不幸の連鎖
背筋がヒヤリと冷たくなる。灼は我慢できず、二人に訊ねた。
「し、死んでいく……? 不幸が訪れるっていうのは、一体どういうことなんですか」
宿の主人が深く息を吐いた。それから、ゆっくりと語り始めた。
「……確か、的形という名前やったな。昔からあの村の長やった一族で、山の麓にも分家がようさんあったんや。集落にある大きな屋敷には代々、的形の当主が暮らしとった。でも、いつの頃からか、的形の当主は長生きできんようになってなぁ」
民宿があるこの近辺や、さらに川を下った場所にも何軒か的形の家があったらしい。
「たいていが病で亡くなったと聞いとるけど。事故やったり、自分で首をくくったりという話もあった。それで、とうとう本家だけでは維持できんようになって。分家の人間が継いだりもしたんやけど、やっぱりあかんかった。皆、次々と死んでしまうんや」
分家が的形を継ぐ。継いでは亡くなる。その繰り返しだったらしい。そして、少しずつ的形の分家はその数を減らしていったという。
「集落の人も怖がってしもてねぇ。当初は、疫病ちゃうかという噂があったみたいやけど。的形さんのところにだけ死人が出るもんやから。あれは疫病やなくて、呪いなんやろうって。それで、あのお城みたいな壁をつくったんよ」
小さな集落には不釣り合いだった。まるで城壁のようだと、灼もあのとき思った。
「……村民からの、要望だったということですか? 屋敷の中に、呪いを閉じ込めるための?」
「ずいぶん昔の話やし、噂で聞いただけやけどね。なんや呪い師だか巫女さんだかを村に呼んで、あの壁をこしらえたそうやわ。ちょっと、胡散臭い気もするけどね」
そう言って、女将が苦笑いする。
「でも、次々と的形の人間が死んでいったのは事実やからね。呪いやと噂されるのも仕方ないと思うわ。……もし、ほんまに呪いなんやったとしたら、的形さんはきっと、ずいぶんひどいことをしたんやろね」
✤
話を聞き終え、灼は夜一と一緒に部屋へ向かった。
「不幸が続く家、か。……どう思う?」
「的形の人たちが、次々と亡くなったのは事実やし。実際にあの家には幽霊がおった。噂話は、だいたい合ってるんちゃうかな」
夜一の言葉に、灼はうなずく。
「ただ、呪い師とか巫女とかのくだりは嘘っぽくねぇか?」
いにしえの時代から、インチキな野郎がのさばっていたのだなと、灼は呆れた。
「なんで、嘘やと思うん?」
夜一の疑問に答えるべく、灼は部屋の扉を開けた。
「証拠」
「え?」
「部屋の隅に、いる」
少女の幽霊は正座したまま、同じ場所にいた。
「呪いの元凶が、屋敷から出ちまってるじゃねぇかよ」
壁の役割を果たせていない。封じ込めるはずが、やすやすと突破されてしまっている。
「それは、たぶん灼くんのせいやと思うで」
「はぁ?」
自分のせいにされ、灼は眉を寄せた。心外にもほどがある。
「なんで俺のせいなんだよ」
「灼くんはな、特異体質やねん。寧々ちゃんに憑かれたせいで変異したんやと思うけど。とにかく、幽霊に好かれやすいねん。波長が合うっていうんかな。だから、本来は出られへんかった壁をすり抜けることができた。灼くんに憑くことでな」
一ミリもうれしくない。というか、それって。
「もしかして、あの子は俺に憑いてるのか……?」
「そうやで」
何を今さら、という顔で夜一が灼を見る。
「首には寧々ちゃんが抱き着いたままやのに、また新しい子が憑くなんてなぁ。灼くんはすごいで! 幼女にモテモテやん!」
誤解を招く言い方はやめて欲しい。
「じゃあ、この子は久しぶりに屋敷の外に出たってのか?」
灼は、ちらりと少女のほうを見た。
「おれは、そう思うよ。だからずっと、じいっとしてるんちゃうかな。着物姿なんやろ? おまけに手毬を持ってる。時代を感じるもん。亡くなってから、相当な年月が経ってるはずや。世界が一変してると思う。この時代が未知の世界すぎて、気軽に動き回られへんのちゃうかなぁ」
なるほど、と言いかけたところで、夜一のスマートフォンが震えた。画面には『的形良治』と表示されていた。




