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黒猫年代記  作者: @12
第二部 ~Ⅱ~ FENRIR ― 戦狼となった黒猫 ― Season 4 #067~
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121/189

Season 7「停戦線」 #121

第121話「銃を置かない停戦」

 第二次異界大戦が終わった朝は、まだ来ていなかった。

 東部戦線の空には薄い雲が広がり、夜明け前に降った雨が砕けた道路と塹壕の底へ浅い水溜まりを残していた。遠くには紫色の門が今も不自然な光を放ち、その手前には数日前まで双方が死力を尽くして戦った〈巨人〉の黒い骸が横たわっている。

 それでも、銃声だけがなかった。

 連邦共和国軍の兵士は武器を携え、帝国軍も警戒配置を崩さず、FENRIRの各部隊も即応できる状態を保っている。向かい側の異界軍も同じで、誰一人として武装解除してはいなかった。

 静かなのは、平和だからではない。

 互いに撃たないと決めているから静かなのだ。

 その違いを、レイブン・S・クロウ〔無名(ノックス)〕はよく理解していた。

 東部戦線を見渡せる旧集合住宅の屋上で、レイブンはISG-42A3《RAVEN》を胸元へ保持したまま、金色と黒のオッドアイを細めていた。黒い猫耳には風が運んでくる発電機の低い唸り、車両の走行音、救護所から聞こえる話し声が届いているが、昨日までならその間に必ず混じっていた砲撃や魔法の炸裂音は聞こえてこない。

「落ち着かない?」

 隣に立つエリシア・L・クロウ〔Valkyrie〕が尋ねた。

「かなり」

「私も」

「静かな方がいいはずなんだけどな」

「静かすぎるのよ。昨日まで何かが爆発してるのが普通だったから」

 レイブンは答えず、異界軍側の陣地を見た。

 そこでも兵士たちが動いている。

 負傷者を運ぶ者、壊れた陣地を修復する者、水を配る者。時折こちらを見る者もいるが、武器を向けてくる気配はない。

 レイブンのアタック・シールドにも、前線全体を覆うような明確な攻撃意思は感じられなかった。

 もっとも、それだけを信用して警戒を解くほど彼は楽観的ではない。

「昨日まで敵だった相手を、今日から信用しろって方が無理だ」

「誰もそこまでは言ってないわ」

「だよな」

「撃たないことと、信用することは別よ」

 エリシアはそう言いながら、レイブンと同じ方向を見る。

「でも、撃たない時間が続かなければ信用できるかどうかを確かめることもできない」

「……それもそうだ」

 背後の階段から足音が上がってきた。

「朝から夫婦で難しい話してんな」

 ガイル・ベッカー〔Hound〕だった。

 レイブンが振り向く。

「報告は?」

「浪漫がないな」

「前線で俺に何を期待してる」

「せめて『おはよう』くらい?」

「おはよう。報告は?」

「結局そこかよ」

 Houndは肩をすくめたものの、表情をすぐ任務へ戻した。

「夜間、異界軍側からの発砲なし。こっちもなし。連邦軍の一部で警戒中に誤作動しかけた装備があったらしいが、発砲には至ってない。負傷者交換については双方の現地連絡員が調整中。あと、向こうから正式に使者が来る」

