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黒猫年代記  作者: @12
第二部 ~Ⅰ~ FENRIR ― 時代に取り残された黒猫 ― Season 4 #038~Season 4 #066
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Season 4「NoX」 #044

第44話「死神を託す者」


 帝政歴348年、春。


 第三の個人スキルが発現したという報告は、レイブン・S・クロウが考えていたよりも遥かに速く帝国軍内部を駆け抜けていった。


 第一即応班へ帰還した翌日には、エミリア・ヴァイスが作成した暫定報告書が部隊司令部へ提出され、その日の午後には特殊即応群の医療・魔導研究部門が内容を確認し、さらに翌朝には中央兵器技術局へ写しが届けられた。


 そして、その報告書が最終的に行き着いた場所の一つが、ヴォルター・クロウの机だった。


「……三つ目?」


 書類を読んでいたヴォルターは、思わず同じ行を二度読み返した。


 〔殺気看破(アタック・シールド)〕。


 〔透明(ゴースト)〕。


 そして新たに発現した、


 〔兵装接続(アームズ・リンク)〕。


 報告書にはエミリアによる暫定的な観察結果が記載されていた。


 兵装そのものを認識した段階で、その兵装が持つ基本特性に応じた技能補助が発生する。


 さらに装填されている弾薬を認識すると、接続状態が変化し、弾種に対応する別の能力へ移行する。


 まだ検証例はSG-44を中心とした僅かなものしかない。


 未経験兵装に対してどの程度作用するのか。


 魔導兵器でも成立するのか。


 長時間使用による精神的、肉体的負荷は存在するのか。


 何より、武器と弾薬を認識するという現象が、レイブンの知識によって成立しているのか、それともスキルそのものが兵装の情報を読み取っているのか。


 分からないことの方が多かった。


「……あいつは本当に、次から次へと」


 呆れた声だった。


 しかし、書類を持つ手には力が入っていた。


 父親として喜んでいいものなのか、ヴォルターには分からなかった。


 力が増える。


 普通なら、それを成長と呼ぶのかもしれない。


 だが軍人にとって能力が増えるということは、それだけ危険な任務へ投入される理由も増えるということだった。


 ヴォルターはそれを知りすぎていた。


「クロウさん」


 向かい側からアルノルト・ケスラーが声を掛けた。


「どう思います?」


「父親としてか?」


「どちらでも」


「父親としてなら、今すぐ休暇を取らせて家に連れて帰りたい」


「軍人としては?」


 ヴォルターは報告書を机へ置いた。


「試す」


「ですよね」


「ただし、前線じゃない」


 即答だった。


「技術局の管理下で試験する。能力の上限も分からん状態で実戦投入なんてさせられるか」


「では、特殊即応群へ要請を?」


「俺から話を通す」


「息子さん、怒りませんかね」


「休めと言われて怒る軍人がどこにいる」


「あなたの息子さんなら、いそうですけど」


 ヴォルターは少し考えた。


「……否定できんな」


 その日の夕方。


 第一即応班へ、通常とは少し違う命令が届いた。


 休暇命令だった。


 連日の抵抗軍共同作戦によって蓄積した疲労を考慮し、第一即応班全員へ短期間の特別休暇を与える。


 ただしレイブン・S・クロウのみ、休暇開始前に中央兵器技術局へ出頭すること。


「……これ休暇か?」


 命令書を見たレイブンが呟いた。


 隣でエミリアが笑った。


「呼び出しが終わったら休暇でしょ」


「何で俺だけ技術局なんだよ」


「心当たりあるでしょ」


「ありすぎる」


「三つ目のスキル」


「やっぱり?」


「それ以外に何があるの」


 レイブンは椅子の背もたれへ身体を預けた。


「せっかく家に帰れると思ったのに」


「終わったら帰ればいいじゃない」


「技術局の試験って長いんだよ」


「前回楽しそうだったじゃない」


「AMR-51A2を撃つまではな」


 エミリアが目を細めた。


「また撃てるかもしれないわよ」


 その言葉で、レイブンの表情が僅かに変わった。


「……それはちょっと楽しみ」


「分かりやすい」


「うるさい」


 翌朝。


 レイブンは再び中央兵器技術局第三試作棟を訪れた。


 受付を済ませて試験区画へ入ると、そこにはアルノルトがいた。


 そして、その隣にもう一人。


「……父さん?」


「軍施設内だぞ」


 ヴォルターが腕を組む。


「失礼しました。ヴォルター教官」


「まだ何も教えてない」


