Season 4「NoX」 #064
さらに戦闘描写をテンポよく描き、天候やキャラ同士の会話などに修正箇所を提示したうえで、再加筆を行っております。
よって、今後の展開上において、どこかの映画で見たことあるリロードモーションや撤収・撤退戦を彷彿とさせます。
さらに、皆様も一度は見たことがあるBF≪バトルフィールドシリーズ≫に登場するトレーラーチックな描写も出ますので、脳汁が出すぎることにご注意くださいませ。
それでは、本編をどうぞ!!
第64話「HOMECOMING」
《Operation HOMECOMING》。
その名が作戦司令室へ響いた時、レイブン・S・クロウは正面に広げられた戦域図から目を離さなかった。
かつて異界軍の占領地域を示す印で埋め尽くされていた地図は、この一年余りで大きく姿を変えていた。帝国と連邦共和国がそれぞれ別々の色で管理していた国境線は残っているものの、今そこへ引かれている作戦線は国家ごとに分けられておらず、抵抗軍という一つの軍事組織として再編された部隊配置が異界門を包囲していた。
帝国軍。
連邦軍。
そのどちらにも属さない参加国の部隊。
砲兵、機甲部隊、航空隊、魔導部隊、工兵、衛生部隊、そして特殊部隊。
以前なら同じ部屋へ集めることさえ難しかった者たちが、今は同じ地図を見ている。
「作戦目標は単純だ」
統合司令官が地図上の巨大異界門を指した。
「門を閉じる」
誰も声を上げなかった。
単純なのは言葉だけだと、ここにいる全員が理解している。
「解析班によれば、異界門は自然現象ではない。少なくとも現在我々が確認している主要門には、異界側とこちら側の双方に魔力を固定する構造が存在している」
図面が切り替わった。
異界門周辺で回収された構造物の解析図だった。
「便宜上、《門杭》と呼称する。これを複数破壊した上で、抵抗軍魔導部隊が逆位相魔力を投入する。理論上は門を維持できなくなる」
「理論上?」
後方から誰かが聞いた。
司令官は隠さなかった。
「実証例はない」
室内の空気が僅かに重くなった。
「失敗した場合は?」
今度は連邦軍士官だった。
「門が維持されるだけならやり直せる。最悪の場合は魔力制御が崩壊し、周辺数キロに影響する暴走が発生する可能性がある」
レイブンの隣でエリシア・L・ヴォルハラムが小さく息を吐いた。
「数キロ……」
レイブンも聞こえる程度の声で返す。
「近くにいたら逃げ切れないな」
「だから成功させるんでしょうね」
「だろうね」
司令官の視線が二人へ向いた。
「Valkyrie、NoX」
二人は同時に顔を上げた。
「はい」
「聞いています」
「君たちにも役割がある」
戦域図が拡大される。
門の西側。
崩壊した都市部と、その先に広がる森林地帯が映し出された。
「第一から第三の門杭は正規軍が担当する。しかし第四門杭だけは異界軍占領区域の深部にある」
レイブンは位置を確認した。
「砲撃できないんですか?」
「できる」
「なら――」
「その下に地下魔力路がある」
レイブンは口を閉じた。
「門杭だけを壊せばいい?」
エリシアが尋ねる。
「そうだ。地下構造まで破壊すると、門の魔力がどこへ逃げるか予測できない」
「つまり精密破壊」
「その通り」
司令官がレイブンを見る。
「T-51は持っていけ」
「REAPERで門杭を撃つ?」
「必要ならな。しかし主目的は破壊そのものではない」
「偵察?」
「偵察と誘導だ」
別の印が地図へ現れた。
「第四門杭への攻撃は工兵部隊が担当する。Valkyrie & NoXは先行して侵入路を確保し、工兵を門杭まで生きて連れていけ」
レイブンは少しだけ笑った。
「いつも通りですね」
「何がだ」
「帰還する人を増やす仕事です」
司令官も僅かに口元を緩めた。
「そう思ってくれて構わない」
「了解」
「ただし今回は違うことが一つある」
地図のさらに奥へ、新しい印が表示された。
「異界軍側でも動きがある」
それまで黙っていたアレクシス・ハルトマン〔猟犬〕が腕を組んだ。
