Season 3「志願兵」 #036
「名を捨てなかった者」
訓練基地を卒業してから三週間が過ぎた朝、レイブン・S・クロウは帝国軍の輸送車に揺られながら、膝の上に置いた配属命令書へ何度目か分からない視線を落としていた。
十八歳となった彼が軍人として初めて受け取った正式な配属命令書には、見慣れない部隊名が記されている。
帝国陸軍特殊即応群、第三特殊即応大隊。
その名称だけを見れば精鋭歩兵部隊の一種にも思えるが、命令書に添付された任務概要を読めば、一般的な歩兵部隊とは明確に役割が異なっていることが分かった。敵地や戦闘地域における偵察と索敵、友軍に先行して行う情報収集、行方不明となった部隊の捜索、孤立した味方への緊急支援に加え、必要と判断されれば撤退経路の確保や限定的な戦闘まで行う。さらに世界各地に異界門が開いた現在では、異界側勢力に関係する突発事態への初動対応も任務へ加えられていた。
命令書を初めて読んだ夜、レイブンは食卓で向かいに座っていた父へそれを渡した。
「帝国陸軍特殊即応群……」
ヴァルターは小さく読み上げたあと、しばらく黙ったまま任務概要を追っていた。
「父さん、この部隊を知ってる?」
「俺が現役だった頃にも、似た役割の部隊はあった。ただし、今は異界門まで相手にしなきゃならん。名前が同じでも中身はかなり変わっているはずだ」
「危険なところかな」
「軍隊に入ってから安全な配属先を探すな」
あまりにも父らしい答えにレイブンが苦笑すると、隣で聞いていたセレナが夫を横目で睨んだ。
「あなた、もう少し安心させる言い方はできないの?」
「下手に安心させた状態で送り出す方が危険だ。それに――」
ヴァルターは命令書へ目を戻し、そこに記された「緊急支援」の文字を指先で軽く叩いた。
「こいつが訓練を終えた日に言っていたことには近い」
その言葉を聞いたレイブンは、最終総合訓練から帰還した日に父へ話したことを思い出した。
家族を守るだけではなく、助けを求めている人がいるなら、どんな場所へでも駆けつけられるような即応の守護者になりたい。
長い訓練生活を経てようやく見つけた、自分が軍へ入った理由だった。
「まさか、あの話まで配属資料に入ってる?」
「俺に聞くな。ただ、最終評価の一部にはなっているだろうな」
「父さんに話したつもりだったんだけど」
「あの時は教官でもあった」
「そういう時だけ教官に戻るの、ずるくない?」
「軍隊とはそういうところだ」
そのやり取りを聞いていた九歳のルナは、特殊即応群という言葉の意味までは理解していなかったものの、兄が今までとは違う場所へ行くらしいことだけは察したらしく、不安そうに黒い猫耳を見上げてきた。
「兄様、遠くに行っちゃうの?」
「任務次第かな。でも、ずっと帰れないわけじゃないよ」
「ちゃんと帰ってくる?」
その問いにだけは迷う理由がなかった。
「帰ってくる。父さんにも、それだけは何度も言われてるからな」
レイブンが笑うと、ルナはようやく安心したように頷いた。
そんな家族との会話を思い返しているうちに、輸送車は市街地を離れて帝国軍の管理区域へ入り、やがて高い外壁と検問所に囲まれた基地が窓の向こうに現れた。
「クロウ二等兵、着いたぞ」
運転兵の声にレイブンは顔を上げ、配属命令書を胸元へ収めた。
「ありがとうございます」
荷物を持ち上げ、最後にSG-44の負い紐を確認してから車外へ降りる。秋へ向かい始めた乾いた風が髪と黒い猫耳の間を抜けていき、正面にはこれから自分が所属する基地が広がっていた。
特殊部隊という言葉から想像していたほど、外見そのものに特別なところはなかった。営舎、通信施設、整備棟、車両庫、射撃場が機能ごとに分けられ、訓練基地でも見慣れた帝国軍施設が並んでいる。
