったんやろうなぁ。自分だけが犠牲になって、恨んで。それがいつの間にか、呪いになった。……次々と的形の人間を呪うことで、簡単にいえば気が済んだんや」


 ……だったら、カヤが消滅しないのはなぜだ?


「思いを遂げたら、現世から消えるんだろ? でも、あの子はまだここにいる」


「他にも、なにか『思い』があるんとちゃうかな……」 


 その『思い』が何なのか。残念ながら、夜一では分からないという。


「さすがに気配で探ることは、できひん……。灼くんは、どう?」


「なんで俺なんだよ」


「だって、灼くんに憑いてるんやもん。『思い』らしきもの、感じ取れへんの?」


「無理いうなよ」


 灼は、首を振った。


 ふいに手毬をつく音が聞こえて、灼は自然とカヤのほうを見る。


「う、うそだろ……?」


 寧々が、そこにいた。カヤではなく、寧々が手毬をついていたのだ。慣れないてつきで、てちてちと手毬を叩いている。


 寧々は手毬で遊んだことがないのだろう。力の加減が分からないのだ。すぐに、思いもよらぬ方向へ飛んでいってしまう。その手毬を、カヤと一緒に追いかける。そしてまた、てちてちとつく。


「な、なんで」


 驚愕している灼とは反対に、夜一は満足そうな顔でうなずいている。


「人見知り同士、気が合うんやろうなぁ」


「……どういうことだ?」


 訳が分からず、灼は低い声で夜一に問う。


「一緒に遊んでるんやで。灼くんは視えてるんやから、分かるやろ?」


 目をぱちくりさせながら、夜一が「おれも視たいなぁ」言う。


「なんで二人は、ああいうことになってるんだ? その経緯を聞いてるんだよ」


 イライラする。思いっきり、夜一の腕を捻り上げたい。

 

「寧々ちゃんに声をかけてもらったんが、よっぽど嬉しかったんやろうなぁ。『手毬を貸してあげる』って、あの子が言うたんや。それでな、二人で仲良く遊んでるねん!」


 すぐ目の前にある、にこにこ顔の夜一を自分から引き剥がす。


「というか、寧々は俺から離れられたんだな……」


 常に灼の首まわりにへばりついていたので、なんだか変な感じだ。 


「もしかして、寧々ちゃんが離れていってショックなん? 孤独? 侘しい?」


 夜一が、茶化すように言う。


「そんなわけあるかよ」 


 灼はそう言って、夜一の肩を軽く小突いた。

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