「撤退ではない?」
「一部は撤退している。しかし精鋭部隊と思われる戦力が門周辺へ集結している」
「最後まで守る気か」
「その可能性が高い」
レイブンは巨大異界門の印を見る。
第一次異界大戦が始まった頃、異界軍は理解不能な敵だった。
言葉も分からない。
戦術も分からない。
兵器なのか魔法なのかさえ判別できない攻撃を使う。
だが長く戦えば、敵もまた変化する。
人間側の火器を警戒するようになり、狙撃手を探し、砲兵観測員を優先的に攻撃し、航空戦力へ対抗する魔導兵器まで投入するようになった。
そして人間側も異界軍を学んだ。
戦争とは、互いが互いを殺す方法を学習し続ける行為でもある。
「NoX」
アレクシスに呼ばれ、レイブンは思考を戻した。
「何です?」
「今回、〔透明〕を使いすぎるな」
「どうして?」
「敵が対策を始めている可能性がある」
レイブンの表情が変わった。
「俺の?」
「お前だけとは限らん。異界側にも隠密系能力を持つ存在がいる。その対策を人間にも転用している可能性があるそうだ」
「視認できる?」
「分からん」
「匂い?」
「分からん」
「音?」
「それも分からん」
「全部分からないじゃないですか」
「だから使いすぎるなと言っている」
レイブンは頭を掻いた。
「了解」
隣からエリシアが小さく言う。
「私が見てる」
「何を?」
「あなたが消えている間の周囲」
「頼む」
「その代わり勝手に遠くへ行かない」
「何メートル?」
「三百」
「五百」
「三百」
「四百」
「三百五十」
「……分かった」
アレクシスが二人を見る。
「作戦会議中に値切るな」
「すみません」
二人の声がまた重なった。
司令官が説明を続ける。
「作戦開始は明朝〇四三〇。第一次砲撃開始と同時に各部隊が前進する。門杭破壊後、魔導部隊による閉鎖処置へ移行する」
一度、室内全体を見渡す。
「これは異界軍を殲滅するための作戦ではない」
レイブンはその言葉を聞いた瞬間、父を思い出した。
「門を閉じ、敵増援を断ち、こちら側に残存する異界軍を降伏、撤退、あるいは戦闘能力喪失へ追い込む。第一次異界大戦を終結させる」
第一次異界大戦を終結させる。
その言葉を今度は誰も疑わなかった。
願望ではない。
作戦目標として初めて提示されたからだった。
「質問は」
何人もの手が上がった。
会議はさらに一時間以上続いた。
レイブンとエリシアが作戦司令室を出た時には、すでに日付が変わろうとしていた。
「四時間くらい寝られる?」
エリシアが聞く。
「装備点検入れたら三時間」
「寝なさい」
「エリシアも」
「私はあなたより点検する装備が少ない」
「ずるい」
「REAPERまで持ち歩いてる人が悪い」
「父さんに言って」
「今度言う」
「本当に言いそうだから怖い」
二人は武器庫へ向かった。
夜間にもかかわらず、基地は眠っていなかった。
整備兵が車両の下へ潜り、工兵が爆薬と魔導計測器を確認し、補給兵が弾薬箱を運んでいる。帝国製装備の横を連邦兵が歩き、連邦規格の通信機を帝国兵が借りていた。
戦争初期なら考えられない光景だった。
抵抗軍の軍服も今では珍しくない。
帝国軍と連邦軍の意匠を完全に消したわけではないが、共通の識別章が胸と上腕へ取り付けられ、夜間でも味方だと判別できるよう規格化されている。
レイブンもその制服を着ていた。
胸元には抵抗軍章。
その下にはドッグタグ。
さらにその裏側には、エリシアの名前。
武器庫へ入ると、整備台の上にSG-44が置かれていた。
「NoX用、整備完了」
整備兵が声をかける。
「ありがとう」
「今回の弾薬は通常弾中心。特殊弾は右側のポーチに識別帯付きで入れてある」
「了解」
「T-51も終わってる」
隣の台を見る。
T-51《REAPER》。
長い銃身を持ちながらブルパップ方式によって全長を抑えられた対物狙撃銃は、何度も実戦へ持ち出されたことで外装に細かな傷が増えていた。
最初に父から受け取った時の新品らしさはもうない。