ただし、内部を歩いている兵士たちの装備は一般部隊よりも明らかに個人差が大きかった。
同じ軍服を着ていても、ある者は大型通信機を背負い、別の者は通常歩兵ではあまり見ない光学観測装置を携行している。武器についても小銃だけに統一されておらず、それぞれが任務に合わせて装備を選択していることが一目で分かった。
受付で着任手続きを終えたレイブンは、第三特殊即応大隊第二中隊の区画へ向かい、指定された部屋の前で一度だけ制服を整えてから扉を叩いた。
「入れ」
低く落ち着いた声が返ってくる。
「失礼します」
中へ入ったレイブンは机の前まで進み、姿勢を正して敬礼した。
「レイブン・S・クロウ二等兵、本日付で着任しました」
机に座っていた灰狼系亜人の男が書類から顔を上げた。
四十歳前後に見える男で、短く整えた灰色の髪には僅かに白いものが混じっている。体格は特別大きいわけではなかったが、レイブンが部屋へ入ってから一度も無駄に視線を動かしていないことから、長く実戦に身を置いてきた人物なのだろうと感じられた。
「楽にしろ」
「はい」
男は手元の人事資料へ視線を戻した。
「レイブン・S・クロウ、十八歳。SG-44高適性。個人スキル二種を確認。最終総合訓練では先行偵察、索敵、友軍撤退支援において高評価……記録だけを読むと、随分と忙しい訓練兵だったらしいな」
「自分では普通に訓練していたつもりです」
「普通の訓練兵は撤退する仲間を逃がすために、追撃役を一人で足止めしようとはしない」
「その件なら、その後かなり怒られました」
「そこまで記録されている」
「……そこまで書かれてるんですか」
男の口元が僅かに緩んだ。
「グレイヴ・ハルトマン大尉。第三特殊即応大隊第二中隊、第一即応班の班長を務めている。作戦行動中のコールサインは〔巨神〕だ」
「よろしくお願いします、ハルトマン大尉」
「基地内ではそれでいい。作戦中は〔巨神〕と呼べ」
「了解しました」
グレイヴの視線がレイブンの肩へ移った。
「それがSG-44か」
「はい。自分用に調整された試作系統です」
「確認しても?」
レイブンはSG-44の安全状態を確認してから差し出した。
グレイヴは受け取ると、まず重量を確かめるように両手で持ち替え、そのまま銃床を肩へ当てた。
「散弾銃にしては軽いな。重心も前へ寄りすぎていない」
「父が試作段階から重量と取り回しについてかなり厳しく言っていたそうです」
「父親が開発者なのか?」
「元帝国軍人です。右腕を失って予備役へ移ったあと、新式武器の開発協力をしていました」
「なるほど」
グレイヴはSG-44を下ろし、銃床へ刻まれた筆記体を見つけた。
Crow Raven
「本人の名前か」
「父が勝手に刻みました」
「嫌だったか?」
「最初は恥ずかしかったですけど、今は結構気に入ってます」
「なら本人には言わない方がいい。父親は息子が気に入ったと知ると、次も余計なことをする」
「大尉も父親なんですか?」
グレイヴはSG-44を返しながら、僅かに目を細めた。
「新人。質問が一つ多い」
「失礼しました」
「まあいい。班員を紹介する。ついてこい、〔無名〕」
レイブンはSG-44を肩へ戻しかけたところで手を止めた。
「……大尉」
「何だ」
「今、〔無名〕と呼びました?」
「呼んだが」
「それは訓練兵時代だけのコールサインだったはずです」
グレイヴは廊下へ出ながら、後ろからついてくるよう手で促した。
「普通なら新しい部隊へ移った時点で変更される。実際、お前と同じ訓練課程を出た者の大半は、新しい任地で別のコールサインを受け取っている」
「なら、どうして俺だけ残ってるんです?」
