Season 4「NoX」 #038
第38話 「三発の重さ」
帝政歴345年、秋。
レイブン・S・クロウ、十八歳。
帝国陸軍特殊即応群第三特殊即応大隊第二中隊第一即応班へ配属されてから、およそ一か月が経過していた。
訓練基地を卒業した三週間後に現在の部隊へ着任し、そこから特殊即応部隊独自の連携訓練や通信教育、〔透明〕と軍用装備を併用するための試験を重ねた末、昨日、レイブンは初めて実戦へ出た。
西部方面軍第七偵察小隊、六名。
敵との接触によって負傷者を出し、異界側武装勢力から追跡を受けながら後退していた彼らを救出することが、第一即応班へ与えられた任務だった。
六名は帰還した。
第一即応班も、誰一人欠けることなく基地へ戻っている。
任務そのものは成功だった。
それでも、その翌朝に目を覚ましたレイブンは、自分が昨日までと同じ人間なのか分からなくなっていた。
営舎の窓から差し込む夜明け前の光は弱く、薄暗い室内には同室の兵士たちの寝息だけが残っている。レイブンは寝台の上で身体を起こすと、右肩に残っている鈍い痛みに気づいて手を添えた。
負傷ではない。
SG-44の反動による筋肉痛だった。
訓練では何度も撃っている。
父ヴァルターから試作段階のSG-44を渡されて以来、射撃姿勢も反動の逃がし方も、身体が勝手に動くほど繰り返してきた。
それなのに、昨日撃った三発だけは肩から消えてくれなかった。
レイブンは右手を膝の上へ置き、ゆっくりと開いた。
昨夜は震えていた。
帰還する装甲車の中で、エミリアに指摘されるまで自分でも気づかなかったほどだった。
今はもう震えていない。
それでも目を閉じれば、森の中でSG-44を構えた瞬間が戻ってくる。
木々の向こうから追ってくる人影を照準器の中へ収め、自分の意思で引き金を引いた。
一発。
反動。
火薬の臭い。
位置を変え、もう一発。
そして三発目。
命中したかどうかは確認していない。
確認する必要がなかったからだ。
目的は敵を倒すことではなく、負傷した偵察兵たちを連れて帰ることだった。追撃を止められれば、それ以上戦う理由はなかった。
その判断が間違っていたとは思わない。
ただ、自分が撃った弾の先に人がいたという事実だけが、どうしても訓練と同じようには処理できなかった。
「……起きてたのね」
入口から聞こえた声に、レイブンは顔を上げた。
軍服姿のエミリア・ヴァイス少尉が立っていた。
第一即応班の戦闘技術士官であり、作戦行動中は〔鍛冶師〕と呼ばれる同期だった。
「エミリア?」
「おはよう」
「まだ起床時間前だぞ」
「あなたも起きてるでしょう」
「俺は……目が覚めただけ」
「私も似たようなものよ」
エミリアはそう言いながら近づき、持っていた一枚の紙をレイブンへ差し出した。
「昨日の装備使用記録。SG-44の分だけ先に上がってきた」
受け取ったレイブンは紙面へ目を落とした。
そこには武器番号、使用弾種、発射数、作動不良の有無などが簡潔に記載されている。
SG-44。
十二番径通常弾。
発射数、三。
作動不良、なし。
「……三発」
「自分で撃ったんでしょう?」
「覚えてるよ」
「じゃあ何?」
「もっと撃った気がしてた」
エミリアは少しだけ表情を和らげた。
「時間の感覚、おかしくならなかった?」
「なった」
「私も最初はそうだった。数秒しか経ってないのに長く感じたり、逆に何分も動いてたはずなのに一瞬みたいだったりする」
レイブンは使用記録から顔を上げた。
「昨日、初めて人に向けて撃った時に吐いたって言ってたよな」
「言ったわね」
「本当?」
「こんなことで嘘ついてどうするのよ」