「ゲルハルト?」

「本人らしい」

 レイブンの耳が僅かに動いた。

「護衛は?」

「二人。武装あり。ただし長物は背負った状態で来るってさ」

「こっちも同じ条件にする」

「丸腰で会わないのか?」

「昨日まで殺し合ってたんだぞ」

「だよな」

 Houndが笑う。

「それでこそNoXだ」

「褒めてないだろ」

「半分くらいは」

 エリシアが小さく息を漏らした。

「残り半分は?」

「面倒くさい教官だなって」

「Hound」

「はいはい、行ってきます」

 逃げるように階段へ向かうHoundの背中を見ながら、エリシアが笑った。

「終戦しても変わらなそうね」

「まだ終戦してない」

「そこを訂正するところも変わらない」

 レイブンは返事をせず、もう一度東へ向き直った。

 正確に言わなければならない。

 停戦と終戦は違う。

 現場の兵士が撃つのを止めたことと、国家や軍が戦争の終了を合意したことも違う。

 そして今、彼らが立っているのは、その二つの間だった。

     ◇

 正午前、旧幹線道路の中央に臨時の会談地点が設けられた。

 特別な建物ではない。

 数日前まで避難車両が通っていた道路上に簡易天幕を張り、双方の陣地からほぼ等しい距離となる場所を選んだだけだった。

 周囲には〈巨人〉との戦闘で抉られた路面が残り、道路脇の建物には砲撃と魔法による損傷が刻まれている。

 誰もその傷を隠そうとはしなかった。

 むしろ、今ここで何を止めようとしているのかを忘れないためには、その方がよかった。

 レイブンは《RAVEN》を携行したまま会談地点へ向かった。

 同行するのはエリシアとCipher。

 Houndは少し離れた位置でWOLF PACKの警戒を担当している。

 連邦共和国軍と帝国軍からも正式な代表者が参加していた。

 FENRIRだけで戦争を終わらせることはできない。

 レイブン自身、それを望んでもいなかった。

 やがて反対側から三人が歩いてくる。

 中央にいる男を見て、レイブンはすぐ分かった。

 ゲルハルト。

 昨日まで〈巨人〉を挟んで共に戦った異界軍指揮官である。

 相手もレイブンを見つけた。

「NoX」

「ゲルハルト」

 数日前なら、互いの名前すら知らなかった。

 今では呼び合える。

 それだけでも奇妙だった。

 ゲルハルトが天幕の中へ入り、双方が向かい合う。

 誰も武器を預けてはいない。

 しかし、誰も武器へ手を掛けてもいない。

「座ろう」

 レイブンが言った。

 ゲルハルトは一瞬考えてから意味を理解し、頷いた。

「座る」

 全員が席につく。

 問題はそこからだった。

 互いの言語理解は急速に進んでいるとはいえ、政治的・軍事的な交渉を正確に行える段階には達していない。

 避難民の中から双方の言語を多少理解できる者が協力し、思念伝達による意味補助も加えられた。

 それでも誤解の危険は残る。

 だから最初に確認された内容は、驚くほど単純だった。

 今日、撃たない。

 今夜も撃たない。

 負傷者を攻撃しない。

 救護活動を妨害しない。

 避難民を攻撃しない。

 〈巨人〉の骸を調査する際には、互いの陣地へ無断で入らない。

 海上と空中についても、それぞれの指揮系統へ戦闘停止継続の意思を伝える。

 それ以上のことは、まだ決めない。

 国境も、捕虜も、責任も、賠償も、門の管理権も後だ。

 まず今日一日を撃たずに終える。

 レイブンはその内容を聞きながら、妙な感覚を覚えていた。

 大戦を止める話し合いなのに、最初に決めていることは子供でも理解できるほど単純だった。

 撃たない。

 助けている者を邪魔しない。

 勝手に相手側へ入らない。

 しかし、その単純なことを実現するまでに何人死んだのかを考えれば、決して軽い約束ではなかった。

 ゲルハルトが慎重にこちらの言葉を組み立てた。

「我々……撤退、続ける」

 連邦側代表の表情が変わる。

「どこまで?」

 通訳を介して意味が渡る。

 ゲルハルトは地図へ手を伸ばした。

