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神戸南京町 祓い屋探偵と憑かれた助手  作者: 水縞しま
第二章 不幸が続く家
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民宿での証言

 集落があった山を下り、清流沿いの市道をしばらく走ったところに宿を見つけた。古い民宿だった。


 老夫婦が二人で、細々と営業しているようだ。和室に案内され、灼はすぐに畳の上に寝転がった。ひどく体力を消耗した気がする。


 手持無沙汰なのか、夜一はちまちまと茶を淹れはじめた。座卓には盆が置かれ、茶筒や急須、湯呑がセットになり用意されていた。


 ポットから急須に湯をそそぐ。湯の出が悪い。ちょろちょろという音が、なんとも緊張感を削いでいく。


「……ホテルのほうが良かったな」


「なんで?」


「思い出すだろ」


 この部屋には襖がある。畳特有の匂いもする。どうしても、あの屋敷の仏間を連想してしまうのだ。洋室を希望したのだが、残念ながらこの民宿には和室しかなかった。 


「でも、この子は和室のほうが慣れてるんちゃう?」


 にこにこ顔で、夜一が周囲を見回している。彼の表情が見慣れたものだったので、灼は密かに安堵した。悪い気配に、夜一の心身が浸食されていくのは、見ている灼だって辛い。


「……なかなか、しゃべらへんなぁ」


 部屋のあちこちを見ては、夜一がため息を吐く。どうやら少女は、言葉を発さないようだ。そのため部屋のどこにいるのか、夜一には判断がつかないらしい。


「そっち」


 ふいっと顎をしゃくって、灼は居場所を教えた。


 少女は部屋の隅で正座していた。やはりうつむき加減で、膝の上には手毬を置いている。


「どうぞ」


 灼の目の前に、コトリと湯呑が置かれた。それもふたつ。


 ……寧々の分か。


 そう思って、茶をすする。


 座卓の上には、さらにふたつの湯呑があった。ひとつは、夜一のもの。もうひとつは……。


「お前、律儀だな」


 少女の分を茶を淹れたらしい。


「ひとりだけ仲間外れにできひんやろ?」


 そう言って、夜一が湯呑を押し付けてくる。灼から渡せということだろうか。仕方なく、部屋の隅にいる少女の前に湯呑を置いた。


 夜一が、「飲んでる?」と目配せしてくる。


「いや」


 残念ながら、少女は湯呑に手を付けない。


「そっかぁ……」


 夜一が肩を落とす。


「それより。的形は? 電話したんだろ」


 的形には、問いただしたいことが山ほどある。


「したけど、出えへんかった。まだ昼間やから、仕事中なんちゃうかな」


 そう言いつつ、夜一は再度、的形にコールしている。


「……あかんわ」


 夜一が首を振る。


「チッ」


 舌打ちをしながら、灼は立ち上がった。


「どこ行くん?」


「フロント」


「用事でもあるん?」


「この民宿、あの集落からそう遠くないだろ」


 代々、同じ場所で民宿を経営していると言っていた。あの老夫婦から、何か話が聞けるのではと思ったのだ。


 灼が睨んだ通り、老夫婦は山中にある集落のことを知っていた。


 夜一が人当たりの良さを発揮して、話を聞き出していく。根掘り葉掘りといった感じなのに、不快感を感じさせないのが夜一のすごいところだ。


「そうなんですよ。おれたち、神戸のほうからドライブに来たんですけど。土砂崩れで通行止めになってて。回り道しようとしたら、ガタガタの道に入ってしまって……! 車は揺れるし大変やったんです」


「それは、難儀でしたねぇ」


 作務衣に前掛けという出で立ちの女将が、灼と夜一を労ってくれる。


「その道を進んで行ったら、小さな集落にたどり着いてたんです。やたら立派な壁に囲まれた屋敷がある村やったんですけど」


「あぁ、あの村か……」


 同じく作務衣姿の宿の主人が、白くなった髭をザリザリと撫でる。


「ご存知なんですか。道を尋ねようと思って、ちょっと村の中に入らせてもらったんですけどね。誰もおらんかったんです」


「今は、皆さん山を下りたんちゃうかしら。数年前、廃村になったらしいと聞いたわよ」


 やはり、現在は廃村のようだ。


「新しい住人が、次から次に来たけど。結局、あかんかったなぁ」


「……次から次に、ですか?」


 主人の言葉に、夜一が首をかしげる。


 灼も不思議に思った。あんな辺鄙なところにある集落だ。新たな住人が次々とやって来るなんてことが、あるのだろうか。


「村長さんのお宅のことや。壁に囲まれた家があったやろ。あの屋敷に住むとな、必ず不幸が訪れるんや」


 女将と主人が、互いの顔を見ながらうなずきあう。 


「呪われとるんやろねぇ……。次々と死んでいくんやもん」


 女将が、重々しい口調で言った。

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