Season 7「停戦線」 #128
第128話「受け継がれる命」
第二次異界大戦の終結から数か月が過ぎる頃には、港湾自由都市フェルガリアから戦場だった頃の面影が少しずつ薄れ始めていた。
もちろん、巨大な港湾基地としての軍事的役割が消えたわけではない。FENRIRの艦艇は今も停泊し、帝国軍と連邦共和国軍の連絡施設も残っている。ヴァルグラント王政連合との間には終戦協定に基づく軍事連絡窓口が設置され、未知の異界門や海上異常に備える警戒態勢も維持されていた。
それでも、港を行き交うものは変わった。
砲弾より建築資材が多くなり、負傷兵を運んでいた車両が復興作業員を乗せて走るようになった。第二次異界大戦で破壊された連邦共和国東部では道路や鉄道、水道、病院の再建が進み、ヴァルグラントから派遣された工兵や技術者も、自分たちの軍が傷つけた土地を直す作業に参加している。
そしてフェルガリアの共同技術研究区画では、別の意味で大きな変化が起きていた。
思念伝達を起源とするSmart AR研究が、ついに研究室内だけの試験から実証実験へ移ろうとしていた。
◇
「視界良好。聴覚干渉なし」
レイブン・S・クロウ〔無名〕は、試作端末を装着したまま研究区画の試験路を歩いていた。
形状はまだ完成品とは呼べない。
それでも最初の机一つを占領していた装置と比べれば、驚異的な小型化だった。
眼鏡に近い装着形式。
視界を完全に覆わない透過型表示。
そして何より、黒い猫耳を一切塞がない。
「ここ重要だからな」
レイブンが言う。
『もう何度も聞いた』
通信越しにCipherが答える。
「猫系亜人に耳を覆う装備渡したら、それだけで状況認識落ちるんだぞ」
『分かったから前見ろ』
「前見てる」
『じゃあ表示されてる味方位置を確認』
レイブンは視線だけを動かした。
試験場の建物越しに、いくつかの位置情報が淡く表示されている。
ただし、壁の向こうを直接見ているわけではない。
外部の観測装置、試験参加者が意図的に送信した位置情報、既知の地図情報を統合し、「この付近にいる可能性が高い」と推定した表示だった。
その違いは重要だった。
「Hound、三十……いや、二十数メートル前方。建物裏」
『正解』
「Grizzlyは?」
『表示を信用する前に自分で考えろ』
「試験の意味ある?」
『そこまで含めて試験だ』
レイブンは少し笑った。
角へ近づく。
表示上では、建物の反対側にGrizzlyの位置を示す情報がある。
だが耳には別方向から足音が聞こえていた。
「表示ずれてる」
『どれくらい?』
「数メートル。実際はもっと右」
『原因確認』
Cipherの声の向こうで技術者たちが動き始める。
レイブンは角から顔を出した。
そこにGrizzlyがいた。
「まだ駄目だな」
「最初よりはマシだ」
「最初は俺を壁の中に埋めたからな」
「その話はいつまで言うつもりだ」
「完成するまで」
試作端末には、まだ後世の完成型Smart-Visorに備わるような機能群は揃っていない。思念伝達を利用した簡易位置共有、地図情報との重畳、味方識別、最低限の警告表示が中心であり、通信が乱れれば誤差も出る。
だからこそ、レイブンは表示を答えとして扱わなかった。
自分の耳。
目。
地形。
人の動き。
そこへ補助情報としてSmart ARを重ねる。
「便利にはなりそうだ」
試験を終えたレイブンが端末を外す。
「でも、これに頼りきった新兵が出たら怖いな」
Cipherが端末を受け取った。
「同感。表示が消えた瞬間に何もできなくなる装備なら失敗だ」
「教官課程に入れるなら、まず端末なしでやらせる」
「やっぱりそこに行くのか」
「道具は道具だろ」
少し離れた場所から、流暢な共通語が飛んできた。
「その意見には賛成する」
ゲルハルトだった。
