Season 6「門の彼方へ」 #108
第108話「帰路を断つ者」
西側の保守路へ住民たちが流れ込んだ頃には、集落を巡っていた青白い光の多くが弱まり、家々の間を走る水路も、それまでとは違う不規則な音を立て始めていた。
ルナ・S・クロウ〔夜〕は先頭に立ちながら、足元の水と前方の地形を交互に見ていた。
思念伝達はまだ安定していない。
アーシェが青白い石へ触れていた時には、言葉にならない像や感情を受け取ることができた。しかし武装集団が何らかの干渉を始めてからは、他人の恐怖や位置感覚が雑音のように混ざり、どれが目の前の住民から来たものなのかさえ判別しづらくなっている。
元の世界なら、こんな時には通信担当がいた。
観測結果を整理する者がいて、別の方向を監視する者がいて、後方には負傷者を引き受ける人間がいる。
今は兄と自分しかいない。
ルナは無意識に耳を立てた。
後方から一発の銃声が響く。
《RAVEN》だ。
彼女は反射的に振り返りかけたが、途中で止めた。
「……兄様なら、下がってきます」
自分へ言い聞かせるように呟き、前を見る。
兄から任されたのは、兄を心配することではない。
ここにいる人々を進ませることだった。
保守路は水路と斜面の間を縫うように続いていた。石積みの壁は古く、ところどころ苔に覆われている。道幅は大人二人が並べる程度しかなく、足を痛めたセイルは二人の住民に肩を借りながら進んでいた。
子供を抱いた女性が足を滑らせる。
ルナはすぐに腕を伸ばして支えた。
「ゆっくりで大丈夫です。止まらなければいいですから」
言葉は通じない。
それでも女性はルナの手を握り返した。
恐怖の中でも、人が人へ向ける表情には翻訳の要らないものがある。
ルナが前方を見ると、道が二つに分かれていた。
一方は斜面を上り森へ入る。
もう一方は水路に沿って低地へ下り、その先で黒い川へ近づいている。
彼女は迷わず水路へ近づいた。
流れを確かめる。
水面には細かな波があるのに、水草の先端は逆方向へ引かれていた。
「駄目……」
低地側へ進めば、途中で地下水路か別の流れと合流する。
今の状態では、その先が安全か判断できない。
ルナは森側を指した。
「こっちです」
アーシェが彼女の表情を見て意図を察し、住民へ声を掛けた。
列が斜面へ向きを変える。
その直後、ルナの頭の奥へ鋭い違和感が走った。
「っ……!」
視界が一瞬だけ揺れる。
自分のものではない像が流れ込んできた。
集落。
橋。
森。
武装した者たち。
そして黒い猫耳と白い猫耳。
ルナは額を押さえた。
今度はアーシェが送ったものではない。
もっと遠い。
しかも一人ではない。
複数の意思が、同じ網の上で位置と警告をやり取りしている。
「これ……あの人たちの……」
意味を読み取ろうとした瞬間、情報が途切れた。
ルナはそれ以上追わなかった。
理解できない仕組みへ意識を深く潜らせる方が危険だ。
少なくとも分かったことが一つある。
武装集団は声だけで連携しているわけではない。
彼らもまた、思念を何らかの形で戦闘へ利用している。
その頃、レイブン・S・クロウ〔無名〕は集落の中央から西側へ、少しずつ後退していた。
《RAVEN》を構えているものの、銃口は一人の敵へ固定していない。
正面には剣を持つ男。
右側の家屋には弓兵。
左手の水路沿いには杖を持つ者が二人。
敵は先ほどまでのように不用意には近づいてこなかった。
レイブンが一度発砲したことで、彼らは銃を知らないなりに学び始めている。
距離を取る。
遮蔽物を使う。
一方向へ固まらない。
「そりゃ、二発目からはそうなるよな」
レイブンが小さく呟く。
異界軍との戦いでも同じだった。
初めて見る兵器に驚く時間は短い。
