↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫年代記  作者: @12
第二部 ~Ⅱ~ FENRIR ― 戦狼となった黒猫 ― Season 4 #067~
PR
133/189

Season 8「継ぐ者、見守る者」 #133

第133話「父親が戻る場所」

 リリアとルークがクロウ家へ帰ってから、数週間が過ぎた。

 朝の家には、以前にはなかった生活の順序が生まれつつあった。

 先に目を覚ますのがレイブンとは限らない。リリアが声を上げ、その気配につられるようにルークが身体を動かし、二人の声を黒い猫耳が拾った瞬間、レイブンの意識が眠りから引き上げられる。戦場で微かな異音を捉えた時ほど鋭く身体を起こす必要はないと分かっていても、長年染みついた反応までは簡単に変わらなかった。

 その朝も、レイブンはエリシアより先に目を覚ました。

 隣を見る。

 エリシアはまだ眠っている。

 出産直後に比べれば体調はかなり戻ってきたものの、完全に以前の状態へ戻ったわけではない。本人は少しずつ身体を動かしたがっているが、レイブンも医師も、そして何よりフィーナ・アルベル《Sage》が急ぐことを許していなかった。

 レイブンは寝台を抜け出し、子供たちのところへ向かった。

 先に起きていたのはリリアだった。

「おはよう」

 小さく声をかける。

 当然、言葉は返ってこない。

 それでも最近は話しかけることに抵抗がなくなっていた。

「今日は父さん、少し出るからな」

 リリアが手を動かした。

「聞いてる?」

「聞いてるわけないでしょう」

 後ろからエリシアの声がした。

「起きてたの?」

「途中からね」

「寝てていいのに」

「毎朝それ言うつもり?」

「必要なくなるまでは」

 エリシアが隣へ来る。

「今日からでしょう?」

「ああ」

 レイブンは頷いた。

 WOLF PACKへの段階的な復帰。

 長期離脱ではなかったが、リリアとルークの出生前後は副指揮をHoundへ大きく委ねていた。緊急時には戻れる状態を保ちながら、日常的な訓練、報告、装備評価、部隊調整については意図的に距離を置いていた。

 今日から、その一部へ戻る。

「不安?」

 エリシアが尋ねる。

「任務の方?」

「家を離れる方」

 レイブンは少し考えた。

「両方」

「正直ね」

「ここで格好つけても仕方ないだろ」

「前なら『問題ない』って言ってたと思う」

「前とは違う」

 レイブンはリリアを見て、それから眠っているルークを見る。

「帰ってくる理由が増えた」

 エリシアは何も言わず、夫の肩へ軽く触れた。

 朝食を終えた後、レイブンは久しぶりに任務用の装備へ袖を通した。

 黒猫系亜人である彼の身体へ沿って、バイオ・タクティカル・ウェアが馴染んでいく。以前の戦闘服のように、身体の側が装具の位置へ合わせる必要はない。肩を回し、腰を捻り、軽く屈伸すると、素材が筋肉の動きと姿勢の変化へ追従した。

 その上から装着したモジュラー・ハーネスも、固定された一種類の配置を強制しなかった。

 レイブンが腕を動かすたび、装備は猫系亜人特有の柔軟な姿勢変化を妨げない範囲へ収まる。尾の動きを阻害する位置には何も置かれず、重量も腰と胴体へ無理なく分散されている。

 レイブンは鏡の前で身体を左右へ捻った。

「どう?」

 エリシアが尋ねる。

「前の調整よりいい」

「耳は?」

「まだヘルメットは着けてない」

「そうだった」

 レイブンはスマート・セル・ヘルメットを持ち上げる。

 装着すると、内部の支持構造が頭部へ沿い、黒い猫耳の基部を避ける形で外殻が落ち着いた。耳そのものを硬い装甲の中へ押し込めることはなく、方向を変えるための可動域も残っている。