ヴァルグラント側の技術士官たちと実証実験へ参加している。
「NoXは機械に厳しいな」
「機械だけじゃない」
Houndが横から言う。
「人間にも厳しい」
「知っている」
「お前ら仲良くなったな」
「不本意だ」
レイブンが返すと、ゲルハルトが笑った。
ほんの数か月前まで銃を向け合っていた二人だった。
今は同じ試作機の不具合について文句を言っている。
戦争が終わるというのは、もしかするとこういう小さな変化の積み重ねなのかもしれなかった。
◇
その日の実証試験を終えて家へ戻ったレイブンは、すぐに違和感に気づいた。
エリシアが静かだった。
普段から騒がしい性格ではない。
しかし今日の静けさは少し違う。
「エリシア?」
「なに?」
「何かあった?」
「どうして?」
「分かるから」
エリシアは夫を見る。
レイブンは上着を脱ぎながら、金色と黒のオッドアイを細めた。
「体調悪い?」
「……少し」
レイブンの動きが止まった。
「どこが?」
「そういう顔しないで」
「母さんにも言われたな、それ」
「私まで余命宣告されたみたいな顔してるわよ」
「その冗談、今は笑えない」
「ごめんなさい」
エリシアは少し迷ったあと、椅子へ座った。
「レイブン」
「うん」
「最近、生理が来てないの」
レイブンは黙った。
言葉の意味は分かっている。
だが、そこから先へ頭が進むまで少し時間がかかった。
「……どれくらい?」
エリシアが期間を答える。
レイブンはもう一度黙った。
「他には?」
「少し身体がだるい。それと、最近匂いに敏感になった気がする」
「病院」
「まだ妊娠って決まったわけじゃ――」
「病院行こう」
「レイブン」
「今」
「落ち着いて」
「落ち着いてる」
「全然落ち着いてない」
エリシアは思わず笑った。
「戦場より慌ててるじゃない」
「戦場なら何すればいいか分かるんだよ」
「こっちは?」
「分からないから病院行く」
論理だけは間違っていなかった。
エリシアも諦めた。
「分かった。行きましょう」
◇
病院へ到着したレイブンは、自分が診察されるわけでもないのに落ち着かなかった。
待合室の椅子へ座る。
立つ。
また座る。
数分後には再び立った。
「座って」
エリシアに言われる。
「座ってると落ち着かない」
「じゃあ歩き回らないで」
「どうすればいいんだよ」
「私が聞きたいわよ」
エリシアは呆れながらも笑っていた。
検査が始まると、レイブンは診察室の外で待つことになった。
その時間が異様に長く感じる。
第二次異界大戦の停戦交渉を待っていた時より長い。
紫空の世界で帰還路を探していた時とは違う種類の不安だった。
やがて呼ばれる。
診察室へ入ると、エリシアが座っていた。
医師もいる。
レイブンは妻の表情を見た。
泣いている。
だが悲しそうではない。
「エリシア?」
彼女が夫を見る。
「レイブン」
「うん」
エリシアは少し笑った。
「妊娠してるって」
レイブンは止まった。
「……本当に?」
「本当」
医師が検査結果について説明する。
レイブンは聞いている。
聞いているはずだった。
しかし最初の数秒間は、言葉がほとんど頭に入ってこなかった。
「それと」
医師が続ける。
レイブンがようやく意識を戻す。
「はい」
「確認できた範囲では、二人です」
「……二人?」
「双胎妊娠です」
エリシアがレイブンを見る。
「双子だって」
「双子……」
レイブンは椅子へ座った。
「大丈夫?」
「ちょっと待って」
額へ手を当てる。
「俺、父親になる?」
「そうみたい」
「二人?」
「二人」
「一度に?」
エリシアがとうとう吹き出した。
「双子なんだから一度に決まってるでしょう」
「いや、分かってるけど」
医師も少し笑っている。
さらに検査と説明が続いた。