エミリアは近くの椅子へ腰を下ろした。
「士官課程へ正式に移る前、警備任務で襲撃を受けたことがあったの。撃ち返して、その時は必死だったから何とも思わなかった。でも終わってから、自分の撃った弾が相手に当たってたって知って……駄目だった」
「怖かった?」
「怖かったわよ」
「今でも?」
「今でも」
レイブンは意外そうに彼女を見た。
「慣れないのか?」
「銃を使うことには慣れるし、撃たれた時にどう動くかも覚える。でも、人を撃つことまで平気になる必要はないでしょう」
その言葉を聞いた時、レイブンは昔、父から聞かされた言葉を思い出した。
「父さんも似たようなこと言ってたな」
「ヴァルター教官が?」
「『怖くなくなった兵士から先に死ぬ』って」
「それ、私も言われた」
レイブンは思わず眉を寄せた。
「父さん、誰にでも同じこと言ってるのか……」
「良い教えなんだからいいじゃない」
「家だとあんなに適当なのに」
「教官の家庭での姿なんて知りたくないわよ」
思わず二人で笑った。
大きな笑いではない。
それでも、昨日から胸の奥に引っかかっていたものが、ほんの少しだけ軽くなった。
起床時間を迎え、朝食を終える頃には基地も普段通りに動き始めていた。
午前八時。
第一即応班は作戦室へ集められた。
壁には昨日行動した帝国西部の森林地図が掲げられ、班長であるグレイヴ・ハルトマン大尉――〔巨神〕が、地図上へ移動経路を書き込んでいく。
「まず結果から確認する。救援対象、第七偵察小隊六名は全員生還。負傷者二名も生命に別状はない。第一即応班も戦死者、負傷者ともにゼロだ」
レイブンは地図を見ながら、その言葉を静かに聞いた。
十三人。
昨日、森へ入った十三人が全員戻ってきた。
「敵側の損害については確認していないし、確認する必要もない。昨日の任務は敵戦力の排除ではなく、友軍の救出と撤退支援だったからだ」
グレイヴが地図上の一点を指した。
「最初の接触から確認する。〔女狐〕」
「はい」
セリア・ノルト軍曹が立ち上がった。
「私と〔無名〕は第七偵察小隊を追跡中、前方約六十メートルで異界側武装兵三名を確認しました。ただし周辺の痕跡から後続戦力の存在が推測できたため、交戦せず南側へ迂回しています」
「判断は?」
「妥当だったと考えます。あそこで交戦していれば敵増援を呼び、第七偵察小隊との接触そのものが遅れていた可能性があります」
グレイヴが頷いた。
「〔無名〕」
「はい」
「お前はどう考えた?」
レイブンは少しだけ言葉を選んだ。
「最初は……撃とうとしました」
「見ていた」
「敵がいるなら、先に倒した方が安全だと思ったんです。でも〔女狐〕に止められて、迂回して、その後で第七偵察小隊と合流して……帰ってから考えたら、あそこで撃っていたら救援どころじゃなくなってたかもしれないって」
「そこから何を覚えた?」
レイブンは昨日の森を思い返した。
「戦えることと、戦う必要があることは、同じじゃない」
グレイヴの目が僅かに細くなった。
「忘れるな。特殊即応部隊が一番避けるべきなのは、戦えるという理由だけで戦闘を始めることだ」
「了解」
「お前のSG-44も同じだ」
グレイヴの視線がレイブンの隣に置かれた散弾銃へ移った。
「持っているから撃つんじゃない。必要だから撃つ。必要がなければ一発も撃たずに帰ってこい」
その言葉は、父がSG-44を手渡してきた日に聞いた教えと重なった。
――どんな時でも命ではなく、帰還するのに邪魔な敵を倒せ。
あの頃は、敵を倒して生き残れという意味だと思っていた。
今なら少し違って聞こえる。