「昔は教官だっただろ」


「口の減らん奴だな」


「親子だから」


 アルノルトが横で吹き出した。


「似てますね」


「どこが」


「どこが?」


 父と息子の声が重なった。


 アルノルトは余計に笑った。


「ほら」


 レイブンは咳払いして話を戻した。


「それで、今日は何をするんです?」


 ヴォルターが答えた。


「お前の新しいスキルを調べる」


「やっぱり」


「〔兵装接続(アームズ・リンク)〕だったな」


「うん」


「現時点で自分が理解してる範囲を説明しろ」


 レイブンは少し考え、SG-44を示した。


「まず武器を持って、それを兵装として認識する。そうすると、その武器そのものが持っている性質に合わせた基本スキルが出る」


「具体的には?」


「まだ感覚的な部分が多い。SG-44なら構え方や反動の受け方、射撃姿勢なんかが、自分で考えるより先に分かる感じがする」


「経験による動作との違いは?」


「そこが難しい。経験そのものが消えるわけじゃない。むしろ今まで覚えたものと武器側の特性が噛み合う感じ」


 ヴォルターは黙って聞いている。


「二段階目は?」


「装填弾を認識した時」


「弾を変えると?」


「接続が切り替わる」


「どう変わる」


「散弾なら散弾としての性質が強く分かる。スラッグなら一点を狙う感覚に変わる。たぶん武器そのものが基本で、弾薬がその上に別の能力を載せてる」


「なるほど」


 ヴォルターはアルノルトを見た。


「試験開始だ」


 最初に用意されたのはSG-44だった。


 長年レイブンが使ってきた銃。


 通常散弾。


 スラッグ弾。


 訓練用低威力弾。


 複数の弾種を使い分けながら射撃を行い、魔力測定器でスキル発動時の変化を記録する。


 結果は明確だった。


 SG-44を認識した段階で、一度目の魔力変化が発生する。


 弾薬を認識すると、二度目の変化が起きる。


「本当に二段階だな」


 アルノルトが観測記録を見ながら呟いた。


「次」


 ヴォルターが別の銃を持ってきた。


 帝国軍制式小銃。


 レイブンは扱った経験こそあるものの、SG-44ほど使い込んではいない。


 構える。


 目を閉じる。


 兵装として認識する。


「……繋がった」


「撃て」


 射撃。


 命中。


 次は拳銃。


 同じだった。


 さらに軽機関銃。


 これも接続できた。


「未経験兵装は?」


 レイブンが聞いた。


「今からやる」


 アルノルトが運んできたケースを開く。


 見たことのない試作銃が入っていた。


 レイブンはそれを受け取った。


 構える。


「……弱い」


「何が?」


「繋がってはいる。でもSG-44みたいには分からない」


 ヴォルターの目が細くなった。


「つまり、武器を持てば即座に熟練者になれるわけじゃない」


「うん。たぶん俺自身の知識とか経験も必要なんだと思う」


「それならまだ安心だ」


「何で?」


「武器を握っただけで何でも完璧に使える能力なら、お前自身が能力へ頼る」


 レイブンは黙った。


「覚えろ。練習しろ。失敗しろ。その上にスキルを載せろ」


「……了解」


「能力が強くなっても、お前自身の訓練を省略する理由にはならん」


「分かってるよ」


「ならいい」


 試験は昼を越えて続いた。


 そして最後。


 アルノルトが大型のケースを運んできた。


 レイブンには見覚えがある。


「それ……」


「覚えてるか?」


「忘れるわけない」


 ケースが開く。


 AMR-51A2。


 以前、自分が試験者として撃ったブルパップ式対物狙撃銃だった。


「もう一度使え」


 ヴォルターが言った。


「今度は〔兵装接続(アームズ・リンク)〕を使ってな」


 レイブンは銃を持ち上げた。


 九・七キログラム。


 以前にも感じた。


 軽い。


 自分に合う。


 だが今回は、その先があった。


「……来た」


 レイブンの表情が変わる。


 武器を認識する。


 AMR-51A2。


 長距離射撃。


 大口径。


 長い銃身。


 ブルパップ。


 IBRSによる反動制御。


 高倍率光学照準器。


 魔導観測補助。


 それらが一つの兵装として頭の中へ繋がっていく。


「どうだ?」


 ヴォルターが尋ねる。


「前と全然違う」


「何が見える」


「見えるというより……分かる」


 レイブンは伏射姿勢を取った。


 二脚(バイポッド)を展開する。


「銃が何をしたがってるのか分かる感じ」


「銃は喋らんぞ」


「分かってるよ」


「なら続けろ」