「お前の場合、訓練記録の多くが〔無名〕の名で残っているからだ。SG-44の適性評価、精鋭大隊との偵察演習、〔透明〕の発現確認、最終総合訓練での友軍撤退支援まで、重要な評価項目のほとんどがその名前と結びついている」
「記録上の都合ですか?」
「それだけなら変更する。ただ、特殊即応群側で人事資料を確認した時、その名前がお前の任務適性と妙に噛み合っているという話になったらしい」
「〔無名〕が?」
「姿を悟られずに先行し、敵の位置を探り、必要なら味方を助けて消える。そんな役割の兵士に、わざわざ目立つ名前を付け直す必要もないだろう」
レイブンは思わず苦笑した。
「それ、単に新しい名前を考えるのが面倒だっただけじゃないですか?」
「可能性はある」
「そこは否定してくださいよ」
「軍隊のコールサインに夢を持ちすぎるな」
三週間前、卒業の日にミレイアから「さよなら、《NoX》」と言われたことを思い出した。
あの時は自分も、新兵時代の名を基地へ置いていくつもりだった。
しかし再び呼ばれてみると、不思議と嫌ではない。
「変更を希望するなら申請できる」
グレイヴが言った。
レイブンは少し考えてから首を振った。
「いえ。そのままでお願いします」
「理由は?」
「その名前で覚えたことまで捨てる必要はないかなって」
グレイヴは僅かに頷いた。
「分かった。なら今日から〔無名〕は訓練兵の仮称ではなく、第一即応班所属の正式なコールサインとして扱う」
「了解、〔巨神〕」
「切り替えが早いな」
「そこは訓練で散々やりましたから」
第一即応班の待機室へ入ると、レイブンは見覚えのある赤茶色の髪を見つけて足を止めた。
机の上には分解された小銃と測定器具が並び、その中央で部品の摩耗状態を書き込んでいた女性兵士が顔を上げる。
目が合った途端、彼女も手を止めた。
「……レイブン?」
「エミリア?」
「なんでここにいるの!?」
「それ、俺の台詞だよ。お前、兵站か支援系に行くって言ってなかった?」
「私だってそのつもりだったわよ!」
エミリア・ヴァイス。
最終総合訓練の十一日目、SG-44の弾薬が底をつきかけたレイブンのもとへ戻り、十二番径訓練弾が満載された二十五発マガジンを渡してくれた同期だった。
グレイヴが二人を見比べる。
「知り合いなのは聞いていたが、同じ班になるとは思っていなかったらしいな」
「同じ訓練課程でした」
エミリアが答えた。
「ヴァイス少尉は戦闘技術士官として配属されている。武器、弾薬、個人装備の実戦運用を確認し、必要に応じて現地調整と火力支援も担当する。作戦時のコールサインは〔鍛冶師〕だ」
「少尉?」
レイブンは思わずエミリアを見直した。
「士官課程の追加適性審査を受けたら、そのまま戦闘技術職へ回されたの」
「じゃあ、今は俺の上官?」
「階級だけならね」
レイブンはわざと姿勢を正した。
「よろしくお願いいたします、ヴァイス少尉殿」
「やめて。ものすごく気持ち悪い」
「じゃあエミリアで」
「戻すの早すぎない?」
室内に小さな笑いが起こった。
その中から、人間種の男性士官が立ち上がった。二十代後半ほどで、黒に近い褐色の髪を短く整え、細身ながら鍛えられた体つきをしている。
「ユリウス・ベルナー中尉。第一即応班副班長、精密射撃担当。コールサインは〔照準鏡〕だ」
「レイブン・S・クロウ二等兵、〔無名〕です。よろしくお願いします」
握手を交わしたユリウスは、レイブンのSG-44へ一度だけ目を向けた。
「先行偵察を担当すると聞いている。透明になれるからといって、味方からまで消えるなよ」
「それ、配属されてからもう二回目です」
「二回言われるだけの理由があるということだ」
「……気をつけます」
「気をつけるじゃなく直せ。見えない味方は援護できん」
