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神戸南京町 祓い屋探偵と憑かれた助手  作者: 水縞しま
第一章 忌み地のマンション
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暖簾の向こう

 ホテルを出て、薄闇の中を夜一と歩く。目的の店は、八家不動産からの帰り道に見つけたらしい。


「駅のな、向こう側にあるねん」


 夜一が指をさす。そういえば、駅の反対側には一度も行ったことがなかった。踏切を渡り、しばらくすると細い路地があった。昔ながらの飲み屋街のようだ。


「ほら、ここ」

 

 夜一が足を止めた。藍色の暖簾と赤提灯には「お好み焼き」の白抜き文字が入っている。


 彼の言う「ええとこ」とは、どうやらこの古びた店のことらしい。


「……いかにも関西人って感じだな」


 灼が感想を述べると、夜一は「定期的にソースが欲しくなるねん!」とうなずく。


 暖簾をくぐると、明るい店員の声が聞こえた。


「いらっしゃいませ!」


 香ばしいソースの匂いが、店内に充満している。


「良い匂いやなぁ~~」


 鼻をくんくんさせながら、夜一が腹をさすっている。


 半個室に案内され、鉄板を挟んで夜一と向かい合って座る。


 さっそく、夜一はメニュー表を手に取った。昨今は、タッチパネルでオーダーする機会が増える一方だが、この店はそうではないようだ。


 店内を見回しても、いかにも昔ながらという雰囲気が漂っている。


「迷うなぁ」


 ペラペラとメニュー表をめくっては、夜一が思案している。


「食いもんくらい、さっと決めろよ」


「だってぇ」


「語尾を伸ばすな」


「灼くん、お好み焼きにせぇへん? ほら、このデラックスお好み焼きとかどう? 具がめっちゃ入って美味しそうやで」


 夜一が、メニュー表を見せてくる。


「なんでも良いよ、俺は」


 お好み焼きに興味も思い入れもない。ただ、かなり腹は減っているので早く食べたい。即刻、胃にぶち込みたい。


 店員を呼ぶと、夜一がオーダーを伝える。


「冷やしトマトとぉ、枝豆とぉ」


 イントネーションの語尾が気になって仕方ない。イライラする。些細なことに引っかかるのは、たぶん腹が減っているせいだ。


「あと、冷奴も!」


 ……酒を飲む気、満々かよ。


「それからデラックスお好み焼きとぉ、特製焼きそば。あと、おにぎりも! あ、おにぎりの具はなしで」


「塩むすびですか?」


「うん! 塩むすびの塩なしで!」


 謎のこだわりだ。店員が若干、困惑しながら「承知しました」と言って引き下がる。なんとも迷惑な客だった。


「で、どんな感じなんだ?」


 灼としては「特別な儀式」の詳細を知りたい。そこが分からないと、区切りにならない。


 寧々の両親が未だに発見されていないので、終わった話ではないのだが。


「どんなって言われても……」


 夜一が困った顔をする。


「写真は?」


「そんなん、ないで」 


「撮ってねぇのかよ。使えねーー!」


「だって、前に見せたときはいらんかったやん!」


「ジジイとのツーショットとかいらねぇだろ」


 消えて欲しいと思えば思うほど、二人のピース写真が色濃く記憶に刻まれていく。勘弁してほしい。


「撮るヒマもなかったし! あ、でも。おれと一緒におったら、またすぐに見れるで?」


 冷水の入ったグラスを灼に手渡しながら、夜一がそんなことを言う。


「一緒……?」


 灼は、グラスに口をつけた。


「うん。おれと組まへん?」


「ブフォッ!」


 思わずふき出した。


「灼くんに、助手になって欲しいねん」


 幽霊が視える人間というのは、この界隈でもめずらしいようだ。貴重な人材らしい。だからといって、簡単に「助手になる」とはいえない。


 というか、やりたくない。夜一が身を置く世界には、安易な気持ちで近づいてはいけない気がする。


 断ろうとしたけれど、ふいに寧々のことが気になった。灼の思考や言葉は理解できても、会話はできない。ひとりぼっちだ。


 もう、孤独にはさせたくない。硬いフローリングの上で、捨て置かれたように横たわっていた寧々の姿を思い出す。

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