生き残った者は次の接触までに考える。
こちらが相手を観察しているのと同じように、相手もこちらを観察している。
正面の男が声を上げた。
同時に動く者はいない。
それなのに数秒後には右側の弓兵が位置を変え、左側の術者が一歩後退し、別の二人がレイブンの進路から外れるように散った。
声による命令だけでは説明しづらい連携だった。
「なるほど」
レイブンは目を細めた。
「お前ら、それで喋ってるのか」
返事はない。
当然だった。
それでも戦場では、言葉が通じなくても相手の意図が見える瞬間がある。
右から敵意が膨らんだ。
〔殺気看破〕が警告を返す。
レイブンはそちらへ視線を向けるより先に身体をずらした。
矢が外套の端を掠め、石壁へ当たる。
ほぼ同時に正面から青白い光が走った。
視界の端が強く明滅する。
レイブンは反射的に瞼を閉じそうになる身体を抑え、光の向こうで動いた術者の輪郭を見失わない。
〔不転〕。
それは未来を読む異能ではなく、目を焼くような閃光の中でも視線と身体の判断を途切れさせないために身についた戦闘技能だった。
だから、見えないものまで見えるわけではない。
次に何が来るかも分からない。
ただ、一瞬の光へ反射的に視界を明け渡さない。
レイブンは魔力の軌跡が逸れたのを確認すると、撃ち返さずにさらに下がった。
「悪いけど、今日は勝ちに来たんじゃないんでね」
敵が一歩進む。
レイブンが《RAVEN》を向ける。
敵が止まる。
その間にレイブンが二歩下がる。
撃たないことを見抜かれれば距離を詰められる。
だから撃つ可能性は残す。
しかし、倒せる相手をすべて倒そうとはしない。
今の弾薬は、この世界で補充できる保証がない。
次に何と遭遇するのかも分からない。
この戦いへ全てを使えば、帰るための戦いで何も残らなくなる。
「兄様!」
遠くからルナの声が届いた。
「聞こえてる!」
「低地側は使えません! 森側へ回します!」
「了解!」
レイブンは声の位置から妹たちがかなり離れたことを把握した。
もう少し。
ここで無理をする必要はない。
そう判断した直後、アタック・シールドの感覚が一気に鋭くなった。
前ではない。
後方。
「……まずい」
レイブンが振り返る。
住民が向かっている森の斜面に、複数の人影が現れていた。
先回りされている。
彼はすぐ通信機へ手を伸ばしかけた。
指が途中で止まる。
繋がる相手はいない。
HUGINNもCipherも、WOLF PACKもここにはいない。
「まだ癖が抜けねえな……」
苦笑する暇もなく、レイブンは声を張った。
「ルナ! 前方にもいる!」
白い猫耳が遠くで動いた。
ルナもすでに気づいていた。
住民たちが立ち止まる。
前には別働隊。
後ろからは追手。
右は急な斜面。
左には水路と、その先に流れの読めない川がある。
アーシェが青白い石へ手を伸ばした。
ルナもその意図を理解する。
「使えるなら……!」
二人の手が石へ触れる。
光が広がった。
しかし今度は像が届かない。
代わりに、耳鳴りに似た不快な感覚が頭の奥へ押し寄せた。
アーシェが苦痛に顔を歪め、手を離す。
ルナも数歩よろめいた。
「駄目です。向こうから乱されてる……」
戦場で使える技術なら、妨害する技術もある。
それだけのことだった。
だが、その当たり前がルナの胸へ奇妙に残った。
自分たちの世界では、まだこの方式を持っていない。
もし帰れたなら。
この思念伝達の原理を持ち帰ることができたなら。
通信機だけに頼らず、人と人、観測と装備を繋ぐ別の方法へ発展させられるかもしれない。
そこまで考えたところで、ルナは首を振った。
今は技術を持ち帰ることより、自分たちが生きて帰る方が先だ。