 右からエリシアが指を鳴らした。

 レイブンの右耳がそちらへ動く。

 続いて左。

 今度は左耳が反応した。

「何してるの?」

「聴覚確認」

「俺で遊んでない?」

「少しだけ」

「やっぱり」

 レイブンはヘルメットを外した。

「前より自然だ。少なくとも首を動かさなくても方向は取れる」

「実戦では?」

「今日は実戦じゃない」

「分かってる。聞いただけ」

「そこは訓練で確認する。装備が対応してるからって、俺自身が確認しなくていい理由にはならない」

 エリシアは頷いた。

「あなたらしいわね」

 レイブンはSmart-Visorを最後に確認した。

 表示は正常。

 UAESとの接続も成立している。

 だが、それだけで装備を信用するつもりはない。

 Smart ARとの接続を一度切る。

 表示が消えても、装具そのものは形状を維持していた。

 肩を動かす。

 問題ない。

 再接続。

 視界の端へ装備状態が戻る。

「そこまでやる?」

「通信が生きてる前提の装備は嫌いなんだ」

「知ってる」

「なら聞くなよ」

「言いたかっただけ」

 レイブンは苦笑した。

 玄関へ向かう。

 そこで足が止まった。

 以前なら装備を確認した時点で、そのまま外へ出ていた。

 今日は違う。

 振り返る。

 エリシアの腕にはリリアがいる。

 ルークはまだ寝床で眠っていた。

 レイブンは戻った。

「忘れ物?」

「違う」

 リリアの額へ指先で軽く触れる。

 次にルークを見る。

「行ってくる」

 エリシアが微笑んだ。

「いってらっしゃい」

 その言葉を聞いてから、レイブンは家を出た。

 FENRIRの訓練施設へ入ると、空気が変わった。

 銃声が響いているわけではない。

 警報もない。

 それでも人の歩き方、交わされる声、整備区画から聞こえる金属音、通信機器の短い確認音が、ここが家庭とは別の場所であることを身体へ思い出させる。

「おい」

 聞き慣れた声が飛んできた。

 レイブンが振り向く。

 ガイル・ベッカー《Hound》が立っていた。

 犬系亜人である彼の装備も、以前とは輪郭が少し変わっている。UAES対応の頭部装備は耳とマズルの形状を避けて構成され、モジュラー・ハーネスも前衛としての動きを邪魔しない位置へ収まっていた。

 ガイルはレイブンを上から下まで見る。

「……誰だ、お前」

「朝から喧嘩売ってる?」

「NoXが定刻より早く来てない」

「定刻には間に合ってる」

「昔のお前なら三十分前にいた」

「それを基準にするな」

「しかも顔が違う」

「何が」

「寝不足」

「赤ん坊が二人いるんだぞ」

 Houndが笑う。

「ようやく人間らしくなったな」

「猫系亜人だけど」

「そういう意味じゃねえ」

 奥からディートリヒ・ハイゼン《Grizzly》が歩いてくる。

 銀灰色の猫耳がレイブンへ向いた。

「戻ったか」

「ああ」

「子供は?」

「元気」

「エリシアは?」

「順調。まだ無理はさせない」

「そうしろ」

 それだけ言って、Grizzlyはレイブンの装備を見る。

「新型ハーネスか」

「調整版」

「尾の付け根は?」

「干渉なし」

「しゃがんだ時は」

「これから見る」

「なら先に試せ」

 Houndが呆れた顔をする。

「お前ら再会して一分で装備の話かよ」

「重要だろ」

 レイブンとGrizzlyの声がほぼ重なった。

「そういうところは何も変わってねえな」

 Houndが笑った。

 WOLF PACKの訓練区画には、すでに他の隊員も集まっていた。

 ミレイア・フェルン《Lynx》は偵察用の軽装構成を試しており、身体を低くした時に携行品が床や脚へ干渉しないかを確かめている。ヨハン・リヒター《Hawk》は人間種向け構成との重量差を記録し、フィーナ《Sage》は救護用品へ素早く手が届く位置を探していた。

