呼応する
夜の闇に、マンションの白い外壁がぼんやりと浮かび上がっている。灼は肩で息をしながら、それを見上げた。
「灼くん、大丈夫?」
夜一が心配そうな顔でこちらを見ている。
マンションが近づくにつれ、灼の体に負荷がかかった。何かに押しつぶされそうな感じだ。
「……なんとか、大丈夫だ」
自分の声が、予想以上に疲弊していることに気づく。
夜一の表情は、さらに不安げなものになった。首元を注視しているから、おそらく寧々の声を聞いているのだろう。
「おい」
灼は、肘で彼の肩を小突いた。
「……今、寧々ちゃんが会話を試みてる」
どうやら、分裂したやつに語りかけている最中らしい。
事態が好転すれば良いが、その逆もあるわけで……。
そんなことを考えていたら、ふいにマンションの一角が黒ずんで見えた。白い外壁の一部に、シミのようなものが付着している。
そのシミが、どんどん大きくなっていく。黒い塊が不気味に蠢いている。いや、取り込んでいるのだ。分離したものが集まって、少しずつ人型を形成していた。
寧々の声に、呼応したのだろうか。
「あそこに、いる……」
灼は、マンションの三階付近を指さした。
「え、どこ? 灼くん、見えるん?」
「あぁ。少しずつ形になってる」
視ることができない夜一は「大丈夫なん?」と、ひたすら心配そうにしている。
少しでも彼の不安を和らげるために、灼は自分が見えるものを実況中継するみたいに、事細かに伝えた。余計に不安を煽るだけかもしれないが、何も分からないよりはマシだろう。
しばらくすると、急に夜一が震え出した。
「おい、夜一? どうした?」
ぶるぶると震えながら、「声が聞こえる」と夜一は言った。
「声? 奴の声か?」
「うん。『アツイ』って。何度も繰り返してる。呻き声みたいな、悲鳴みたいな声や。泣き叫んでる……」
無意識に、夜一が自分の耳を塞いだ。
それでも流れ込んでくるのだろう。まるで、分離したやつに体を乗っ取られたみたいに、夜一は『アツイ』と繰り返す。
「夜一! しっかりしろ!」
灼は夜一の両肩を掴んで、強く揺さぶった。それでも、正気に戻る様子はない。
いつの間にか、灼の身にも異変が生じていた。全身が焼けるように熱いのだ。
……なんだこれ。
『ア、ツイ……ア……ツ、イ……』
夜一のものとは思えない甲高い声が、彼の口から漏れる。
……女の声だ。
そう思った瞬間、目の前に炎が見えた。それから、古びたアパートも。新聞の縮刷版で目にしたのと同じアパートだ。
炎は勢いを増していく。あっという間にアパートは火に包まれた。ゴォゴォと音を立てながら激しく燃えている。窓が割れ、その中から火がうねるようにして出ている。
……これは、当時の火事なのか。
部屋の中に人影が見える。ダイニングから、キッチン、廊下、人影は移動している。
『コォ……ド、コォ……』
炎に焼かれながら、細身の体が熱さにのた打ち回っている。
『ドコ……ドコ、ナノ……』
いや、探しているのだ。
『ド、コ……ドコニ、イルノ……ドコ、ニ……』
黒焦げになりながら、それでも探している。たったひとりの息子を