「アーシェ、別の道!」
ルナは石を使わず、両腕で大きく方向を示した。
アーシェが周囲を見る。
やがて石積みの壁の一部へ駆け寄り、蔦に隠れていた細い通路を示した。
森の奥ではなく、斜面を横切るように伸びている。
「こっちなら?」
アーシェが何度も頷く。
住民たちが動き始めた。
セイルを支える二人が先に入る。
子供と老人が続く。
ルナは最後まで残ろうとした。
そこへレイブンが追いついた。
「前へ行け」
「兄様の肩、焦げてます」
「今そこ?」
「今だからです」
「動くから大丈夫」
「痛くないとは言ってませんね?」
「……お前、妙なところだけ俺を理解するようになったな」
「妹ですから」
ルナは兄の左肩を一度だけ見た。
衣服が焼け、その下には赤黒い傷が見える。
通常なら戦闘を続けるほど軽い傷ではない。
それでもレイブンの腕は動いていた。
異常なほど早い身体の回復について、兄妹はまだ答えを持っていない。
だから今は、それを都合のいい奇跡として扱わない。
痛みは残る。
疲労も消えない。
身体が動くからといって、無理を続ければ判断が鈍る。
「兄様、私が前を見ます。兄様は後ろ。でも距離が開いたら待ちます」
「駄目だ。お前は前の道を決めろ」
「また一人で残る気ですか?」
「違う」
レイブンは住民が入っていく通路を見た。
「俺には水の流れが読めない。お前には読める。だから前はお前の仕事だ。俺は後ろを見る。それだけ」
ルナは兄を見つめた。
守るから先に行けと言われたのではない。
必要だから任せると言われている。
「……了解」
「頼むぞ、Nyx」
呼び方が変わった。
妹ではなく、部隊長へ向ける声だった。
ルナの表情も変わる。
「了解、NoX」
白い猫耳が通路の奥へ消えた。
レイブンは追手へ向き直る。
最初に現れた中央の男も追ってきていた。
その背後には弓と杖を持つ兵士たちがいる。
彼らはもう《RAVEN》の銃口へ不用意に身体を晒さない。
壁や樹木を利用しながら、レイブンが下がるのを待っている。
「もう覚えたか」
レイブンは呼吸を整えた。
敵が学ぶなら、こちらも変える。
銃だけを脅威だと思わせ続ける必要はない。
彼は《RAVEN》を構えたまま一歩後退し、角へ入った。
敵の視線から姿が消れる。
すぐには撃たない。
追手も来ない。
互いに待つ。
数秒の静寂の後、石畳を踏む音が聞こえた。
レイブンは耳を立てる。
一人ではない。
左右へ分かれている。
「慎重だな」
小さく笑う。
「嫌いじゃない」
彼はさらに下がった。
正面衝突を避けながら、住民との距離を縮める。
ところが通路へ入った直後、頭上から青白い光が降った。
レイブンは咄嗟に壁際へ身体を寄せた。
魔力の塊が石畳へぶつかり、細かな破片が舞う。
破片の一つが頬を切った。
血が流れる。
彼は舌先で口元へ入った鉄の味を感じながら、上を見る。
屋根の上に術者がいる。
「そっちも使うのか」
敵は平面だけで追っていない。
レイブンが屋根を確認した瞬間、正面から別の兵士が出る。
視線を一方へ固定させるための動きだった。
アタック・シールドが複数の敵意を拾う。
情報が重なる。
耳には足音。
目には魔力の光。
左肩には焼けるような痛み。
それでもレイブンは視線を一つへ縛らなかった。
閃光が走っても瞼を閉じず、〔不転〕で視界を保ちながら、その場に留まらず後退する。
敵の術者が一瞬だけ姿を晒した。
《RAVEN》が火を噴いた。
狙ったのは身体ではなく、その足元近くの石材だった。
衝撃と破片に術者が身を引く。
その間にレイブンは角を曲がった。
「二発」
無意識に数えていた。
弾薬は戻ってこない。
だから使った一発には、必ず意味を持たせる。