帰るために必要でなければ、そもそも戦わなくていい。
詳報は撤退時の交戦へ移った。
「〔照準鏡〕」
ユリウス・ベルナー中尉が地図の前へ立った。
「俺からは〔無名〕の射撃について一つ。三発そのものには問題ない。ただ、二発目の後に同じ射撃位置へ残りすぎた」
「はい」
「SG-44は発砲音が大きい。撃てば位置を教えているようなものだ。二発撃った時点で移動すべきだった」
「三発目を撃つ前に?」
「状況による。ただし、昨日はそうする余裕があった」
レイブンは素直に頷いた。
「覚えます」
「もう一つ。〔殺気看破〕についてだ」
ユリウスは地図上に二つの点を記した。
「お前が感じた殺気の方向と、敵そのものの位置を混同するな。敵意が右から来たからといって、右側に一人だけいるとは限らない」
「〔女狐〕にも言われました」
「なら、これで二回目だ」
「三回目は?」
「言わせるな」
「……了解」
セリアが横で小さく笑っていた。
詳報が終わった後も、その日は休みにはならなかった。
午後、レイブンはセリアに連れられて屋外訓練区画へ向かった。
「〔透明〕を使って」
「ここで?」
「ここだから使うの」
言われるまま能力を発動する。
身体の輪郭が消え、装備が立てる音も、自分自身の臭いも失われていく。
完全に視認できなくなったレイブンへ、セリアが言った。
「そこから私の横まで歩いて」
レイブンは慎重に進んだ。
三歩目。
「止まって」
声が飛んだ。
能力を解除すると、セリアは地面を指した。
柔らかい土の上に軍靴の跡が残っている。
「姿は見えなくても、足跡は残る」
「分かってます」
「じゃあ、これは?」
セリアは近くに積まれていた乾いた落葉を地面へ薄く広げた。
「もう一回」
レイブンは能力を発動し、落葉を避けようと歩く。
だが一枚だけ踏んだ。
乾いた葉が割れた音そのものは〔透明〕によって消えたが、葉が砕けて動いた事実までは消えていない。
「……なるほど」
「あなたの能力は音を消す。でも世界そのものを止めるわけじゃない。枝を踏めば折れるし、泥を歩けば跡が残る。雨の中を走れば、見えない身体に当たった雨粒の動きで居場所を読まれるかもしれない」
「父さんにも、能力に頼るなって言われた」
「あなたのお父さんは正しいわね」
「知ってるみたいな言い方ですね」
「知ってるもの」
レイブンは能力を解除した。
「……え?」
「ヴァルター・クロウ。昔、短期間だけ講習を受けたことがある」
「父さんから?」
「ええ」
「聞いてないんですけど」
「あなたが聞かなかったんでしょう?」
「父さんも言わなかった」
「軍歴全部を息子に話す父親なんて珍しいと思うけど」
反論できなかった。
「どんな教官だった?」
レイブンが尋ねると、セリアは少し考えた。
「厳しかった」
「やっぱり」
「特に撤退訓練が」
「そこも変わらないな……」
「『敵を倒して帰れなくなるくらいなら、敵を残して帰れ』って何度も言われた」
レイブンは黙った。
父はずっと同じことを教えていたのだ。
自分だけにではない。
生徒にも。
部下にも。
おそらく、右腕を失う以前から。
夕方まで訓練を続けた頃には、レイブンの軍服は土で汚れていた。
営舎へ戻る途中、軍用郵便所へ寄った。
昨日は家族へ短い手紙しか書けなかったため、今日はもう少し長く書くことにした。
『父さん、母さん、ルナへ。
昨日の任務から帰って、今日は一日反省会と訓練でした。
詳しいことは書けないけど、父さんが昔言っていたことを少しだけ理解した気がします。
それから、父さん。
ここの部隊に父さんから訓練を受けた人がいました。
俺に何も言ってなかったよな?
