棲みつく家
「その幽霊が、様々な現象を引き起こしていると?」
「はい」
こくり、と的形が頷いた。灼は、夜一と顔を見合わせる。
「あの家にいわくがあることは、地元では有名な話なんです。だから近隣の解体業者には、すべて断られてしまって……。ようやく引き受けてくれるところが見つかって安心していたんですが。今度のことで、不気味がられてしまったので、また別の解体業者を探すことになると思います。でも、おかしな現象がなくならない限り同じことの繰り返しだと思うんです」
「……そうですね」
夜一が、相槌をうつ。
「だから、僕はここに来たんです。あの家に憑いた幽霊を祓ってください。どうか、お願いします。老朽化が進んで、このままだと倒壊する可能性があって危険なんです」
的形が、テーブルに頭を擦り付けるようにして懇願する。
「分かりました。では一度、そのお屋敷を調査させてください」
「ひ、引き受けていただけるんですか……?」
ゆっくりと、的形が頭を上げる。
「えぇ。我々にお任せください」
そう言って、夜一は優しく微笑んだ。
✤
「不安になってるときに、あんな風に言われたら参っちまうよな……」
的形が帰ったあと、灼はソファにだらしなく座り、煙草に火を付けた。
「まいる……? それって、どういうこと?」
隣にいる夜一が、不思議そうな顔で灼を見る。
「惜しみなく、金を払いそうだなってこと」
幽霊と会話したり、気配を察知したり。彼の能力は本物だけれども、たとえ力がなくても、相手をその気にさせることは可能だと思う。自分のペースに引き込むのが上手いというか。
「まぁ、詐欺師に向いてるってことだな」
「もう、灼くん! おれは詐欺師と違うって、何度も言うてるやんか~~!」
眉間に皺を寄せながら、灼の肩をバシバシと叩く。
「はぁ。それにしても、疲れたなぁ……」
ソファに身を沈めながら、夜一が目を瞑る。
疲労が蓄積しているのだろう。依頼は後を絶たない。昨日も一昨日も相談者がやって来た。明日も明後日も、来る予定だ。
「……さっきの相談者の件。安請け合いして、本当に良かったのか?」
的形の言う幽霊が実在するなら、ぜったいに悪霊だ。そうに決まっている。良い幽霊が解体業者の邪魔をするはずがない。
「だって、人間じゃなくて家に憑いてるって言うんやもん。現地に行かんことには、始まらへんやん? 丹波まで行くとなると、交通費もけっこうかかるし。引き受けたほうが話が早いねん」
「話しが早い?」
「請求がしやすいってこと。最近、ガソリン代が高騰しとるからなぁ」
引き出しから電卓を取り出し、慣れた手つきでパチパチと数字を叩き出す。
「ちゃっかりしてるな……」
おっとりしているくせに、なかなかに商売人だ。
「当たり前やんか! ここの事務所だって、タダで借りてるんとちゃうねんで! 家賃を払わなあかんねんから」
「でも、格安なんだろ?」
この事務所も、六甲山のアパートも、相場よりもずいぶん安く借りているらしい。中古で購入したというパイクカーも、例のツテのおかげでお値打ち価格だったという。
「そうやけど!」
「前から思ってたけど、ツテって何だよ? どういう繋がりなんだ?」
「簡単に言うと、依頼人やで。仁川さんみたいなひとがいっぱいおるねん」
……タニマチみたいなもんか?
「羨ましい限りだな」
「でもな、お値打ち価格にならへんのもあるんやで。電気代に水道代、ガス料金。これだけは正規の値段を納めなあかん」
かなり口惜しそうだ。……こいつ、さてはドケチだな。
「あ、そうや! 助手の給料も払わんとあかん!」
灼を指さしながら、夜一が天を仰ぐ。
「そこは、何があってもケチんなよ」
ふーーっと煙を吐きながら、灼は夜一にクギをさした。
夜一が、勢いよくソファから立ち上がる。そして「どしどし働くで!」「儲けるでぇ~~!」と言って、やる気を見せたのだった。