敵を倒した数ではなく、何秒を得たか。
何人を先へ進ませられたか。
それが今の基準だった。
前方でルナの声がする。
「兄様!」
「いる!」
「出口です!」
通路の先が開けていた。
森を抜けた先には、低い石造りの建物が建っている。
周囲を古い壁が囲み、片側には細い水路が引き込まれていた。
アーシェがその建物を指し、住民へ声を掛ける。
「避難所?」
「たぶんです。少なくとも集落より守りやすそうです」
「中は確認した?」
「アーシェたちが先に入りました。地下にも空間があるみたいです」
「分かった」
レイブンも建物へ向かおうとした。
その時だった。
黒い川の方角から、低い鐘が鳴った。
集落の鐘ではない。
もっと遠い。
音が深い。
一度鳴るだけで森全体が僅かに震えたように感じる。
アーシェが立ち止まった。
セイルも顔を上げる。
住民たちの表情から、安堵が消えた。
「……何だ?」
レイブンが尋ねても答えは返らない。
ルナが目を閉じた。
「待ってください」
「また来てる?」
「はい。でも武装集団からじゃない」
青白い光が森の中に現れた。
一つ。
さらに一つ。
次々と増えていく。
川辺で見た、あの浮遊する光と似ている。
しかし今回は水面ではなく、木々の間を進んでいた。
ルナの頭へ断片的な感覚が流れ込む。
恐怖ではない。
警戒。
探索。
そして何かを確認した時の、強い反応。
「誰かが……探しています」
「俺たちを?」
「分かりません」
ルナはさらに意識を向けた。
突然、別の像が飛び込んできた。
紫色の空。
黒い川。
集落。
そして空間を縦に裂く、淡い光。
門。
そこから二つの影が落ちる。
一人は黒い猫耳。
もう一人は白い猫耳。
ルナが目を開けた。
「兄様」
「何を見た?」
「私たちがここへ来た時の像です」
レイブンの表情から僅かな笑みが消えた。
「誰かが見てた?」
「それとも、門そのものを見ていたのかもしれません」
断定はできない。
だが、青白い光は明らかにこちらへ近づいている。
さらに遠くから別の音がした。
武装集団の叫び声だった。
追手も異変へ気づいている。
そして彼らの反応は、兄妹に対するものより明らかに大きかった。
レイブンはそれを聞いて眉を寄せた。
「追ってくるのをやめた?」
「はい」
ルナにも分かった。
先ほどまで背後に感じていた複数の気配が止まっている。
敵意が消えたわけではない。
ただ、その向きが変わった。
森の光へ。
「連中も知らない相手なのか」
レイブンは《RAVEN》を下げた。
すぐに撃てる位置には保つ。
だが敵と決めつけない。
ルナも兄の横へ並んだ。
住民たちは石造りの避難所へ入っていく。
セイルだけが入口に残り、青白い光を見ていた。
彼の胸元にある石が、同じ周期で明滅し始める。
「リェン……」
セイルが呟いた。
ルナが彼を見る。
「やっぱり同じ仕組み……?」
セイルは首を振った。
そして胸元の石を指した後、森の光を示す。
次に両手を離して見せた。
「同じじゃない?」
「そう言ってるように見えるな」
レイブンが答える。
セイルはさらに身振りを続けた。
自分たち。
光。
遠く。
そして空。
最後に彼は、門を描くように両手を縦へ広げた。
レイブンとルナが同時に黙った。
「門と関係があるのは確かみたいですね」
「ああ」
「追いますか?」
「逆だ」
レイブンは避難所を見た。
「今は来るのを待つ」
「珍しいですね。兄様なら昔は確認しに行っていたでしょうに」
「親父にもエリシアにも、お前にも散々怒られたからな」
「学習したんですね」
「敵だけじゃないってこと」
ルナが少し笑った。
その笑みが消えるより早く、青白い光が森の縁で止まった。