 指が東へ動く。

「あなたたちの……土地から、出る」

 天幕の空気が変わった。

 レイブンは口を挟まなかった。

 これは重要な発言だ。

 だからこそ、急いで意味を決めつけるべきではない。

 Cipherも同じ判断だった。

「確認する」

 ノア・ヴェルナー〔Cipher〕がゆっくり言う。

「異界軍は、連邦共和国の領域から軍事部隊を撤収させる意思がある。そういう意味でいいか?」

 通訳と思念伝達を介して、何度も確認される。

 ゲルハルトが頷いた。

「はい」

 さらに言葉を探す。

「もう……取らない」

 連邦側代表が地図を見る。

 その横で帝国側代表も黙っている。

 誰も歓声を上げなかった。

 正式な命令ではない。

 ゲルハルト個人の意思なのか、異界軍上層部の方針なのかも確認する必要がある。

「上も同じ判断か?」

 レイブンが尋ねた。

 ゲルハルトはすぐには答えなかった。

「多くは……そう思う」

「全員じゃない?」

「全員ではない」

 レイブンは頷いた。

「分かった」

 その答えの方が信用できた。

 全軍が突然一枚岩になって平和を望んだと言われるより、反対する者もいると認めた方が現実的だった。

 ゲルハルトが今度はレイブンを見る。

「あなたたちも?」

「何が?」

「戦争……止めたい?」

 レイブンは連邦側代表を見る。

 次に帝国側代表。

 そしてエリシアを見る。

 最後にゲルハルトへ視線を戻した。

「俺個人なら、止めたい」

 通訳が意味を伝える。

「ただし、俺一人で決める話じゃない」

 ゲルハルトは理解したらしい。

「私も」

「だったな」

 二人の間に僅かな笑みが浮かんだ。

 その時だった。

 外で怒号が上がった。

 レイブンは椅子を蹴るように立ち上がる。

 《RAVEN》へ手を掛けたのは、ほとんど反射だった。

 ゲルハルトも同時に立つ。

 双方の護衛が緊張する。

「待て!」

 レイブンが叫んだ。

「誰も撃つな!」

 天幕を出る。

 道路の北側で連邦軍兵士と異界軍兵士が向かい合っていた。

 一人が武器を構えている。

 もう一人も同じだった。

 Houndが二人の間へ割り込もうとしている。

「銃口を下げろ!」

 レイブンが走る。

 異界軍側からもゲルハルトが何かを叫んだ。

 二人の兵士は動かない。

 緊張で指が震えている。

 レイブンのアタック・シールドが、双方から立ち上がる敵意と恐怖を拾う。

 殺したいのではない。

 怖いのだ。

 昨日まで敵だった相手が近すぎる。

「何があった!」

「こいつが境界を越えた!」

 連邦兵が答える。

 異界軍兵士も自分たちの言葉で必死に説明している。

 ゲルハルトが聞き取る。

「負傷者……探した。仲間」

 レイブンは道路脇を見る。

 崩れた壁の向こうから呻き声が聞こえた。

 黒い猫耳がその位置を正確に拾う。

「Hound」

「俺も聞こえた」

 瓦礫の陰に人がいる。

 異界軍兵士は、戦闘中に取り残された仲間を探して境界を越えてしまったらしい。

 連邦兵から見れば、武装した敵兵が無断でこちら側へ入ったことになる。

 どちらの反応にも理由があった。

 だからこそ危険だった。

「銃を下げろ」

 レイブンがもう一度言う。

「でも――」

「聞こえなかったか?」

 声を荒らげる必要はなかった。

 教官として新兵を叩き上げてきた時と同じ、低く冷静な声だった。

「銃口を下げろ」

 連邦兵がゆっくり武器を下ろす。

 ゲルハルトも異界軍兵士へ命じた。

 向こうも下げる。

 緊張が完全に消えたわけではない。

 それでも引金から指が離れた。

「Sageを呼べ」

 レイブンがHoundへ言う。

「了解」

「異界軍の負傷者だぞ?」

 連邦兵が思わず尋ねた。

 レイブンは彼を見る。

「だから?」

 兵士が黙る。

「昨日まで敵だった。それは変わらない」

 レイブンは瓦礫の方向へ視線を移した。

「でも今日は撃たないと決めた。だったら今日の約束を守る」

