寧々の意思
「憑いてる人間のことやもん。言葉はもちろん、考えてる内容までお見通しやで」
「マジかよ……」
なんだか力が抜けた。
ふうっとため息を吐きながら、夜一の隣に座る。
「それで? 俺に伝えたいことってなんだよ」
寧々に質問しているのだが、意思疎通できないため、結果的に夜一の目を見て話すことになる。
「……うん、ん? えぇ、それはどうやろ。いやーー、う~~ん」
寧々の声を聞いた夜一が、なにやら唸っている。
「だから何?」
夜一の肩を掴んで、揺り動かしながら急かす。
「……あのマンションに行きたいんやって」
夜一が困惑顔で、寧々の意志を伝える。
「寧々ちゃんは『自分なら、あの分裂したやつと会話できるかも』って言うねん」
「わざわざ、あのマンションに行く必要があるのか? 今も核の部分は、俺に憑いてるんだろ?」
確か、夜一がそう言っていた。
「ある程度は、原型に戻らんとあかんのやと思う。今の核の状態は、だいぶ弱ってるみたいやから……」
神経を集中させて、やっと気配を察知できるほどなのだという。
「……ダメだ」
灼は、はっきりと言った。
「原型に戻って、そいつが力を取り戻したらどうなるか分からねぇだろ」
「でも、寧々ちゃんが……」
駄々っ子のように、夜一が食い下がってくる。
「危険だ。却下」
「……寧々ちゃんは『探してる気がする』っていうねん」
「探してる?」
「うん。灼くんが目にした新聞記事の内容が分かったみたいで。それで、気づいたことがあるんやって」
灼の発する言葉はもちろん、思考まで理解できるというのは、どうやら本当らしい。
「分離したやつが、初めて灼くんにくっついてきたとき。寧々ちゃんは、すぐに良くない存在やって分かったんやって。でも、どこか自分と近いものを感じ取ってたらしい」
……だから、寧々はずっと大人しくしていたのか。まるで共存するみたいに。
「寧々ちゃんも探してるから。お父さんとお母さんのこと」
灼は、拳をぎゅっと握りしめた。
「アイツのせいで、寧々はひどい目にあったんだぞ」
夜一にも、寧々自身にも、語りかけるように灼は言った。
寧々の両親が、正常でいられなくなった原因。それは、あの分離したモノに影響を受けたからだ。
幸せそうだった。両親と寧々。あのマンションに引っ越してこなければ、今もまだ幸福な日々が続いていたのに。
「寧々にとっては、憎いヤツだろ。そんな相手と会ってどうする? 会話して、どうするっていうんだよ」
灼は、うめくように声を絞り出した。
「……それでも、寧々ちゃんは言ってあげたいんやって」
「言う? 何をだ?」
「息子が無事やったこと。助かって、ちゃんと生きてるってこと」
分離したやつが探してるのは、間違いなく息子の剛だ。
長い年月、分離して、粉々になって。それでも自分の子どもを探し続けているのだ。
灼は、大きく息を吐いた。そして、立ち上がる。
「行くん?」
「あぁ」
寧々が、そこまで言うなら仕方がない。自分にできることがあるなら、叶えてやりたい。それが、寧々に対する贖罪だと思うから。
「……危険なのは間違いないぞ。少しでもヤバいと思ったら、すぐに撤退するからな」
「もちろん!」
お互いうなずき合って、灼と夜一は部屋を出た。