その奥から一人の人物が姿を現した。
長い外套を身につけている。
武器らしきものは見えない。
顔も影になっていて判別できない。
ただ、その人物が一歩進むたび、周囲の光も同じように動いた。
レイブンはアタック・シールドへ意識を向ける。
殺意はない。
少なくとも今は。
人物が立ち止まった。
レイブンたちとの距離を残したまま、片手を胸元へ当てる。
セイルやアーシェが名乗った時と似た仕草だった。
口が動く。
知らない言語が聞こえた。
ルナには意味が分からない。
レイブンにも分からない。
ところが、その直後に周囲の青白い光が一斉に強くなった。
ルナの頭へ像が届く。
門。
黒い川。
遠く離れた石造りの都市。
そして、そのさらに向こうにある巨大な塔。
塔の上空では、空間が傷口のように歪んでいた。
最後に届いたのは言葉ではない。
問いかけだった。
――どこから来た。
ルナが息を呑んだ。
「兄様……今の」
「俺にも少し来た」
今度はレイブンにも届いていた。
明確な文章ではない。
しかし、問いかけられていることだけは分かる。
レイブンは《RAVEN》を背へ回した。
武器を捨てたわけではない。
それでも会話を始めるなら、銃口を向けたままでは始まらない。
自分の胸を指す。
「レイブン」
次にルナ。
「ルナ」
そして二人の背後ではなく、空を指した。
門を思い出しながら、両手を開く。
「俺たちは、ここから来たんじゃない」
言葉は通じない。
それでもルナが隣で目を閉じた。
兄の意図を理解し、頭の中にベルガの景色を思い浮かべる。
河川。
FENRIR。
門。
エリシア。
そして、引き離された兄妹。
すべてを送り込もうとはしなかった。
必要なものだけ。
自分たちがこの土地の人間ではないこと。
意図して侵入したわけではないこと。
そして帰りたいという意思。
胸元の石を通しているわけでもない。
やり方さえ分からない。
それでもルナが意識を向けた瞬間、森の青白い光が一度だけ揺れた。
外套の人物が僅かに身体を動かす。
何かを受け取った。
少なくとも、そう見えた。
次に流れ込んできた感覚は、先ほどより弱かった。
だが兄妹には十分だった。
驚き。
疑念。
そして――理解。
外套の人物がゆっくり空を指した。
次に遠くの塔を示す。
最後に、門を描く仕草をした。
レイブンはその手を見つめた。
「知ってるのか」
ルナが兄を見る。
「帰る方法を?」
「そこまでは分からない」
レイブンは紫色の空へ目を向けた。
「でも少なくとも、門が何なのか知ってる奴には会えたかもしれない」
森の向こうでは、追手がまだ動かない。
避難所には守らなければならない人々がいる。
レイブンの肩には傷があり、弾薬も食料も有限だった。
そして目の前の人物が味方である保証もない。
それでも、昨夜まで存在しなかった道が一つだけ見え始めていた。
ルナが小さく息を吐く。
「兄様」
「ん?」
「帰れそう、とはまだ言いません」
「それでいい」
「でも、帰るために調べる場所はできました」
レイブンは妹を見る。
白い猫耳の先にはまだ川の水が僅かに残っている。
「じゃあ十分だ」
彼は森の外套姿へ視線を戻した。
「一つずつ行こう」
外套の人物が二人へ背を向けることはなかった。
青白い光もその場へ留まっている。
敵でも味方でもないまま、互いに距離を残して向き合っている。
その静かな均衡の中で、黒い川のさらに遠くから、もう一度だけ低い鐘が鳴った。
今度はセイルもアーシェも、そして外套の人物さえ同じ方向を見た。
ルナが耳を立てる。
レイブンも空を見上げた。
紫色の雲の奥で、細い亀裂のような光が一瞬だけ走った。
ベルガで二人を呑み込んだ門と、よく似た色だった。