 間もなくSageと救護班が到着した。

 瓦礫の下から見つかった異界軍兵士は生きていた。

 脚を負傷しているが意識はある。

 救護班が運び出す間、異界軍兵士はその場を離れなかった。

 連邦兵も離れなかった。

 二人は互いを見ている。

 しばらくして、異界軍兵士が覚えたばかりの言葉を口にした。

「……すまない」

 連邦兵は戸惑った。

「勝手に入るなよ」

 当然、その細かい意味までは伝わらない。

 それでも声に先ほどまでの敵意がないことは伝わったらしい。

 異界軍兵士が何度か頷いた。

 レイブンは二人を見てから、ゲルハルトへ向き直った。

「こういうの、これから何度も起きるぞ」

「分かる」

「言葉が通じない。境界も曖昧。昨日まで敵だった」

「だから……話す」

 ゲルハルトが答えた。

 レイブンは少しだけ目を細める。

「覚えるの早いな」

「あなたたちが……たくさん話す」

「Houndのせいだな」

 少し離れたところから声が飛んだ。

「何で俺なんだよ!」

 張り詰めていた兵士たちの中から、僅かに笑いが漏れた。

 異界軍側では意味が分からなかった者も、こちらが笑ったことで表情を緩める。

 その程度のことでよかった。

 今はまだ。

     ◇

 同じ頃、東の海でも新しい問題が起きていた。

 KRAKENと異界軍艦隊は互いの射程内に存在したまま、砲撃を止めている。

 エリック・ヴァルナー〔Leviathan〕は艦橋から敵艦を見ながら、腕を組んでいた。

「陸は会談に入ったそうです」

 参謀の報告に、エリックは短く頷く。

「こっちは?」

「異界軍艦隊から発光信号。解析中ですが、攻撃意思なしを示している可能性があります」

「可能性、ね」

「はい」

「じゃあ可能性のまま記録しろ。勝手に確定するな」

「了解」

 エリックは海を見る。

 数日前、同じ海で双方の艦艇が門から落ちた避難民を救助した。

 その時に救助された者の一部は、まだKRAKEN艦内で治療を受けている。

「敵艦の砲がこっちを向いたら?」

「即応します」

「それでいい。ただし先に撃つな」

 参謀が頷く。

「難しいですね」

「何が?」

「戦うより」

 エリックは少し考えた。

「そりゃそうだ。戦闘中なら敵が撃ってきたら撃ち返せばいい。今は敵が何を考えてるか考えなきゃならん」

 彼は双眼鏡を置いた。

「平和ってのは、戦争より判断することが多いらしいな」

     ◇

 空でもアメリア・ローゼン〔Artemis〕が同じ難しさに直面していた。

 SKY LANCERの哨戒機と異界軍の飛行戦力が、同じ空域に存在している。

 互いに攻撃していない。

 しかし近づきすぎれば、どちらかが迎撃行動と誤認する可能性がある。

『Artemis、異界側二機、進路変更』

「方位は?」

 情報が読み上げられる。

 アメリアは状況を確認した。

「こっちへ来てるわけじゃない。門の北側へ抜けるつもりみたいね」

『追いますか?』

「追わない。監視だけ」

『了解』

 以前なら迎撃の判断が必要だった。

 今は、追わない判断が必要になる。

 それは臆病でも油断でもない。

 撃たないためにも技術と規律が必要なのだと、アメリアはこの数日で嫌というほど理解し始めていた。

     ◇

 夕刻。

 最初の現地停戦協議は終了した。

 決まったことは多くない。

 だが、明日も撃たないことは決まった。

 負傷者の捜索区域についても、双方が事前に知らせることで合意した。

 海と空には現地の戦闘停止を継続する意思が伝えられる。

 そして最も重要な一点として、異界軍側は連邦共和国領からの段階的撤収について、上級司令部との協議へ入ることになった。

 正式な終戦ではない。

 しかし昨日より一歩進んだ。

 レイブンが天幕を出ると、エリシアが隣へ並んだ。

「一日終わったわね」

「ああ」

「誰も撃たなかった」

「危なかったけどな」

「それでも撃たなかった」

 レイブンは否定しなかった。

 少し先では、連邦兵と異界軍兵士が別々の方向へ戻っていく。