それでもレイブンにとっては、今の姿の方が自分の銃らしく見えた。
「銃身交換した?」
「昨日な」
「IBRSは?」
「正常。可動部も清掃済み」
「ありがとう」
「ただし」
整備兵がレイブンを見る。
「撃ちすぎるなよ」
「何でみんなそれ言うの?」
「お前が撃ちすぎるからだ」
エリシアが横で頷く。
「同意」
「味方がいない」
「味方だから言ってる」
レイブンはT-51を手に取った。
〔兵装接続〕が微かに反応する。
まだ本格的には発動させない。
それでも武器の状態が、触れた瞬間に以前より鮮明に伝わるようになっていた。
この能力も成長している。
問題は、その成長がどこまで続くのかだった。
「レイブン?」
「何?」
「また考え事」
「アームズ・リンク」
「何か変?」
「逆。調子が良すぎる」
「どういう意味?」
「前より武器の状態が分かる」
「良いことじゃないの?」
「多分」
レイブンはT-51から手を離した。
「でも、いつからここまで分かるようになったのか自分でも分からない」
エリシアは少し考えた。
「戦争が終わったら検査してもらおう」
「うん」
「私も付き合う」
「エリシアは関係ないだろ」
「ある」
「何で?」
「あなたの身体のことだから」
「婚約者権限?」
「そう」
「便利だなあ、それ」
「一生使うって言ったでしょう」
レイブンは笑った。
「覚えてたか」
「当然」
装備確認を終えた二人が営舎へ戻った時、睡眠時間は本当に三時間ほどしか残っていなかった。
それでもレイブンは横になる。
眠れる時に眠る。
食べられる時に食べる。
戦場では、それも生き残るための技術だった。
目を閉じる直前、胸元のドッグタグへ指が触れた。
エリシア。
父。
母。
ルナ。
家。
帰る理由はいくつもある。
そのどれか一つだけを選ぶ必要はない。
全部のために帰ればいい。
そう考えたところで、レイブンの意識は眠りへ落ちた。
〇四〇〇。
起床命令より先に目が覚めた。
長年の軍生活で身体が時間を覚えている。
軍服を着る。
抵抗軍章を確認する。
防具を装着する。
SG-44。
帝国軍制式自動拳銃。
ナイフ。
予備弾倉。
通信装備。
救急用品。
そしてT-51《REAPER》。
廊下へ出ると、エリシアがいた。
「おはよう」
「おはよう」
「眠れた?」
「三時間」
「私も」
「怖い?」
エリシアが笑った。
「また聞く?」
「恒例だから」
「怖い」
「俺も」
「なら正常」
「だな」
二人は並んで外へ出た。
夜明け前の空は雲に覆われていた。
気温は低く、湿った風が西から吹いている。
前夜から降った小雨によって地面はぬかるみ、装輪車両のタイヤが泥を跳ね上げていた。
「最終作戦の日くらい晴れてほしかったな」
レイブンが空を見る。
「戦争が天気を選んでくれるわけじゃないから」
「知ってる」
「足元滑るよ」
「それも知ってる」
「転んだら?」
「笑わないで」
「努力する」
「努力なんだ」
集合地点には、すでに特殊即応部隊が揃っていた。
アレクシス〔猟犬〕。
ニコラス〔梟〕。
ダリオ〔破城槌〕。
マティアス〔衛生兵〕。
そして工兵六名。
工兵隊長がレイブンへ手を差し出した。
「カール・ヴァイゼン。今回、お前たちに命を預ける」
レイブンはその手を握った。
「レイブン・S・クロウ。〔無名〕。NoXでいい」
「噂は聞いてる」
「良い噂?」
「絶対に味方を生きて返す」
レイブンは少し困ったように笑った。
「絶対、は困るな」
「違うのか?」
「できる限り、だよ」
カールは一瞬だけレイブンを見たあと、笑った。
「その答えの方が信用できる」
エリシアも前へ出る。
「エリシア・L・ヴォルハラム。〔戦乙女〕。Valkyrie」
「夫婦だと聞いた」
「まだ婚約です」
「またその説明?」
レイブンが言う。
「大事でしょう」
「もう全軍に訂正文でも配ったら?」
「戦争が終わったら不要になるから」
「それもそうか」
カールが二人を見比べる。
「本当に噂通りだな」
「何が?」
「いや、何でもない」
