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神戸南京町 祓い屋探偵と憑かれた助手  作者: 水縞しま
第二章 不幸が続く家
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解体できない

 夜一が、依頼人をソファに案内する。灼は茶の準備を始めた。


 依頼人は、若い男性だった。おそらく二十代後半だろう。気が弱そうで、いかにも軟弱そうに見えた。湯呑に茶をそそぎながら、灼は首を捻る。


 ……視えなかったな。


 一見した限りでは、彼に幽霊が憑いている様子はなかった。ずいぶん疲れているようではあったが。


 盆に茶をのせて、茶請けと一緒に依頼人の元へ運ぶ。夜一の隣に座って、灼は注意深く依頼人を観察した。


 黒髪、痩せ型、切れ長の目。特に、不審な点はない。


 ……やっぱり、何も視えねぇ。


 この案件、夜一は「長引きそうだ」と言っていたが、見立てを誤ったのだろうか。依頼人と名刺を交換したらしく、テーブルの上に置かれたそれを灼は手に取った。


 大手製薬メーカーに勤める会社員のようだ。名前は、的形良治(まとがたりょうじ)。


「……工事が、できないんです」


 的形が視線を落とす。ため息交じりの声だ。


「工事というのは?」


 落ち着いた声色で、夜一が問う。


 灼に対しての口調とは、まるで違っている。寧々に対するものとも一致しない。ついさっき、仁川と話していたときの口ぶりとも違う。


 意外にも、依頼人を見て話しているのだなと気づく。


「解体工事です。家が古くなったので、解体して更地にしたいんですが。工事を始めようとすると、ことごとく妨害されてしまうんです」


 的形が、肩を落とす。


「その妨害というのは、『不思議な現象』のせいですか? 物体が移動するとか、発火するとか……?」


「そうです。具体的には、解体業者の車のタイヤがパンクしたり、持参した工具が壊れたり。なんでも、工具が宙に浮くんだそうです。浮いたと思ったら、地面に叩きつけるように落下したそうで……。それから、電動工具が発火したとも聞いています。火柱が出ていたとか」


「的形さんは、その現象を実際にご覧になられたことがあるんですか?」


「いえ」


 的形は、力なく首を振った。


「僕は、その家で暮らしているわけではないんです。家の所在地は丹波のほうなんですが、かなりの山奥でして。神戸の市街地にある営業所に勤務しているものですから、通勤となると厳しくて……」


「なるほど」


 京都との県境にあるらしい。そして、的形は一度もその家で生活したことはないという。


「家……というより、屋敷という感じなんですが。本家なんです。僕は、もともと分家ですから。子どもの頃、何度か親戚の集まりで行ったことはありますけど……。その親戚も次々に亡くなって、それで僕が継いだんです」


 的形の表情には、疲労が滲んでいる。


「……不可思議な現象というのが、解体業者の狂言という可能性はありませんか?」


 夜一が問うと、的形が顔を上げた。


「狂言? 嘘だと言うんですか? 一体、何のために……」


「たとえば、工期を伸ばして費用を余分に請求するためとか」


「……その可能性は、ないと思います」


「なぜですか?」


「そ、それは……」


 言葉が詰まった。視線を彷徨わせる。どうやら、後ろめたいことがあるらしい。しばらくして、的形は覚悟を決めたように、ゆっくりと口を開いた。


「いわくが、あるんです」


「……いわく?」


 的形が、震えるように頷く。


「あの家には、幽霊が棲みついているんです……!」

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