 ノア《Cipher》だけは端末を見たまま、レイブンへ顔を上げる。

「おはようございます、NoX」

「おはよう」

「家庭復帰後初出勤ですね」

「その言い方やめろ」

「Houndがそう記録しろと」

「してねえよ!」

 遠くからHoundの声が飛んできた。

 Cipherは表情を変えない。

「冗談です」

「お前が言うと分かりにくい」

「改善します」

「そこじゃない」

 レイブンは小さく息を吐いた。

 だが、そのやり取りが懐かしかった。

 訓練が始まる。

 今日の目的は戦闘技能そのものではなく、UAESを装着した状態で基本動作にどのような変化が出るかを確認することだった。

 レイブンは最初から速度を上げなかった。

 立った姿勢から身体を低くし、遮蔽物を想定した位置へ移る。膝をつき、上体を捻ると、ハーネスが姿勢変化へ合わせて荷重を逃がした。

 腰を落とす。

 尾の動きを確認する。

 問題はない。

 だが次に身体を深く捻った瞬間、右脇腹の装具がわずかに引かれた。

 レイブンは動きを止める。

「Cipher」

「確認しています」

「右側。深く捻った時だけ抵抗が出る」

「Smart AR上では許容範囲です」

「俺の身体では邪魔だ」

 Cipherが端末へ記録する。

「了解。表示側の許容値も再検討します」

 レイブンは装具へ手を触れた。

「数値だけで適合判定するな。俺が気になる程度なら、もっと柔軟性が必要な種族じゃ動作を潰す」

「UAESの原則にも合致します」

「兵士を装備の許容範囲へ押し込むな。装備を兵士へ合わせる」

「記録しました」

 少し離れた場所でLynxが振り返った。

「NoX、こっちも一つ」

「何?」

「低姿勢ではいい。でも走ってから伏せると、左腰のポーチが少し前へ流れる」

「固定不足?」

「違う。固定を強くすると今度は腰が引かれる」

 レイブンは近づいた。

「体格差か」

「たぶん。私とNoXじゃ同じ猫系でも骨格が違うから」

「そこだな」

 同じ種族であっても、同じ身体ではない。

 UAESが対応しなければならないのは「猫系」という分類だけではなかった。

 一人ずつ違う。

 その当たり前を、共通規格の中でどこまで尊重できるか。

「調整値を別に取ろう」

「了解」

 レイブンは自分の装備へ戻った。

 Houndが横を通る。

「便利になった分、確認すること増えてねえか?」

「増えた」

「いいのか、それ」

「いい」

 レイブンは即答した。

「装備が人間種だけだった頃より面倒なのは当然だろ。俺たちの部隊には猫も犬も狐も人間もいる。FENRIR全体ならもっと多い」

「面倒だから同じ装備に押し込める、じゃ駄目ってことか」

「ああ」

 Houndは自分の頭部装備へ触れる。

「昔のヘルメット、耳が死ぬほど邪魔だったからな」

「お前、よく文句言ってたよな」

「耳畳めって言われた時は殴ろうかと思った」

「殴らなくてよかったな」

「今だから言えるけどな」

 Houndの犬耳が頭部装備の開口部で自然に動く。

「こいつは悪くねえ」

「完成じゃないぞ」

「分かってる。だから俺たちが文句言うんだろ」

 レイブンは少し笑った。

「そういうこと」

 午前の訓練が終わる頃には、端末には相当な数の修正要求が並んでいた。

 猫系の耳周辺構造。

 犬系の頸部可動域。

 救護用品の配置。

 姿勢変化時の荷重移動。

 Smart ARとの同期遅延。

 装具が損傷した状態を想定したフェイルセーフ確認。