現時点で確認できる範囲では、母体も子供たちも大きな異常は見られない。ただし双胎妊娠である以上、単胎より慎重な経過観察が必要になる。
そして後の検査で、二人の性別についても可能性が高いところまで確認された。
一人は女児。
もう一人は男児。
レイブンは説明を聞き終えるまで、珍しくほとんど質問しなかった。
診察室を出たあと、エリシアが不思議そうに夫を見る。
「静かね」
「処理できてない」
「何を?」
「全部」
二人は廊下の椅子へ座った。
レイブンが妻を見る。
それから、まだ外からは何も分からない腹部へ視線を落とす。
「ここに?」
「いるみたい」
「二人?」
「何回聞くの」
「だって……」
レイブンは言葉を失った。
数か月前、母を見送った。
その後を追うように祖母も亡くなった。
父からは、自分がいなくなった後も生き続けろと言われた。
クロウ家から二つの命が消えたばかりだった。
その家へ今度は、二つの新しい命が来ようとしている。
「エリシア」
「なに?」
「ありがとう」
エリシアの表情が柔らかくなる。
「私一人で作ったわけじゃないでしょう」
「そういう意味じゃなくて」
「分かってる」
レイブンは妻の手を握った。
戦場で震えなかった手が、僅かに震えていた。
「怖い?」
エリシアが尋ねる。
「すごく」
「私も」
「嬉しい?」
「すごく」
「俺も」
二人は顔を見合わせた。
そして、笑った。
◇
「兄様が?」
ルナの声が通信越しに裏返った。
「俺が妊娠したみたいに言うな」
『違います! エリシア姉様が?』
「うん」
『本当に?』
「双子」
沈黙。
「ルナ?」
『……双子?』
「その反応、さっきの俺と同じだぞ」
『兄様が二児の父親に?』
「そこを強調するな」
『女の子ですか、男の子ですか?』
「今のところ、一人ずつの可能性が高いって」
通信の向こうから、明らかに何かへぶつかった音がした。
「大丈夫か?」
『大丈夫です!』
「本当に?」
『私、叔母になるんですか?』
「そうなるな」
再び沈黙。
今度は小さく鼻をすする音がした。
「ルナ」
『泣いてません』
「まだ何も言ってない」
『泣いてませんから』
「はいはい」
『兄様』
「何?」
『おめでとうございます』
レイブンは少し目を閉じた。
「ありがとう」
◇
最大の問題は、ヴァルターへの報告だった。
「なんで緊張してるの?」
クロウ家へ向かう途中、エリシアが尋ねた。
「分からない」
「戦争の終戦報告より?」
「比較対象がおかしいだろ」
「でも顔はその時より硬いわよ」
「父さんがどういう反応するか想像できない」
「喜ぶでしょう」
「それは分かる」
「ならいいじゃない」
「多分絶対余計なこと言う」
予想は当たった。
クロウ家へ到着すると、ヴァルターは居間で古い軍記録を整理していた。
「二人でどうした」
「話がある」
「座れ」
レイブンとエリシアが並んで座る。
ヴァルターは息子の表情を見る。
「何だ」
「いや」
「悪い話か?」
「違う」
「なら何でそんな顔をしている」
「父さんも母さんもそればっかりだな」
「早く言え」
レイブンはエリシアを見る。
エリシアが頷く。
レイブンは父へ向き直った。
「エリシアが妊娠した」
ヴァルターは動かなかった。
レイブンが待つ。
エリシアも待つ。
「……何?」
「妊娠した」
「誰が」
「エリシア」
「お前の?」
「他に誰がいるんだよ!」
「いや、確認だ!」
ヴァルターが立ち上がった。
レイブンも反射的に立つ。
「急に立つなよ! 心臓弱ってるって言われただろ!」
「黙れ! それどころじゃない!」
「それどころだよ!」
エリシアが笑いを堪えている。
ヴァルターは息子を無視して、エリシアを見る。
「本当か?」
「はい」
「間違いない?」
「病院で確認してもらいました」
ヴァルターは再び座った。
数秒間、何も言わない。
