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神戸南京町 祓い屋探偵と憑かれた助手  作者: 水縞しま
第二章 不幸が続く家
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記憶

 深夜になっても雨は止まず、シトシトという雨音が部屋の中に響く。


「雨、止まへんな……」


 横になった夜一が、ぽつりと言った。


「まだ、起きてたのか」


「うん。灼くんもやろ? 枕が変わったら、寝られへんもんな?」


 茶化すように夜一が言う。


「うるせぇ」


 普段は粗暴を絵に描いたような灼だが、繊細な部分もある。夜一が指摘した通り、枕が変わると寝付けないのだ。


「朝になったら、晴れとるかな?」


「そうだと良いけどな。雨の中、あの酷道を運転するのは面倒くせぇから」


 いい加減、眠りたい。灼は祈るように目を閉じた。



✤



 目が覚めると、どういうわけか灼は、あの的形の屋敷にいた。


 一瞬、訳が分からなかった。間違いなく、自分は民宿にいたはずだ。


 それなのに、どうして……。


 ふいに、足音が聞こえた。振り返ると数人の男女がいた。皆、着物を纏っている。その中の一人、中年の女が灼を見て眉を潜める。


「カヤ、そんなところで何をしてるん!」


 甲高い声だった。


 女が睨みながら、こちらに向かってくる。


「母屋には来たらあかんって、いつも言うてますやろ。あんたの家はね、あの蔵なんよ。分かる?」


 女が、土蔵を指さす。


「嬉しいやろ? もともと住んでた家より、あの蔵のほうがよっぽど立派なんやから」


 女の口元は、ひどく歪んでいる。なんて醜い顔だろうと思う。


 仕方なく蔵に戻り、手毬をつく。


 手毬には、わずかに泥が付着している。何度も拭ったが、なかなか綺麗にはならない。泥を見る度に、耳の奥に轟音が響く。嫌な音だ。


 濁流が、全てを飲み込んでしまった。


 父と母の墓。それから生家。的形の屋敷と比べると、みすぼらしい家だったけれど、自分にとっては大切な家だった。


 唯一、手元に残ったのが手毬だった。


 母から教わった手毬唄を歌う。


 こんな歌だったろうか。あの頃よりも、ずいぶん物悲しいメロディーが耳に届く。


 ……寂しい。


 最近、毎日のように思う。


 ここには、自分を気遣ってくれる者はいない。優しい言葉をかけてもらうこともない。


 寂しい。心細い。


 自分はずっと、ひとりぼっちだ。


 ……誰も、おらへんの?


 ひとりで手毬をつくのは、飽きてしまった。誰か、誰か。一緒に遊びたい。名前を呼んで欲しい。寂しい。心細い。誰か……。



✤



「灼くん」


 体を揺すられて、灼は目が覚めた。


「夜一、か……?」


「うん」


 暗闇の中に、ぼんやりと夜一の顔が浮かんでいる。心配そうに、灼をのぞき込んでいる。  


「大丈夫? うなされてたけど」


「平気だ」


 ……あれは、夢だったのか。


 それにしては、ずいぶんリアルだった。全身が気持ち悪い。汗でぐっしょりだ。


 目を閉じたが、それから眠ることはできなかった。朝になっても、雨は降り続いていた。


「雨の勢い、昨日より増してるなぁ」


 夜一が、窓の外の曇天を眺めて言った。民宿のすぐそばを流れる川も、昨夜より増水しているようだ。


「今日は、行動できひんな……。あの集落の辺りは地盤が緩いらしいから、また土砂崩れでも起こったら大変やし」


「ツイてねぇな」


 布団から体を起こし、灼は舌打ちをした。


 不機嫌な灼とは反対に、夜一は楽しそうだ。上機嫌で茶を淹れ始める。


「おれも一緒に遊べたらなぁ」


 昨日に引き続き、寧々とカヤは一緒に遊んでいる。なんでも、カヤに手毬唄を教えてもらい、寧々も一緒に歌っているというのだ。


「……お前、良い年して手毬なんかで遊びたいのか?」


 小馬鹿にしたように言うと、夜一が憐れんだような目で灼を見た。


「灼くん。寧々ちゃんの歌が聞かれへんからって、おれに嫉妬せんといてよ」


「はぁ!?」


 見当違いも良いところだ。なぜ、夜一なんぞに嫉妬しなければいけないのか。まぁ、多少は寧々の手毬唄が聞けたらいいかも、とは思うのだが……。


「はぁーーい、お茶ですよ~~!」


 声を聞いて、二人のいる場所を正確に掴んでいる。夜一は寧々とカヤの近くに湯呑を置いた。


 手毬で遊ぶのを中断して、二人は仲良く茶を飲み始めた。こうして並んでいるのを見ると、友だちのようであり、姉妹のようでもある。


「寂しくは、なさそうだな……」


「え? 灼くん、何か言うた?」


 ズズ~~! と茶をすすりながら、夜一が灼のほうを見る。


「いや。別に」


「灼くんの分もあるで?」


「あぁ」


 柔らかく湯気の立つ湯呑に、灼は手を伸ばした。

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