今度帰ったら詳しく聞きます。逃げないでください。』
そこまで書いたところで、レイブンは少し笑った。
最後にルナへの文章を付け足した。
『ルナへ。
兄様は元気です。
ちゃんと帰ってきました。
勉強をさぼらないこと。
あと、父さんに訓練してもらう時は母さんにも一緒にいてもらってください。父さんは時々、加減という言葉を忘れます。』
手紙を封筒へ入れた。
宛先はクロウ家。
そこには父がいて、母がいて、九歳になった妹がいる。
帰る場所がある。
それを確認するだけで、不思議と安心できた。
初陣から一週間後、第一即応班へ二度目の実任務が与えられた。
今度の目的地は、異界門活動が確認された地域から約二十キロ離れた小さな村だった。
敵勢力との接触は確認されていない。
任務は住民避難の支援だった。
「俺たちが避難支援も?」
移動中の装甲車でレイブンが尋ねると、グレイヴは地図から顔を上げた。
「特殊即応部隊を何だと思っている?」
「偵察とか救援とか……」
「今からやるのも救援だ」
「確かに」
「それに、敵がいないという情報は昨日のものだ」
グレイヴはレイブンのSG-44を顎で示した。
「持っていけ」
「戦闘がなくても?」
「使わず帰れたら、それが一番いい」
村へ到着すると、レイブンが想像していたものとは違う混乱が待っていた。
砲撃も銃声もない。
それでも住民たちは慌ただしく家財を荷車へ積み込み、家畜を追い、避難を嫌がる老人を家族が説得していた。
レイブンはSG-44を背中へ回し、荷物を抱えていた老人へ近づいた。
「持ちます」
「軍人に家具を運ばせるために税金払っとるんじゃないぞ」
「今日は家具を運ぶのも任務です」
「若いくせに口が達者だな」
「父親譲りです」
「なら父親に文句を言っとけ」
「帰ったら言います」
老人から荷物を受け取った時、少し離れた場所で泣いている少女が目に入った。
オットー・バルク軍曹――〔城壁〕が、その大きな身体を小さくするようにしゃがみ込んでいる。
「どうしたんです?」
レイブンが近づくと、オットーが答えた。
「飼い猫が逃げたらしい」
「猫?」
少女が涙を拭きながら頷いた。
「ミルが……いないの……」
「どんな猫?」
「白い猫……」
その瞬間、レイブンの頭に妹の姿が浮かんだ。
「最後に見たのは?」
「お家……」
レイブンは無線機へ手を伸ばした。
「〔無名〕より〔巨神〕。住民一名の家族が行方不明です。捜索許可を」
『特徴は?』
「白い猫です」
無線の向こうが数秒静かになった。
『……猫か』
「本人にとっては家族です」
また少し沈黙した。
『十分だけ許可する。それ以上は避難計画に影響する』
「了解」
レイブンは少女の家へ走った。
〔殺気看破〕は使えない。
敵意を持たない猫を見つける能力ではないからだ。
物置の下、家屋の隙間、荷車の陰を一つずつ確認する。
「ミル!」
名前を呼びながら納屋の裏へ回った時、小さな鳴き声が聞こえた。
木箱の隙間に白い猫が縮こまっている。
「……いた」
近づくと猫はさらに奥へ逃げようとした。
レイブンはSG-44を完全に背中へ回し、ゆっくりしゃがんだ。
「大丈夫。怖くないから」
当然、言葉が通じるわけではない。
それでも急に掴まず、時間をかけて手を伸ばした。
最後には手の甲を引っかかれたものの、何とか抱き上げることができた。
少女のところへ戻ると、彼女は白猫を受け取った瞬間に泣きながら抱きしめた。
「ありがとう、お兄ちゃん」
レイブンは、その呼び方に一瞬だけ言葉を失った。
ルナとほとんど変わらない年齢だった。
「……どういたしまして」
村から最後の避難車両が出発するまで、SG-44は一発も発砲されなかった。
帰路の装甲車で、エミリアがレイブンの手の甲を見つけた。
「怪我してるじゃない」
「猫にやられた」
「初陣では無傷だったのに?」
「言うな」
「報告書に書く?」
