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神戸南京町 祓い屋探偵と憑かれた助手  作者: 水縞しま
第一章 忌み地のマンション
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寧々の意思

「憑いてる人間のことやもん。言葉はもちろん、考えてる内容までお見通しやで」


「マジかよ……」


 なんだか力が抜けた。


 ふうっとため息を吐きながら、夜一の隣に座る。


「それで? 俺に伝えたいことってなんだよ」


 寧々に質問しているのだが、意思疎通できないため、結果的に夜一の目を見て話すことになる。


「……うん、ん? えぇ、それはどうやろ。いやーー、う~~ん」


 寧々の声を聞いた夜一が、なにやら唸っている。


「だから何?」


 夜一の肩を掴んで、揺り動かしながら急かす。


「……あのマンションに行きたいんやって」


 夜一が困惑顔で、寧々の意志を伝える。


「寧々ちゃんは『自分なら、あの分裂したやつと会話できるかも』って言うねん」


「わざわざ、あのマンションに行く必要があるのか? 今も核の部分は、俺に憑いてるんだろ?」 


 確か、夜一がそう言っていた。


「ある程度は、原型に戻らんとあかんのやと思う。今の核の状態は、だいぶ弱ってるみたいやから……」


 神経を集中させて、やっと気配を察知できるほどなのだという。


「……ダメだ」


 灼は、はっきりと言った。


「原型に戻って、そいつが力を取り戻したらどうなるか分からねぇだろ」


「でも、寧々ちゃんが……」


 駄々っ子のように、夜一が食い下がってくる。


「危険だ。却下」


「……寧々ちゃんは『探してる気がする』っていうねん」


「探してる?」


「うん。灼くんが目にした新聞記事の内容が分かったみたいで。それで、気づいたことがあるんやって」


 灼の発する言葉はもちろん、思考まで理解できるというのは、どうやら本当らしい。


「分離したやつが、初めて灼くんにくっついてきたとき。寧々ちゃんは、すぐに良くない存在やって分かったんやって。でも、どこか自分と近いものを感じ取ってたらしい」


 ……だから、寧々はずっと大人しくしていたのか。まるで共存するみたいに。


「寧々ちゃんも探してるから。お父さんとお母さんのこと」


 灼は、拳をぎゅっと握りしめた。


「アイツのせいで、寧々はひどい目にあったんだぞ」


 夜一にも、寧々自身にも、語りかけるように灼は言った。


 寧々の両親が、正常でいられなくなった原因。それは、あの分離したモノに影響を受けたからだ。


 幸せそうだった。両親と寧々。あのマンションに引っ越してこなければ、今もまだ幸福な日々が続いていたのに。


「寧々にとっては、憎いヤツだろ。そんな相手と会ってどうする? 会話して、どうするっていうんだよ」


 灼は、うめくように声を絞り出した。


「……それでも、寧々ちゃんは言ってあげたいんやって」


「言う? 何をだ?」


「息子が無事やったこと。助かって、ちゃんと生きてるってこと」


 分離したやつが探してるのは、間違いなく息子の剛だ。


 長い年月、分離して、粉々になって。それでも自分の子どもを探し続けているのだ。


 灼は、大きく息を吐いた。そして、立ち上がる。


「行くん?」


「あぁ」


 寧々が、そこまで言うなら仕方がない。自分にできることがあるなら、叶えてやりたい。それが、寧々に対する贖罪だと思うから。


「……危険なのは間違いないぞ。少しでもヤバいと思ったら、すぐに撤退するからな」


「もちろん!」


 お互いうなずき合って、灼と夜一は部屋を出た。

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