 弾倉を装着する。


 装填。


 そこで第二段階へ移った。


「……切り替わった」


「弾種認識か」


「うん」


「射撃許可」


 レイブンは呼吸を整えた。


 照準。


 引き金。


 発射。


 IBRSが作動し、銃身と周辺可動ユニットが後退する。


 大型マズルブレーキが発射ガスを逃がす。


 身体へ伝わる反動を受け止める。


 次弾。


 もう一発。


 標的へ命中。


 アルノルトが観測記録を見る。


「精度向上を確認。姿勢復帰時間も短縮してる」


 ヴォルターは息子を見ていた。


 レイブンは楽しそうだった。


 新しい玩具を与えられた子供のような笑顔ではない。


 自分にできることが一つ増え、その使い道を考えている時の顔だった。


「どうだ、レイブン」


「好きかもしれない」


「銃に告白するな」


「そういう意味じゃないよ」


「なら何だ」


 レイブンは照準器から目を離した。


「これなら遠くから仲間を守れる」


 ヴォルターは何も答えなかった。


 ただ、その言葉だけは覚えておいた。


 翌日。


 再び技術局へ呼び出されたレイブンは、昨日とは違う射撃棟へ案内された。


「また試験?」


「今日は違う」


 ヴォルターが前を歩いている。


「じゃあ何?」


「行けば分かる」


 扉が開いた。


 そこにはアルノルトをはじめ、AMR-51計画に関わった技術者たちが並んでいた。


 そして中央。


 一挺の銃が専用ケースへ収められている。


 昨日使用したA2に似ている。


 だが細部が違った。


 外装。


 操作部。


 反動制御機構。


 前部保持部。


 実戦評価で挙げられた改善点が反映されている。


 アルノルトが口を開いた。


「AMR-51系列は昨日付で最終制式評価を終了した」


 レイブンが銃を見る。


「最終型の開発名称はAMR-51A3」


「A3……」


「ただし、部隊配備時にその名前を使う予定はない」


 ヴォルターがケースの前へ立った。


「帝国軍制式名称、T-51」


 銃の側面には、新しい刻印があった。


 T-51


 その下に、もう一つ。


 REAPER


「|T-51《REAPER/リーパー》」


 レイブンが読み上げる。


「死神?」


「そういう名前になった」


 ヴォルターは答えた。


「物騒だな」


「お前のSGも大概だろ」


「それはそうだけど」


 アルノルトが説明を続ける。


「T-51はA2で得られた試験結果と、お前が昨日提出した〔兵装接続(アームズ・リンク)〕使用時のデータを含めて最終調整を行った。帝国軍は限定的な正式配備を決定している」


「じゃあ、これから選抜射手に?」


「ああ」


「すごいな」


 レイブンは素直に銃を見つめた。


「で、何で俺が呼ばれたんです?」


 アルノルトとヴォルターが顔を見合わせた。


 ヴォルターがため息をつく。


「そこまで来て分からんか」


「何が?」


「これはお前のだ」


 レイブンの表情が止まった。


「……え?」


「T-51の先行配備対象者として、レイブン・S・クロウ曹長が正式に選定された」


「俺?」


「そうだ」


「俺、狙撃兵じゃないよ?」


「知ってる」


「SG-44もある」


「知ってる」


「対物狙撃銃だよ、これ」


「見れば分かる」


「いや、そうじゃなくて――」


「レイブン」


 父の声に変わった。


 レイブンが黙る。


 ヴォルターはケースからT-51を取り出した。


 重い銃を両手で持つ。


 その姿を見た瞬間、レイブンは昔を思い出した。


 訓練兵だった頃。


 父からSG-44を渡された日。


 銃床に自分の名前が刻まれていた。


 そして父は、あの時も言葉を添えた。


 ヴォルターはT-51を息子へ差し出した。


「持て」


 レイブンは両手で受け取った。


 ずしりとした重量。


 だが不思議と重すぎるとは感じなかった。


 〔兵装接続(アームズ・リンク)〕を使っていないにもかかわらず、昨日までの試験で覚えた感触が手の中へ戻ってくる。


 ヴォルターは息子の目を見た。


「いいか、レイブン」


「うん」


「仲間を死なせたくないなら、射撃をして護れ。それがお前の任務だ」


 レイブンの笑みが消え、真剣な表情になる。


「だがな」


 ヴォルターは続けた。


「未帰還は許さん」


 その一言だけは、教官としてではなかった。


「仲間を助けるためだからって、自分が帰ってこなくていい理由にはならない。誰か一人を救うために自分の命を簡単に捨てるな。お前が帰らなければ、お前を待ってる人間が残される」