「父さん?」
「……俺が」
「うん」
「祖父?」
「そうなる」
ヴァルターは自分の手を見る。
「爺さんになるのか」
「前に言っただろ。可能性あるって」
「あれは本当に何かあったんじゃないか!」
「その時は知らなかったよ!」
ヴァルターは黙り込む。
やがて顔を上げた。
「いつ生まれる」
エリシアが予定時期を説明する。
「身体は?」
「今のところ問題ありません。ただ双子なので、これから慎重に診てもらうことになります」
「双子?」
ヴァルターが固まった。
レイブンは既視感を覚えた。
「父さん?」
「二人?」
「その反応、今日三回目なんだけど」
「二人同時か?」
「だから双子ってそういうものだろ!」
「性別は?」
「女の子と男の子の可能性が高いって」
ヴァルターは完全に言葉を失った。
レイブンは父がここまで動揺する姿を初めて見た。
異界から満身創痍で帰還した時でも。
右腕を失った時でも。
戦争が始まった時でも。
これほどではなかった。
「……セレナ」
ヴァルターが小さく呟いた。
レイブンの表情が変わる。
「見せてやりたかったな」
その一言で部屋が静かになった。
「ああ」
レイブンも答えた。
「祖母ちゃんにも」
「そうだな」
ヴァルターはしばらく俯いていた。
だが、やがて顔を上げる。
目元は少し赤かった。
「エリシア」
「はい」
「ありがとう」
「お義父様までレイブンと同じことを言うんですね」
「こいつも言ったのか」
「病院で最初に」
「俺の息子だからな」
「都合いい時だけ言うなよ」
ヴァルターは立ち上がった。
今度はゆっくりだった。
エリシアの前まで行く。
「無理をするな。任務は減らせ。医者の言うことを聞け」
「はい」
「こいつが仕事を優先しようとしたら俺に言え」
「父さん?」
「俺が叩き直す」
「俺もういい歳なんだけど」
「親から見れば子供だ」
母と同じことを言われた。
レイブンは反論できなかった。
ヴァルターは次に息子を見る。
「レイブン」
「何?」
「おめでとう」
今度は教官ではない。
父親の声だった。
「……ありがとう」
「父親になるんだな」
「ああ」
「二人の」
「何度確認するんだよ」
「実感がないんだ」
「俺もだよ」
二人は顔を見合わせる。
ヴァルターが笑った。
「そうか」
笑いながら、もう一度呟く。
「俺が祖父か」
その声には、セレナを失ってから長く聞くことのなかった明るさがあった。
◇
その日の夕方、ルナも家へ戻ってきた。
玄関を開けるなりエリシアへ駆け寄り、途中で「走るな」とヴァルターに叱られ、本人ではなく妊婦を心配してどうするのかとレイブンに突っ込まれた。
「エリシア姉様、本当に二人いるんですか?」
「ルナまでそれ聞くの?」
「まだ全然分からないので」
ルナはエリシアの腹部を見つめる。
「触っても?」
「まだ何も感じないと思うけど」
許可を得て、ルナがそっと手を添える。
しばらく待つ。
「……分かりません」
「でしょうね」
「でもいるんですよね」
「いるわ」
ルナの青い瞳が潤んだ。
「叔母さんか……」
「気が早いぞ」
レイブンが言う。
「兄様はお父さんですよ」
「もっと実感ない」
「しっかりしてください」
「生まれる前から妹に叱られる父親ってどうなんだ」
「今までの行いです」
ヴァルターが声を上げて笑った。
その笑い声を聞いて、レイブンは父を見る。
少し痩せた。
体力も落ちている。
母と祖母を見送った悲しみも消えていない。
それでも今、父は心から笑っていた。
ヴァルターは突然立ち上がり、棚を探し始める。
「何してるの?」
「昔の物を確認する」
「何で?」
「孫に残せるものがあるかもしれん」
「まだ早い!」
「遅くなってからじゃ困る」
「何渡す気だよ」
「お前が小さい頃の写真」
「やめろ!」
ルナが即座に父へ加勢した。