 どれも「UAESが使えない」という結論ではない。

 使えるからこそ、現場で不満が出る。

 その不満を消していくことが実用化だった。

 休憩に入ると、Sageがレイブンの前へ立った。

「座って」

「何で?」

「寝不足でしょう」

「普通」

「目の下」

「昔からある」

「脈」

「測る必要ある?」

「あります」

 反論する前に手首を取られた。

 Houndが横で笑っている。

「NoX、父親になってSageの患者枠に入ったな」

「笑うな」

「寝不足で判断鈍らせたら、俺が家に送り返すぞ」

 レイブンはHoundを見る。

「副指揮官権限?」

「友人権限」

「そんな権限ないだろ」

「今作った」

 Sageがレイブンの手を離した。

「大きな問題はありません。ただし睡眠不足は事実です。今日の予定以上には残らないでください」

「分かった」

 Houndが目を見開いた。

「素直だな」

「家でエリシアにも同じこと言われるから」

「なるほど」

「納得するな」

 昼を過ぎると、レイブンは予定通り訓練を切り上げた。

 以前なら、端末へ残された修正項目をすべて確認してから帰ろうとしただろう。

 今日は違う。

「Cipher」

「はい」

「今日のログまとめておいて。明日見る」

「了解しました」

「Hound」

「何だ」

「午後頼む」

「任せろ」

「Grizzly」

「問題ない」

 それだけで十分だった。

 レイブンは装備を外し、Smart-Visorをケースへ収める。

 施設を出る直前、通信端末が震えた。

 エリシアからだった。

『ルークが今日はよく泣くわ』

 続けて写真が届く。

 エリシアに抱かれたルークと、その隣で眠るリリア。

 レイブンは数秒見つめた。

 返信する。

『今から帰る』

 送信してから歩き出す。

 Houndが後ろから声をかけた。

「NoX!」

 レイブンが振り返る。

「何?」

「明日はもうちょい寝てこい!」

「努力する!」

「努力じゃなく寝ろ!」

 笑い声が訓練区画から聞こえた。

 レイブンは片手を上げ、そのまま施設を出た。

 帰宅すると、玄関を開けた瞬間にルークの声が聞こえた。

 猫耳が前を向く。

 靴を脱ぐ。

 荷物を置く。

 居間へ入る。

「ただいま」

「おかえり」

 エリシアが振り返った。

 腕の中にはルーク。

 リリアは近くで眠っている。

「まだ泣いてる?」

「さっきより落ち着いたわ」

「代わる」

「帰ったばかりでしょう?」

「だから代わる」

 レイブンは手を洗ってから戻り、ルークを受け取った。

 息子の身体を腕へ収める。

 朝より少し重く感じた。

 もちろん一日で大きく変わったわけではない。

 単に自分の腕が訓練で疲れているのだろう。

「今日どうだった?」

 エリシアが尋ねる。

「問題だらけ」

「UAES?」

「ああ」

「駄目だった?」

「逆」

 レイブンはルークをあやしながら答えた。

「問題を見つけられるところまで来た」

「なるほど」

「同じ猫系でも俺とLynxじゃ違う。Houndは犬系だからもっと違う。装備がそこまで追従できるか確認する必要がある」

「あなた、楽しそうね」

「そう見える?」

「少し」

 レイブンは否定しなかった。

「昔は装備に身体を合わせるのが普通だった。耳が邪魔なら我慢する。装具が合わなければ調整して、それでも駄目なら兵士側が慣れる。でも、それじゃ種族が増えるほど無理が出る」