〇四二九。
全員の通信機へ短い電子音が入った。
『全抵抗軍部隊へ。作戦開始一分前』
それまで聞こえていた会話が消えた。
レイブンはSG-44を身体へ引き寄せる。
エリシアが隣に立つ。
遠くの暗闇には巨大異界門の光が見える。
一年以上。
何度もあの光を見てきた。
仲間を失った。
敵を倒した。
負傷した。
救われた。
エリシアと出会った。
婚約した。
父へ帰ると約束した。
全部が、あの門の向こうから始まった戦争の中で起きた。
『三十秒』
砲兵陣地から装填音が響く。
航空機のエンジン音が空を満たす。
機甲部隊が動き始める。
魔導部隊では術式が展開され、暗闇の中へ淡い光が浮かび上がる。
レイブンは左腕を一度だけ動かした。
問題ない。
エリシアが見ていた。
「大丈夫?」
「大丈夫」
「信じる」
「うん」
『十秒』
レイブンは彼女を見る。
「Valkyrie」
「何?」
「帰ろう」
「うん」
「みんなで」
「できる限りね」
レイブンは笑った。
「覚えた?」
「あなたが何回も言うから」
『五』
全員が姿勢を低くする。
『四』
レイブンの指がSG-44の操作部へ触れる。
『三』
薬室の状態を確認する。
『二』
エリシアが前を見る。
『一』
世界が一瞬だけ静かになったように感じた。
『Operation HOMECOMING――開始』
直後、数十キロにわたって展開していた抵抗軍砲兵が一斉に火を噴いた。
砲声が重なり、空気そのものが震える。
夜空を無数の砲弾が越えていく。
数秒後、異界軍陣地の方向で地平線が光った。
爆発が連続する。
それに重なるように航空部隊が頭上を通過し、さらに遠方では魔導砲撃の光が走った。
「前進!」
アレクシスの声。
レイブンたちは走り出した。
泥へ軍靴が沈む。
装備が身体へ当たる。
雨粒が頬を叩く。
だが誰も止まらない。
最初の数百メートルは味方支配地域だった。
その先から、昨日まで異界軍が保持していた区域へ入る。
「オウル!」
「前方敵反応、まだなし!」
「NoX!」
「先行する!」
「三百五十!」
エリシアの声が飛ぶ。
「覚えてる!」
レイブンは〔透明〕を発動した。
身体が消える。
音が消える。
匂いが消える。
視認そのものが困難になる。
しかし今回は、その力を完全には信用しない。
敵も学習している。
レイブンは草むらではなく、砲撃で形成された窪地と破壊された構造物を使いながら前進した。
スキルが破られても隠れられる経路を選ぶ。
三百メートル。
前方に異界軍の旧陣地が見える。
誰もいない。
だが〔殺気看破〕が僅かに反応した。
レイブンは止まった。
右。
何も見えない。
もう一度。
確かに何かいる。
「……俺と同じか?」
視認できない。
音もない。
それでも殺意だけがある。
SG-44を向ける。
『Valkyrie』
『聞いてる』
『止まって』
『何かいる?』
『いる。でも見えない』
通信の向こうで一瞬だけ沈黙があった。
『あなたのゴーストみたいに?』
『多分』
『位置は?』
『俺の右前方、約二十五』
『見えない』
『俺も』
レイブンは動かなかった。
相手も動かない。
互いに姿を隠しながら、互いがそこにいることだけを察している。
雨が地面を叩く。
その中で一滴だけ、不自然に空中で弾けた。
レイブンは反射的に身体を沈めた。
直後、頭があった場所を何かが通過した。
「接敵!」
〔透明〕を解除する。
SG-44を向ける。
見えない敵が動いた。
だが雨が輪郭を作る。
「そこだ!」
発射。
散弾が雨幕を裂いた。
何もないはずの空間から黒い液体が飛ぶ。
次の瞬間、敵の姿が現れた。
人型。
細身。
異界軍の軽装兵。
だが全身を覆う装具が周囲の光を歪めている。
「本当にいた……!」
敵が再び消えようとする。
レイブンは次弾を送る。
発射。
敵が倒れた。
『NoX!』
「無事!」
『敵は?』
「排除! 隠密個体!」
『そっち行く!』
「待って、まだ――」
〔殺気看破〕が再び反応した。
一つではない。