レイブンが返事に困っていると、通信端末の前に座っていた灰色猫系亜人の女性が笑った。
「ニーナ・フェルト曹長。電子索敵と通信を担当してる。コールサインは〔反響〕。あなたの〔透明〕、時間ができたら一度ちゃんと測定させて」
「測定?」
「通信機を装着したまま発動した時に、電波まで消えるのか確認したいの。姿、音、臭いが消えても、装備が出している信号まで消えるとは限らないでしょう?」
その可能性はレイブン自身も考えていなかった。
「もし信号が残ったら、姿が見えなくても位置を探知される?」
「そういうこと。だから実戦で困る前に調べる」
「お願いします、〔反響〕」
「素直でよろしい」
その隣では、大柄な熊系亜人が装備箱を床へ置いた。
「オットー・バルク軍曹。突入支援と撤退援護を担当している。コールサインは〔城壁〕だ」
「よろしくお願いします」
「新人、装備が重すぎると思ったら早めに言え。無理して腰を壊すと長引く」
「経験者ですか?」
「俺がやった」
「軍曹本人だったんですか」
「だから忠告している」
真顔で答えるオットーに、レイブンは思わず笑ってしまった。
最後に、壁際で装備を点検していた白金色の髪を持つ狐系亜人の女性が顔を上げた。
「セリア・ノルト軍曹。近接偵察、追跡、潜入担当。〔女狐〕」
「よろしくお願いします」
「あなたが〔透明〕の使い手ね」
「はい」
「能力が優秀だからって、偵察そのものが上手いと思わないこと。透明になっても草を踏めば倒れるし、砂を歩けば足跡が残る。雨の中なら身体に当たった水の流れだって見える」
旧市街地で能力を使った時、埃や水たまりを避けて歩いた記憶がレイブンの中に蘇った。
「父にも、能力へ頼り切るなと言われました」
「なら忘れないで。あなた自身が世界から消えるわけじゃない」
「了解、〔女狐〕」
一通り紹介が終わると、グレイヴは壁に掲げられた広域作戦地図の前へ移動した。
「〔無名〕、お前の役割を確認しておく」
「はい」
「第一即応班は、情報の足りない場所へ通常部隊より先に入る。敵の位置が不明なら探し、孤立した味方がいれば接触し、撤退路が必要なら確保する。戦闘は必要なら行うが、敵を倒すことそのものを目的にはしない」
レイブンはSG-44を初めて父から渡された日のことを思い出した。
どんな時でも命ではなく、帰還するのに邪魔な敵を倒せ。
あの言葉が、今までより現実的な意味を持って聞こえてくる。
「お前には〔殺気看破〕による近距離索敵と、〔透明〕を利用した先行偵察を担当してもらう。ただし、一人で全部やろうとは考えるな」
「……やっぱり言われますか」
「訓練記録に『単独で危険を引き受ける傾向あり』と書かれている」
「誰がそんなことを?」
「複数の教官だ」
「父さんも混じってそうだな……」
「そこまでは知らん」
グレイヴは地図から離れ、班員たちへ視線を向けた。
「〔照準鏡〕がお前を遠距離から援護し、〔反響〕が索敵情報と通信を繋ぐ。〔女狐〕がお前の見落とした痕跡を拾い、〔城壁〕が撤退路を維持する。〔鍛冶師〕は武器と装備を動かし続け、俺が全体を見て進退を決める。一人で何でもできる兵士を作るための部隊ではない」
最終総合訓練でミレイアに言われた言葉が、レイブンの中に戻ってきた。
自分だけが誰かを守るのではない。仲間もまた自分を守っている。
「了解しました、〔巨神〕」
その返事とほぼ同時に、ニーナの通信端末から短い警告音が鳴った。
先ほどまで柔らかかった彼女の表情が変わり、受信内容を確認した瞬間には通信担当者の顔になっていた。
「〔巨神〕、西部方面軍から緊急支援要請」
ユリウスは会話を止めて装備へ手を伸ばし、オットーも先ほど閉じた装備箱を開く。セリアは点検していた装具を身につけ始め、エミリアも机の上に広げていた部品を手早く片づけた。