「だからUAES?」

「ああ」

 レイブンはルークの黒い髪を見る。

「こいつが大きくなって、もし軍装備を着ることがあったとしても」

 そこで言葉を止める。

「軍人になるって決めたわけじゃないわよ」

「分かってる」

「ならいい」

「もしもの話だよ」

 レイブンは息子を見る。

「ルークの身体を装備に合わせるんじゃなくて、装備の方がこいつに合わせる。そういう世界の方がいい」

 エリシアは少し考えた。

「軍だけじゃないかもしれないわね」

「何が?」

「身体の違いに、道具の方が合わせるって考え方」

 レイブンは妻を見る。

「……確かに」

「リリアやルークが軍人にならなくても、そういう技術が役に立つ場所はあるでしょう?」

「あるだろうな」

 それ以上は言わなかった。

 UAESが軍の外でどのような形へ発展するかは、まだ誰にも分からない。今ここで未来を決める必要もなかった。

 ルークの泣き声が少しずつ弱くなった。

「寝た?」

「たぶん」

「動かない方がいいわよ」

「分かってる」

 レイブンはその場から動かなくなった。

 エリシアが笑う。

「NoXが完全に封じられたわね」

「今動いたら起きる」

「戦場より慎重」

「比較するなって」

 その時、眠っていたリリアが小さく声を上げた。

 レイブンとエリシアが同時にそちらを見る。

「起きたな」

「私が行く」

「無理するなよ」

「もう何度目?」

「必要なくなるまで言う」

「一生言いそう」

 エリシアがリリアを抱き上げる。

 二人は並んで子供たちを抱いた。

 外では夕暮れが街を覆い始めていた。

 FENRIRでは今も訓練が続いている。

 Smart ARの改良も、UAESの調整も、RCAを含む各国の相互運用も終わってはいない。異なる国家、異なる種族、異なる身体を持つ者たちが同じ場所で行動する以上、問題がなくなることはないだろう。

 それでも、問題があるから同じ形へ押し込めるのではなく、違いがあることを前提として仕組みの側を変える。

 レイブンは今日の訓練で、その考え方を何度も口にした。

 そして今、腕の中の息子を見ながら、ふと同じことを思う。

 親子も似ているのかもしれない。

 子供を親の形へ押し込めるのではない。

 リリアにはリリアの身体と考え方があり、ルークにはルークの身体と考え方がある。

 父親がNoXだからといって、息子がNoXになる必要はない。

 母親がValkyrieだからといって、娘がValkyrieになる必要もない。

 受け継ぐものがあっても、同じ形になる必要はなかった。

「レイブン」

「何?」

「また難しいこと考えてるでしょう」

「顔に出てた?」

「少し」

「今日、装備の調整してて思っただけ」

「何を?」

 レイブンはルークを見た。

「合わせる側を間違えちゃ駄目だなって」

 エリシアはすぐには答えなかった。

 やがて腕の中のリリアへ目を落とす。

「そうね」

 短い返事だった。

 それで十分だった。

 夜になり、子供たちが眠った後、レイブンは玄関近くに置いた任務用のケースを確認した。

 明日も訓練がある。

 だが今日はもう開かない。

 Smart-VisorもUAESの装備評価記録も、そのままにしておく。

 居間へ戻ると、エリシアが待っていた。

「仕事しないの?」

「明日やる」

「本当に変わったわね」

「そうかな」

「少しずつ」

 レイブンは隣へ座った。

 家の中には二人の子供の寝息がある。

 外にはFENRIRという戻るべき部隊がある。

 どちらか一方が偽物なのではない。

 どちらも自分の居場所だった。

 部隊へ戻ったから家族から離れたわけではなく、家族ができたから軍人でなくなったわけでもない。

 その二つを同じ自分の人生として持つ方法を、レイブンはまだ覚え始めたばかりだった。

 その夜、任務用のケースは玄関に置かれたまま開かれることはなかった。

 代わりに、しばらくして聞こえてきたリリアの小さな声にレイブンの黒い猫耳が動き、父親は何も言われる前に立ち上がった。

 明日になれば、NoXは再びWOLF PACKへ戻る。

 けれど今夜、この家で必要とされているのはNoXではなかった。

 レイブン・S・クロウという、一人の父親だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。