↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神戸南京町 祓い屋探偵と憑かれた助手  作者: 水縞しま
第一章 忌み地のマンション
PR
15/47

交渉成立

「おまたせしましたーー!」


 テンション高めの店員が、料理を運んできた。大きめのヘラからスライドさせるようにして、目の前の鉄板に並べていく。


 まずは、お好み焼き。ジュワッという音と一緒に、香ばしいソースの匂いが漂ってくる。続いて、焼きそば。


 夜一は、さっそく焼きそばを自分好みにアレンジし始めた。


 テーブルには、ソースやマヨネーズといった調味料をはじめ、青のりや天かす、紅ショウガといったものまでもが常備されている。


 ソースを追加して、青のりをふりかけ、天かすも少々。そこまでは良かったのだが、何を思ったのか夜一は、塩むすび(塩抜き)まで投入し始めた。


 コテでぐしゃぐしゃにして、焼きそばと混ぜている。


「おい、やめろ」


 灼は、思わず眉をひそめた。


「え?」


「食いもんで遊ぶな」


「遊んでへんよ?」


 夜一が、不思議そうな顔で灼を見る。


「じゃあ、それは一体なんだよ」


「そばめし」


「はぁ?」


「知らん? 神戸発祥のB級グルメやねんけど」


 そう言って、小皿にそばめしを盛っている。


 焼きそばを細かく刻み、白米と一緒に鉄板で炒めたものをそう呼ぶらしい。


「一度も東京から出たことない俺が、そんなもん知るわけないだろ」


「これにな、甘辛く煮た牛すじとこんにゃくを入れたら、完全に神戸の味やねんけどな~~!」


 その「甘辛く煮た牛すじとこんにゃく」というのは、「ぼっかけ」というらしい。それは酒の肴に良さそうなので、興味がある。


「はい!」


「な、なんだよ」


 いきなり夜一から小皿を手渡されて、灼は戸惑う。こんもりと盛られた、そばめし。これを食えということか?


「寧々ちゃんの分」


 ……なるほど。


 小皿を自分の手元に置き、灼は自分が食べていたデラックスお好み焼きをコテで切り分けた。そばめしが盛られた小皿に、デンと乗せる。


「寧々ちゃん、良かったなぁ。灼くんにもお好み焼き、分けてもらって」


 俺の首元を見て微笑みつつ、そばめしを頬張っている。


「何か、言ってるか……?」


「ん? 寧々ちゃん? めっちゃ喜んでるよ」


「……そうか」


「冷やしトマトも美味しいって」


 どうやら、酒のツマミではなく寧々が食べる用だったらしい。


「……お前さ」


「んむ?」


 口の中をそばめしでいっぱいにした夜一が、顔を上げる。その間が抜けた顔に、思わず脱力する。麗しさと美貌が完全に行方不明だ。


「そういうことは、俺にも分かるようにしろよ」


 灼には、二人の会話は聞こえない。


「ほぉひうほとって?」


「俺も状況を把握できるように、お前が通訳しろ。常に説明しろ。どんなことでもだ。分かったな」


「……うん?」


「今日は俺が奢ってやる。でも、助手になったらお前が払えよ」


「う、うん!」


 夜一の目がきらきらと輝く。


 寧々のためだ。きっとそのほうが良い。夜一は、うるさいくらいに賑やかだから。寧々の言葉を聞いてあげられるから。


 きっと、夜一と一緒にいれば寧々はさみしくない。


「うちの事務所は、これでも関西のほうではかなり有名やねん!」


 なにやら、夜一が得意気な顔をしている。そういえば、青倉もそんなことを言っていたっけ。


「だから?」


「依頼人から『緊急事態!』『今すぐ来て!』って言われることも多いねん。だからな、休み無しが続くこともあって……」


 夜一が、上目遣いで灼をちらりと見る。


「ブラックな体質には慣れてる」


 肉体的にも、精神的にも。


「交渉成立や!」


 夜一は勢いよく立ち上がった。「これから、よろしくな!」と言って、ソースで汚れた口元を拭う。そうして、満面の笑みを見せたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。