 その間に線がある。

 地図にはまだ描かれていない線。

 壁でも塹壕でもない。

 越えれば必ず撃たれる線でもなくなった。

 互いが不用意に越えず、越える必要がある時には声を掛けるための線。

「停戦線か」

 レイブンが呟いた。

 エリシアが横を見る。

「何?」

「いや。この線のこと」

「名前を付けたの?」

「仮に」

「あなた、すぐ仮称を付けるわね。巨人もそうだったし」

「通信で困るから」

「実務的すぎるのよ」

「軍人だからな」

 エリシアは笑った。

 そこへ通信が入る。

『兄様』

 ルナだった。

「Nyx、どうした?」

『海底の反応について報告があります』

 レイブンの表情が変わる。

「聞く」

『巨人討伐後に弱まっていた周期反応ですが、完全には消えていません。ただ――』

 ルナが一度言葉を切る。

『東へ移動していた物体の一部が、方向を変えました』

「どこへ?」

『門です』

 レイブンは遠くの紫色の光を見る。

 エリシアも通信を聞いていた。

「敵のもの?」

『まだ分かりません。海中生物との関係も、巨人との関係も証明できていません』

「それでいい。分からないまま報告して」

『はい』

「近づくなよ」

『分かっています』

「絶対?」

『兄様に言われたくありません』

 エリシアが吹き出した。

「正論ね」

「俺まで敵に回すなよ」

『とにかく、STYXは距離を保って監視を続けます。日本側支援部隊にも同じ方針を共有済みです』

「頼む」

 通信が切れる。

 レイブンはしばらく門を見続けた。

 戦争は終わりへ向かっている。

 だが、門を巡る問題はむしろ広がり始めていた。

 その時、後ろからゲルハルトの声がした。

「NoX」

 レイブンが振り返る。

 異界軍陣地へ戻るはずだった男が、まだ道路の向こうに立っている。

「何?」

 ゲルハルトは紫色の門を指した。

「我々も……あれ、知らない」

 レイブンの目が細くなる。

「お前たちが作った門じゃない?」

「違う」

 ゲルハルトはゆっくりと首を振った。

「最初の門も?」

 その質問を理解するまで、少し時間がかかった。

 やがてゲルハルトの表情から笑みが消えた。

「我々が……開いた門、ある」

 レイブンは黙って続きを待つ。

「でも」

 ゲルハルトは紫色の門を見る。

「あれは、違う」

 風が道路を抜けた。

 レイブンの黒い猫耳が、遠くで響いた低い音を拾う。

 紫色の門からではない。

 もっと遠い。

 海の方角だった。

「……エリシア」

「聞こえた?」

「ああ」

 直後、Cipherから通信が入る。

『NoX、HUGINNから緊急報告。東部海域で新しい空間反応を検出』

「規模は?」

『まだ測定中。ただ、既存の門と完全には一致しない』

 レイブンはゲルハルトを見る。

 ゲルハルトも意味の全ては分からなくても、何かが起きたことは理解したらしい。

「戦争が終わりそうになった途端にこれか」

 エリシアが小さく息を吐く。

「世界って、空気を読まないわね」

「本当にな」

 レイブンは《RAVEN》を持ち直した。

 撃つためではない。

 何が起きても動けるようにするためだった。

 今日、彼らは敵だった者と話した。

 負傷者を助けた。

 撃たない約束を一日守った。

 そして明日も守ると決めた。

 それだけで戦争は終わらない。

 けれど戦争を終わらせるには、まず誰かが最初の一日を守らなければならない。

 レイブンは道路の中央に生まれた見えない境界を見た。

 そこにあるのは、互いを隔てるためだけの前線ではない。

 互いが武器を持ったまま、それでも引金を引かずに向き合うための停戦線だった。

 そして、その線の向こうで新たな門が開こうとしているのなら、次に問われるのは誰が敵なのかではない。

 昨日まで敵だった者たちと、明日をどう迎えるのかだった。

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