「絶対やめろ」
「負傷者一名。原因、白猫による攻撃」
「エミリア」
「何?」
「本当にやめてください、ヴァイス少尉」
「急に階級を使わないでよ」
オットーが堪えきれず笑い、それにつられて車内にも笑いが広がった。
レイブンも笑った。
一週間前、初陣から帰った夜には、こんなふうに笑えるとは思わなかった。
窓の外へ視線を向ける。
夕暮れの街道を、避難民の車列が帝国領の内側へ向かって進んでいた。
一週間前、自分は三発撃った。
今日は一発も撃っていない。
それでも一つの村から住民を避難させ、一匹の猫を家族のもとへ戻した。
どちらも第一即応班の任務だった。
レイブンは膝の間に置いたSG-44へ手を添えた。
武器を持っているからといって、毎回撃つ必要はない。
むしろ、撃たずに全員帰れるなら、その方がいい。
自分が軍へ志願すると決めた頃、父へ話した言葉を思い出す。
どんな場所へでも駆けつけられる、即応の守護者になりたい。
そこには最初から、敵を何人倒したいなどという言葉は入っていなかった。
基地へ戻る頃には、日が沈み始めていた。
車両が正門を通過した時、通信機からニーナ・フェルト曹長――〔反響〕の声が聞こえた。
『第一即応班、全員の帰還を確認』
その報告を聞いたレイブンは、ほんの少しだけ肩の力を抜いた。
十三人で帰った初陣。
誰も撃たずに帰った二度目の任務。
どちらにも共通していることが一つだけある。
帰ってきた。
それこそが、父がSG-44とともに自分へ教えようとしていたことなのだと、十八歳のレイブンはようやく理解し始めていた。
その夜、装備を返却するため整備棟へ向かっていると、廊下の向こうから別部隊の兵士が歩いてきた。
「おい」
呼ばれたレイブンが足を止める。
「はい?」
「お前が〔無名〕か?」
レイブンは少しだけ驚いた。
第一即応班以外の人間から、その名で呼ばれたのは初めてだった。
「そうですけど」
「西部で第七偵察小隊を拾ってきた新人だろ」
「俺一人じゃありません。第一即応班全員です」
「分かってるよ」
兵士は軽く手を上げ、そのまま通り過ぎていった。
レイブンはしばらく廊下に立っていた。
〔無名〕。
訓練兵時代には、名前すら決まっていない新兵という意味で与えられた呼び名だった。
けれど今、その名前を知らない兵士が、自分をその名で呼んだ。
レイブンはSG-44の銃床へ目を落とした。
そこには父が刻んだ Crow Raven の文字がある。
本名はレイブン・S・クロウ。
軍で呼ばれる名はNoX。
二つの名前を持つ生活が、ようやく始まったのだと実感した。
整備棟の扉を開ける。
中ではエミリアが待っていた。
「遅い」
「ちょっと呼び止められてた」
「誰に?」
「知らない兵士」
「何て?」
レイブンは少しだけ笑った。
「〔無名〕って」
エミリアは一瞬だけ目を丸くしたあと、すぐに工具箱をレイブンへ押しつけた。
「なら、有名になる前に自分の銃くらい整備できるようになりなさい、〔無名〕」
「もうできるって」
「じゃあ分解」
「はいはい」
「返事は一回」
「……はい」
レイブンは苦笑しながら作業台へSG-44を置いた。
外では夜間警戒へ向かう車両のエンジン音が聞こえ、通信棟では今も各地から報告が届き続けている。
戦争は終わっていない。
異界門も消えてはいない。
明日、どこへ派遣されるのかも分からない。
それでも今夜はここにいる。
帰ってきた仲間がいる。
家には父と母とルナがいる。
レイブンはSG-44から弾倉を外し、慣れた手つきで機関部を開いた。
そして作業を始める前に、銃床に刻まれた文字を一度だけ親指でなぞった。
Crow Raven.
その文字の持ち主は、まだ自分が時代から取り残される日が来ることなど考えもしないまま、隣で整備記録を広げるエミリアと言い合いながら、次の任務に備えて愛銃を分解していった。