 レイブンは黙って聞いた。


「必ず生きろ」


 父の声が僅かに柔らかくなる。


「そして、お前のその笑顔を俺たち家族に見せろ」


 母。


 妹。


 父。


 家で待っている三人の顔が浮かんだ。


「いいな?」


 レイブンはT-51を抱えたまま、少しだけ俯いた。


 それから顔を上げる。


 いつもの笑顔だった。


「うん」


 ヴォルターの眉が少し動く。


「必ず生きて帰還するよ」


 レイブンはわざと姿勢を正した。


 そして、少し悪戯っぽく付け加える。


「ヴォルター教官」


「……お前な」


 周囲の技術者たちが笑った。


「今は教官じゃない」


「じゃあ、ヴォルター技術顧問?」


「父さんでいい」


「軍施設内だぞ?」


「そういうところだけ俺の真似をするな!」


 アルノルトが耐えきれず吹き出した。


「やっぱり親子ですね」


「違う!」


「違います!」


 また二人の声が重なる。


 今度は試験棟全体から笑いが起きた。


 ヴォルターは頭を掻きながら息子を見た。


 もう二十歳だ。


 かつて自分の訓練を物陰から真似していた少年ではない。


 SG-44を初めて持たせた時より身体も大きくなった。


 軍服も馴染んでいる。


 帝国だけではなく、連邦共和国の兵士たちからも名前を知られるようになった。


 それでも笑った顔だけは、父親の目には昔とあまり変わらなかった。


 手続きが終わったのは昼過ぎだった。


 T-51は専用の運搬ケースへ収められた。


 レイブンはそのケースと私物を持って、技術局正門へ向かう。


 隣にはヴォルターがいた。


「父さん」


「何だ」


「一つ聞いていい?」


「言ってみろ」


「AMR-51って、いつから関わってた?」


 ヴォルターの歩みが一瞬だけ止まった。


「……何の話だ」


「今の間で分かった」


「何も分かってない」


「A2を最初に持った時から、妙にSG-44と似た考え方があると思ってたんだよ」


「別の銃だ」


「そうだけど、操作する人間に無茶させないように作ってるところとか」


「偶然だ」


「手袋で操作しやすいようにしてあるところとか」


「技術者が考えた」


「持って走れる重量にしろとか言った?」


「……」


「言ったんだ」


「うるさい」


 レイブンが笑った。


「やっぱり父さんじゃん」


「俺一人で作ったわけじゃない。技術屋が形にした。俺は少し文句を言っただけだ」


「少し?」


「少しだ」


「アルノルトさんに聞いてみようかな」


「やめろ」


「どうして?」


「帰るぞ」


 ヴォルターが歩く速度を上げる。


「待ってよ父さん」


「置いていくぞ」


「T-51持ってるから重いんだけど!」


「十キロ程度で弱音を吐くな、特殊部隊員!」


「休暇中だよ!」


「家に着くまでは軍人だ!」


「理不尽だ!」


 そんなやり取りをしながら、二人は技術局を後にした。


 数時間後。


 久しぶりに見る家が、道路の向こうに現れた。


 レイブンは足を止めた。


「……変わってないな」


「数か月程度で家が変形してたまるか」


「そういう意味じゃない」


 玄関へ近づく。


 ヴォルターが扉を開けるより早く、中から足音が聞こえた。


「父さ――」


 扉が勢いよく開いた。


 出てきた少女の声が止まる。


 父の隣に立つ人物を見たからだった。


 九歳の頃より、さらに背が伸びている。


 白猫の特徴を母から受け継いだ少女。


 ルナ・クロウ。


 彼女は数秒間、兄の顔を見つめた。


「……兄様?」


「ただいま、ルナ」


 次の瞬間。


「兄様!」


 ルナが飛びついた。


「うわっ!」


 レイブンは片手に荷物、もう片方にはT-51のケースを持っていたため、危うく後ろへ倒れそうになった。


「待て待て! 今ちょっと危ない!」


「帰ってきた!」


「帰ってきたよ!」


「本当に?」


「俺、幻に見える?」


「見えない!」


「なら本物!」


 ルナは兄へ抱きついたまま離れなかった。


 奥から母セレナが出てくる。