「お父様、私も探します」
「ルナ!」
「兄様の小さい頃の写真、たくさんありましたよね」
「お前はどっちの味方なんだ!」
「甥と姪です」
「もう裏切られた!」
エリシアが腹を抱えないよう気をつけながら笑っている。
レイブンも最後には諦めて笑った。
食卓の一席は今も空いている。
セレナは戻ってこない。
ヘレーネも戻らない。
その事実が変わることはない。
だが、クロウ家の時間がそこで止まったわけでもなかった。
◇
夜。
エリシアが眠った後も、レイブンはしばらく起きていた。
隣で眠る妻を見る。
まだ外見から妊娠を感じ取ることは難しい。
それでも、その身体の中には二つの命がある。
女の子。
男の子。
自分とエリシアの子供たち。
レイブンは静かに自分の手を妻の腹部へ添えた。
当然、まだ動きは分からない。
「……父親か」
小さく呟く。
自分がヴァルターから教えられたことを思い出す。
死ぬ覚悟を自慢するな。
生きて帰る努力をしろ。
帰ること。
仲間を置いていかないこと。
そして最近になって教えられたこと。
長く生きることを諦めるな。
人と関わることを諦めるな。
別れが怖いからといって、新しい家族を作ることまで諦めるな。
父は、まるでこの日を知っていたかのようなことを言っていた。
もちろん偶然だ。
それでもレイブンには、あの訓示が今までとは違う意味を持って聞こえた。
「生き続ける博物館、か」
いつか自分は、この子たちにも話すのだろうか。
祖母セレナのことを。
曾祖母ヘレーネのことを。
祖父ヴァルターのことを。
帝国と連邦共和国が敵だった時代を。
異界軍と呼んでいた人々にヴァルグラントという国名があると知った日のことを。
戦争を終わらせたあと、フェルガリアという自由都市が生まれたことを。
Smart ARの最初の試作機が、味方を壁の中に表示していたことまで。
英雄譚としてではない。
本当にあった家族の話として。
エリシアが薄く目を開けた。
「レイブン?」
「起こした?」
「少し」
「ごめん」
「何してたの?」
「考えてた」
「また難しい顔で?」
「多分」
エリシアが微笑む。
「二人の名前?」
レイブンは止まった。
「……考えてなかった」
「そこは考えなさいよ」
「まだ時間あるだろ」
「父親でしょう?」
「今日なったばかりなんだ。正確にはまだ生まれてないし」
「言い訳しない」
「はい」
レイブンは少し考えた。
「二人で決めよう」
「もちろん」
「父さんにも候補聞く?」
「絶対すごい数を出してくるわよ」
「やめよう」
「即答ね」
二人は声を抑えて笑った。
その後、エリシアがもう一度眠りにつくまで、レイブンは妻のそばにいた。
母と祖母を見送った季節の後に、新しい命が二つやって来た。
失われた命の代わりではない。
誰かの穴を埋めるために生まれてくるのでもない。
この子たちは、この子たち自身の人生を生きる。
レイブンはそれを守りたいと思った。
戦場で守るという意味だけではない。
帰る家を作り、名前を呼び、笑った日を覚え、いつか自分の手を離れて歩き始めるまで見守るという意味で。
不老不死となってから初めて、レイブンは自分に残された長い時間を、呪いでも義務でもなく少しだけ別のものとして考えることができた。
子供たちが生まれる日を見ることができる。
成長を見ることができる。
何度転んでも、そのたびに立ち上がるところを見届けられる。
そしてヴァルターがそれまで生きていてくれるなら――祖父として二人を抱かせることもできる。
レイブンは目を閉じた。
今度は失う日のことではなく、これから来る日のことを考えながら。
クロウ家の物語は、見送る者だけの物語ではなくなろうとしていた。
新しい二つの命とともに、家族の時間が再び未来へ向かって動き始めていた。