「内容を」
「帝国西部、国境線から東へ約四十キロ。偵察任務中の帝国軍小隊が異界側武装勢力と接触し、現在は負傷者を伴って後退しています。敵から追跡されている可能性があり、通信状態も不安定です」
支援要請という言葉を聞いた瞬間、レイブンは最終総合訓練十一日目の無線を思い出した。
あの時も仲間が追われていた。
負傷判定を受けた者を連れ、撤退しながら支援を求めていた。
ただし、あの時に撃たれた弾は訓練弾であり、負傷した者も演習規則に従って脚を使わなかっただけだった。
今度は違う。
通信の向こう側には、本当に傷ついた兵士がいる。
「〔巨神〕」
「何だ、〔無名〕」
「俺たちが行くんですか?」
グレイヴは作戦地図で座標を確認しながら、当然のことを答えるように頷いた。
「そのための第一即応班だ」
怖くないわけではなかった。
訓練で何度敵役を相手にしても、本物の戦場で撃たれた経験は一度もない。身体の奥には確かな緊張があり、SG-44を握る手にも普段より僅かに力が入っている。
それでも、レイブンには自分がなぜここにいるのかが分かっていた。
「第一即応班、出動準備。十五分後に車両庫へ集合する」
グレイヴの命令で全員が動き始めた。
レイブンもSG-44を身体の前へ回して安全状態を確認し、支給された十二番径通常弾を装具へ収めていくと、隣へ来たエミリアが弾薬表を見ながら尋ねてきた。
「〔無名〕、携行弾数は?」
「規定数」
「予備マガジンは?」
「ある」
「本当に?」
「信用ないなあ」
「最終訓練で弾切れ寸前になった人を信用しろって?」
「あれは十一日目だったんだから仕方ないだろ」
「今回は実戦よ。仕方ないじゃ済まない」
同期だった頃と変わらない話し方だったが、エミリアの目は笑っていなかった。
レイブンもそれを察し、もう一度すべての弾薬を数え直した。
「通常弾、規定数。予備マガジンも全数確認」
「よし」
「もし足りなくなったら?」
「補給できる状況なら持っていく。でも無計画に撃ち切ったら、帰還後に私が説教する」
「了解、〔鍛冶師〕」
「分かればいい」
十五分後、第一即応班は特殊即応部隊用の装甲車へ乗り込んでいた。
エンジンが始動すると車体全体へ低い振動が伝わり、向かい側に座ったグレイヴが班員全員の顔を確認する。
「任務目的は敵の撃破ではない。偵察小隊との接触、負傷者の確保、そして安全圏までの撤退支援を最優先する。敵との交戦は目的達成に必要な範囲へ限定しろ」
レイブンはSG-44を両膝の間で支えながら聞いていた。
「〔無名〕」
「はい」
「現地到着後、〔女狐〕と先行して偵察小隊の痕跡を探せ。初実戦だからといって特別扱いはしないが、分からないことを分かったふりだけはするな」
「了解しました」
「それと、必ず帰れ」
その言葉を聞いたレイブンは、ほんの少しだけ目を伏せた。
訓練司令官にも、父にも同じことを言われている。
家では母とルナが待っている。
帰還することまで含めて任務なのだと、もう何度も教えられてきた。
「了解、〔巨神〕」
装甲車がゆっくりと動き始める。
基地正門の遮断柵が上がり、帝国西部へ延びる軍用道路が車窓の向こうへ開けていった。
レイブンは遠ざかっていく基地を一度だけ振り返ったあと、銃床に刻まれた Crow Raven の文字へ親指を添えた。
その銃を手渡した父の言葉も、訓練の最後に見つけた自分自身の答えも、今度は演習場ではなく実際の戦場で確かめることになる。
誰かを連れて帰るだけでは足りない。
自分も帰らなければならない。
そう心の中で確かめると、レイブン・S・クロウはSG-44を握り直し、第一即応班の仲間たちとともに、支援を求める声が待つ帝国西部戦域へ向かっていった。