「複数いる!」
雨の中。
何もない空間で水滴が次々に弾け始めた。
レイブンは後退する。
「Valkyrie、前進中止! ハウンド、敵隠密部隊! 最低五!」
『位置!』
「旧陣地周辺! 雨で輪郭が見える!」
アレクシスが即座に判断した。
『全員、雨を見るんじゃない! 雨が当たらない場所を見ろ!』
その言葉でレイブンも理解した。
姿そのものを探す必要はない。
雨粒が不自然に消える場所。
水が何かを避ける場所。
そこに敵がいる。
「見えた」
エリシアの声が近づいた。
発射音。
何もない空間から敵が転倒する。
「三百五十って言っただろ!」
「三百二十しか離れてない!」
「そういう問題?」
「今はそういう問題!」
レイブンは思わず笑いそうになった。
しかし次の敵が迫る。
SG-44を構える。
発射。
次弾。
発射。
敵が距離を詰める。
銃身を掴もうとする腕が見えた。
レイブンはSG-44を身体へ引き寄せながら相手の腕を外し、至近距離では銃身を無理に振り回さず、空いた手で装備していたナイフへ触れた。
相手も刃物を抜く。
互いの腕がぶつかる。
レイブンは一歩下がり、相手の刃をかわしながら距離を作った。
その瞬間、横からエリシアの射撃が入る。
敵が倒れた。
「助かった」
「お互い様」
「残り!」
「左に二!」
レイブンが向く。
一体。
発射。
もう一体はエリシアが処理する。
静かになった。
雨だけが降っている。
「クリア?」
エリシアが聞く。
レイブンは〔殺気看破〕へ意識を向けた。
「……クリア」
アレクシスたちが追いつく。
「負傷」
「なし」
「Valkyrie」
「なし」
「敵は?」
「六体」
レイブンが倒れた異界兵を見る。
その装備は今まで見たものと違う。
異界軍もまた、新しい装備を投入している。
「向こうも最後のつもりかな」
エリシアが呟いた。
「多分」
レイブンはSG-44の残弾を確認した。
薬室にはまだ一発残っている。
交戦は一度途切れた。
次の接敵がいつになるか分からない。
空にする理由はない。
残弾の少なくなった弾倉を抜き、十分に装填されたものへ交換する。
戦術装填。
薬室に残した一発を維持したまま、次の戦闘へ備える。
エリシアも同じように自分の武器を確認していた。
「行ける?」
「行ける」
レイブンは前を見る。
遠くに巨大異界門がある。
その光は、以前より不安定に揺れていた。
門杭のどれかへ、すでに別部隊が到達したのかもしれない。
通信へ声が入る。
『全軍へ。第一門杭攻撃隊、目標地域へ到達』
続けて別の報告。
『第二門杭攻撃隊、敵と交戦中』
そして。
『第三門杭攻撃隊、前進継続』
アレクシスが前を指した。
「残るは俺たちだ」
第四門杭。
そこを破壊できれば、門閉鎖の条件が揃う。
レイブンはSG-44を握り直す。
「工兵を連れていく」
「そして?」
エリシアが聞く。
「全員で帰る」
「できる限り」
「そうだった」
二人は笑った。
第一次異界大戦最後の作戦は、まだ始まったばかりだった。
雨は止まない。
異界軍も退かない。
人間側もまた、ここまで来て退くつもりはなかった。
レイブン・S・クロウ〔無名〕。
エリシア・L・ヴォルハラム〔戦乙女〕。
二人は工兵部隊の前へ出ると、巨大異界門へ続く泥濘の戦場へ再び足を踏み出した。
目的は敵を一人でも多く倒すことではない。
第四門杭へ辿り着き、この長い戦争に終わりへ続く道を作り、そして帰ることだった。
その先で待つものが勝利なのか、それともさらに大きな代償なのかはまだ分からない。
ただ、NoXには一つだけ確信があった。
父から初めてSG-44を受け取った日から変わらない。
この銃は、帰還を邪魔するものを排除するためにある。
ならば今、自分たちの帰還を最も長く邪魔し続けているものは何なのか。
答えは目の前にあった。
戦争そのものだった。
「行こう、Valkyrie」
「うん、NoX」
第一次異界大戦を終わらせるための帰郷作戦は、第四門杭へ向けて動き始めた。




