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第一章:花の色は 移りにけりな
「もう、そんな季節か」
希乃はスマートフォンの画面に映る、五月に変わったばかりのカレンダーを見て、小さくため息をついた。窓の外では、ついこの前まで満開だった街路樹の桜が、強い春の風に煽られて跡形もなく散り急いでいる。床に落ちたピンク色の花びらは、雨に濡れて黒ずみ、かつての華やかさを失っていた。
部屋の中は、静まり返っている。足の踏み場もないほどに散らばっているのは、デザイン事務所から持ち換えた大量の資料と、締め切りを過ぎた企画書だ。
希乃はここ数週間、いたずらに時間を費やしていた。寝る間も惜しんでパソコンに向かい、迫り来る納期とクライアントからの無理難題に追われる日々。鏡を見る余裕すら、これっぽっちもなかった。
ふと、画面の反射に映った自分の顔が目に入る。目の下には濃いクマ。髪はボサボサ。肌のハリは失われ、どこか生気のない表情。
変わっちゃったな、と心の中で呟いた。