 息子の姿を見た瞬間、その表情が柔らかくなった。


「おかえりなさい、レイブン」


 レイブンはルナを抱き留めたまま母を見た。


「ただいま、母さん」


「ちゃんと食べてる?」


「帰ってきて最初にそれ?」


「母親ですから」


「食べてるよ」


「痩せたんじゃない?」


「特殊部隊で太る方が難しいって」


「なら休暇中に食べなさい」


「了解」


 ヴォルターが後ろから入ってくる。


「俺には何もないのか?」


 セレナは夫を見た。


「あなたは昨日も帰ってきたでしょう」


「扱いが違いすぎないか」


「二十年一緒にいるんだから慣れてください」


 レイブンが笑った。


 ルナも笑う。


 ヴォルターだけが納得していない顔をしていた。


「ところで兄様」


「ん?」


 ルナが床に置かれた大きなケースを見る。


「それ何?」


「ああ、これ?」


 レイブンはケースを見た。


 T-51。


 |T-51《REAPER/リーパー》〕。


 正式配備されたばかりの対物狙撃銃。


 戦場では、遠くにいる敵を撃つための武器。


 けれどレイブンにとって、その日だけは少し違って見えた。


 父が開発へ関わり。


 技術者たちが作り。


 自分が試験し。


 最後に父自身の手から託された銃。


「仕事道具」


 レイブンは答えた。


「新しい?」


「今日もらった」


「格好いい?」


「たぶん」


「見たい!」


「家の中では開けません」


「なんで!」


「父さんに怒られるから」


「俺を理由にするな」


 後ろからヴォルターが言う。


「じゃあ母さんに怒られる」


「それは間違ってない」


「あなたたち」


 セレナの声が低くなった。


 父と息子が同時に黙った。


 ルナだけが笑った。


 レイブンはその声を聞きながら、ようやく肩から力が抜けていくのを感じた。


 戦場ではない。


 基地でもない。


 技術局でもない。


 帰る場所。


 ここではNoXと呼ぶ者はいない。


 最高の守護者とも呼ばれない。


 帝国軍特殊即応群の兵士でもない。


 ただのレイブン。


 ヴォルターとセレナの息子であり、ルナの兄だった。


 玄関へ置いたT-51のケースへ、一度だけ目を向ける。


 父の言葉がまだ胸に残っている。


 ――未帰還は許さん。


 ――必ず生きて、お前のその笑顔を俺たち家族に見せろ。


 レイブンは小さく笑った。


「兄様?」


「何でもない」


「変なの」


「休暇だからな」


「休暇だと変になるの?」


「なるんじゃない?」


「なら私も休暇!」


「学校は?」


「……明日ある」


「駄目じゃん」


「兄様の意地悪!」


 ルナが頬を膨らませる。


 レイブンは笑いながら妹の頭を撫でた。


 家の奥から夕食の匂いがする。


 父が靴を脱ぎながら何かを言い、母がそれに言い返している。


 妹は兄の腕を引っ張り、早く部屋へ来いと急かしている。


 そんな何でもない時間の中で、レイブンは改めて理解した。


 自分が守ろうとしているものは、戦場そのものではない。


 戦場の向こう側にある、こういう時間なのだと。


 そして玄関には、新しい相棒が静かに置かれていた。


 |T-51《REAPER/リーパー》〕。


 後にSG-44と並び、〔無名(ノックス)〕――NoXを象徴することになる兵装。


 その銃を父から託された日。


 レイブン・S・クロウは、いつもの笑顔を家族のもとへ持ち帰った。


 約束通りに。


 そしてこれからも、その約束を守るために帰還し続けるつもりだった。

正式採用型 T-51《REAPER》

帝国軍正式名称:

T-51 Heavy Anti-Materiel Rifle

《REAPER/リーパー》

ここでの「T」は、帝国軍における大型精密射撃火器の制式分類記号として定義できます。



したがって、兵士たちは「AMR-51」ではなく、T-51。または単純に、REAPERと呼称します。

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